中古品の人気が上昇中
五月一日付の日本経済新聞朝刊の国際・アジアBiz面にASIAトレンドとして「中国、高級ブランドの中古品人気」「景気停滞でコスパ重視」という見出しの記事が掲載されている。「中国で高級ブランドの中古品を求める消費者が増えている。割安感への支持などから中古品全般の市場が急拡大しており、ブランド品にもコスパ重視の流れが広がっているためだ。長引く景気の停滞によって、見えを張ることが多いとされてきた中国の消費者の意識が変わりつつある」「『新品は高いので、中古品を見に来た』。四月下旬、広東省広州市内の中古品販売店で高級ブランド品を選んでいた来店客は率直に語った。店内には『ルイ・ヴィトン』や『バーバリー』などのバッグが棚いっぱいに並び、一部には『特価 八割引き』などのタグが付けられていた」「中国の中古品の市場は伸び続けている。清華大学エネルギー環境経済研究所などによると、関連市場規模は二〇二五年に二二年比二倍の三兆元(約六六兆円)に達する可能性があるという」「高級ブランドでも中古品に関心が集まる。ネット上で売買を仲介するサービスが広がっているほか、コメ兵ホールディングス(HD)も上海市で買い取りや販売を手掛ける店舗を運営する。模倣品への対策が課題となるなか、同社は人工知能(AI)によるロゴの鑑定と専門スタッフの目利きを併用して安心感を打ち出している」「高級ブランドの中古品の人気の背景には、コスパを重視する傾向が日常の買い物から高級品へ広がっていることがある。伊藤忠総研の趙瑋琳主任研究員は『中国の消費のボリュームゾーンである中間層が、消費を恐れている』と指摘する」「実際、高級ブランド全体の販売は中国で伸び悩んでいる」「高級ブランド世界最大手の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの日本を除くアジア市場の一~三月期売上高は、前年同期比六%減と地域別で唯一マイナスになった。同市場の多くは中国が占める。『グッチ』を抱えるケリングも一~三月期に、日本を除くアジア太平洋地域の小売事業の売上高が一九%減で苦戦した」「米コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニーによると、二三年の中国本土の高級品市場は四四四七億元で『ゼロコロナ』政策が響いた二二年に比べ一二%伸びた。ただ過去最高だった二一年の水準(四五六四億元)には届かないままだ」「ベインの邢微微パートナーは『中国でブランド消費のハードルは高くなっている』と指摘する。中国の高級ブランド品市場で中古品が占める比率は欧米に比べまだ低いとの見方もある。節約志向が続けば、高級ブランドで新品でなく中古品を選ぶ動きが今後も広がりそうだ」という。
中古品が人気なのは、中国だけではなく日本でも同様だ。特に外国人観光客が、日本のブランド品や古着、ゲームソフト等を買い求めるケースが増えているという。毎月二回、東京国際フォーラムで開催される大江戸骨董市は、昨年アメリカの旅行誌「コンデナスト・トラベラー」の「東京でやるべき二七のこと」の一つに選ばれたほどだ。この「東京でやるべき…」には、下北沢の古着店も選ばれている。日本でのショッピングが円安でお得感が増していることに加え、ブランド品や古着等、日本の中古品は状態が良く、種類も豊富ということが人気の理由のようだが、私はもう一つ、世界的にプラグマティスト(実用主義者)が増えていることも、その要因の一つではないかと考えている。
合理性を追求する社会へ
かつては高級ブランドを「所有」すること自体に価値があった。例えば「いつかはクラウン」というキャッチコピーがあったように、トヨタのクラウンやベンツ等の高級車を所有することは、その人の社会的なステイタスの証だった。バブル時代には、毎年発売されるルイ・ヴィトンの新作バッグを購入することが、ファッションに敏感であることを示す証だった。いずれも他者に所有を誇示することが目的であり、実際には使い勝手が悪くても、特に問題とはならなかった。
しかし時代を経て、「所有」することの意味が大きく変わり、高級ブランド等を持つことがステイタスでは無くなってきて、その一方で実用性を重視する生き方が持て囃されるようになってきた。多額の駐車場料金やメンテナンスフィーを掛けて、週末しか利用しない高級車を保有するよりは、カーシェアリングを利用する方が合理的だ。高級ブランドのバッグ等の製品は、そもそも作りが堅牢であり、何年経過しても修理に対応する等、アフターサービスも万全だ。この実用的に便利な製品を、新品よりも遥かに安い中古価格で購入することも、極めて合理的だ。
実際、日本で中古品を扱う「リユース市場」の規模は、集計を初めてから十三年連続で拡大しており、二〇二二年には前年比七・四%アップの二兆八千九百七十六億円に達している(リサイクル通信調べ)。所有に拘ることなく、新品で購入した商品を売却したり、中古で商品を購入したりすることが、賢い消費者の行動と見做されるようになっている。また日本の家庭に眠る使用されていない商品の金額は、一人当たり平均約五十三万円、総額約六十七兆円という推計もある(メルカリ調べ)。これらの要因から二〇三〇年にリユース市場は四兆円になるという予測もあり、今後ますます中古品を売買するムードが活性化するにつれて、人々の意識もさらに実用主義へと変化していくだろう。
中国最大の不安定化要因だ
