Essay

日本は経済面・外交面・軍事面で中国に対抗せよVol.351[2021年12月号]

藤 誠志

中国は戦略的に
沖縄独立工作を行っている

 十月六日付けの産経新聞の総合面に、「中国 沖縄の独立あおる」「仏研究所 基地近辺、不動産投資も」という見出しの記事が掲載されている。「フランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)はこのほど、世界で影響力拡大を狙う中国の戦略について報告書を発表した。中国が潜在的な敵の弱体化を狙い、沖縄と仏領ニューカレドニアで独立派運動をあおっていると指摘した」「IRSEMは仏国防省傘下の研究機関。報告書は『中国の影響力作戦』と題して、九月に発表された。約六五〇ページあり、在外華人を使った共産党の宣伝工作、国際機関への浸透、インターネットの情報操作などの事例を分析している」「沖縄への関与は、中国にとって『日本や在日米軍を妨害する』意味を持つと指摘。沖縄住民には日本政府への複雑な気持ちが残り、米軍基地への反発も強いため、中国にとって利用しやすい環境にあるとした。中国が独立派を招いて学術交流を促したり、中国人が米軍基地近辺で不動産投資を進めたりなどの動きがあると列記した」「中国は独立派と同様に、憲法九条改正への反対運動、米軍基地への抗議運動を支援しており、その背景には日本の防衛力拡大を阻止しようという狙いがあるとも指摘した」「同報告書は一方、日本がアジアのほかの民主主義国に比べて中国の影響を抑えていると評価した。島国で外部の関与を受けにくいことに加え、▽尖閣諸島をめぐる緊張で、国民に中国に否定的な見方が広がっている▽政治が安定している▽メディア業界は寡占が定着し、介入が難しい‐ことなどを理由に挙げた」という。
 この中国の沖縄への関与については、日本の公安調査庁が二〇一七年一月の「内外情勢の回顧と展望」の中国の項において、本文で「在日米軍施設が集中する沖縄においては、『琉球からの全基地撤去』を掲げる『琉球独立勢力』に接近したり、『琉球帰属未定論』を提起したりするなど、中国に有利な世論形成を図るような動きも見せた」とした上で、「『琉球帰属未定論』を提起し、沖縄での世論形成を図る中国」というタイトルの次のようなコラムを掲載している。「人民日報系紙『環球時報』(八月一二日付け)は、『琉球の帰属は未定、琉球を沖縄と呼んではならない』と題する論文を掲載し、『米国は、琉球の施政権を日本に引き渡しただけで、琉球の帰属は未定である。我々は長期間、琉球を沖縄と呼んできたが、この呼称は、我々が琉球の主権が日本にあることを暗に認めているのに等しく、使用すべきでない』などと主張した」「既に、中国国内では、『琉球帰属未定論』に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、『琉球独立』を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている。こうした交流の背後には、沖縄で、中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいるものとみられ、今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する」とする。今回IRSEMの報告書は、この公安調査庁の報告を裏付けるものになっている。沖縄の米軍基地に対する抗議運動も含め、中国が戦略的に行っている日本の防衛力を削ぐ工作には、細心の注意を払わなければならない。

台湾有事は沖縄有事
そして日本全体の有事に

 一方、中国は台湾に対して軍事的圧力を強めており、十月四日には過去最多となる五十八機の戦闘機等が台湾の防空識別圏に侵入した。この台湾有事は沖縄に無関係ではない。沖縄県石垣市で発行されている八重山日報は、十月七日付けの【視点】「台湾への威嚇 県民も注視を」で、以下のように主張した。「中国が、台湾の防空識別圏への戦闘機などへの侵入を激化させている。背景には台湾のTPP(環太平洋連携協定)加入申請や、沖縄周辺での日米共同訓練への反発があると推測されているが、力にものを言わせた威嚇行為であることは間違いない。台湾と目と鼻の先にある沖縄にとっても脅威であり、見逃せない事態だ」「台湾の故・李登輝元総統はかつて石垣市で講演した際『日台は運命共同体だ』と語ったが、中国の軍事的膨張が続く中、沖縄と台湾がまさにそのような関係であることは間違いないだろう」「防空識別圏は、国が領空侵犯に備えるため、領空外側に設けた緩衝地帯のような空域だ。他国の航空機進入は領空侵犯の一歩手前の事態であるため、戦闘機が緊急発進(スクランブル)して対応する」「中国は今月に入り、四日までに戦闘機など計一四九機を台湾の防空識別圏に侵入させ、四日には一日の侵入数が台湾の情報公開後最多となる五八機に達した。台湾への圧力強化は、中国の習近平国家主席が直接指示したとの報道もある」「対中最前線に立たされているのは台湾だけではなく、沖縄も同じだ」「中国は二〇一三年には、石垣市の行政区域である尖閣諸島上空にも一方的に自国の防空識別圏を設定した。以後、日本の報道ヘリなども大事を取って尖閣上空を飛行できない状況が続いている。尖閣周辺での中国軍機の活動も活発化し、航空自衛隊のスクランブルが後を絶たない」「尖閣周辺海域では中国海警局の艦船が常時『パトロール』と称して航行しており、操業する日本漁船への接近や追尾を繰り返している」「県は尖閣情勢について『対話や外交による平和的解決を政府に求める』と繰り返しているが、楽観的に過ぎると言えよう。確かに日本や台湾は対話を求めているが、中国の姿勢は実力行使ありきで、とても平和的解決を志向しているようには見えない」「八〇年代まで経済的な小国だった中国が、急激な経済成長で米国と覇権を争うほどのスーパーパワーにのし上がった。『超大国』としてのマナーや責任を自覚しないまま、図体だけが大きくなった。『中華民族の偉大な復興』をスローガンにのし歩く姿からは、中国指導部の慢心がかいま見える」「TPPはもともと、中国に対抗する経済圏を構築する意図もあって日米主導で組織されたが、米国は結局加入せず、当の中国が今年九月、自ら加盟を申請した。大胆不敵な外交姿勢である」「台湾の加盟申請を阻止する狙いがあるとも言われているが、台湾や尖閣周辺での振る舞いと同様、自国の主張を通すためなら何でもやるという姿勢は一貫している」「沖縄の平和と安全を考えるとき、精神的には未熟だが、したたかな外交力を持つ超大国と対峙しなくてはならないことを肝に銘じるべきだ」「米国や台湾は、中国が台湾に侵攻する『台湾有事』が近い将来に現実化する可能性に警鐘を鳴らしている。台湾有事はたちまち沖縄有事になり、尖閣有事になる。県政や県民は、台湾周辺での中国軍の活動をぼんやり見ていてはいけない」という。台湾の問題は沖縄の問題であり、ひいては日本が中国の一自治区になってしまうかどうかの問題なのだ。

