宮﨑 貞行氏
1945年愛媛県生まれ。東京大学法学部、コーネル大学経営大学院を卒業。警察庁官房、パリのOECD、内閣調査官等を歴任した後、危機に際しての行動科学を専門に帝京大学教授に。現在は作家として、多数の著書を出版。
日本弱体化の意図がある
元谷 本日はビッグトークへの登場、ありがとうございます。宮﨑さんは「緊縮財政は占領政策の遺物‐財務省の解体と内閣官房の再編成へ」という論文で、今年の第十六回「真の近現代史観」懸賞論文の社会人部門の優秀賞を獲得しました。おめでとうございます。
宮﨑 優秀賞に選んでいただき、本当にありがとうございます。今日はいろいろと有意義な対談ができればと思います。よろしくお願いいたします。
元谷 まず、宮﨑さんの経歴を教えてもらえますでしょうか。
宮﨑 大学を卒業した後、私は警察畑に入りまして、内閣官房にも勤めていました。退官後には帝京大学の教授もしていたのですが、現在は物書きとして、これまで二十冊ほどの本を出版してきました。次は日本の将来像に関するものを書こうと思い、敗戦後のことをいろいろと調べていました。そこで気づいたのは、占領中に作られた法令の中に、日本を弱体化させる意図のものがあり、それらがまだ残っているということです。これらが日本の繁栄を妨げる最大のガンになっている。その一つの例が財政法です。一九四七(昭和二十二)年に制定された財政法は第四条で建設国債以外の国債発行を禁じ、第五条で日本銀行の国債の引き受けを禁じています。これは日本の復讐を恐れたアメリカが日本国憲法第九条で定めた非武装を担保するために、戦前のような国債による軍事費の捻出を禁止したものです。GHQの代理人として機能してきた財務省は、この財政法を根拠に戦後緊縮財政を続けてきました。その結果企業活動が衰え、派遣社員が増えて実質賃金が低下、未婚化と少子化が進んだのです。防衛力や国際競争力も相対的に低下して、GDPもドイツに抜かれてしまいました。緊縮財政から脱して積極財政を実行し、日本経済を再び成長路線に乗せるために、財政法と赤字国債を認める特例公債法を、一刻も早く抜本的に改正する必要があります。
元谷 これらのことを宮﨑さんは、論文で明快に指摘していました。
宮﨑 もう一つの日本弱体化策は警察法です。GHQは内務省を解体して、中央集権的だった警察を自治体警察と国家地方警察の二本立てにしました。この流れで今警察組織は都道府県単位になっています。しかし現代の国際テロやサイバー犯罪に都道府県警察は十分に対処できないことが多く、これらに対しては強力な国家警察の復活が求められています。
元谷 警察権力を分散させたのも、アメリカによる日本弱体化政策の一つだったということですね。
宮﨑 はい。そもそも日本国憲法全体が日本をアメリカの属国にすべく作られたもので、第九条を改正しただけではその根本的な問題は解決しません。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とありますが、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの紛争を見ても、世界中の人々が平和を愛しているわけではないし、公平でもありません。前文の最大の問題は、日本に対して安全と生存の権利しか認めていないことです。アメリカの庇護の下、自己主張せずに安穏と暮らしていればいい。アメリカの個人主義・自由主義に対抗する、共同体の利益を個人の利益より重んじる共同体主義を前面に打ち出してはいけないとなっているのです。
元谷 GHQは、全国的な警察組織が反米的になることへの恐怖があったのでしょう。しかし終戦から七十八年を経過しても、日本はアメリカの属国です。真の独立国家となるためには、自主憲法を制定して日本の利益に資する警察組織、そして国軍を持つことが必要です。
宮﨑 仰る通りです。理想は自主憲法の制定なのですが、今の自民党は憲法改正を行うフリだけをして、実際には全く熱意がありません。それは国民投票のハードルの高さがわかっていて、改憲は不可能だと思っているからです。アメリカの憲法改正には国民投票の要件はなく、州政府の四分の三が賛成すれば可能です。日本でも同様に、都道府県の四分の三の同意で改憲可能にすればいいのではないでしょうか。そもそも、一九五一(昭和二十六)年サンフランシスコ講和条約を結んだ時に、吉田茂首相が占領下で制定された憲法の廃止を宣言するべきだったのです。廃止を宣言しなかったことを、吉田の側近だった白洲次郎も批判しています。こうして、占領軍憲法を生き永らえさせてしまったことが左翼学者や左翼新聞に論拠を与え、現在の国論を分裂させる事態を招いてしまったのです。