本稿冒頭の日本経済新聞の記事からもう一つ考えさせられるのは、中国の経済不振の闇の深さだ。韓国の中央日報日本語版が五月六日に「『こじき食』を食べようと長蛇の列…中国の経済不振で青年たちが『ケチテク』」という記事を配信している。「中国上海で会計として働いているマギー・シューさん(二九)は毎日のランチを近くの国営飲食店で取っている。一〇~一五人民元(約二一〇~三一七円)出せば、十分お腹を満たすことができるほどの料理が皿いっぱいに出てくる。国家支援を受けている国営飲食店の主要利用客は主に高齢者だが、最近では若い高所得会社員が長蛇の列に並ぶ光景を簡単に目にすることができる。シューさんはニューヨーク・タイムズ(NYT)とのインタビューで『こうしてでもお金をもっと節約して貯蓄してこそ安全だと感じる』とし『未来に対する不安を払拭することができない』と吐露した」「不動産危機や高い青年失業率などで中国経済が深刻な不振に直面している昨今、若年層の間では衣食住全般にわたって『超格安消費』が続いている。低価格メニューでおかわり自由の国家支援国営飲食店に消費が集中していて、最小限のお金でご飯が食べられる『こじき食』の人気もうなぎのぼりだ。」「NYTや日本経済新聞など外信は、特に中国人口の二〇%を占める中国のZ世代(一九九五年~二〇〇九年出生)が自国経済に強い疑問を持ち『超格安消費』を主導していると分析した」「一例として、最小限のお金を出せば食べることができるフランチャイズのメニューを意味する『窮鬼(乞食)セット』が競争的に拡散している」「ドイツ・マックスプランク研究所中国学研究委員のシャン・ビャオ氏は日本経済新聞とのインタビューで、このような超格安消費を『単なる反消費の流れだと解釈すべきではない』とし『将来に対する不安、幼い頃から与えられてきたものに対する疑い、失望感が深まっている』と分析した」「最近発表された中国の今年一~三月期経済成長率は市場予想値(四・六~四・八%)を超える五・三%を記録した。しかしこのような指標とは違い、実質消費心理は極限まで冷え込んだ状況だ。問題は若年層の超格安消費の慢性化が中国の景気浮揚に長期的に障害になる公算が大きい点だ」という。
中国の景況感はこの記事にあるように若干持ち直しているように見えるが、製造業等の生産が好調な反面、需要が勢いを欠き、特に不動産市況は惨憺たる状況だ。中国政府による二〇二〇年の融資の総量規制により始まった住宅の販売不振、在庫増加で価格下落、そしてさらなる販売不振となる悪循環は、今でも継続している。巨額の負債を抱えている中国の不動産大手、恒大集団も、今年一月に香港の裁判所から清算を命じられた。私は二〇一二年一月号の本稿で次のように書いた。「リーマン・ショック以降の『冷えている』世界経済にダメージを与えるのは、この先確実に起る中国での不動産バブルの崩壊だろう」「不動産価格の上昇によってどうにか辻褄合わせをしていたこのツケは、不動産市場の冷え込みによって大爆発する可能性が高まってきた」「世界経済の牽引車だった中国経済の転落が、全ての国の経済を崩壊させる危険性がある。このことでこれまでの矛盾が爆発して中国共産党独裁国家が崩壊し、かつてのソ連の様に幾つかに分裂して民主国家となることに期待したいが、民主化の過程で反日・愛国をスローガンに世論を煽って、より過激な反日スタンスをとり、理不尽な要求をしてくる反日政権の誕生の可能性が高い。その時になって、かつての共産党政権の方がよかったと後悔しないようにする為にも、日本はこれに備えて一日も早く憲法を改正し、如何なる理不尽な要求にも屈しない強い抑止力となる独立自衛の出来る軍隊を作りあげなければいけない」「経済的にも衰退して世界への影響力を次第に失いつつあるアメリカに対して、これまで中国は経済力を背景に軍事力の増強を図り、その勢力を拡大しようとしてきた。まさに今、世界の勢力図が変わろうとしているのだ。しかし今でも年間八万件もの暴動が発生している中国のことであるから、経済成長が止まれば民衆の不満を力で押さえることが出来なくなり、各地でデモや暴動が勃発するのは必至だ」。この私の予言通りに中国の不動産バブルは崩壊し、その経済不振の影響は、Z世代と呼ばれる若い人々を直撃している。私が二〇一二年に危惧したような、民衆の不満の爆発によるデモや暴動の可能性は、以前よりも増しているように思える。中国政府は今、ITをフルに活用した民衆に対する監視体制で、この暴動の芽を必死に抑えているところではないだろうか。
欧州に急接近する中国
こんな中、五月五日に中国の習近平国家主席はフランスを訪問した。五月六日付の産経新聞の「習近平氏がフランスに協力強化を呼び掛け『中仏の伝統的友好を強固に』 パリで談話発表」という記事では、「中仏両国は今年、国交樹立六〇年を迎えた。フランスは東西冷戦中の一九六四年に米国の反発を押し切って中国と国交を結んでおり、習氏は当時の判断について『中仏両国は冷戦の壁を突破した』と称えた。フランスが伝統的に重視する独自外交を称賛し、米主導の対中圧力と距離を置くよう促す意図があるとみられる」と伝える。フランスのマクロン大統領に加え、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長も交えた中仏欧の三首脳会談も行われる。世界がアメリカ一極集中から多極化する状況の中、将来の覇権を目指す中国としてはアメリカに対抗するために、明らかに一つの「極」となるEUとの関係強化を意図しているのだろうが、経済不振によりその足元が今、ぐらついている。中国の対外、対内の情勢をしっかりと見極め、日本はこれらに対応できる戦略を考え、実行していく必要がある。
2024年5月15日(水)17時00分校了