Big Talk

明治一五〇年の今年、第二の建国を目指せVol.310[2017年5月号]

株式会社ワールドウィズアウトボーダーズCEO 米籍弁護士 ジェームズ・パパトネス
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APAグループ代表 元谷外志雄

かつては小規模企業向けおよび訴訟の弁護士として活動し、日本において英語でのグローバルスキルトレーニングと教育を中心とした事業を展開するジェームス・ニコラス・パパトネス氏。レーガン政権では、ホワイトハウス主催のカンファレンスにも参加していたという氏に、トランプ大統領誕生後の日米関係の在り方や世界情報の方向性についてお聞きしました。
ジェームズ・パパトネス氏

14歳で全米ディベートチャンピオン。サフォーク大学ロースクール卒業後、ハーバード大学大学院にてU.S/日本貿易プログラムを修了。14年間弁護士活動を行い、レーガン政権下ではWhite House Conference for Small Businessのメンバーとして、中小企業のための規制緩和やビジネス活性化に尽力。企業向けのコンサルタントとして活動、投資家ビザで日本に滞在し、2006年株式会社ワールドウィズアウトボーダーズを設立、日本の大手企業向けの研修も実施している。また雑誌「トーキョー ウィークエンダー」に広島・長崎の原爆投下についての記事を、日本交渉学会の2014年学会誌に論文’New Frontiers in Negotiation…THe Failure of Pre WWII Negotiations’を発表するなど、執筆活動も行う。

日本国憲法を改正して
日米安保を相互扶助的に

元谷 本日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。三月号のワインの会で初登場、一月の勝兵塾で素晴らしい講演を行って、この五月号でビッグトークというのは、異例の速さです(笑)。

パパトネス 実業と歴史研究をリンクさせて、ここまで成功されている方にお会いするのは代表が初めて。今日は非常に光栄です。

元谷 二兎追うものは二兎共得るというのが、私のモットーですから。言論活動がなかったらアパグループはここまで成長していなかったでしょうし、事業活動が成功していなければ私の発言に耳を貸す人はいなかったでしょう。両方同時に行うことに意義があるのです。

パパトネス 私は英語教育の仕事もしていて、日本で最高レベルの大学を卒業した聡明な人々を教えてきましたが、驚くほど歴史の知識が少なく、しかも間違ったことを覚えていると感じています。

元谷 それは日本ではいい大学に入るためには、教師の教えることや教科書を丸暗記しなければならないからです。そして教師の教えることも教科書に書いてある事も間違いが多いのです。

パパトネス なるほど。

元谷 パパトネスさんは、レーガン政権の時にホワイトハウスが主催していた小規模事業者のための会議のメンバーに、レーガン大統領に指名されたと聞いています。政治にも詳しいと思うのですが、私は昨年十二月、トランプ大統領の政権移行チームが来日して行われたイベントに参加してスピーチを行いました。その内容は、レーガン大統領が大軍拡スターウォーズ計画を行ったことが、それに経済的に対抗できなくなったことでソ連の崩壊を招き冷戦終結となった。トランプ大統領はこれに倣い、大軍拡を行って中国の共産党一党独裁体制を崩壊しようとしているのではと言ったのです。

パパトネス 全くその通りだと思います。レーガン大統領は聡明な戦略家でしたし、トランプ大統領はそれに倣おうとして、先日実際に軍事予算の六兆円の増額を表明しました。ただ中国は半世紀に亘ってソ連とロシアを間近で観察してきました。いくらトランプ大統領が軍拡競争を挑んでも、ソ連の轍は踏むまいと考えるのではないでしょうか。

元谷 しかしオバマ大統領が世界の警察官を放棄し、軍事費を減らし続けた隙に、中国は軍事力を背景にした膨張政策を取り続けました。アメリカの軍事費の拡大は、この膨張を抑える役割を果たすのではないでしょうか。

パパトネス そのためには、レーガン大統領が日本の中曽根首相と結んだロンヤス関係のような密接な関係を、トランプ大統領も日本など中国の周辺国と築かなければならないでしょう。また中国とロシアが手を結んだ場合、軍事的にはアメリカにとって大きな脅威になります。その可能性も考えないとならないのではないでしょうか。

元谷 長い国境を接する中国とロシアは、基本的には対立関係にあると見るべきです。

パパトネス 確かにそういう一面もありますが、一方二〇一六年には中国とロシアの海軍は仮想敵を日本とした共同演習を行っています。また中国・ロシア機に対する航空自衛隊のスクランブル発進も、年々回数を増しています。

元谷 トランプ大統領と安倍首相との関係がロンヤス並に密接になることは期待できると思います。トランプ大統領の当選後にすぐに安倍首相が会いにいったのが功を奏してか、二月の日米首脳会談も日米関係の重要性を再確認するもので、大成功でした。

