元谷 先日は勝兵塾で講演をいただきまして、ありがとうございました。シリアの情勢に関して、日本の新聞だけを読んでいると、欧米諸国からの偏ったニュースしか入ってこないのですが、ハラビさんのお話を聞いて、新しい視点が開けました。今日もシリアの政権側からの主張を教えていただければと考えて、お越しいただきました。
ハラビ 私、個人にとって勝兵塾という場で、多くの影響力のある方の前で、シリア情勢についてお話できたことは、貴重な体験でした。あのような機会をいただき、感謝しております。
元谷 Apple Townに掲載される勝兵塾のレポートは日本語だけですが、このビッグトークは英訳したものも掲載されますから、もっと多くの人にハラビさんの主張が伝わると思います。まずはシリアという国の基本的な情報を教えていただけますか?
ハラビ シリアはイラクの西側、ヨルダンやパレスチナ、レバノン、そしてトルコと国境を接し、一部は地中海に面しています。国土の面積は日本の約半分、人口は約二千四百万人で、首都はダマスカスです。第一次世界大戦の後にオスマン帝国からは独立しましたが、フランス領とされ、一九四六年にシリアとして独立しました。シリアは、紀元前四千年まで遡った歴史が存在します。世界最古の歴史ですね。紀元前八千年頃には農耕が始まっていました。旧約聖書には、楽園を追われたアダムとイブが降り立った地がシリアだと記されています。
元谷 神話から歴史が始まるところが、シリアと日本の共通点ですね。
ハラビ そうですね。アルファベットが初めて誕生し、紀元前二千年には楽譜が存在するなど、古代シリアの文明は現代にも大きな影響を与えています。また、ダマスカスは人が住み続けている都市の中で最古であるとも言われていて、ウマイヤド・モスクがあります。紀元前二千年から礼拝が始まり、紀元前九世紀にモスクとして建造された、世界最古の寺院です。紀元前二千年前からウマイヤド・モスクは聖地であり、紀元前九世紀にアラミ帝国は寺院を建設しました。ローマ帝国はこれを紀元三百年に、ジュピターの寺院とし、紀元四百年に聖ジョーンズがバプテイスト教会として改築しました。紀元七〇五年(奈良時代)に第六オマイヤ・カリフ“アリワリードーワリド”が現在のモスクを建立しました。他に例を見ない比類なきモスクです。歴史もあり、宗教的な聖地でもあり、預言者の家がある所で、穏健なイスラム教です。平和と愛が共存する場所でした。シリアの現在の混乱は、イスラエルにもたらされました。シリアはアラブ諸国の中で唯一、イスラエルと闘っている国です。イスラエルにはアメリカやヨーロッパの国が味方しています。それでアメリカの動きがおかしいのでしょうね。
元谷 一九六七年の第三次中東戦争(六日間戦争)で、シリア領であるゴラン高原はイスラエルに占領され、今でも返還されていません。このことを含む様々な軋轢が、シリアとイスラエルとの間にはあるということですね。
ハラビ ゴラン高原と言われましたが、正確にはシリア・ゴランといいます。確かに一九六七年の戦争で「占領されたシリア・ゴラン」となりました。しかし、国連の安保理がイスラエルに占領地の返還を求めたにもかかわらず、イスラエルはこの国連安保理の決定を無視し続けています。このことが、シリアとイスラエル間の「紛争」として存在し、今なお続いているのです。
元谷 二〇一〇年にチュニジアから始まったいわゆる「アラブの春」ですが、エジプト、リビア、そしてシリアへと波及しました。私はその直前にチュニジアとリビアを訪れたのですが、特にカダフィ治世下のリビアは、欧米からの投資も入って非常に近代的で整った国になっていました。しかし今は内戦状態で大混乱となっています。部族社会では部族長が独裁的に国を治めるという形もありうると、私は考えています。民を豊かにして、近隣と共存共栄を図ることが治世者には求められるのであって、それが可能であれば、必ずしも民主主義である必要はないのです。
ハラビ 私も同感です。民主主義の定義は、国の文化や歴史的背景によって異なってくると思いますので。西側と東側の国では民主主義に求めるものが異なりますよね。国連もそのことは認めています。実際、リビアの現況は諸外国が内政に干渉したためで、リビアの資源を欲しがり「リビアが民主的な国ではない」と決めつけて内政干渉に踏み切ったのです。リビアでの「アラブの春」と呼ばれる一連の出来事に関して、中東で現実に起こっていることを我々はもっと正確に伝える必要があります。もしかしたら「アラブの冬」と形容するべきかもしれませんね。
元谷 そのようにきちんと治められていた国の政権が民衆の圧力で揺らぎ、そこにムスリム同胞団やアルカイダなどが入り込んで、国を転覆させようとするから話がおかしくなるのです。シリアの場合はさらに、政府側と反政府側が戦っているだけではなく、反政府勢力同士の争いも激化しています。欧米のフィルターを通した日本のメディアでは、反政府側が過大に評価されて報道されているために、シリアのかなりの部分が反政府側に支配されているという印象が生まれていますが、実際は国境沿いのわずかなエリアだけしか支配されていません。しかし内戦は収まらない。ハラビさんはこの状況をどう考えていますか?
