Big Talk

終身雇用や大家族制度など日本システムの良さを見直すべきだ

ペルシャ湾の中央に位置し石油関連産業で発展、近年ではさらに金融センターやリゾートとしての存在感も見せてきたバーレーン王国。もともとは医師会会長まで務めた小児外科医でありながら、保健大臣を経て駐日大使となったハリール・ビン・イブラヒーム・ハッサン氏に、外国人から見たアパグループの素晴らしさなどをお聞きした。

アメリカによる歴史の捏造は原爆の投下から始まった。
歴史をすっきり理解できる『誇れる祖国「日本」』

元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。先日は私の長男の元谷一志のアパグループ株式会社社長就任記念パーティーにて、出席していただいた三十一カ国の大使の代表としてスピーチをしていただいて。パーティー自体も千三百人もの方々にお越しいただいて、大変盛大な会になりましたし、大使のスピーチにも非常に感銘を受けました。
ハッサン 心の底から湧き出た思いをそのまま言葉にしたまでです。
元谷 アパホテルのつどいにもお越しいただいていて親しくさせていただいているので、すっかりすでにビッグトークをしていると思い込んでいました。遅くなって申し訳ありません。
ハッサン 気にされることではないですよ(笑)。
元谷 大使は日本にお越しになって何年でしょうか?
ハッサン 二〇〇五年の八月に来日しましたから、もうすぐ丸七年になります。
元谷 元はお医者様で、保健大臣も務められたと聞いています。
ハッサン はい、そのとおりです。小児外科が専門の医者でした。バーレーン医師会の会長も務めていました。
元谷 それは素晴らしいキャリアです。バーレーン政府は日本との関係を重要視しているからこそ、大臣経験者の大物であるハッサンさんを駐日大使に任命したのでしょうね。
ハッサン 私のことはともかく、バーレーン政府が日本のことを大切に考えていることは事実です。私は長年医師として活動していましたから、他の分野のことには詳しくありませんでした。日本に来てから政治や経済、社会、文化などを初めてじっくりと考えるようになったのですが、結果元谷代表のお考えが私のものに非常に近いことに気がついたのです。
元谷 そうですか! アップルタウンはいつも読んでいただいているのでしょうか?
ハッサン 欠かさず読んでいます。
元谷 日本語ではなく英語でお読みいただいていると思います。このビッグトークの英訳は日本語と同じ号に掲載しているのですが、エッセイについては一号遅れで英訳を載せています。そのため少し旧聞に属するような時もあるかもしれませんが、大丈夫でしょうか?
ハッサン 全く気になっていません。エッセイを読んで代表の視点から物事を見ると、日本の経済や文化、社会や歴史などが、はっきりと理解できるのです。
元谷 私の新刊の『誇れる祖国「日本」』をお読みになれれば、もっといろいろなことがわかるかと。この本のサブタイトルは「真の近現代史を読み解き、民族の誇りを取り戻せ」です。今の日本人が誇りを失ってしまっている原因は、アメリカによる歴史の捏造です。これは原爆の投下から始まりました。この本はまずアメリカが教育によって日本を洗脳、日本が悪いことをした国だと教えこんだ背景から書き起こし、正しい歴史とは何かとそれを理解することの重要性を、虎視眈々と日本を狙う周辺国の動向と絡めて解説してあります。英語バージョンがないのが残念なのですが…。
ハッサン 大丈夫です。先日一冊いただいたこの『誇れる祖国「日本」』を秘書に渡して、英語で要約するように依頼してありますから。
元谷 それは嬉しいですね! 先日のパーティーでご挨拶をいただいたアサヒビール株式会社名誉顧問の中條さんにも、日本人が皆目からウロコ感覚を味わえる本だと言っていただきました。南京大虐殺や従軍慰安婦など一つひとつのことは、皆なんとなく知っているはず。それらを流れの中で繋げて考えてみれば、より鮮明にどういう力によって今の日本人の歴史認識が築かれたかがわかってくるはずです。
ハッサン そうですか。要約を読むのを楽しみにしています。

