歴代最長の首相となる
いよいよ九月二十日に自民党総裁選挙が行われる。この選挙で安倍首相が再選されれば三期九年総裁に就くことになり、任期は二〇二一年九月までとなる。二〇一九年十一月まで首相に留まると歴代一位の桂太郎を抜いて、在職日数が歴代最長となるが、それがぐっと視野に入るだろう。私はこれまでの安倍政権の六年間は、日本にとって非常に幸運だったと考えている。
日本の周辺国の状況は、この六年で激変している。中国は十年という国家主席の任期を廃して独裁国家、習近平帝国を造ろうとしている。アメリカはオバマ民主党政権時の政策をことごとく転換し、自国第一主義を掲げるトランプ王国と化している。ロシアは政権に反発する人々を亡命先まで追いかけて暗殺する特務機関国家・プーチン帝国だ。北朝鮮は世襲の三代目が核武装を強化するやら、大陸間弾道弾を開発して周辺国から金王朝を守ろうとしている。この日本を包囲する四カ国はいずれも核保有国であり、日本は憲法第九条があるから大丈夫だとか、日米安保があるから大丈夫だなどと言っておれる状況ではない。今や世界は新帝国主義時代となり、各国がむき出しの力を誇示して、しのぎを削っている。
こんな中、二〇一二年十二月に第二次安倍政権が誕生、翌二〇一三年九月には二〇二〇年オリンピックの東京誘致に成功した。これもあって、株価や有効求人倍率、平均給与が上昇、失業率が低下するなど、全ての経済指標が好転した。また第二次政権での安倍首相の外国訪問は六十五回を数え、その地球儀を俯瞰する外交は、世界的信任を得ている。アメリカのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平主席にも堂々日本の国益を主張、日本の首相として、戦後ナンバーワンとの評価を国際的に獲得した。また世界情勢変化にいち早く気づき、日本の将来に危機を感じた安倍首相は昨年、二〇二〇年までに憲法を改正する意志を表明した。
しかしそれ以来、左翼勢力は憲法改正を阻止するため、何の生産性も違法性もないモリカケ問題で騒ぎ続けてきた。朝日新聞をはじめとする新聞やテレビなどの多くのマスメディアも、この「疑惑」を利用して安倍叩きに専念した。森友学園の件は一学校法人の国有地詐取疑惑であって、安倍首相には全く関係がない。加計学園の件で問題にされるべきは、ニーズの高い獣医学部の新設を半世紀以上も阻んできた既得権益勢力である獣医師会だろう。鳥インフルエンザやSARSなど、今後人類最大の脅威となる感染症の世界的流行(パンデミック)に対応するためには、獣医師の数の増員と質の充実が必要であり、そのためには獣医学部の新設、増設が不可欠だ。獣医師会が野党勢力に政治献金を行って獣医学部の新設を阻んでいたところを、安倍政権が特区を作ってこの既得権益体制を打ち破り、なんとか新設できるように漕ぎ着けたものだ。決して安倍首相が友人に便宜を図って、見返りをもらったという話ではない。多くの国民はそれを理解しており、内閣支持率も高く、安倍首相の総裁選勝利は間違いない。
トランプは北朝鮮を利用
去る六月十七日の第七十四回勝兵塾金沢支部の月例会で、私は次のような話をした。
全ての新聞が米朝会談についてトランプ大統領が譲りすぎたのではないかと書いているが、私はトランプはよくやっていると思っている。会談で無理やり北朝鮮を追いつめて結論を出させた場合には、金正恩は北朝鮮に帰ったらクーデターに遭うか、内乱に巻き込まれるかのどちらかになる可能性も高い。枠組みだけを決めて中身が決まっていなければそのような事態になる恐れもなく、金正恩はトランプ大統領に感謝していると思う。不都合な政権であっても、北朝鮮があの位置にあるということは、日本にとってもアメリカ、中国、ロシア、韓国にとっても都合がいい。しかし北朝鮮が核を持ったまま韓国を併合して連邦朝鮮となり、それが中国の支配下となった場合、日本はこれまで以上の危険に直面することになる。だから北朝鮮の核廃棄を強力に進めなければならないのである。トランプ大統領の最大の関心事は再選である。エッセイで何度も書いているように、当選したときから次の再選を考えない大統領はいない。