Big Talk

愛国者でないと他国に敬意を払うことはできないVol.316[2017年11月号]

サンコンシステムズ有限会社 NPO法人ギニア日本交流協会 顧問 オスマン・サンコン
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APAグループ代表 元谷外志雄

本来はエリート外交官でありながら、その明るいキャラクターから、テレビ番組「笑っていいとも!」で一躍人気タレントとなったオスマン・サンコン氏。日本と母国・ギニアやアフリカの交流に力を入れ、今年の春の叙勲で旭日双光章を受章したサンコン氏に、日本が今後どのように他国を接するべきかをお聞きしました。

オスマン・サンコン氏

1949年ギニア共和国生まれ。国立コナクリ大学を卒業後、国費でフランス・ソルボンヌ大学に留学。1972年にギニア共和国外務省に入省、初来日。1980年にワシントンに異動、一時帰国も経て、1984年再来日。1985年「笑っていいとも!」への出演をきっかけに、タレントとしてブレイク。以後タレント業と合わせて、日本とギニアやアフリカとの友好を深める活動を行う。その功績が認められ、2017年5月の春の叙勲で旭日双光章を受けた。

大使館開設要員として来日
来てから日本語を学ぶ

元谷 本日はビッグトークにご登場、ありがとうございます。先日は、春に受章した旭日双光章の祝賀パーティーにも招待していただきまして。

サンコン 代表にお越しいただいて、とても嬉しかった。ありがとうございました。

元谷 安倍昭恵さんや各界の著名人ら、四百名もの方々が出席される盛大な宴でした。今回の受章と、この人脈の広さは、サンコンさんが日本で果たしてきた役割の偉大さを示していると思います。最初に来日して、何年になるのでしょうか。

サンコン 一九七二年ですから、もう四十五年前になります。

元谷 アパグループが創業したのが一九七一年ですから、一年違いになりますね。

サンコン そうですね。ギニア共和国は一九五八年に独立、アメリカ、フランス、ソ連の順に大使館を開設していたのですが、一九七二年当時には、日本にはまだギニア大使館はありませんでした。ギニアは金やダイヤモンド、近年はボーキサイトなど、鉱物資源が豊富な国です。そして日本には世界有数の技術力があります。日本とギニアの交流は双方に得だとギニア外務省は考え、まだ入省して間もなかった私を、日本での大使館の開設要員として派遣したのです。

元谷 入省前まで、サンコンさんは国費留学でフランスのソルボンヌ大学に通っていたとか。

サンコン はい、そうです。

元谷 ギニア外務省はそんなサンコンさんの高い能力を見込んで、開設要員としたのでしょうね。日本語を話すことはできたのでしょうか。

サンコン 全くできませんでした。言葉も知識も不十分なまま日本に来たのです。ですから三年間、毎日大使館での仕事が終わった後、語学学校のアテネ・フランセへ行って、日本語の勉強をしていました。日本人にとってアテネ・フランセはフランス語を学ぶ場所ですが、フランス語が母国語だった私は逆に日本語を学ばせてもらっていたのです。

元谷 それで今のように日本語が堪能になったのですね。

サンコン はい。私はギニア人として初めて日本語を話し、初めて日本人と結婚しました。そして一九八五年に「笑っていいとも!」のオーディションを受けて、ケント・デリカットやデーブ・スペクターらと一緒に番組に出るようになったのです。

元谷 その後の活躍は多くの人の知る通りです。英語も話すことができるのでしょうか。

サンコン 日本で八年勤務した後、一九八〇年にワシントンに異動になりました。カーター大統領時代とレーガン大統領時代に跨って、駐米大使館で勤務しました。勤務の傍ら、ジョージタウン大学で勉強もしましたね。ホワイトハウスは二回訪問しました。一番記憶に残っているのは、一九八一年三月三〇日のレーガン大統領暗殺未遂事件です。私はレーガン大統領が撃たれたヒルトンホテルの現場の、ほんの二十メートルほど先にいたのです。

元谷 それはショッキングな経験でしたね。

サンコン はい、大統領が一命を取り留めたのは、幸運でした。

元谷 ギニアの公用語はフランス語ですが、サンコンさんは、古くからの民族の言葉も話すのでしょうか。

サンコン もちろんです。ギニア内にもいろいろな民族の言葉があるのですが、私はスースー語を話します。自信がある言葉は、フランス語、英語、スースー語、日本語の四カ国語です。

