Essay

原爆投下の非道を後の世に、世界に伝え続ける務めがある

藤 誠志

迂回戦略をとりながらも着実に事を進める安倍首相

 第一次安倍内閣の時に靖国神社に参拝できなかったことが「痛恨の極みだ」と、再登板後の靖国参拝に意欲を見せていた安倍首相だが、事前に中国側に通知していた通りに、安倍首相は玉串料の奉納のみとし、麻生副総理、菅官房長官、岸田外務大臣も八月十五日の終戦記念日には靖国参拝を行わなかった。
 最近の安倍首相は、明らかに迂回戦略をとっている。これまでに批判の対象となった数々の問題に関して中国、韓国、アメリカに配慮して正面突破は避ける一方、海上保安庁長官に初めて生え抜きの佐藤雄二氏を抜擢し、航空自衛隊の長島純空将補を制服組として初めて内閣官房に配属、さらに内閣法制局長官に集団的自衛権を認める考えを持つ前駐仏大使の小松一郎氏を充てるなど、人事面で自らの考えを実現できる体制を固めつつある。また防衛大綱に自衛隊に海兵隊機能を持たせる旨を記載したり、昨年は民主党政権下において日米共同機動展開訓練が政治的理由(中国の反対を恐れて)で中止に追い込まれたが、今回安倍政権の成立によって米国は、中国政府の執拗な中止要求を毅然と拒否して、アメリカ・カリフォルニアで、陸海空三自衛隊と米軍合同で離島奪還水陸両用作戦(夜明けの電撃戦)を行ったりと、着々と保守化政策を実行してきているのだ。
 産経新聞の八月八日付朝刊の総合面には、「原爆問題 日本も攻めの主張を」というタイトルのコラムが掲載されていて、安倍首相の発言に関して重大な指摘を行っている。「『私たち日本人は、唯一の戦争被爆国民であります。その非道を後の世に、また世界に伝え続ける務めがあります』と、安倍晋三首相が六日に広島市で行われた平和記念式典でこうあいさつし、原爆投下について『非道』という言葉で非難したことに注意をひかれた。式典には米国のルース駐日大使も参列しており、首相は歴史問題でやんわりと米国を牽制したと言えるからである」。
 冷戦終結による主敵ソ連がなくなり、この後アメ
リカにとっての戦争は経済戦争で、
その敵は日本であるとして、これまでの諜報機関を使い、産業スパイとして公然と活動を開始させるとともに、
日本経済を弱体化させる数々の無理難題をグローバルスタンダードや年次改革要望書として突き付けてきた。その結果、日本のGDPはこの二十年間全く伸びていない。
 誰が考えても論理的にあり得ない南京三十万人虐殺説や従軍慰安婦(性奴隷)強制連行批判の背景には、歴史の見直しは許さないとのアメリカによる東京裁判史観の強要があるからである。安倍首相の発言の意義は、このところの極端な尖閣・従軍慰安婦問題に対して、これからもアメリカが中・韓に肩入れをしてくれば、これまで封印してきた、人類に対する罪と言ってもよい広島・長崎で起こした「非道」を非難する意思があることを示したことだ。
 またこの同じ八月六日には、もはや空母と言っても過言ではない、海上自衛隊史上最大で旧日本海軍正規空母「飛龍」より全長が20メートルも長い護衛艦「いずも」の進水式が行われ、安倍首相はここに麻生副総理を派遣した。この日程は偶然ではないだろう。旧日本海軍の同名艦「出雲」は日本海海戦で戦果を挙げ、撃沈した装甲巡洋艦「リューリック」の生存者の救助にあたり、この行動は国内外で大きく称賛された。日本海軍の誇りとも言える巡洋艦だ。この「いずも」は航空母艦型の護衛艦
で、ヘリコプターしか搭載しないとされているが、少し改造すれば、次期主力戦闘機に決定しているF‐35のVTOL(垂直離着陸機)バージョンやオスプレイを搭載することが可能だと思われる。
 中国はウクライナから、建造途中で計画が中止となり、空母として使えないようにエンジンすら取り外されていた空母「ワリヤーグ」をマカオの業者を通じて「カジノにする」という名目で購入し、改装を行い、昨年(二〇一二年)、中国初の空母「遼寧」として就航させた。しかし推進力の不足が問題となっていて、武器と燃料を満載した航空機が発艦できないと言われている。「遼寧」は「いずも」とは比較にならない劣悪艦なのだ。この進水式に麻生氏を出席させたのも、原爆を「非道」と表現した安倍首相のメッセージのひとつだ。安倍氏は世間と平ひょうそく仄を合わせて巧みに批判をかわしながら、それでも日本を着実に真っ当な国へと導いているように思える。