パパトネス 日本の九九%のメディアがクリントン候補勝利と予測する中でトランプ大統領が勝利したのですから、迅速な行動は安倍首相にとっては必要不可欠だったのでしょう。

元谷 日本のメディアには取材力がないですから、アメリカメディアに追随するしかできず、予想を外したのでしょう。私はトランプ大統領が言った、アメリカは日本を護る義務があるのにその逆はないというのはおかしいという発言は真っ当だと思っています。トランプ大統領の二期八年・安倍政権の三期九年の残り五年の体制が続くこの五年の間に日本は憲法改正を行い、アメリカと相互に護り合うことができる真っ当な国になるべきだと考えています。

パパトネス 確かに日米が相互に守り合う軍事同盟もあり得るかもしれません。二〇〇四年に会議で当時のアメリカの駐日大使であるハワード・ベーカー氏の話を聞いたのですが、彼は日米関係の重要性を述べると同時に、両国の関係にはあらゆる選択肢があるとも言っていました。

東アジアの平和のためには
日本の核武装が不可欠

元谷 ロシア、中国、北朝鮮と核武装国のある東アジアにおいて、戦争を抑止して平和と繁栄を維持するためには、日本が核武装をすることがどうしても必要です。私は同じ先の大戦の敗戦国であるドイツとイタリアが、アメリカと協定を結んでいる核共有制度であるニュークリア・シェアリング協定を、日本にも導入すべきだと考えています。

パパトネス しかし核兵器の導入は、唯一の被爆国である日本人にとって、非常に難しいことではないでしょうか。トランプ大統領が選挙中に日本と韓国の核武装の可能性について言及したのは、私には非常に唐突に感じました。

元谷 実際には、トランプ大統領でも日本の核保有は認めないでしょう。だからニュークリア・シェアリングであれば、認めるのでは…と考えているのです。

パパトネス 彼がそれを認めるか、まだ詳細な政策が不明なので、わからないですね。

元谷 東アジア情勢を分析して合理的に考えれば、私はアメリカの選択肢はニュークリア・シェアリングしかないと思います。トランプ大統領の言う六兆円の軍事費増額で、アメリカは海軍艦船の建造と核兵器の更新を行うはずです。

パパトネス 海軍力の強化は必要です。中国はウクライナから購入した空母「遼寧」に加え、国産空母を来年には進水させるなど海軍力を強化しており、すでにロシアと肩を並べているという見方もあります。

元谷 日本もそれに対抗しないと。また日本の問題は攻撃用兵器が持てないことです。盾がいくらあっても守りきれません。抑止力となる鉾を持って敵を恐れさせないことには、戦争は無くなりません。

パパトネス 仰る通りだと思います。

元谷 中国と北朝鮮の関係も一筋縄ではいきません。二〇〇四年に北朝鮮の龍川駅付近で発生した列車大爆発は、中国の軍事委主席江沢民が核開発を止めようとしない北朝鮮の金正日を殺害しようとして行ったものでは無いかと思われています。

パパトネス 爆発があったことは覚えていますが、中国が行ったと聞くのは初めてです。

元谷 おおっぴらには口にはしませんが、ロシアもアメリカも知っていると思います。爆発直後にインターネットに爆破孔の写真が出ていたのですが、それはV字型になっていて、明らかに言われているような地表での爆発ではなく、地下に仕掛けられた爆発物によることを示していました。そして爆破口の写真はすぐにネットからどんどん削除されていったのです。この暗殺未遂に恐怖した金正日は、核を持たないと中国に滅ぼされると感じ、核開発を急ぎました。

パパトネス アメリカでは失敗した核実験では?という報道がされていました。

元谷 核爆発かどうかは、空中の浮遊物を調べればわかります。また金正日が通過する駅近くで核実験はないでしょう。この件は、世界中で報道が抑えられたのです。近現代史の中にはこの龍川事件のように、論理的に考えれば、通常信じられている史実が間違いであることに気づくことが数多くあります。そのようなことをいくつかまとめて、私は「理論 近現代史学」という本を書きました。例えば日本の近現代史のキーポイントは、大陸侵略の手始めとして関東軍の河本大作大佐が行ったとされる一九二八年の張作霖爆殺事件です。しかし親日派の軍閥の長であった張作霖を日本軍が殺すというのは、合理的ではありません。これはロシアの歴史作家のドミトリー・プロホロフ氏が主張しているように、GRU(グルー)と呼ばれるソ連の特務機関の犯行の可能性が極めて高い。現存する爆破された車両の写真も河本大佐の証言と異なりますし、まだ生存していた彼が東京裁判に出廷しなかったのもおかしいです。

