Big Talk

「自衛のための軍」を持つことを憲法に明記すべきVol.322[2018年5月号]

衆議院議員 財務金融委員会理事 岸本周平
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APAグループ代表 元谷外志雄

官僚時代にはアメリカの大学で教鞭を執る経験も。退官後、トヨタ自動車の奥田硯会長の右腕を経て国政へ、小選挙区で四回の当選を果たした衆議院議員の岸本周平氏。政策通でもあり、保守の論客でもある岸本氏に、北朝鮮危機や憲法改正など、今の日本政治が直面する数々の課題についてお聞きしました。
岸本 周平氏

1956年和歌山市生まれ。1980年東京大学法学部を卒業して大蔵省に入省。1995年アメリカのプリンストン大学に留学、1996年より同大学の東洋学部客員講師を務める。財務省理財局国庫課長などを歴任した後、2004年財務省を退官、トヨタ自動車株式会社に入社、内閣府政策参与も兼務した。2009年の衆議院選挙で初当選、現在4期目。著書に「中年英語組–プリンストン大学のにわか教授」(集英社新書)などがある。

外交とはお互いを利用して
国益を最大にすることだ

元谷 本日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。岸本さんにはこれまで勝兵塾で、二〇一二年から六回も講演をしてもらい、ワインの会へも二回来てもらっています。非常に的確な考えをお持ちで、私との共通点も多い。昨年の総選挙でも小選挙区で見事当選を勝ち取りました。

岸本 これで、小選挙区で四回勝ったことになります。

元谷 すごい実績ですね。東大法学部卒業後は大蔵省・財務省にいて、退官後の二〇〇四年にトヨタ自動車に入社しています。トヨタでは何をしていたのですか。

岸本 二年間、奥田硯会長の側近として渉外部長をやっていました。当時奥田さんは経団連の会長と財政諮問会議の委員をされていたので、そのお手伝いでした。

元谷 岸本さんが辞めた直後、トヨタ自動車はアメリカで大規模なバッシングに晒されます。どうもアメリカは、真実より国益で動くことがありますね。

岸本 「アメリカファースト」はトランプ大統領が元祖ではなく、昔からのことですから。

元谷 アメリカ大統領は国益のためには、嘘も言いますし強い主張も行います。日本人は性善説を信じ過ぎていて、話せばわかる的な考えの人が多く、力の論理に立脚した国際政治がわからないのです。

岸本 個人間に友情は芽生えますが、国家間には友情はありません。外交とはお互いを利用して、国益を最大にすることです。一九五六年、鳩山一郎内閣の時に日ソ共同宣言が締結されましたが、ソ連はこの交渉過程で、歯舞群島と色丹島の返還を平和条約の条件にすると提案してきたのです。しかしアメリカのダレス国務長官は、俗に言われる「ダレスの恫喝」によって、それを日本が認めたらアメリカは日本に沖縄を返還しないと日本政府を脅したのです。ダレスの本音は、日本とソ連が平和条約を締結して接近するのは避けたいということだったのでしょう。結局鳩山首相は二島返還案を断りました。

元谷 先の大戦直後、アメリカは北方領土や竹島など日本周辺の領土問題に関与しようとしませんでした。当時は唯一の核保有国だったので、力でそれらの問題に決着をつけることは可能だったはず。しかし行わなかったのは、争点を残して、日本がアメリカを頼りにせざるを得ないような状況を作り出す意図があったからでしょう。

岸本 日本だけではなく、全ての国同士を喧嘩させるのがアメリカの戦略です。

元谷 外交は言葉の交渉による戦争であって、むやみに仲良くすることではありません。この辺、多くの人が誤解をしているようです。本来外交には背景に軍事力が必要なのですが、日本はそれを憲法によって削ぎ落とされています。だから日本外交には迫力がない。とはいえ、中国や韓国にはもっと主張すべきでしょう。特に日韓合意を反故にした韓国を今以上に強く非難すべきです。

岸本 せっかく不可逆という文言も入れ、実質的にはアメリカを立会人にして国と国とで合意したものを、あっさり否定する韓国の文在寅大統領の発言は、国会議員としても一国民としても受け入れられません。

元谷 日本政府はそのことをはっきり表明すべきです。そして文在寅大統領は、平昌オリンピック終了後の三月五日に北朝鮮の金正恩の元に特使を派遣、四月に南北首脳会談を開催することで北朝鮮と合意しました。韓国の方が何十倍も経済力があるはずなのに、すっかり北朝鮮に飲み込まれそうになっています。核兵器を保有した統一朝鮮連邦が誕生すれば、日本が間違いなく一番の被害者。今韓国が持っている通常兵力も経済力も技術力も持った朝鮮連邦を中国が利用、刃のように日本に突きつけることで、大中華圏主義の中国は日本を取り込んで一自治区とするでしょう。二〇四九年に迎える中華人民共和国建国百年のタイミングで、アメリカを越えて世界覇権を握ることが中国の目標です。現状では歴然としているアメリカとの軍事力や経済力、技術力の差を逆転するために、中国は日本を取り込もうとするでしょう。