海外からの工作活動を制限
元谷 東アジアでは、経済力をつけた中国がその力で軍事力を増強しています。バランス・オブ・パワーの維持のために、日本も中国に対抗していかなければなりません。かつては極東における日米の軍事力は中国の軍事力を圧倒的に凌駕していたのですが、今やこれは逆転していますから。軍事力が拮抗していれば平和ですが、ギャップが大きくなると戦争が起こるのです。そうならないために、日本の軍事力の強化が必至なのです。
宮﨑 同感です。私は日本の抑止力を高めるために、原子力潜水艦を保有すべきだと主張しています。航続距離が長く、長時間の連続潜航で位置が捕捉されにくく、三千km以上の射程距離を持つ潜水艦発射ミサイルを装備する潜水艦です。
元谷 日本の周りは海ですから、私も日本防衛の鍵は潜水艦の活用だと考えています。海上艦艇が攻撃を受けた後でも、水中の潜水艦は残存勢力として反撃を行うことができます。この十月にたいげい型潜水艦の四番艦である「らいげい」が進水するなど、海上自衛隊は通常動力型潜水艦の増強を図っていますが、もっとピッチを早めてもいいのではないでしょうか。また宮﨑さんの指摘の通り、原子力潜水艦建造の検討も行うべきです。
宮﨑 日本の通常動力型潜水艦は、世界最高水準の性能を持っていると言われています。アメリカ海軍との模擬戦で、一隻の海上自衛隊の潜水艦がアメリカの任務艦全てから撃沈判定をとったという話も伝わっていますね。日本の防衛にあたっては、上陸される前に敵を航空戦力と海上戦力で撃退すべきであり、その中心として潜水艦隊が重要な任務を果たすことになるでしょう。また、原子力潜水艦のような新しい装備を持たせないようにしていたのは、防衛費をGDPの一%に抑えていた財務省です。アメリカからの圧力もあり昨年暮に岸田首相は、防衛費をGDPの二%に増額する方針を示しました。五年間で総額四十三兆円の見込みですが、これでなんとか急速に防衛力を整備できればと期待しています。
元谷 日本では戦後絶対平和主義が蔓延り、軍事力が戦争の原因であり、日本は非武装中立となるべきという主張に多くの支持が集まっていましたが、これは誤りです。スイスが永世中立国としてのポジションを維持できているのは、国民皆兵で強力な軍事力を保有しているからです。
宮﨑 スイスは民間防衛の意識が強く、各戸に武器と一カ月分の食料が備蓄してあり、いざという時は国民が銃を持って立ち上がる準備をしています。
元谷 自分の国のために国民がまず戦う。そして足らざるを同盟国の軍事力に頼る。日米安保があるから安心というのも誤りで、ウクライナ戦争でもわかるように、まず自らが戦うことでようやく他国の支持を得ることができるのです。
宮﨑 軍事力と並んで日本が強化しなければならないのは、諜報活動です。中国は三万人以上の工作員を日本に配備していると言われています。日本の公安はその存在を掴んでいるのですが、拘束を可能にする法律がないのです。例えば、基地周辺の土地を購入して自衛隊の動向を監視するといった活動が、平然と行われています。そこで私が提唱しているのは、欧米各国の多くが持っている外国代理人登録法です。これは外国の代理人として情報発信やロビー活動等を行う個人・団体に、政府機関への登録とその活動内容を報告する義務を負わせるものです。登録外や報告外の活動があれば、すぐに摘発することができます。この外国代理人登録法であれば、議員活動の監視やハニートラップ等、スパイ防止法では規制できないより広い範囲の活動に網をかけることができるのです。もう一つ、私が提唱しているのが民間防護隊です。現在全国にある消防団を核にして、有事の輸送や負傷兵の介護等を行う民間団体を設けておき、各地域の復元力や抗堪性を高めておくのです。
元谷 どちらも賛成です。
日本は法律の数が足りない
元谷 あと日本の問題は、緊急事態法制が未整備であることです。例えば、緊急事態における法律がないために、有事でも戦車を含む自衛隊の車両は交通法規を守るしかない状態に置かれています。緊急事態基本法を制定して、それによって有事には自衛隊が自由に活動できるように自衛隊法等を改正すべきです。