一期しか出来なかったフーバー大統領の二の舞になってはいけないと言って先の戦争を始めたのがルーズベルトで、第二次世界大戦はルーズベルトが、再選のために始めた戦争ともいえる。トランプ大統領は十一月に行われる中間選挙に勝利しなければ二〇二〇年の大統領選に勝利できない。共和党が両院でもっと多数を占めるように持っていきたいというのがトランプ大統領の思いである。かつて共和党の中でトランプ派は少数だという記事も流れていたが、今や共和党はトランプ党と言っていいほど結束しつつある。日本の新聞は、アメリカの民主党やメディアが考えていることしか書いていない。現実には五〇%以上の人がトランプ大統領を支持している。こういったことを日本のマスコミはほとんど書いていない。だから今回の米朝会談においてもトランプ大統領が失敗したように書きたてている。トランプ大統領は朝鮮戦争終戦宣言と南北連邦朝鮮の成立を自分の手で成し遂げることによって、最終的には再選を目指しているはずだ。すでに「新・米中冷戦」が始まっている。ここで北朝鮮が米中どちら側につくかで世界の趨勢が決まってくる。中間選挙の十一月までまだ時間がある。北朝鮮の問題はトランプ大統領が自分のスケジュールに合わせてことを進めようとしていると考えると非常にわかりやすいはずだ。
金正恩は本当に核を段階的に廃絶するのか?表面的には全てを廃棄したといっても、核は隠されると思う。アメリカにとって北朝鮮の核はさほど怖くはないが、弾道ミサイルの存在がアメリカに脅威を与えている。このため大陸間弾道弾は確実に廃棄されるが、核は隠されることになるだろう。隠された核は日本や韓国や中国には大変な脅威となる。だから金正恩政権の北朝鮮は緩衝エリアとして、日本や中国、ロシアなどの周辺諸国にとっても必要な存在なのである。現在は、先の大戦の戦勝国であり、国連において拒否権を持つ常任理事国である五大国だけがNPT(核不拡散条約)によって核を持つ権利を持っているが、この北朝鮮の問題からこのNPT(核不拡散条約)体制は今後崩壊に向かっていく。そうなると地域における核バランスを今以上に保っていかなければいけない状況となる。日本はこれまでと同じように、戦勝国であるアメリカによってつくられた憲法を大事にしていては独立国家としての存続が非常に危うくなる。だから一日も早く憲法を改正して、自分の国は自分で守れるようにしないといけない。核バランスを取るという意味においては、日本は核武装すべきで、それが地域の安定に貢献する。しかし日本が核武装するとなると一番反対するのはアメリカである。残された手段はNATO四カ国がアメリカと協定しているニュークリア・シェアリングしかないと何度もエッセイに書いてきたのはこういった理由からである。すでに「新・米中冷戦」は始まっている。この冷戦の勝敗は北朝鮮がアメリカにつくのか、中国につくのかによって大きく変わる。アメリカが経済制裁を継続することによって北朝鮮自らが大量破壊兵器を廃棄すると約束している。だからトランプ大統領はこれ以上の経済制裁は必要ないと言っているが、決してこれまでの経済制裁をやめると言っているわけではない。ゆえに北朝鮮はアメリカに近寄っていかざるを得ないはずである。そうすれば連邦朝鮮も認め、経済援助も行い、豊かな朝鮮半島の未来が創造できるとトランプ大統領も動画で示している。トランプ大統領は十一月の中間選挙の前に北朝鮮にアメリカ側につくと言わせようとしている。最大の目的は二〇二〇年の再選である。日本で報道されていることはすべてアメリカのマスコミの論調そのままであり、事実とは全く違う。トランプ大統領は懸命にやっているし、結果も得ており、支持率も高い。いまや共和党はトランプ党と言っていいほどである。日本で新聞報道をよく読んでいる人ほど現実を知らず間違った判断をしている。
ボルトンと全く同じだ
安倍首相が推し進めようとしている二〇二〇年までの憲法改正は、衆参両院ともに改憲賛成議員が三分の二以上となっている今しかチャンスはない。実現には連立を組む公明党の賛成が不可欠なのだから、今は、彼らが主張する「加憲」という形でしか改憲は難しい。憲法第九条の第一項、第二項を残して、新たに設ける第三項に自衛隊を明記するためには、衆・参両院で発議してもその後の国民投票で過半数の支持を得ないと改正は出来ず、改憲のハードルが非常に高い。まず安倍首相が九月の総裁選で三選を果たした上で、北朝鮮危機がまだ継続している、来年七月の参院選までに改憲を行わなければならないと私は考えている。