岸本 全く同感ですし、既に経済的には中国本土、香港、台湾、シンガポールが大中華圏となっていて、この中で凄まじい量の貿易が行なわれています。また技術はあるが後継者に悩む日本の中小企業の買収を専門とするファンドが、台湾に設立されました。こういった動きから日本の技術力を守らなければなりません。それは政府の仕事です。

元谷 そういったことに危機感を感じている政治家が少ないですね。世界情勢から判断すれば、北の核兵器が日本に使われる可能性が最も高い。このことに危機感を感じている人も少数です。これ以上の核開発や大陸間弾道ミサイルの保有はNOだが、現有の核兵器は容認するということでアメリカと北朝鮮が合意すれば、核兵器の脅威は北の同胞の韓国ではなく、日本に向けられることになります。

米国の北の核容認の際は
核シェアリングを求めよ

岸本 核を持った北朝鮮の存在を最もありがたく思っているのは、中国でしょう。だから国連の経済制裁決議にも拘らず、北に石油を送り、北から石炭を買っています。

元谷 中国だけではなく、ロシアやアメリカ、韓国や日本も緩衝地帯としての北朝鮮の存在は必要だと考えています。逆に金正恩が恐れているのは中国です。二〇〇四年に北朝鮮北部の龍川駅付近で起こった大爆発は、中国の軍事委主席江沢民による金正日の爆殺未遂事件でした。江沢民は金正日を呼びつけて核開発の断念を迫ったのですが、金正日はそれを拒否。だから帰り道に、何カ月も前から準備していたTNT火薬八〇〇トンによって爆殺しようとしたのです。北朝鮮が中国の属国となることを阻止したいアメリカかロシアから、暗殺計画の情報がリークされて、金正日は九死に一生を得ました。

岸本 中国もアメリカも同じですが、強面と懐柔の使い分けが上手いですね。北朝鮮に対するアメリカの態度も、先制攻撃があるかもしれないし、急転直下条件付きで北朝鮮の核保有を認めるかもしれません。アメリカが韓国と日本を見捨てる可能性もあるという心構えが、必要だと思います。

元谷 冷戦期のヨーロッパではソ連の核兵器搭載の中距離弾道ミサイルSS‐20の配備に対して、アメリカはパーシングⅡなどを配備、さらにNATOの一員であるベルギー、ドイツ、イタリア、オランダなどがニュークリア・シェアリングに加盟しました。北朝鮮の核保有をアメリカが認めるのであれば、かつてのヨーロッパ同様、日本はアメリカにニュークリア・シェアリングを求めるべきです。そのために、非核三原則も新たな国会決議でなくすべきでしょう。

岸本 アメリカが日本を見捨てるシナリオには備えるべきです。

元谷 憲法第九条の改正も必要です。安倍首相は加憲の方向性を示しましたが、私は単に自衛隊を明記するのではなく、「軍」であることを明記すべきだと考えています。現状同様、警察権の行使として同じ武器使用基準に従う自衛隊になるのであれば、改憲の意味はありません。現行のポジティブリストによる運用ではなく、他国の軍隊同様、してはいけないことが決められたネガティブリストによる運用にする必要があります。自衛隊員が刑法で裁かれることがないよう、軍法会議の設置も認められるようにするべきです。

岸本 第九条については、代表と少し考え方が違うのですが、自衛隊だけを憲法に書くことには反対です。安倍首相は深く考えずに言い出したのではないでしょうか。私は第九条には自衛隊ではなく、自衛権の明記を加えるべきだと考えています。そうして、自衛隊が地球の裏側にまで行くことがないようにすべきです。また、第九条以外にも地方自治や知る権利、解散権など、憲法を改正すべきポイントは多数あります。

元谷 おそらく安倍首相も私が指摘したような問題点はわかっているでしょう。しかし今のタイミングで改憲を行うとなれば、反日メディアや誤った教科書による教育を受けた国民、右から左まで様々な考えを持った国会議員がいる中、三分の二による国会での発議と国民投票での過半数を得なければ、改憲はできません。北朝鮮危機が高まる今しかタイミングがないとすれば、多少の妥協も必要となるでしょう。

