日本を語るワインの会263

ワイン263二〇二五年四月九日、会長邸で恒例「日本を語るワインの会」が行われました。財務省からトヨタ自動車を経て政界入りした和歌山県知事の岸本周平氏、朝日新聞からワシントン・ポストと長く新聞記者生活を送った神道学博士の東郷茂彦氏、外交・安全保障に関する情報提供事業を行う岡崎研究所の特別研究員を務める稲村公望氏、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会を立ち上げて今も活動を続ける日野市議会議員の池田利恵氏をお迎えし、トランプショックに揺れる世界情勢について語り合いました。
専門試験を廃止したところ
優秀な人材が採用できた
 岸本周平氏は財務省の官僚だったが二〇〇四年、四十六歳で辞めてトヨタ自動車に転職し、奥田碩会長の下、渉外部長として活躍した。当時は小泉政権で政権交代を目指して、二〇〇五年に民主党公認で和歌山一区から衆議院議員選挙に出馬したが落選。浪人の後、二〇〇九年に初当選してからは五期連続で当選している。二〇一二年に和歌山市にアパホテル〈和歌山〉がオープンしたが、岸本氏と会長、ホテル社長との関係はそれからずっと続いている。
 岸本氏が知事になってから、和歌山県庁は職員採用の一部の試験で専門試験を撤廃した。行うのは基礎能力試験、論文試験、面接。県庁職員の希望者は昔定員の十倍いたが、近年はそれが二倍に下がっていた。しかし専門試験を無くした試験では、この倍率が八倍に跳ね上がり、非常に優秀な人を採用することができた。東京大学を卒業した岸本氏の感覚では、偏差値が高い大学の出身者ほど仕事ができない。記憶力重視の教育からの脱却を目指し、和歌山県庁が力を入れているのは、eスポーツだ。高校の部活動において、eスポーツに取り組む環境を整備し、県大会も開催している。和歌山県の子供は勉強をせずにゲームをやれと、知事が率先して指導している。
 東郷茂彦氏は第二次大戦の開戦終戦時の外相だった東郷茂徳氏の孫で、父親の東郷文彦氏、双子の弟の東郷和彦氏も外交官だ。東郷氏自身は最初に朝日新聞、それからワシントン・ポストで二十五年と一貫して新聞記者だった。日本のニュースをアメリカに送る仕事だったが、それ故に起きてから寝るまで、日本とは何かを考えていた。結論は人間として大事なのは神道、日本とは天皇ということだ。国内で議論をするのも大切だが、それを世界に向けて発信し、同時に世界を変える努力をしなければならない。二〇二四年三月にアメリカで出版された『Japan’s Holocaust』は、一九二七年から四五年の日本のアジアでの行いは、ユダヤ人虐殺のホロコーストと同じだというとんでもない本であり、これに反論する「戦争プロパガンダ研究会」が発足、東郷氏も研究員として参加している。この研究会による編著が六月に出版される予定で、東郷氏の論文も掲載される。
かつての日本領である
台湾を見捨ててはいけない
 稲村公望氏は鹿児島県の徳之島の出身だ。大東亜戦争後徳之島を含む奄美群島全体が米軍統治下となったが、一九五三年に本土復帰を果たした。その五十周年を祝う式典が二〇〇三年に行われたが、郵政官僚だった稲村氏は日本郵政公社の代表として参加、岸本周平氏とはその時からの縁だ。稲村氏の祖父は台湾の台北と台南で知事をしており、当時の宿舎がどちらにも残っている。台湾の発展は日本独自の開発政策の成功の結果であって、その歴史を考えれば、日本人はかつて日本の領土であった台湾を見捨ててはいけない。台湾有事があろうとも、台湾を応援し続けるべきだ。
 台湾は清朝時代まで「化外の地」であり、本格的な開発が行われたのは日清戦争の結果として、一八九五年に日本領有が始まってからだ。その前に中国本土と台湾が一体だったというのは、中国の習近平主席の妄言だ。習主席に面と向かって「妄言」と言えるのは、台湾の複雑な事情がわからない欧米の人々ではなく、台湾を近代化した日本人だろう。そもそも台湾を蒋介石に託したのも、本土を毛沢東に与えたのもアメリカだ。両者を戦わせて甘い汁を吸おうと思っていたのかもしれない。現在の中国と台湾との関係の原因となったアメリカは、台湾有事を絶対的に防ぐ責任があるのではないか。
 池田利恵氏は東京の日野市議会議員として六期目を迎えている。民主党政権下の二〇一〇年に、数百億円分の新型インフルエンザワクチンが使用されずに廃棄されていることに疑問を感じ、アメリカとイギリスで調査を始めた。その後子宮頸がんワクチンの副反応被害を知り、二〇一三年に全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会を立ち上げ、日本でのこのワクチンの厚生労働省による積極的推奨を止めさせることに成功した。コロナ禍の後は、様々なウイルスやワクチンのことを調べ、この五年で約三百カ所、全国からのオファーに応えて講演活動を行っている。