勝兵塾でも語ったのだが、就任から一年半に亘るアメリカのトランプ大統領の政策は、全て彼の再選戦略だ。民主党オバマ政権が行った政策を全てひっくり返すべくTPPから離脱、イランとの核合意も破棄した。そして今彼が照準を定めているのは、アメリカ大統領選挙の前哨戦とも言われる今年十一月の中間選挙だ。これに合わせて、米朝関係の進展をアピールしてくるはずだ。
丁度八月九日付の夕刊フジの二面には、「『死神』ボルトン」「北に重大警告」「非核化に必要な措置を取っていない」という見出しの記事が出ていた。「北朝鮮に『死神』と恐れられているジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が、金正恩朝鮮労働党委員長に“重大警告”を発した。六月の米朝首脳会談で約束した『非核化』について、北朝鮮が実行していないと批判したのだ。ボルトン氏は、正恩氏が四月の南北首脳会談で『一年以内の非核化』を言い出したことも暴露した。北朝鮮は確実に追い込まれつつある。『北朝鮮は非核化に向けた必要な措置を取っていない』ボルトン氏は七日、FOXニュースの番組に出演し、こう述べた。シンガポールで六月に行われた米朝首脳会談の共同声明で、正恩氏は『朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む』と、ドナルド・トランプ大統領に約束した。北朝鮮がその後、具体的に核廃棄を進めている気配はまったくない。それどころか、『米国が「制裁・圧迫」という旧石器時代の石斧を捨てて、信頼と尊重の姿勢にどれほど近づくかによって未来の全てが決定されるであろう』(六日付、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』)などと、逆に米国を批判している。制裁解除を哀願する北朝鮮に対し、ボルトン氏は番組で、『真に必要なのは言辞ではなく行動だ』と指摘し、現段階での制裁緩和は一切検討していないと強調した」という。
トランプは北に強く迫る
今は静観といった様子のトランプ大統領だが、このボルトン氏の発言を見る限り、それはタイミングを計っているだけだ。十一月の中間選挙の直前には北朝鮮の追い込みに掛かる。新しく発見された大陸間弾道弾製造施設を、米朝首脳会談での合意に反すると、日時を指定して、住民を避難させた上で、巡航ミサイルとB‐2ステルス爆撃機で破壊して、アメリカの本気度を示すかもしれない。米朝会談での約束の履行を強く迫り、さもなくば斬首作戦を実施すると宣言すれば、トランプ政権の支持率は大幅に高まり、中間選挙で共和党が勝利することは確実になるだろう。さらにトランプ大統領は二〇二〇年の大統領選挙の前に、北朝鮮を追い込み非核化を実現させ、朝鮮戦争の終結宣言を出すのではないだろうか。今は米中で北朝鮮の奪い合いをしている状況だ。北朝鮮も本心ではアメリカに擦り寄り、経済的な繁栄を得たいと考えているはずだが、隣国中国はそれを阻止しようとしている。トランプ大統領は自身の再選に北朝鮮を利用すべく、金正恩の反中体制の温存を図り、緩衝地帯としてのこの国を維持、中国の自治区にならないように立ち回ることが予測される。日本にとっての北朝鮮の完全非核化は、死活的国益である。日本はこの北朝鮮危機に乗じて憲法改正を実現すべきである。
九月二十日の総裁選挙後、十一月のアメリカ中間選挙までの間に衆・参両院で憲法改正の発議を行い、その後半年以内に行う、国民投票で過半数を取るために、必要であれば衆議院を解散して国民投票と総選挙のダブル選挙に打って出るべきである。全ての国会議員に加えて、都道府県議会議員、市町村議会議員も併せて改憲派の一大勢力を総動員して、なんとしてでも改憲を実現しなければならない。この改憲ができなければ、日本はいずれ中国の日本自治区へと追い込まれる可能性が高い。その覚悟で改憲に臨むべきだ。
2018年8月24日(金) 22時00分校了