好景気を続けることで
トランプは再選を勝ち取る

元谷 毎年、年越しはラスベガスのホテルのパーティーに参加するのですが、いつもアメリカ空軍の元将軍とテーブルが一緒になります。二カ月前のパーティーでもその将軍とアメリカの北朝鮮への軍事行動についての話をしました。私が限定公開空爆が金正恩の命や現状の国家体制の維持を保証した上で、核兵器とミサイル関連施設のうち破壊するものを具体的に指摘・宣言した上で、巡航ミサイル・トマホークやB2爆撃機による攻撃を行う限定公開空爆が良いのではないかと話したところ、彼は限定的な攻撃をするには全面戦争の準備が必要であり、それには半年以上の準備期間を要するのでこの二月や三月では無理だというのです。そして今すぐ可能なのは金正恩のみを暗殺する斬首作戦だと言っていました。しかし今金正恩を殺してしまうと後継者争いは必至で、大きな混乱に乗じて中国が北朝鮮を制圧して、三十八度線での米中対立となる可能性もあります。もう一つ将軍が言っていたことは、アメリカは国益に寄与するか、大統領の再選にプラスになる場合じゃないと、戦争を始めないということです。

岸本 実際に軍事行動を行うことによるトランプ大統領のリスクも大きいでしょう。一方、三月一日にトランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入制限の方針を表明しました。これは明らかに中国をターゲットとした貿易戦争の勃発を意味します。トータルで考えると決してアメリカのためにはならないと思うのですが、政権幹部が次々と辞め、トランプ大統領に諫言する人もいなくなっているのでしょう。

元谷 トランプ大統領は当選した時から再選しか考えていません。CNNなどメディアがどれだけ彼を批判しようが、支持率は決して三〇%を切ることはない。残りの七〇%から二一%奪取して、五一%の票を取ることを彼は目指しています。そのためには例えそれが選挙に勝つための出鱈目なものだとしても、公約を実現するために努力している姿を有権者に見せなければならないのです。鉄鋼輸入制限もその一環でしょう。

岸本 その通りだと思います。今年アメリカは中間選挙を迎えます。共和党が勝利するために、トランプ大統領は一二〇%の力を出している。エルサレムへの大使館移転も、彼の大きな支持母体であるキリスト教福音派は大賛成です。

元谷 さらに今、アメリカは好景気であることが重要です。よく良いホテルとは何かと聞かれるのですが、私は儲かるホテルだと答えています。アパホテルは狭いなどと言われますが、儲かっています。それは顧客満足度が高くて、リピーターが多いからです。トランプ大統領も同じで、様々な批判を受けようとも経済を良くすることで有権者満足度を上げれば、再選は確実となります。ここに彼は一番注力して来るでしょう。

岸本 代表とトランプ大統領は実業家同士ですから、考え方がわかるということですね。

元谷 週刊東洋経済に「ビジネスホテル、満室御礼でも伸び悩むワケ」という記事が掲載されました。アパホテルと東横インを名指しして伸び悩みだと言う記事なのですが、実際に掲載されているアパホテルの業績は増収増益で、見出しと合っていません。日本が得意なのは、家電や車が代表的なのですが、アパホテルも部屋をコンパクト化することで、炭酸ガスの排出量を抑え、一般都市ホテルの三分の一に抑えました。省エネで環境に優しく、建築費やランニングコストが少なくて済む一方、高い顧客満足度を維持しています。

岸本 私もよくアパホテルを利用するのですが、大浴場がいいですね。しかしビジネスホテルで大浴場は、贅沢なのではないでしょうか。

元谷 そこは発想の転換が必要で、ある程度の部屋数以上のホテルであれば、大浴場を作った方が光熱費や水道代が安くなるのです。アパホテルの基準では、三百室以上なら大浴場を設置するようにしています。

岸本 なるほど。

元谷 日本の今の大きな問題は少子高齢化ですが、私はこれの解決策は大家族制度の復活だと考えています。三世代が同居すれば、世代間の知恵の伝承が行なわれますし、子育て世代の母親も両親や祖父母に子供を任せて働きに行くこともできます。私は現代最大の悲劇は孤独死だと思っているのですが、ひとり世帯は増加する一方です。これに歯止めをかけるため、政策によって大家族に誘導するのです。例えば大きな家に三世帯同居であれば固定資産税を二分の一に切り下げるとか、子供の数に応じて補助金が支給されるようにするとか。

岸本 代表の故郷である石川県や富山県では、まだ三世代同居が多いですね。それによって若いお母さんも働きに行くことが可能になっていると聞きます。

元谷 三世代同居のもう一つのメリットは、多くの大人が子供と同居することで、家庭教育が充実することです。

岸本 アメリカの研究で、学力と人間力、どちらに優れた人が成人して多くの給料を稼ぎ、犯罪に手を染めないかを統計学的に調べたものがあります。結果は人間力の勝ち。挨拶ができるとか、我慢ができるとかの方が、人間としては大事だということです。このしつけを、日本は戦後教育で失いました。