会社は崩れ積みであるべきどの社員にも存在意義がある

ハッサン 代表はエッセイの他にも毎月APA的座右の銘をアップルタウンに掲載されています。ここには世界中のいろいろな方とお話をされた代表の知恵が凝縮されています。深く勉強をされて、真髄を掴んだ方ならではの一文を、さらに多くの人に伝えようとされているスタンスが素晴らしい。この座右の銘を読んでいると、代表が会社の構築のために何を行ったか、息子さんたちに何を伝えてきたのか、彼らと協力していかに会社を盛り立ててきたのかがわかります。
元谷 普通の人の座右の銘は、偉人の名言など他人の言葉を借りてきたものだと思うのですが、私の座右の銘は、自らが経験によって掴んだ真実なのです。またこうしたものは、「常識半分」というのが良いと思っています。私は小学校五年生の時から新聞を読み始めました。家で購読していたのが中央紙と地方紙だったので、まずその二紙から。その後経済紙も読むようになりました。これが私の常識力を養ってくれたと思っています。読んでいてわからない言葉があると、子供ながらに無性に腹が立って、「現代用語の基礎知識」を買ってきて片っ端から調べながら読んでいたのが、自然と勉強になったのでしょう。こういうこともあって、毎月アップルタウンにひとつ、自ら考えた座右の銘を掲載しているのです。こんな人も他にはなかなかいないと思いますが(笑)。
ハッサン 座右の銘は短い言葉の中に、書いた方の力強さを感じます。常識をベースに好奇心や知覚をプラスすることで、未来を予測できる。代表はそれをまさに実行されています。
元谷 予測が可能だったからこそ、これまで一度の赤字も出さず、ひとりのリストラもせずにここまで事業を発展させることができました。昔私はこんなことを言っていたのです。世界最速の男だったカール・ルイスだって、目隠しして走らせれば私に負けると。先が見えるか見えないかで大違い。先読みできることは非常に強いことなのです。
ハッサン 代表のリストラに対するお考えは、非常に深淵だと思っています。イギリスの経済紙「エコノミスト」を読んでいると、業績が振るわない時はリストラすべしという論調が目立ちます。ぜひ一度、代表には「エコノミスト」とディベートして欲しいですね。
元谷 日本本来の経営は、労働者の首を切らない終身雇用が基本です。戦後アメリカナイズされた考え方が導入されて初めて、日本でもリストラが行われるようになったのです。終身雇用が日本の社会的安定を生み出し、経済成長を支えていたのも確かなことでしょう。
ハッサン アメリカの航空会社はほとんどが一度は破綻をしているのですが、その中で四十年間利益を上げ続けている会社があり、そこはリストラをしていません。社長は従業員を「宝石」と呼び、会社にはなくてはならない存在だと考えているのです。
元谷 私も全く同じ考えです。社員によく言っているのは、会社は崩れ積みのようなものだと。崩れ積みとは、大小の石のそれぞれの大きさを生かしながら、全体としてはまとまった形に石垣を積んでいく方法です。ピラミッドや煉瓦塀のように同じ大きさのものを積むのではありません。会社にも全く同じ人ばかりがいるのではなく、いろんな能力を持つ人がいる。それを上手くまとめて一つの方向に引っ張っていくのが社長の仕事です。どんな人にだって、必ずその人にしかできないポジションがあるのです。しかも崩れ積みはショックを吸収するので、崩れにくく安定しています。
ハッサン それはぴったりの例えですね。代表がそのように日本文化や人の心に正しい認識を持っているからこそ、アパグループの経営が順調なのだと思います。