宮﨑 現行の警察法でも第七十一条で、首相が「緊急事態の布告」を行うことができると定めてあります。ただ内容については、第七十二条に「一時的に警察を統制する」とあるだけです。例えば令状なしに捜査・勾留ができる等、具体的な権限を法律で定めなければなりません。ただ緊急事態に関する議論は憲法改正論にまで及んでおり、強制的な私権制限を法律で定めるためには、憲法改正が必要だとの主張もあります。しかし先程お話したように、憲法改正には高いハードルがあります。日本が危機的な状態にならないと、憲法改正の機運は高まりませんが、その時にはもう時間切れです。その場合、ある識者が提言していたのは「談合クーデター」です。政府と議会の同意の下、自衛隊と警察が一日クーデターを起こして憲法を停止するのです。そして翌日からは憲法を停止したまま、従来の法律で国家を運営していきます。この段階で自衛隊に関しては軍法会議を可能にしたり、正当防衛や緊急避難を根拠にしていた部隊行動基準(ROE)を他国の軍隊と合わせたりする立法措置が必要となるでしょう。
元谷 最後の手段になるのでしょうが、「談合クーデター」を実行せざるを得ないことがあるかもしれません。先の大戦時に結束した日本があまりにも強かったから、警察を都道府県ごとにしたり憲法に緊急事態条項を設けなかったり、アメリカは日本国民を結束させないために様々な手を尽くしたのでしょう。
宮﨑 はい。そして日本は戦後経済一本槍で、安全保障をなおざりにし続けたのです。これらを早く改めなければなりません。そのために私は議員立法研究所を設立して、今の日本に必要な法律を八十以上、インターネット上で提案しています。先程お話しました外国代理人登録法や在日特権を廃止する法律、公職者の二重国籍を禁止する法律等です。芸能事務所を登録制にする法律も提案しています。今問題になっているジャニーズ事務所の件のように、芸能事務所は芸能人に対して優越的な地位にありますから、性的関係の強要等その地位を乱用する危険性が高いのです。ですからアメリカでは芸能事務所は州政府に登録、優越的地位の乱用が明確に禁止されています。このように、日本は欧米に比べて非常に法律が少ないのです。
元谷 それはなぜでしょうか。
宮﨑 国会議員の立法能力が低いからです。欧米であれば、国会議員が自らスタッフを駆使して法律を起案している。しかし日本では法案作成は政府にお任せで、特に重要な法案は政府立法ばかりです。その政府が経済優先で安全保障を考えてこなかった。最近は高市早苗氏を中心に経済安全保障の法案も出てきていますが、まだまだ法律が足りないのです。私が提案するのは、自民党の中に立法局を作ることです。本来政党の役割は、必要な法案を作って国会に上げることです。立法局には内閣法制局のOBらを入れて、常に必要な法案を作成、タイミングを図って国会に上程できるようにしておくのです。
元谷 いいアイデアだと思います。
宮﨑 また日本を結束させない方向に誘導することに一役買ったのは、朝日新聞や共同通信等の左翼メディアでした。朝日新聞は一九四五(昭和二十)年九月に原爆投下を批判する鳩山一郎の談話を掲載して発行停止処分を受けたことがトラウマになり、その後はすっかり占領政策の申し子になりました。さらに社内に共産主義者やシンパが入り込み、反日的なスタンスが売りになっています。朝日新聞や共同通信は敗戦利得者と言っていいのですが、こんなマスメディアの時代は終焉を迎えつつあります。朝日新聞もどんどん部数を落とし、もう十年は持たないのではないでしょうか。今はインターネット時代でSNSの投稿や動画で人々が自由に主張を展開して、賛同者を募ることができるようになりました。これからは日本の世論が大幅に変わり、マスメディアに囚われない自由な発想の人が増えていくでしょう。私は明るい時代が来ると期待しています。
元谷 私もその方向に向かうことを期待したいですね。
アメリカは非民主的な国だ
宮﨑 外交方針として私が提案しているのは、「新日本連邦」の構築です。日本は従来自国中心の安全保障しか考えてこなかったのですが、これからは視野を広げて、太平洋やアジアの国々との連携を強化する発想が必要です。そこで日本をモデルにして経済発展や軍事力強化を行いたいという国々を、英国連邦に倣った日本を中核とした「新日本連邦」の一員とするのです。かつてのイギリスは軍事力で英国連邦を形成しましたが、日本は徳と文化力、防衛協力で連邦を作るのです。パラオ等の太平洋諸国は、こぞって新日本連邦に加わるでしょう。台湾、ネパール、ブータン,アゼルバイジャンなどの加盟も歓迎です。ロシアが弱体化し分裂した後、サハリンやシベリア共和国も加盟を申請してくるかもしれません。