ハラビ この内戦は単純に政府と反政府の争いとは言えないことを先に申し上げます。反政府側はほとんどアルカイダもしくはその支援を受けたグループ、ジャビヒット アル モスラ、ダエシュ、ジャビヒット・イスラム、ルア・アル・イスラムなどで、ほとんどがサウジアラビアが支援している。そしてモスレム同胞団はほとんどがカタールとトルコが支援しています。
なお自由シリア軍は、今は分裂して、一部は政府にもどり、一部は先に述べたそれぞれのグループに所属しているのです。実は自由シリア軍の組織や財政や活動内容には、様々な疑問がありました。イスラムジハードを拠り所とし、兵士に対する拷問などが多数報告されていますが、国外からの圧力が彼らを動かしていたと言われています。なおこれらのテロリスト及び過激派グループはそれぞれ違った外国から、それぞれ異なったモチベーションや目的を与えられたため、現在、お互いに闘うことになった訳です。また、シリアは殆どの国土は政府の管轄下にあるので、隣国との国境沿いにある地域の一部が問題になっているだけです。なぜなら外国の支援を受けたテロリスト達が違法にも滞在しているからなのです。
シリアの危機は歴史的なルーツに起因しているといえます。その点は代表も指摘なさいましたね。日本の報道は西側諸国からの観点に偏っているように感じます。そして、現在の混乱は実は歴史的にも根が深いのです。元々今のシリア、ヨルダン、パレスチナ、レバノンは、全て「シリア」でしたが、一九一六年のサイクス・ピコ協定によって、フランスとイギリスに分割されてしまったのです。その後それぞれの国は独立しましたが、フランスとイギリスは往年の勢力を取り戻したいと考えています。緩やかな植民地主義です。さらにイスラエルはアメリカと共に、アラブ諸国全体を味方につけたいと考えています。また、アメリカとその同盟国は、過激派グループの蔓延と同時に、私たちの地域と中近東で、国境を再度、部族や宗教によって引き直そうと考えている。これはイスラエルが、ユダヤ国家として存在する正当性を与えるためです。シリアイスラム教は温厚なものです。しかしサウジアラビアやカタールなどが推進しているのは、極めて厳格で過激派的な考え方です。イスラム教の戒律を守るワッハービズム派やムスリム同胞団などです。これらは過激な考え方をしています。このワッハービズム派とムスリム同胞団にとって、シリアの現体制は障害となるので、カタールはアラブ諸国の中で率先してシリアに内政干渉して混乱を招き、サウジアラビアは過激派にお金を送ったり、アルカイダをシリアに送り込んだりしています。サウジアラビアとカタールは「シリアに関する誤った報告」を国連に提出し、他の国々に回覧しました。カタールの隠された真意は、シリア国内におけるムスリム同胞団の勢力拡大です。そしてシリア危機の国際化を図るものです。また、トルコ政府はムスリム同胞団と手を組んでいて、このためにトルコ政府はテロリストグループがトルコの国境からシリア国内に入ることを支援し、テロリストグループに資金援助、武器援助、基地の提供、及び訓練基地の提供をしています。これらはトルコの目的を達成するためです。
元谷 中東の歴史を紐解くと、元々遊牧民で国境の概念は非常に薄かったと思います。それぞれの部族がまとまりとして存在し、自分たちの移動する範囲というものを持っていただけでした。そこに帝国主義時代の西欧列強が入ってきて、自分達の国益のために勝手に国境の線引を行った結果が、今の中東諸国の状況なのでしょう。さらに冷戦によって、ヨルダンなどは西側に、シリアやエジプトは東側のテリトリーとなっていました。冷戦終結後は、伝統的にヨーロッパ各国が利権を持っていたこのエリアに、世界一極支配を目指すアメリカが勢力を伸ばそうとして、湾岸戦争やイラク戦争を引き起こしました。