いい国があってこそのいい会社。いい国作りがまず重要だ。
大家族制度の復活で社会的コストの低減が可能に

元谷 日本には元々いいシステムがたくさんあったのですが、戦後アメリカによってどんどん変えられてしまったのです。これを取り戻して行こうというのが、私の活動になります。取り戻したいもののひとつが、大家族制度です。三世帯が同居していれば、親から子供、そして孫へと様々な知識の継承を行うことができます。また親が働いていても、祖父母が子供の面倒をみたり、逆に年老いた祖父母の介護を子供や孫が行ったりすることも。しかし今や核家族からさらに進んで個家族の時代になってきています。私はもう一度税金による誘導で、大家族制度に戻るべきだと考えています。
ハッサン 私も本当にそう思います。「エコノミスト」は、アメリカ、ヨーロッパ、日本の経済状況の比較・分析も行なっていましたが、日本は他の二地域に比べて健全という結論でした。ただひとつ問題は、日本から伝統的な習慣が消えたことだというのです。六十五歳以上が人口に占める割合が約二五%近くになってきている日本の現状を考えると、これらの人々のケアに要する費用が多額なものになることが予測されます。これに対する解決策が大家族制度の復活だというのですね?
元谷 そうです。日本は元々血縁を中心とした部族社会でした。中東などもそうだと聞いています。それが欧米化の波によって個家族化し、高コスト社会を形成することになってしまいました。
ハッサン 大家族主義は大事です。今の日本の問題は人々がなかなか結婚せず、子供を作らないことにあります。独身の高齢者が増えると、社会は益々変な方向に向かってしまうと思います。大家族主義を早急に推進する必要があるでしょう。
元谷 そうです。また家族がいれば皆幸せな気持ちになれるはず。孤立死や孤独死、ホームレスなども大家族なら吸収できるのです。一方個家族という分断は、コストアップと寂しさを生み出すだけ。人生、家族ほど大切なものはありません。
ハッサン 代表は日本の問題に焦点を当てた文章をもっと書いてください。そして日本のシステムをどんどん見直すべきでしょう。
元谷 私も日本のシステムを変えていきたい。そのために勝兵塾という同志の語らいの場を作るなどして、日本再興の活動を行なっているのです。
ハッサン なるほど。まずは基礎作りを行なっているということですね。生き方も考え方もまずは基礎からというのは、賛成です。先日のパーティーのスピーチでもこの考えに基づいてお話しました。次の時代のアパグループを担う一志新社長に言いたかったのは、元谷代表によって基礎固めはしっかりとできていること。基礎がある安定感をしっかりと意識して、次のステップへと踏み出して欲しいということです。一志さんは今後まだまだアパグループの業績を伸ばすと言っていましたが、あの意欲が大切です。きっとアパグループの中興の祖となってくれることでしょう。
元谷 私もそう期待しています。
ハッサン しかし代表、忘れてはならないのは、一志さん達若い世代は、私達とは違った世界に住んでいるということです。どこに行くにも時間が短縮されて、世界が小さくなっています。四十年前、石川県で商売を始められたばかりの頃は、代表でも大阪や東京など遠隔地の投資は躊躇されたでしょう?
元谷 そうですね。遠いというイメージでしたから。
ハッサン 今や金沢と東京、大阪はすぐ近くという感覚です。これは海外でも同じ。世界中どこでも簡単に行けるのが今の時代なのですから。この環境を考慮して戦略を立てる必要があるのです。その点では、まずは日本で断トツのトップになり、それから世界へというアパグループの戦略は、的を射ていると思います。
元谷 アパホテルについて、フランチャイズを用いて一気にブランドを広めるという手もあったのですが、私はまずは自分で所有をすることに拘りました。二万室をしっかり自分達で運用してノウハウを蓄積し、今年からようやくフランチャイズホテルを解禁にしたのです。ここで一気に部屋数を増やして、国内十万室を達成して断トツの存在となった上で世界に打って出ようと考えています。そもそも私達は、ただ売上・利益の最大化を求めているのではありません。目指しているのは「グッドカンパニー」なのです。また自分達だけがいい会社になることも望んでいません。いい国があってこそのいい会社だと。だからいい国を作るための様々な活動も同時に行なっているのです。
ハッサン その志が素晴らしいです。
元谷 五カ年計画の頂上戦略サミット5がスタートして二年二ヶ月が経ちましたが、ホテルは現在二万九千百六十五室にまで達しました。土地は自己資金で、全てキャッシュで購入しています。今はいい時ですからどんどん攻める。でもサイクルがありますから、悪い時はさっと退く。のべつ幕無し攻めていると、いつかは引っかかります。私は世界七十五カ国を訪れ、ハッサンさんのような聡明な人々と話をしてきたおかげで、景気の波を乗り切ることができる先見力を身に付けることができたのです。
ハッサン でも成功の一番の要因は、代表自身の能力の高さ、志の高さだと思いますよ。