 日本の経済は徐々に外資に侵食されている状態であり、日本を貫こうとする企業には外資からの攻撃が加えられている。米の価格上昇に対応して、大手牛丼チェーンでも吉野家と松屋は外国産米と国産米をブレンドして使用しているが、すき家は国産米のみを使用し続けると宣言している。そこで三月に勃発したのが、すき家の商品への異物混入疑惑だ。これは国産米にこだわるすき家への攻撃の可能性がある。日本国民はこのようなメディアが報道しない日本を取り巻く状況に、もっと敏感になるべきだ。テレビと新聞が融合している日本のメディアは、世界的に見て非常に稀有な存在だ。
 武田薬品工業は昭和時代までは同族で一〇〇%株を保有する会社だったのに、それを外資に狙われて、今や社員の九割が外国人という「外資系企業」になっている。外国人が日本の土地を購入できることを危険視する声もあるが、今は資源地や基地の近くの土地を外国人が購入することは実質できない。それであれば、繁華街等の高値の土地をどんどん外国人に購入してもらい、日本経済を活性化してもらうこともあり得るだろう。
 二〇〇六年に外資系企業による企業献金が条件付きで解禁され、衆議院議員選挙が中選挙区から小選挙区に変わったことで政治が大きく変わった。党幹事長の権力が大きくなり、党内が右向け右の状態になった。池田氏は元々自民党だったが、反ワクチンの活動によって自民党を除名になった。しかし、その後も選挙に当選し、活動を続けている。
中国寄りとなるアジア諸国
日本の動向に注目が集まる
 トランプ大統領は根っからの経済人で、安全保障問題には基本的には興味がない。しかも彼の頭の中にある世界の経済状況は一九八〇年代のものであり、例えば自動車は各国で作ることができると思っているが、今や国際的な分業が進んでいて、世界中が共同して一台の車を作るという全く新しい時代に突入しているということを、トランプ大統領は理解していない。ただ産業空洞化によって、アメリカ人の一部が経済的な苦境に立っているのは確かだ。
 そもそもアメリカはキリスト教の影響もあって、一九二〇年〜一九三三年に禁酒法を制定するような、非常に極端な政策を採用することがある。第二次世界大戦後、アメリカは世界に民主主義を伝播するのが国益ということで、ポリティカル・コレクトネスという建前を前面にやってきたが、トランプ大統領で一気にこれが崩れた。今後、何が起こるかは全く予測がつかない。トランプ大統領がグリーンランドやカナダをアメリカの州の一つにすると発言しているが、こういった帝国主義的な動きはロシアも同じだ。今後この傾向が世界中に広まるかもしれない。
 アメリカがイスラエルのガザ侵攻を全面的に支持していることで、アジアのイスラム教国は反米に流れていった。アメリカが一方的に世界中に通告した相互関税にはっきりと立ち向かったのは、中国だけだ。今後多くのアジアの国々が、中国寄りの姿勢をとるようになるだろう。そんな中、日本はどういう立ち位置をとるのかが重要だ。
 日本が発言力を持つためには、軍事力の背景が必要だ。それには憲法を改正して、自衛隊を国防軍にしなければならない。アメリカの中でも日本に強い軍事力を持たせるべきだという「ストロング・ジャパン」派と、日本の役割を低く見て中国を重視する「ウィーク・ジャパン」派がいる。アメリカでは一貫して「ウィーク・ジャパン」派が強く、日本に強い軍事力を持たせなかった。アメリカと日本を対等な立場で考えるアメリカ人を、日本は優遇してこなかった。アメリカの駐日大使でも、エドウィン・ライシャワーや沖縄返還に尽力したウラル・アレクシス・ジョンソンら日本を尊重してくれた人もいるが、LGBT法を日本に押し付けるような行動をとったラーム・エマニュエルのような人もいる。詳細は不明だが、トランプ大統領は日本が軍事的に独立すべきだと考えているかもしれない。上手く交渉すれば、ストロング・ジャパンも可能かもしれないが、石破首相ではそれは心もとないだろう。
ルーツを大切にすることは
何よりも大事なことだ
 稲村氏は徳之島で子供の頃の自分を育ててくれた祖母の位牌を、常に持ち歩いている。日本には古代からこういった先祖を敬う考え方がある。アパホテル第一号の〈金沢片町〉には、それを記念する金のプレートが設置してあり、これに触れると強運が掴めるという「伝説」が流布している。アパホテルではルーツを大事にしているが、全国的な某チェーンホテルの第一号店で、今はアパホテルになっているところがある。今の九重親方である元大関の千代大海は、当時の九重親方(元横綱千代の富士)に入門理由を聞かれ、「親孝行したいから」と言ったそう。就職でも自分のことだけを考えている人よりも、親孝行を考えている人の方が長く働く傾向がある。先祖やルーツを大切にすることは大事なことだ。

 本会にご参加いただいた岸本周平氏が、二〇二五年四月十五日にご逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。