三千人の職員を擁する
情報宣伝機関の創設を

 盗聴・傍受を駆使したアメリカの国家機関の情報収集活動を暴露したCIAの元職員、エドワード・スノーデン容疑者が、中国の管轄下の香港からモスクワに飛び、モスクワの空港のトランジットゾーンに一カ月以上滞在した後、ロシアでの一年間の滞在が認められたことは、彼の持つ膨大な米国の謀略情報を中・露に引き渡すことを条件として最初から計画した通りの脱出劇だ。
 彼の告発でも分かるように、ネット社会となってからの世界の情報謀略戦は、過酷さを増している。中国とアメリカはお互いをサイバー攻撃の首謀者だと非難しているが、実際にはどちらもやっているはずだ。盗聴も含む情報の収集・解析に加え、撹乱情報を流したり、相手国のコンピューターサーバーにサイバー攻撃を加えるのは、現代の国家としては安全保障上当然のことだ。この世界の現実に危機感すら感じていない日本が問題なのである。一刻も早く、少なくとも全世界から日本に影響力のある国の言語でのテレビや新聞などの公開された情報を
収集・解析できる体制を作り、誤った報道や日本を非難する報道に対しては、二十四時間以内に反論し訂正を求めるとともに、サイバーテロによる攻撃にも直ちに反撃できる体制を築かなければならない。「真実はいずれ明らかになる」といった待ちのスタンスや、「相手にも事情があるはず」といった惻隠の情は、日本国内だけで通用するものであり、世界の実態はもっと冷徹な弱肉強食だ。
 年間予算三千億円、三千人規模の情報宣伝機関を作って、すぐにでも対処すべきだ。世界の情報を収集し解析するとともに、サイバーテロに備えて即座に反撃できる体制を作るべきだろう。
 イラクから撤退させられ、来年にはアフガニスタン
からも撤退を余儀なくさせられるアメリカは、この先、経済的にも軍事的にも政治的にもどんどん衰退していく。これに対して、冷戦時代の構図のように、中国とロシアが連携を強めてきている。八月にはロシアのウラル地方で、武器を使用した初の中露合同軍事演習が行われた。
 昨年再び大統領となったプーチン氏だが、徐々に支持率が低下している。石油と天然ガスの輸出がロシア経済の基盤だが、アメリカではシェールガス・オイルの開発が急ピッチで進んでおり、アメリカがいずれエネルギー消費国からエネルギー輸出国へと変わるのは確実だ。またメタンハイドレートも注目を集めていて、日本は二〇一九年以降の商業生産を目標として調査・技術開発を進めている。これらを考えると、将来資源国としてのロシアの優位性が揺らぐのは確実だ。そんなロシアと地方政府の莫大な不良債権が明らかとなって経済の大失速が始まった中国とが、生き残りを賭けて急接近しているのだ。
 しかしロシアは最終的には膨張する中国を警戒し、日本と手を組もうとしてくるだろう。雑誌「選択」の二〇一三年八月号には、「中国経済『大失速』の悲劇」という記事が掲載されている。注目すべきは、「短期金利急騰、輸出の前年比減少、成長率の鈍化など従来なら隠蔽していたはずの問題を習近平国家主席と李克強首相の指導部は世界に明らかにした」ことだ。これは事態が相当深刻なことを示している。中国共産党内部の権力闘争や貧富の格差や不平等・権力の腐敗に対する年間十数万件を数える暴動など、習近平政権が対峙しなければならない問題は非常に多い。地方政府の多くが返済不能な債務を抱え、その総額はいろいろな説があるが、一兆?三兆ドルは確実とされている。日本の国家予算規模からその三倍もの債務不履行の可能性があるのだ。この病める中国の衰退の一方で、二十年かけてバブルの精算をし、いよいよGDPが拡大に転じてきた日本はこの先、消費税を三%アップしても、これに合わせて個人所得税を三%程度減税すれば、GDPの拡大は続き、再び日本は世界第二位
の経済大国を目指すことができる。この先も日本はソフトパワーを磨き、経済力で世界に貢献し、世界から評価される真っ当な国を目指していくべきだ。

アメリカの民主党政権は
歴史的に見て反日的だ

 この夏の参議院選挙で安倍自民党は大勝、この先三年間、国政選挙は行われない見込みだ。三年後、参議院選挙に合わせて衆議院を解散して衆参同時選挙となれば、再び自民党が勝利する可能性が高い。この三年間で、日本は黄金時代を迎え、近日決定されるであろう東京オリンピックの開催や富士山の世界遺産登録、東京スカイツリー効果などで世界中から観光客を集め、訪日外国人数は今期一千万人突破はもちろん、
近いうちに二千万人に達するだろう。国内の観光客もアベノミクスによる景気浮揚から増加し、日本全体が一大旅行ブームとなるのではないだろうか。アパグループは二〇一〇年四月から中期五カ年計画「サミット5」を展開、二〇一五年までに東京都心に五十棟のホテルを建設することを目標とし、三年四カ月が経過した。現在までに三十棟分の用地を取得し、十六ホテルをオープンさせた。そのどれもが月間稼働率が一〇〇%近い数字を叩きだしている。これからは観光が日本の経済成長の牽引車となるはずであり、アパグループもその一翼を担っていく。
 三年後の衆参同時選挙にも勝利する自民党は、中曽根氏や小泉氏に並んで安倍氏にも五年間は政権を担当することを望むだろう。五年を越えると党内にやっかみの声が出てくるので、後継者が重要になってくるが、私は安倍首相にはぜひ女性を後継者にして欲しいと願っている。今回靖国神社参拝を閣僚として真っ先に宣言し、参拝した稲田朋美行革相や高市早苗政調会長など、女性首相候補は多い。安倍政権は、アメリカとの友好関係を維持しながらも原爆投下責任をちらつかせつつアメリカを牽制して任期中に憲法を改正、日米安保条約も平等互恵の条約に改定して、日本を真っ当な国にした上で、女性首相への道を開くことが、安倍首相の使命ではないだろうか。
 次の選挙がある二〇一六年は、アメリカの大統領選挙の年でもある。この選挙でアメリカが現在の民主党政権から共和党政権に移行すれば、そのタイミングで日本が憲法改正と日米安保改正に着手するのが、ベストなシナリオだ。