パパトネス 代表の書いた「理論 近現代史学」、読んでみます。

強く簡単に主張を伝える
リーダーが日本には必要

元谷 トランプ大統領が選挙戦を制した理由は、直接選挙ではなく州ごとに選挙人を選ぶという選挙の特性をきちんと捉え、勝てない州を捨てて接戦州に注力するという事業家ならではの戦略性だったと思っています。

パパトネス トランプ陣営のコストパフォーマンスも非常に高かった。クリントン陣営の十分の一の選挙費用で勝利を掴んだのですから、稀に見る成功と言っていいでしょう。

元谷 大統領選に出るのが三回目ですから、経験をフルに活かしたのでしょうね。広告だと莫大な費用が掛かりますから、暴言によってニュースになって、人々に知られることを選んだのです。

パパトネス 大統領選挙の共和党の予備選挙で、唯一トランプ大統領の対抗馬となったのが、テキサス州選出の上院議員のテッド・クルーズ氏でした。私は十四歳で全米のディベートチャンピオンになりましたが、彼は大学時代にディベートの全米チャンピオンになっています。私は元々弁護士ですが、テッド・クルーズ氏も弁護士で、非常に聡明な議員です。しかし予備選挙で失敗だったのは、彼の演説があまりにも法律家のスタイルだったことでしょう。それで人気が得られなかったのです。

元谷 トランプ大統領と戦うのは大変です。彼は心理戦に長けています。例えば、それまで激しい口調で語っていたことを普通の口調に変えるだけで、「大統領らしくなった」と評価されることがわかっているのです。事業は真面目に正しくやっていれば成功するというものではなく、こういったセンスが必要とされます。しかし日本の政治家にはこんなセンスはありません。昔も今も世界では情報謀略戦が展開しているにも拘らず、相変わらず東大法学部出身の記憶力勝者である官僚や政治家が牛耳っているのが、日本の実体です。

パパトネス 日本人は複雑な内容でも、強く簡単にそして正確に伝えてくれるリーダーに飢えていると思います。中曽根康弘氏にはその才能がありました。

元谷 今の安倍首相も再登板後はそのようなリーダーになりましたね。

パパトネス 同感です。ディベート、交渉力、表現方法の三つを大切にして、率直に意見を交換するのが民主主義の基本です。

元谷 アメリカではタフネゴシエーターは高く評価されますが、日本ではゴネ得と呼ばれ、あまりいい事だとは思われていません。

パパトネス 二十二年の日本生活で感じるのは、タフネゴシエーターがトラブルメーカー扱いされていることです。しかし最終的には粘り強い人が必ず勝つのです。

元谷 トランプ大統領は様々な批判に晒されており、政権発足後の支持率が四四%と過去最低となっています。しかし今評価の高いレーガン大統領も、就任二年目には支持率が四四%だったことがあるのです。今後の業績でトランプ大統領への評価が一変することは十分あり得ることだと思います。

パパトネス 二月二十八日にトランプ大統領は上下両院合同会議で演説を行い、初めての大統領らしい演説と高く評価されました。ヴァン・ジョーンズ氏というCNNで最もリベラルなコメンテーターがいるのですが、その彼でもこの演説を聞いて歓声を上げていましたからね。翌日の番組で、ジョーンズ氏は延々二時間この演説について語り、トランプ大統領の二期八年は確実だと断言までしていました。

元谷 八年ごとの大きな変化を求めるのが、アメリカの空気なのではないでしょうか。また新帝国主義の到来とも言える世界情勢下では、アメリカが自国第一主義となるのも当然かもしれません。ロシアがプーチン帝国、中国が習近平帝国となり、アメリカもトランプ帝国となっていくのです。

パパトネス 私はこの動きは帝国主義というよりは、宗教や共通の意識に基づく民族主義だと見ています。プーチン大統領がこれだけ長期間に亘って権力を維持できるのは、ロシア正教会が彼を支持しているからです。私は仕事で中国の七大都市を巡り、官僚や政治家、ビジネスマンと話をしてきました。彼らの民族主義にはロシアのような宗教色はありません。あるのは強烈な中華思想です。

元谷 それが如実に出たのが、アパホテルの部屋に置いてある私の書いた本に関する炎上騒動です。中国政府はアパホテルを批判し、旅行業者に予約を受け付けないよう指示をしたのですが、言論の自由のある国から見れば、非常に滑稽な対応でした。中華思想に基づく独善性から出たことでしょう。