元谷 それだけでも凄い能力です。

サンコン 何も知らずに日本に来たのですが、いくつかギニアとの共通点があって、助かりました。例えば日本の主食は米ですが、ギニアでも朝昼晩と米を食べます。栽培しているのは水稲ではなく、陸稲です。

元谷 水稲の方が単位面積当たりの収量は多いのですが、降雨量の少ないアフリカでは、陸稲の方が育てやすいのでしょう。日本でも昔は大半の人々が農業従事者でしたが、栽培効率が良くなって必要な人手が少なくなり、余った人々が工場労働者となっていったのです。どの国でも近代化は農業中心の産業からの離脱でした。そして工業化が進むと、富の集約によって資本家が誕生するようになります。

サンコン 仰る通りです。

活字で得た「知識」を
「見聞」で知恵に変える

元谷 ところで、兄弟がとても多いと聞いています。

サンコン 二十二人兄弟です(笑)。ただギニアはイスラム教の国で、イスラム教では四人まで妻を持つことができます。私の父には三人の妻がいて、その三人が二十二人の子供を産んだのです。

元谷 四人まで妻は持てるのですが、皆を平等に扱う必要があると聞いています。旅行も全員で行くので、ちょっとした団体になります。お金持ちや地位の高い人でないと、複数の妻を持つことは難しかったでしょう。地位や能力の証ということですね。三十年程前モロッコを旅行した時に、案内してくれたガイドが三人目の妻をもらうと、とても嬉しそうにしていたのを思い出します。豊かな人が多くの妻を持つことは、貧しい人を救済するという社会保障的な意義もあったとか。しかし今は多くの妻を持つ人が減っているそうですね。

サンコン その通りです。イスラム圏のことまで、代表は良く知っていますね。

元谷 私は世界八十一カ国を巡って、風習から政治までその国の要人とディベートをしてきましたから、どんな国でもそれなりのことは知っています。ギニアにはまだ行ったことはありませんが。

サンコン 近くの国を訪れている代表でしたら、ギニアについても、大体のことはわかると思います。そもそもアフリカの国境線は、旧宗主国が石油などの資源の関係から、勝手に縄張りを決めたものです。

元谷 帝国主義国同士の勢力争いの名残ですね。

サンコン フランスやイギリスを中心に、スペイン、イタリア、ポルトガルなどが、二十世紀半ばまでアフリカを分割、植民地としていました。植民地にならなかったのはエチオピアだけです。それもあって、アフリカ連合(AU)の本部はエチオピアのアディスアベバに置かれています。

元谷 最後の皇帝、ハイレ・セラシエ一世が一九七四年に亡くなるまで続いたエチオピアの王室は、日本の皇室に次ぐ世界第二位の歴史がありました。エチオピアはトランジットで通過したことしかないのですが、その時向かったのはウガンダのジンジャというヴィクトリア湖の湖畔にある町でした。ここはナイル川の源流として知られています。訪れて驚いたのは、マハトマ・ガンジーの記念碑が源流の近くに建てられているのです。若い時に南アフリカで弁護士をしていたなど、アフリカとの縁があったガンジーは、生前に遺骨をナイル川に流して欲しいと希望、それが実行された際に建てられた碑だそうです。

サンコン 本当に代表は、アフリカ人でも知らないようなことを、良く知っていますね。

元谷 しかし百聞は一見にしかずとは良く言ったもので、文章で読むのと実際に行ってみるのでは、随分印象が異なります。私は小学生の時から新聞を読むのが趣味で、わからない単語があると『現代用語の基礎知識』で片っ端から調べていました。その頃からの活字で得た「知識」を、大人になって世界中を実際に訪れて見聞を広めることで、「知恵」に変えてきたのです。ウガンダの副大統領やバーレーンの国王、そして昨年亡くなったキューバのフィデル・カストロなど、各国での要人との対話も、私の考えの重要な礎になっています。

サンコン そのお話は非常に良くわかります。愛国者はそれ故に、他の国に興味を持って学ぼうとするのです。自分の国が好きではない人は、他の国も好きにはなれません。自分の国を尊敬する代表のスタンスは外交官と同じですね。

元谷 他国の良いところを、自分の国を良くするために活用するのが外交官の役割だと思います。だから駐日大使の皆さんも、日本で多くの人脈を築き、関係改善に奔走し、協定を結んだり出資を集めたりしているのでしょう。私も日本の素晴らしさを十分に理解した上で、日本に応用できることを探すために、海外に行っているのです。