元谷 失ったというよりも、失わせられたというのが正しいでしょう。アメリカは先の大戦中から日本研究を行い、その強みを結束力と結論づけ、これを失わせるために家族の分断を図ったのです。

日米地位協定の改定は
日米が対等になってから

元谷 日本はドイツや朝鮮のように国が分断されることはありませんでしたが、アメリカは日本が内部で分裂するように仕向けました。その方策の一つが、占領軍が一九四五年に定めた新聞編集綱領である「プレスコード」です。二〇一四年に杉田水脈衆議院議員が国会でプレスコードについて質問、政府参考人の外務省大臣官房参事官の水嶋光一氏が「サンフランシスコ平和条約の発効に伴って失効している」と回答していますが、今でもメディアはこれを遵守しています。禁止事項に「大東亜共栄圏の宣伝」があるために、テレビで「大東亜戦争」と言うとカットされますし、森喜朗元首相が発言した「神の国」をメディアが一斉に攻撃したのも、「神国日本の宣伝」が禁止されているからです。しかし一般の人々は、プレスコードの存在を知りません。なぜなら、メディアがその存在を一切報じないからです。

岸本 どんな内容かを知ることはできるのですね。

元谷 はい、インターネットでも調べることができます。先の大戦で日本は強すぎたのです。アメリカはこのような報道機関への規制などで日本の牙を徹底的に抜き、周辺に領土問題の争点をわざと残して、冷戦下の日米安保体制を確固たるものとしたのです。しかし冷戦は三十年近く前に終結しました。もう日本は自主独立の国となるべきですし、そのための憲法改正です。そして片務的な日米安保を変えて、アメリカと対等な関係での同盟を結ぶべきなのです。

岸本 トランプ大統領はかなりしたたかです。日本もアメリカに対して、もっとしたたかに。日米同盟で中国に対抗するというのであれば、まず日米地位協定の改定をアメリカに迫るべきではないでしょうか。

元谷 確かに真っ当な国家に他国軍隊が駐留することは通常あり得ません。しかし今の地政学的状況を考えると、日米同盟がない状況は考えられないでしょう。

岸本 日米同盟は大切ですし、基地の存在もやむを得ないと思います。しかし今の地位協定はあまりにも一方的では。

元谷 米軍機が安全側に配慮して海岸や自治体のヘリポートに着陸したことを批判する人がいますが、では無理に基地まで飛ぼうとして、途中で民家に墜落したらどうするのか。部品の落下もあるべきことではないですが、空を飛ぶ以上、起こりうるリスクです。

岸本 そこはわかります。しかしドイツでは警察が米軍の事故調査を行うことができるのです。しかし日本では警察が調べることはできません。

元谷 日本とドイツでは憲法の制定過程が異なります。ドイツの憲法であるボン基本法は、ドイツ人の手で作られ、批准されたものです。しかし日本国憲法はアメリカが作ったものです。ドイツは自主憲法の下、アメリカに主張できるでしょうが、日本はまだそれはできない。軍事的にアメリカにおんぶに抱っこの状態での主張は、あまりにも弱い。まず日本は憲法を改正して軍の保有を認め、軍事的にも対等な立場に立った上で、日米地位協定の改定を求めるというのが筋ではないでしょうか。これからさらに憲法改正論議が活発になると思います。日本がより良い方向に向かうよう、岸本さんにもしっかり頑張っていただきたいと思います。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

岸本 若い人達にはまず歴史をしっかり勉強してもらいたい。歴史というのは勝者が作るものですが、敗者側からの視点も大事です。今年は明治維新から一五〇年ですが、この出来事は明治政府が作った歴史から語られることがほとんどです。しかし戊辰戦争では一万人近い人々が亡くなっていますし、今のNHKの大河ドラマ「西郷どん」の主人公である西郷隆盛は、西南戦争で賊軍として死んだので、靖国神社に祀られていません。明治政府の歴史をまるごと信じるのではなく、賊軍とされた旧幕府軍や旧薩摩藩士の視点からも歴史を見て欲しいですね。

元谷 昔は新聞やテレビ、書籍が情報の源泉でしたが、今はインターネットでもっと幅広い知識を得ることができます。自分でいろいろと調べて、真実を掴んで欲しいですね。私は常々「本当のことを知れば、皆保守になる」と言っていますが。今日はありがとうございました。

岸本 ありがとうございました。

対談日 2018年3月6日