正しい歴史認識を広め
日本を独立自衛のできる国に

 

日米の歴史を紐解くと、一八五三年にペリーの黒船がやってきて幕府に強圧的に開国を迫ったが、その時のアメリカ大統領は民主党のフランクリン・ピアーズだった。一九〇四年~一九〇五年の日露戦争時にアメリカは様々な形で日本を支援してくれたが、その時の大統領は共和党のセオドア・ルーズベルト。日本の韓国併合(一九一〇年)や関税自主権回復(一九一一年)に賛成してくれたのも、共和党のウィリアム・タフト大統領だった。共和党のハーバート・フーヴァー大統領時代の一九三二年に満州国は建国された。極端な人種差別主義者、民主党のフランクリン・ルーズベルトが盟邦イギリスからの要請にも拘わらず、ヨーロッパの戦争に参戦しないと公約を掲げて同年大統領戦に勝利してからは、イギリスを助ける為に、ABCD(アメリカ・イギリス・中国・オランダ)包囲網で日本を経済的に締め上げ、実質上の宣戦布告書と言ってもよいハルノート(その下書きを書いたのはハリー・ホワイトで、彼はその後コミンテルンのスパイと見破られ自殺した)を突き付け日本を暴発させ、裏口からヨーロッパの戦いに参戦するとと共に、ペリー来航以来の悲願であった太平洋覇権の獲得のため日本と開戦し、スターリンの世界赤化の野望をおさえていたドイツと日本を弱体化させた。そのルーズベルトの死後、その地位を継いだ副大統領の民主党のトルーマンもまた極端な人種差別主義者であり、ドイツと日本が弱ってきた、先の大戦末期から始まっていた米ソ冷戦で、戦後の世界覇権を確立するために、ソ連に対する牽制として、日本からの天皇制の存続だけを条件に講和するとの(スウェーデン・スイス・バチカン・ソ連などの)数々のシグナルを無視し、引き延ばし、ソ連に対する牽制として広島・長崎に原爆を投下した。そして占領下で、天皇の戦争責任をちらつかせて、再び日本が強国となって広島、長崎の原爆投下の責任を追及してこないように、自虐憲法とも言える日本国憲法を押し付けた。戦後、悲願だった沖縄返還が行われたのは、一九七二年、共和党のリチャード・ニクソン大統領の時。歴史を見ても、共和党政権は親日的、民主党政権が反日的なスタンスをとってきたことは明らかだ。
長期政権となった中曽根政権の時は共和党のロナルド・レーガン氏、小泉政権の時はこれまた共和党のジョージ・ブッシュ氏がアメリカ大統領だった。ブッシュ大統領は小泉首相に一緒に靖国参拝を行おうと提案したのだが、小泉氏はそれを断った。もしそこで一緒に靖国参拝を行っていれば、今日までこの問題が長引くことはなかっただろう。二〇〇八年に民主党のオバマ大統領が誕生した影響は日本にまで及び、政権担当能力の全くない選挙当選互助会にすぎなかった日本の民主党が二〇一〇年、政権を担当する事態となった。
日本が戦後常に直面してきたのは、アメリカの見えない壁だ。原爆を投下したアメリカが良い国で在り続けるためには、日本が悪い国でなければならない。アメリカは東京裁判でこの歴史観を定着させ、その後、その歴史観の変更は「歴史修正主義」として一切認めなかった。しかし安倍首相は広島の式典でのあいさつに「非道」の言葉を入れることで、やんわりと反撃を開始した。衰退するアメリカと膨張する中国の下、三年後のアメリカ大統領選挙で共和党政権が誕生すれば、日本に東アジアの安全保障を担わせるべく、憲法改正や日米安保の改正をアメリカは認めてくる可能性は高い。日本はこのチャンスを逃してはいけない。私もこのエッセイや懸賞論文、勝兵塾、そして新たに連載を開始した夕刊フジの金曜コラムによって、世論を真っ当な保守の方向へと導いていきたいと考えている。
8月16日(金)午前1時20分校了