サンコン 素晴らしいことだと思います。代表がそのような想いでいる以上、アパホテルはきっと将来、世界一のホテルチェーンになると思います。

北が核を廃棄しない以上
日本も核武装を検討すべき

元谷 北朝鮮の暴挙によって緊張が高まる中、それを報じる日本のメディアの国際政治音痴ぶりが、いよいよ明らかになっています。

サンコン 私は、日本は隣国への抑止力を含め自衛隊の在り方をもっと議論すべきだと思います。

元谷 その通りなのですが、アメリカは日本が独自に核兵器を保有することを絶対に認めません。可能性があるのは、NATO加盟国のドイツやイタリア、ベルギー、オランダが結んでいるニュークリア・シェアリング協定を、日本もアメリカと結ぶことです。この協定に基づき、アメリカの核兵器を領土に配備することで、日本は核の抑止力を手にすることができます。その分、在日米軍の規模が縮小されてもいいでしょう。アメリカファーストを標榜するトランプ大統領であれば、日本とのニュークリア・シェアリング協定を認めるのではないでしょうか。

サンコン それはいい考えだと思います。日本上空を通過した北朝鮮のミサイル発射の後、北海道の人と話をしたのですが、非常に不安がっていました。日本がしっかりと抑止力を持てば、北朝鮮もあんな危険な挑発は行わなくなるでしょう。

元谷 戦争を阻止するためには、バランス・オブ・パワーの維持が不可欠です。これまでの世界の歴史を辿っても、均衡が崩れ、力の空白ができた時・場所で戦争が起こっています。特に怖いのはメディアによる人々の扇動です。中国政府が恐れているのは、日本を軽視した中国メディアに煽られた人々が、政府に「尖閣を力で奪い取れ!」という圧力を掛けることでしょう。しかし日本が応分の軍事力を備えていれば、そのような扇動も起こらない。中国政府は日本が強くなることを望んでいるのではないでしょうか。

サンコン その通りだと思います。

元谷 日本がこの七十数年間、平和を維持できたのは、憲法九条があったからではなく、日米安全保障条約によって東アジアのバランス・オブ・パワーがなんとか維持できていたからです。しかしアメリカが自国第一主義に向かう以上、状況は変化していくでしょう。人種差別的だと言われながらもトランプ大統領からコアな支持層が逃げないのは、今アメリカで最も貧しいのは白人層だからです。この有権者の二五%を占めるプアホワイトと呼ばれる人々が熱狂的なトランプ支持層であり、トランプ大統領は残り七五%の様々な層から二十〜二五%を取って当選したのです。今トランプ大統領がやっていることは、コア支持層を逃がさないために、結果はともかく、公約を実現する姿勢があることを強調、再選へと繋げることです。グアム近海にミサイルを打ち込むという北朝鮮の挑発にも、トランプ大統領は必要以上に大騒ぎをしています。これはロシアゲート疑惑を誤魔化す意図ではないでしょうか。こんなことを言ったり、書いたりしているのは私だけ。国際的な視点がわかるからであって、一般の人にはわからないのでしょう。

サンコン また勤め先や株主など、立場的に発言に制約がある人が多いですね。商売への影響を気にする経営者もいます。

元谷 私はオーナー経営者ですから、誰に憚ることなく自由に発言できます。今年一月の書籍事件で私の南京事件はなかったという主張が中国政府から批判されたにも拘らず、アパホテルの業績が過去最高を連発していることが、図らずも商売への影響がないどころか、初志貫徹が業績アップに繋がることを証明しました。竹田恒泰さんが言っている通り、「中国は喧嘩をする相手を間違えた」のです。ただビジネスとして中国に商品を売ったり、中国から商品を買ったりしている企業は多いですから、自由にモノが言えない人もいるのでしょう。

サンコン 私も南京で三十万人が虐殺されたという中国の主張は、おかしいと思います。

元谷 軍律厳しい日本軍が、占領した後に無抵抗な人々を虐殺するとは、ちょっと考え難いでしょう。

サンコン 私が尊敬するのは、例えばガンジーやキング牧師、ネルソン・マンデラなのですが、代表もその中の一人です。

元谷 マンデラにはアポイントメントを取って会いに行ったのですが、たまたま体調が悪くて、財団の理事長との対談になってしまいました。南アフリカは、白人政権から黒人政権に変わる時に、核兵器を廃棄しました。日本のメディアはよく一旦核武装して後に廃棄した国はないと言いますが、そんなことはありません。しかし南アの白人政権が、黒人政権に核が渡ることを恐れて核を廃棄したように、それには相当な理由が必要となります。北朝鮮には現在そのような廃棄の理由はありません。そんな国に対抗するためにも、日本はニュークリア・シェアリング協定を結ぶぞという姿勢を示すことが、今必要なのではないでしょうか。