ハラビ その歴史認識は正しいと思います。さらに支配問題については米国がイスラエルに近いこと、イスラエルに抵抗しているのは、アラブ諸国のなかでシリアだけです。米国とイスラエルは、イスラエルに対抗している枢軸国の抵抗力を弱めています。
元谷 イスラエルとイランの対立の中にあって、親子二代に亘って四十年間シリアを安定的に治めてきたのがアサド政権です。日本をはじめ世界での報道は、ユダヤとアングロ・サクソンによるフィルターがかかっていますから、この政権に対する評価も歪んでいますし、シリア内部の闘争をあたかもイスラム教の宗派対立であるかのように報じていることもあります。またシリアのことは大きく報道されますが、カダフィ政権崩壊後、内戦によって酷い状態になっているリビアのことは報じられません。
ハラビ 正確にメディアからは報じられないのが残念ですが、シリアの混乱は内戦ではなく、シリア内政に対する国際的な干渉によるものですね。欧米諸国、サウジアラビア、カタール、トルコが自らの国益を鑑みて、自国やイスラエルの存在を正当化するためにテロリストを支援しているのです。現在は百を越える国外のテロリストグループがシリア国内で頻繁に問題を起こしています。そして、メディアは現在リビアで何が行われているのか、報道していません。なぜならEUや他の干渉する国々は、リビアでの破壊的な干渉と行動の結果どうなったかを知らせたくないためと、EUとアメリカが破壊的干渉というものを違った国でもしようとしていることを知られたくないからです。
元谷 百ですか! そんなに多くのグループがそれぞれの主張から争っているのですね。ジュネーブでシリアに関する国際会議が行われていましたが、状況がここまで混乱しては、例えば反政府勢力が一方的に撤退するなどは不可能でしょうし、逆にアサド大統領が退陣するということも理不尽でしょう。ハラビさんは納得できないかもしれませんが、占領されながらも休戦とすることで、ゴラン高原を巡るシリアとイスラエルの関係は、とりあえず安定しています。今のシリアで大切なのは、まず戦火を消すことです。どこかに休戦ラインを設けて、戦いの火種を無くしていくことが最優先なのではないでしょうか。
ハラビ 私は戦火を消すことで停戦できるとは思えません。シリア政府に反抗するテロリストたちは、国外から来ています。シリアで持つべき権利は何もないのに。シリア政府は、シリアの統一性と安定性のために国際テロ組織に対抗するのであり、シリア政府にその権利があるはずです。アルカイダのようなテロ組織が国内に存在することは認められません。テロ活動の援助をやめることに関して、関係各国の賛同と同意を得つつあります。シリア政府が戦っているのは、シリア国民ではなく、国外の支援を受けたテロリストであることを強調したいですね。ジュネーブ国際会議にシリア政府代表が赴いて、海外からの内政干渉をストップさせ、シリアにおける流血の惨事を止めて、シリアの国民の希望の復活を訴え、さらにテロリストへの支援を阻止する国際合意を要求しました。
それは国連も認めたことだ
元谷 アメリカは結局シリアに空爆を行いませんでした。その背景には、シェールガス、シェールオイルの存在があると思います。中東の石油が自国にとって重要な資源であるからこそ、アメリカはここで世界の警察官として強力な軍事力を発揮していたのです。しかしシェールガスやオイルの開発によって、サウジアラビアをはじめとする中東への資源依存度がぐっと減りました。それがあったから、幸いにして、空爆には踏み切らなかったのでしょう。それはシリアにとって幸運なことでした。反政府勢力が全て国際テロ組織であれば、ハラビさんがおっしゃるように国外に出てもらう必要がありますが、一部は国内の反政府勢力と結託して行動しているのではないでしょうか。これに出て行けというのは難しいと思いますが。