パパトネス 中国からの圧力に対抗する代表は凄い。勇気があります。

元谷 私は、リスクはコントロールするものだと考えています。アパホテルではこういったカントリーリスクを想定して、宿泊客の外国人比率が一〇%以下になるように調整しているのです。実際、炎上事件の段階での中国人の宿泊客比率は全体の五%程度でした。事業への影響が軽微なことはわかっていました。事業が順調だからこそ、私も強い主張ができるのです。好調なアメリカ経済にも期待しています。トランプ大統領は一兆ドルの公共投資を行うと言っていますから、実現すればさらに経済は伸びるでしょう。

パパトネス 私も期待しています。

スタンダードの確立が
ビジネスでの成功の鍵

元谷 多くの日本人は少しでもリスクがあると、その選択を避けようとします。世界の平均自然放射線量は年間二・四ミリシーベルトで、日本の自然放射線量は年間二・一ミリシーベルトを受けているにも拘らず、福島第一原発事故後の除染の基準は年間で一ミリシーベルトを越えたところは全て除染しなければといったのは非合理的です。豊洲の地下水の問題でも、飲むどころか洗浄などにも利用しない水に飲料水の基準を当てはめて、基準超えだと騒いでいるのも無意味です。世の中にリスクのないことは一つもありません。そのリスクをどうコントロールするかが問題なのです。

パパトネス たった一つだけ、完全にリスクを避ける方法があります。それは死ぬことです(笑)。これは冗談ですが、トランプ大統領も自著に成功のための十二の基本の一つとして、事業の土台のリスクをコントロールすることを挙げています。逆に日本で外国人による事業が失敗するのは、日本の土壌に合わせたビジネスの土台を設計できていないからです。

元谷 アメリカの強みはスタンダードを沢山持っていることでしょう。英語、ドル、ITや金融のルールもそうでしょう。事業で成功するには、スタンダードを自ら持つことです。アパホテルは新都市型ホテルというスタンダードを築いたことで、世界最強の三〇%超の収益力を手にすることができました。ホテルスタッフとお客様の関係も、従来のホテルのように召使いとご主人様といったものではなく、ゲストとスタッフは対等であり、プライバシーを尊重し、チェックインした部屋にはスタッフは無断では入りませんし、必要としないサービスも行いません。

パパトネス 確立されたスタンダードはブランドになります。私の会社でもアパホテルと同じように、ユニークさを打ち出したブランド戦略を採用しています。英語のグローバリゼーショントレーニングシステム(GTS)では受講者が会話をしている様子や、積極的な応対や討論、交渉そしてプレゼンテーションなどのトレーニングを受けている様子を撮影し、それを様々な方法で活用します。また我々のトレーニング方法は自主性や高い集中力、粘り強さそして努力を必要とします。これにより、我々は独自のセールスポイントを数多く有しています。

元谷 考え方の基本は同じですね。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

パパトネス 私は、今日本は岐路に立っていると考えています。明治維新の時と同じく、多くの選択肢があるのです。明治の元勲は知的水準も高く、志や決定力を持ち、戦略を踏まえた行動をとることができました。だから明治時代に日本は近代国家となることができたのでしょう。彼らの気概と勇敢さで、第一次世界大戦後に日本は五大列強の仲間入りを果たすのですが、またそれが私の祖父と祖母の命も救ったのです。第一次世界大戦の後、ギリシャとトルコの間で希土戦争が勃発します。一九二二年、この戦争によってトルコのスミルナ(現イズミル)という港に取り残された三十万人のギリシャ難民をイギリスの制止を無視して日本の艦船が救出、その中に祖父と祖母もいたのです。しかしこの事実は日本でも世界でも知られていません。代表の活動同様にこのように誇れる歴史的事実を明らかにしていくことが重要です。また私は日本の若い人には、明治の元勲のような、またはギリシャ人を救った艦船の乗組員のような勇気を世界に向けて示していって欲しいと願っています。

元谷 今年は明治一五〇年に当たる年。その年の建国記念の日を選んで、安倍首相はトランプ大統領との日米首脳会談を設定しました。これには日米が対等となり、日本が世界に貢献できるよう第二の建国を目指すという安倍首相の想いがあるのではないでしょうか。共和党・トランプ大統領の任期の間に日本は憲法改正を果たして、真っ当な国になるべきです。そのためにもGHQの占領政策から続く自虐史観を打破する必要があるのです。

パパトネス 私の叔父はGHQの下士官でしたし、父も占領軍の一員でした。この二人ともいろいろな話をしました。また天皇家と親しい関係にあった事業パートナーからもいろいろな話を聞きました。これらを基に今本を書いているところです。完成の暁には、また代表とお話ができればと考えています。

元谷 ぜひやりましょう。今日は本当にありがとうございました。

対談日2017年3月2日