サンコン 私もそうだと思います。

施設を攻撃しなかったのは
真珠湾攻撃の致命的な失策

元谷 しかし問題は、本来日本と共に北朝鮮に立ち向かわなければならないはずの韓国の対日姿勢です。いつまでも高給売春婦を従軍慰安婦だと問題を蒸し返し、さらに強制連行もなく、日本人と労働条件が同じだった徴用工についても、人権問題にしようとしています。

サンコン 大統領が変わる度に言うことが変わる国。慰安婦像をバスに乗せるなど、やることが異常です。

元谷 南京大虐殺や従軍慰安婦については、日本人の中の反日日本人が、実は最大の元凶なのです。正に獅子身中の虫。彼らがいるために、日本は事実でないことを認めさせられて、何度も何度も金を支払う羽目になっているのです。日本人はこれまで反論をせず、いずれは本当のことが皆わかるはずと、我慢をしてきました。しかしそれは間違い。嘘も繰り返されれば、本当になるのです。やはりちゃんと議論をして、それを通して真実を見つけ出していかなければ。そもそも日本の教育が議論を重視せず、記憶力ばかりを評価していることにも、問題があります。暗記が得意な人が東大法学部に行って、官界、法曹界、メディア界に入るのです。これでは議論は深まりません。

サンコン 全く同感です。私は日本で孫ができたこともあって、自分のことを江戸っ子だと思っています。だから代表の話は良くわかります。

元谷 サンコンさんは日本人以上に日本人だからそう言うのです。しかし日本人でも理解できない人が多い。平和のためには日本も核兵器を保有すべきなのですが、現状では持てません。まず憲法を改正し、非核三原則を破棄しなければならない。日本にとって有利な共和党のトランプ政権が続く間に、日本はこの二つの条件をクリアして、ニュークリア・シェアリング協定を結ばないと。そうしなければ、中国、ロシア、北朝鮮と周辺国が全て核兵器も持つ東アジアのバランス・オブ・パワーを維持することが、いずれできなくなります。日本が独自に核兵器を持つことにアメリカが反対するのは、旧日本軍が強すぎたために、それが復活するのを恐れているからです。

サンコン 私もそう思います。

元谷 短期間でいくつもの戦闘機を開発し、中国大陸では最後まで勝ち続けた旧日本陸軍を私は高く評価しています。戦争は勝てる相手を選んで行うものです。先の大戦で日本はまず宣戦布告を、ヨーロッパにおいてドイツに追い込まれていたイギリスに対して行うべきでした。そして「アジアの開放」を錦の御旗にする。そうすれば、インドなど多くの国の独立運動が日本軍に加わって、インパール作戦なども成功させることができたでしょう。真珠湾を攻撃してアメリカと戦うという発想は、海軍の山本五十六のものです。山本はアメリカ駐在が長く、この国のことを知りすぎていたために、今ならやれると対米戦を始めてしまった。真珠湾を攻撃するのであれば、もっと徹底的に行うべきでした。艦船だけを攻撃してドックなど施設を残したのは、民間人の被害を恐れたからかもしれませんが、その後の艦船の修理を容易にしたということで、大きな失策としか言いようがありません。理想を言えば陸海軍の共同作戦として、艦船の攻撃だけではなく基地の占領までを行いドックや燃料タンクを確保。ここを拠点にパナマ運河の攻撃を行って、米大西洋艦隊が太平洋に回航できないようにして、有利な状況で休戦に持ち込むべきでした。

サンコン なるほど。代表のお話は、いつも非常に勉強になります。

元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。

サンコン 日本には非常にお世話になっています。だから敢えて言うのですが、日本の若い人は自分の国のことをまずよく知ることが大切です。私も日本人の考え方をいろいろ学びました。武士道には非常に共感しています。

元谷 日本のような国が、世界の他にはないということも知るべきですね。

サンコン その通りです。そのプライドを持って世界中に行って、異なる考えの人々と一緒に仕事をして欲しいですね。人間の指は全部形が違いますが、それぞれ役割があります。それと同じで「違う」ことは重要。それぞれが自分に合った役割を果たせば良いのです。v

元谷 かつて日本人は皆、誇りを持っていました。それが戦後七十数年ですっかり卑屈で自虐的になってしまった。日本人としての誇りを取り戻し、その上で他の国の人も尊重するという姿勢が大事ですね。

サンコン その通りです。

元谷 今日は有意義なお話をありがとうございました。

対談日2017年9月1日