ハラビ アメリカに関して言えば、将来的にシリアの政治や文化に干渉したかったようですが、アメリカ大統領がシリアへの攻撃の正当性を自国の議会や諸外国に立証することができませんでした。シリアの立場が正しかったからで、アメリカの議会も諸外国もアメリカ大統領の軍事行動を容認できなかったのです。また、国内の反政府勢力というのはごく一部のシリア人で、彼らの大半はアルカイダ系に属し、国外からの支援を受けたグループで、彼らには隠された目的がありました。それはアサド大統領の退陣です。アサド大統領の退陣を諸外国が望んでいるとすれば、これは内政干渉です。アサド大統領は、シリアの安定と安全を望んでいて、国民の絆を大事にしています。ですから、混乱が起こって残酷なテロリストの攻撃が三年になる今でも、政権が維持されているのです。そこが政変の起こったチュニジアやエジプト、リビア、ウクライナと違う点ですね。ウクライナのヤヌコビッチ大統領と異なり、アサド大統領は国民殆どの支持を得ています。
元谷 シリア国民が分裂しているのではなく、海外からの勢力が問題ということですね。ただ海外勢力が入り込む隙ができてしまったというのは、確かでしょう。
ハラビ それは本当のことですが、シリアの国民は分断されていません。リビアの国民は他国の国民のように、もっと良い状態になろうという希望があります。しかしリフォームと内政干渉は違った問題です。だから海外の勢力がシリアに入り込もうとする権利はありません。リビアやエジプトでは、政府が転覆して以来、不安定が続いています。多くの国民は以前の制度の方が良かったと言っていて、この事実には賛同します。ですが、シリア国民はこのような破壊的なシナリオを何としても避けたいと考えています。なおアサド大統領は独裁者と言われていますが、事実は違います。大統領のバシャール アル アサド氏と大統領であった父である初代の大統領、ハーフィズ アル アサド氏は、四十年の長きにわたって、難しい局面にあるこの地域で平和に国を治めてきたのです。大統領の犯罪や残虐行為があったとする偽の情報は、シリアの大統領を退陣させようという狙いがあるのです。これらは諸々のデータや統計によれば、テロリストグループの仕業であることが判明しています。そしてもう一つ大事な話があります。シリア政府は化学兵器を使用していません。昨年十二月の国連の最終報告書でダマスカス郊外やゴータでテロリストがサリンガスを使用したというシリア政府の主張が認められました。またシリア政府が化学兵器を使用したという英国、フランス、米国の主張は、証拠がないため、国連で却下されました。
元谷 化学兵器を保有していたのは、確かでしょうか。
ハラビ それは確かです。今は全て破棄しました。処理は諸外国に委せました。なおシリア政府は化学兵器破壊の責任を全うすることを約束しました。
元谷 ハラビさんがおっしゃることもよくわかりますが、情報が錯綜していて、私もまだどれが真実か、確信を持っていません。ただ言えるのは、「アラブの春」によって、どの国も以前より悪くなっているということでしょう。エジプトでもムバラク大統領を追い出して、選挙によってムスリム同胞団が政権を得たにも拘らず、軍がクーデターで政権を転覆させ、軍人として国民の人気を得ている国防相のシーシー氏が大統領選挙に出馬することは確実と見られています。多くのエジプト国民は安定を求めていますから、軍の支持も高くなっています。この後、エジプトの混乱はようやく収束していくのではないでしょうか。