着々と準備が進む
護衛艦「いずも」の空母化

 中国は一九四九年の建国以降、陸続きの北朝鮮を緩衝国として活用しつつ、ロシアとは一九六九年にウスリー川の中洲であるダマンスキー島を巡って交戦しながらも、二〇〇四年に中露国境協定を結ぶ等で、陸で接する周辺国との国境はインド等一部の国とのものを除き、確定させてきた。そして次に中国は海上進出を活発化し、そこでの覇権獲得を狙ってきた。南シナ海の領有権を主張して、環礁を埋め立てて人工島にした上で軍事基地を建設、さらに東シナ海の尖閣諸島の領有権を主張して、日本の接続水域への入域や領海侵入を繰り返してきた。しかし今、日本もこの中国の動きに対抗しようとしている。
 十月六日付けの産経新聞には、「護衛艦『いずも』F35Bが発着艦検証」という記事が掲載されている。「防衛省は五日、『空母化』に向けて改修中のヘリコプター搭載護衛艦『いずも』に、最新鋭ステルス戦闘機F35Bが発着艦できるかを確認するため、三日に四国沖で検証作業を行ったと発表した」「検証には米海兵隊が協力してF35Bを飛ばし、実際にいずもに発着艦した。海上自衛隊の艦艇にF35Bが発着艦するのは今回が初めてで、岸信夫防衛相は五日の記者会見で『日米の相互運用性の向上に資するものだ』と強調した」。海上自衛隊はこの検証の様子の動画も公開しており、尾翼に「いずも」の文字が書かれたアメリカ海兵隊のF35Bが見事に垂直に着艦し、さらにカタパルトもなしに非常に短い滑走で発艦する様子を見ることができる。
 九月にはイギリス海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群がインド太平洋地域に展開、護衛艦「いずも」をはじめとする海上自衛隊やアメリカ海軍と共同訓練を実施した。ドイツ、フランス等EU諸国もインド太平洋地域への関与を強める計画を立てている。
 潜水艦部隊の増強と「いずも」の空母化で日本の海上での機動力が増強され、アメリカや他国の空母との連携した運用が可能になることは、中国に対する強い牽制になるだろう。

拡張路線を抑えるために
「中国の孤立化」が必要だ

 陸でも中国は、いまだにインドとの国境で紛争を抱えている。ニューズウィーク日本版のネットサイトに二〇二一年三月四日に掲載された記事「インドはどうやって中国軍の『侵入』を撃退したのか」によると、二〇二〇年五月に中国軍の紛争地帯のインド側への侵入で始まった「衝突」が、二〇二一年二月の中国軍の撤退で終結した。中国軍撤退の理由は、インドが経済面、外交面、軍事面で中国に圧力を掛けたからだが、ここで大きな力となったのは、日米豪印のQUAD(クアッド)の枠組みだ。中印関係の安定のためにも、中国の拡張路線を抑えるためにも、経済的、外交的な「中国の孤立化」が必要だと記事は主張する。中国の膨張が直接の脅威となる点では、インドと日本は同じ立場に立つ。日本もインドと同様に、QUADやイギリス、EU諸国との協調体制を強化し、経済や外交の共同歩調で中国に圧力を掛ける一方、軍事面での力も増強することで、中国に対抗していかなければならない。また、沖縄での「独立工作」のような、中国の動きへの警戒も必要だ。より多くの国民が、これらの意識を早急にかつ明確に持たなければ、早晩日本は中国の属国となってしまうのではないかと、私は危惧している。

2021年10月15日(金) 18時00分校了