元谷 日本の技術や武器を提供することも、新日本連邦の中であれば、要件を緩和することができるのではないでしょうか。
宮﨑 はい。今年九月に台湾が初めての国産潜水艦を進水させました。台湾が潜水艦隊を充実させることは、中国による台湾海峡を渡っての侵攻を阻止する強い抑止力になります。今日本は中国との関係を考えて、台湾の潜水艦建造への援助を控えていますが、台湾が新日本連邦に入ればもっと堂々と行うことができるようになるでしょう。一九七六年の三木内閣の時に作られた武器輸出三原則は、全ての武器の輸出を実質禁止する、自分の手足を縛るようなものでしたが、二〇一四年に第二次安倍内閣の防衛装備移転三原則で制限が緩和され、防衛産業の強化を狙ってさらに今年、ルールの見直しが行われています。これに期待したいですね。
元谷 旧式の武器は輸出して、同時に新しい武器を開発するという新陳代謝が必要なのです。また輸出制限で少量生産だと、どうしても高くついてしまいます。一律に制限するのではなく、日本の脅威にならない範囲でどんどん武器輸出を進めていくべきでしょう。そして、GDPの一%や二%との枠を考えずに、日本防衛に必要な装備を備えていくべきなのです。
宮﨑 全く同感です。また、今後考えていくべきなのは、アメリカとの関係でしょう。アメリカの力は衰えてきていますが、まだこの先二十年、三十年は世界最高の軍事力と情報収集力を維持するでしょう。特にアメリカ・イギリス等アングロサクソン系五カ国による情報共有協定「ファイブ・アイズ」や、この五カ国を中心に共同運営する通信傍受システム「エシュロン」等を擁するアメリカの情報収集能力は圧倒的です。やはり日本は当面の間、アメリカとの同盟関係を重視して平和を維持していく必要があるでしょう。しかし一方でアメリカは偽善的であり、一部の国際金融資本によって操られている非民主的な国です。次第に化けの皮が剥がれてきていますが、二〇二〇年の大統領選挙でも、郵便投票システムの欠陥を利用した様々な方法で、バイデン大統領が不正に票を獲得したのではないかという疑惑があります。マスメディアもリベラルな国際金融資本に操られていて、公平な報道を行っていません。アメリカがこの状況であり、中国・ロシアは覇権主義に陥っています。ウクライナ戦争やハマスとイスラエルの紛争が勃発していますが、アメリカや中国、ロシアも、国連もこれを止めることができませでした。国連の賞味期限は切れつつあります。先程新日本連邦のお話をしましたが、これと同時にアジア版の国際連盟、アジア連盟を結成すべきでしょう。
元谷 大東亜共栄圏の復活でしょうか。
宮﨑 かつての大東亜共栄圏は日本の軍事力を背景にしていましたが、今後のアジア連盟は各国が自由意志で参加できるものにするべきでしょう。
元谷 日本がその中心にいるためには、経済を立て直して、力をつける必要があるのではないでしょうか。
宮﨑 その通りです。しかし日本にはデフレギャップが二十兆円程度あり、これを埋めるべく国債を発行、または消費税減税を行えば経済は復活し、日本の国力も高まっていくはずです。
元谷 まだまだ日本はやれるということですね。多くの国の人々は自国の自慢をするのですが、日本人は自国の悪いことばかりを言う傾向があります。これは日本の教育とメディアに問題があるからでしょう。平和を念じれば平和になるというのも、教育とメディアからの誤った思想です。戦争を防ぐためには自国を守る武器と愛国心が必要です。バランス・オブ・パワーに基づく軍備と、愛国心が湧くような教育やメディアの報道が日本には必要なのです。誤ったことを報道するメディアからは、罰金を徴収してもよいのではないでしょうか。
宮﨑 罰金は無理としても、読者からの異議申し立てを受けつけて、第三者機関が審理、裁定する仕組みづくりが必要ですね。
元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。
宮﨑 今の若い人は、これまでの自虐史観から既に抜け出しています。さらにどんどん海外に出かけて行って、諸外国の歴史と文化を学び、真の国際人に生長して欲しいですね。海外に行くことで、日本がもっと誇らしくなるはずです。日本は治安が良くて食べ物は美味しく、人は親切です。国際的な視野を持てば、これからの日本の未来は明るいと私は信じています。
元谷 私も日本に誇りを持っていますし、その未来を信じています。今日はいろいろなお話をありがとうございました。
宮﨑 ありがとうございました。