ハラビ 我々が「アラブの冬」と形容するようにアラブ諸国は難しい状況にあり、エジプトの情勢は私も注目しています。政治体制や民主主義というのは国ごとに定義され、様々な形態があると思いますが、軍事政権でも国民に必要とされ、国民のための政治を行うのであれば、問題はないと感じています。
元谷 かつては共産主義・計画経済に対抗して民主主義・市場経済が存在していました。歴史は後者に軍配を挙げたのですが、だからといって絶対的にいい制度ではありません。ここはハラビさんと全く同感です。ただどんな政治体制であれ、国民同士が対立することは極力回避すべきですし、この対立に絡んでくる海外の勢力は徹底的に排除すべきでしょう。ハラビさんの仰る通りに反政府勢力が国外からのテロリストが大半だとするならば、まず正しい交渉相手としてシリア国民の反体制派と話をして、アサド退陣など飲めない要求はひっこめてもらう代わりに、自治支配地域などを提供する。そうして、まず内戦をストップするのです。内戦が止まれば、日本はその枠組を全面的に支援しますよ。
ハラビ シリア政府は混乱の終息に全面的な努力をしていますが、これらの混乱は国外からもたらされました。ジュネーヴ会議の一回目は不参加でしたが、二回目はシリアの代表団と話し合い、シリア国民を悲惨な状況から救うべく、団結するために参加しました。シリア政府は成功のために努力しましたが、アメリカなど諸外国からの国外援助を受ける「シリア連合」の代表団は、歩み寄りませんでした。シリア国民の誰もが支持するであろう方針、自分たちの国の独立と統一を維持するための方針は、「シリア連合」に受け入れられなかったのです。ところで、ジュネーブ会議2に参加した「シリア連合」は実際には、米国や諸外国から選ばれた人たちであり、「シリア政府に反対なシリア人」ではありません。したがって、これらの「シリア政府に反対のシリア人たち」にジュネーブの会議に参加するように、今でも呼びかけています。
シリアはリビアになってはいけない
元谷 自国民内で領土の線引が行われても、いずれ解消できます。しかしそれに外国の勢力が絡むと、永久に分断することになります。また外部から武器や人が入り込み、ゲリラの養成所のようになっているのは、世界にとってマイナスです。今後のシリア政府の手腕に期待しています。
ハラビ 実際にシリア政府は考え方を誤ってしまった者たちに対して、国際的なテロ組織との連携はやめて欲しいと訴えています。またシリア政府は率先してそのようなミスリードされた何千人もの人たちに働きかけ、現在の色々なスラブに巻き込まれている人たちに武器の使用を思いとどまらせ、さらに武器を政府に戻すように働きかけ、そして自分の国を破壊する行為をしないと約束してもらい、そうした平和的解決を約束をした人たちを指導をしています。
しかし米国と同盟国、特に近隣諸国は、いまなお暴力やテロリストを支援したり、もしくはテロリストグループ及び過激派がシリアに入りシリアを攻撃するのを支援しています。私も代表の言うとおり、外国の武器や外国のテロリスト・過激派の戦士がシリアにもたらされることは世界全体にとって良くないことだと思うのです。そこで、次のことを強調したい。国際社会がダブルスタンダードを採用して、テロリズムや過激派をシリア内部に送り込むのはシリア危機の政治的な解決の努力をないがしろにしてしまうと危惧します。同時に、ダブルスタンダードは地域や世界に「不安定さ」をもたらし、世界の安全を脅かすものであるということです。
元谷 もう一つ気をつけて欲しいのは、リビアのようにならないことです。リビアはカダフィが殺されたために、一気に混乱に陥っていきました。アサド大統領が勢力を保っている内に、なんとか休戦への目処をつけて欲しいですね。ハラビさんのお考えとして、日本はシリアに対して何をするべきですか?