近代化はOKだが西欧化はNG。日本固有のものを大切にすべき。
近代化はOKだが西欧化はNG 日本人の特性を大切に

元谷 私のことばかりではなく、バーレーンのことをもっとお聞きしたいのです。
ハッサン バーレーン王国は、ベルシア湾の大小三十三の島からなる島国です。人口は約百二十万人。早くから石油採掘を手掛け、石油関連産業で経済を発展させてきました。湾の中央部という位置が、この国の価値を高めています。石油輸送ネットワークの拠点が集中しているのもそのためです。また中東安定化を目的として、アメリカの第五艦隊がバーレーンに司令部を置いています。これ以外にもアメリカとの関係は極めて緊密で、二国間の自由貿易協定も結ばれています。
元谷 金融センターとしても目覚ましく発展していますね。
ハッサン はい。バーレーンの強みは、まず政情が安定していること、そしてしっかりと法律を守っていることです。例えば日本の企業がバーレーンに進出して製品を製造したとします。これはバーレーン産と看做されますから、無税でアメリカに輸出できるのです。バーレーンをぜひこのように活用していただければ。国の安全性とか法律の整備具合などをしっかり見ていただき、バーレーンでのビジネスを検討してください。進出を決めさえすれば、資金も簡単にバーレーンで調達することができますよ。
元谷 今年の秋に、一度バーレーンを視察しようと考えています。
ハッサン 是非! 実際にご自分の目で、いろいろとご覧になってください。全て私達が手配しますので。バーレーンの政財界との会談もセッティングしますよ。
元谷 やはりバーレーンは中東の拠点国ですから、中東進出において、まず訪れるべき国だと考えています。
ハッサン お待ちしております。日程が決まり次第ご連絡ください。
元谷 わかりました。最後にいつも「若い人に一言」をお願いしているのですが。
ハッサン 日本の若い人に言いたいのは、良き成功例に学びなさいということ。アパグループの成功事例は、非常に模範的だと思います。これだけの成功を一代で成し遂げているのですから。まず元谷代表の考え方や、アパグループで培われている思想を学び、それに基づいて行動を起こすべきでしょう。アパグループは、すでに日本文化の一部だと思います。
元谷 日本企業として、伝統的なことをアパグループは守り続けています。リストラのない生涯雇用ですし、新卒も中途採用も、買収ホテルの従業員として入社した人も全員が平等です。皆が崩れ積みの一員として、安心して働くことができる環境作りを心がけています。
ハッサン 代表のお考えには聖者の雰囲気が漂っています。単にビジネス上の利益を追求するのではないところが…。若い人はこの考えをきちんと理解するべきだと思います。代表は家族と社員のために全てを捧げてらっしゃいますし、これに応えて奥様や息子さん達、社員の皆さんが責任を果たされています。この関係が凄いですね。
元谷 ありがとうございます。
ハッサン もうひとつ若い人に伝えたいことがあります。七年間日本人の若者を見てきましたが、皆とても優しく良く働き、協調性もあって時間にも正確で、約束もきちんと守って…。日本人の特性というのはとても素晴らしい。ですから近代化はOKなのですが、西欧化はNGです。日本固有の特性や文化を、これからも大切にしていって欲しいと思います。
元谷 おっしゃる通りですね。今日はありがとうございました。

ハリール・ビン・イブラヒーム・ハッサン氏
1972年ダマスカス大学医学部にて医学博士号を取得、イギリスにて小児外科医としてのキャリアをスタート。1980年にバーレーンに戻り、1983年にバーレーン医師会会長に就任。その後も様々な病院や大学医学部にて要職を務め、2002年には保健大臣に就任。2005年から現職。

対談日:2012年6月8日