ハラビ 日本には特別な役割を望んでいます。「シリアの大統領を私たちシリア人が選び決定をするのを、他の国々が邪魔するのはおかしいです。彼らにはその権利は無いと私たちは主張しています。シリア大統領の決定はシリアの国内問題であるということを、世界の人々は認識し、またその権利もないことを理解すべきです。誰もシリアの大統領を罷免したり、新たに任命することは出来ません。シリアの国民以外の誰にも権利はないのです。私たちは六月頃に、大統領選を計画しています。大統領選はオープンで、アサド大統領のほか、シリアの野党連合が候補者がいれば立候補出来ることになっています。シリア国民は投票により、新たに大統領を選びます。テロリストの過激な行動で大統領を決めるのではないということです。日本にはこの問題について特別な役割があります。日本は、国際的な信用度が高く、アメリカやイスラエル、サウジアラビア、トルコ、カタールとも友好関係を結んでいるので、彼らがテロリストや過激派を支援してシリア国内に送り込むのをやめるように説得して欲しいのです。また、シリア政府への様々な活動に協力してほしい。例えば、シリア国民の生活水準の向上と安定、発展のために力を貸して欲しいです。まずシリア政府の再興に日本に協力してもらい、次にシリア内部の復興にも手を貸して欲しい。JICAには再度シリアに戻って来て頂き、シリア開発プロジェクトをシリアの優先順位に従って、インフラストラクチャー再生に協力して欲しいのです。それはシリア国民の生活水準や暮らし向きを良くし、開発目標をも達成できることになると思います。
元谷 私もその一助になるように活動してみます。
ハラビ よろしくお願いします。日本に来てみて、日本人は非常に公正な考えをすることを痛感しました。任務ではありますが、私は日本の滞在を楽しんでますよ。
元谷 しかし日本ではシリア側からの視点の報道が少なすぎます。今回ハラビさんのような女性大使が日本に来たことは、ピーアール活動としては大きな意味があると思います。イスラム国でありながら、女性を重用するところに、アサド大統領の先進さを感じます。
ハラビ 残念ながら誤解されていますが、アサド大統領は公明正大な人物で、責任感が強い人です。ダマスカス大学で学んだ後、ロンドンで眼科医の専門医認定を受けました。ここ数年来、アサド大統領は、シリアの社会や経済の再開発に尽力されています。アサド大統領はシリア国民を鼓舞して励ましているので、多くの国民から愛されています。私はさらに、大統領の楽観主義と自信、シリアの国や国民を絶対に守ろうとする献身について、大変高く評価しています。
元谷 早くシリアに平和が訪れて、アサド大統領とお会いできる日が来れば…と願っています。
ハラビ 私もそう思います。このことを達成するため、シリアアラブ共和国は、テロリストとの戦いを続ける意志があります。さらに真面目に政治的解決と国民的な和解に向けて努力をし続けなくてはいけませんね。
元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
ハラビ 日本の若い人たちの中で、自分たちの偉大で独特な価値に気付いていないか、満足していない人たちに、ぜひ自分たちの価値を見直して欲しく思います。大切なことは自国の文化や価値観を見直し誇りを持つことです。他国の原則や他の価値観を追従するのでは決してありません。これからの未来は若者のためにあります。若い人が前向きになって、発言して、世界の人々と共に、国際的な舞台で自分達自身の考えを発言し、行動して欲しいと思います。
元谷 全く同感です。その基本になるのが、日本のことを素晴らしい国だと誇りを持つことでしょう。日本人は世界中で活躍できる資質があるのに、メディアや教育がおかしいために、内に篭もる人が増えています。自信を持って世界に出て、国際貢献を行うべきでしょう。
ハラビ 日本と同様に、現在のシリアは他国からの干渉によっていろいろなものを押し付けられてる一方で、シリアの若者は、自分達の価値観の上で外国からの干渉や支配と戦っています。日本の若者にも自分たち自身のアイデアで活躍していって欲しいですね。
元谷 今日はありがとうございました。
ワリフ・ハラビ氏
1995年ダマスカス大学で英文学の学士号を取得、その後もイギリスのオックスフォード大学などで学び、ニューヨークのロングアイランド大学で政治学の修士号を取得。その一方、1991年に外務省に入省し、ウィーンのシリア大使館やニューヨークの国連へのシリア代表の一員として活躍。2013年から現職。
対談日:2014年3月5日