日本を語るワインの会162

ワイン162
二〇一六年十一月四日、恒例「日本を語るワインの会」が代表自邸にて開催されました。細かいニュアンスまで日本語が非常に堪能な在日エルサルバドル共和国大使館の特命全権大使マルタ・リディア・セラヤンディア・シスネロス氏、キュレーターとして数々の美術展を企画してきた東京藝術大学 大学院教授で東京都現代美術館参事の長谷川祐子氏、チベット生まれの国際政治学者、桐蔭横浜大学教授のペマ・ギャルポ氏、バチカンに留学、ローマ法王の日本語通訳も務めた一般財団法人日本文化事業団代表理事の種田光一朗氏、浄土真宗得度・教師の資格を持ち仏教に明るい在日ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥氏をお迎えし、宗教から美術まで国際色に富んだ話題で盛り上がりました。
日本の技術で進むバチカン文書のデジタル化
 エルサルバドルは中米の国。火山があったり、エネルギー源にしかしていないが温泉が湧いたりと日本と似たところが多く、非常に親日的だ。主要産業は農業であり、日本にコーヒーを輸出している。繊維産業も古くから行われていて、一九六六年に大阪の呉羽紡績が先の大戦後、日本企業初の海外進出としてエルサルバドルに工場を建設したほどだ。スペインの植民地時代から藍染が盛んだったが、化学染料の普及により一時は壊滅状態に。JICAのプロジェクトで復活して、今は民芸品の店で見掛けるようになった。元々マヤ文明時代には、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカなどは同じ国で同じ文化を持っていた。スペインの植民地になり、その後の一八二一年に独立、当初は中央アメリカ連邦共和国としてこれらの国で一つの国を形成し、初代大統領はエルサルバドルの出身だった。しかしその後、利害関係の対立から統合派と分裂派で戦いになり、結局バラバラになった。エルサルバドルは一貫して統合派。国名はスペイン語で救世主の意味だ。エルサルバドルの県は、スペイン語で「平和」「自由」「統一」などかつての思いが込められた名前になっている。モラサンという県の名前はホンジュラス出身の将軍の名前から取ったもの。統合派だったモラサン将軍は結局戦いに敗れた。故郷のホンジュラスではなく、統合を応援してくれたエルサルバドルに埋葬してくれという遺言通り、エルサルバドルに埋葬されている。
 二〇一四年からスタートしたバチカン教皇庁図書館デジタルアーカイビング事業に、日本のNTTデータがIBMやマイクロソフトなど世界の名だたる企業と提案で争った末にパートナーとして選ばれ、約十万冊の手書き文献を十年間でデジタル化する作業が進められている。バチカンの図書館には紀元前からの手書きの古文書が七千万ページあり、NTTデータは日本の技術を使って、百年経っても閲覧できるようにデジタル保存を行っている。世界の文化の保全と言えば思い浮かぶのは奈良の正倉院だ。校倉造りのこの建物の中には、中国では王朝の交代時壊されてしまった貴重な文化遺産が、驚く程の保存状態で残っている。現代の正倉院として、このように世界の文化遺産のデジタル保存を日本の技術で行い、そのデータセンターを日本に置けば、平和的な安全保障が可能な施策ともなる。世界のどの国も自国の文化遺産の消滅を恐れて、日本に核ミサイルを打ち込むことができなくなるからだ。

聖職者の成り手が激減ローマ法王が聖職者の結婚承認の可能性
バチカンには秘密の古文書館もあり、直属の枢機卿が管理している。ここの文書はタテに並べると八十五キロメートルにも及ぶほどの膨大な量だ。ダヴィンチやガリレオ・ガリレイの日誌など非常に貴重で、公開すればキリスト教史のみならず、人類史がひっくり返るような資料があると言われている。仏教の経典を世界で一番多く保有しているのはチベットだ。仏教発祥地のインドのものは、イスラム教のムガール帝国時代に全て破壊されたという。そもそも経典は八万四千あったとされているが、チベットに残るのはそのうち四千、中国に二千が渡り、さらに日本には二百がやってきた。日本では経典一つにつき宗派が一つあると考えればいい。
 バチカン国立・ローマ教皇庁立サレジオ大学に入学するには、カトリック信者である必要はない。信者ではなくても神学の学位を取れば、助祭として婚姻の許諾や洗礼を行うことができることが、教会法で決まっている。神は神学を学んだ人間を道具として使うから、その人間の信仰や能力が問題ではないというロジックだ。カトリックの聖職者は現状では結婚を許されてなかったり、女性が司祭になれなかったりするが、これらのルールは今後変わるかもしれない。現在ローマ市内には約四百の教会があるが、それらの司祭の七割以上が非白人系だ。在エルサルバドルのバチカン大使もアフリカ系。在日のバチカン大使はインド系だ。結婚ができず子供も作れないということで、カトリックの聖職者への成り手が激減しているからだ。またイギリス国教会の聖職者は婚姻可能だが、神学的な論争がないカトリックに改宗する人が多く、実際に結婚して子供がいる司祭が数多く登場している。またベネディクト十六世の二〇一三年の退位の原因になった聖職者による児童への性的虐待も後を絶たない。この点では浄土真宗の開祖である親鸞上人が妻帯の先駆者となったことは素晴らしい。カトリック教会存続のためには、今後結婚を認めざるを得ないのではないか。

美術品の真価を知るには一緒に暮らしてみること

 

バチカンの修道院では起床してから朝のお祈りが終わるまでは聖なる沈黙といって神との対話に費やし人と言葉を交わしてはいけない。曹洞宗の永平寺では、三黙道場といって僧堂、浴室、東司(トイレ)では私語禁止だ。食事も音を立てずに食べる。どの宗教もその根本の部分では似ている。宇宙や自然の感じ方も同じだ。仏教には三身(さんじん)という教えがあるが、これはキリスト教の三位一体とそっくりだ。チベットのダライ・ラマはチベット仏教の最高位であり、国の父としての存在だ。子供の時から私的な感情を持ってはならないと教育され、母親が病気になっても会いにも行けない。ダライ・ラマは観音菩薩の化身で、パンチェン・ラマは阿弥陀佛の化身だ。パンチェン・ラマはダライ・ラマの次の位のように思われているが、それは間違い。仏の世界では阿弥陀佛の方が観音菩薩よりも位が高い。そもそもパンチェンとは法王(ダライ・ラマ)の先生という意味だ。仏教ではヒンドゥー教からやってきた神様が沢山いる。「天」と「明王」が付く神様は、全てそう。七福神の大黒天、毘沙門天、弁才天や、帝釈天もヒンドゥー教の神様だ。
 美術作品は美術館で見る人が大半だと思われるが、本当は一緒に暮らしてみないとその真価はわからない。ニューヨークのホイットニー美術館はアメリカの近現代美術のコレクションで知られているが、多くの個人の美術品収集家が、名誉になるのでこの美術館に作品を寄贈したがるという。しかし美術館としては受け取って良いか、その作品の価値を見極める必要がある。キュレーターは寄贈の依頼があるとまず一カ月預かり、自分のオフィスに置いて、毎日眺めるという。一緒にいて何かを語りかけてくるようであれば、それは強い作品。そのように感じられる作品であれば、寄贈を受け入れるという。ダライ・ラマは西洋の科学と東洋の知恵が幸せに結婚した時に本当の文明が生まれると言う。美術や音楽は、実は宗教に非常に近い表現だ。
 イギリスが国民投票で予想外のEUからの離脱、アメリカが史上最低の大統領選挙で国民の亀裂を露わにし、韓国では朴槿恵大統領の友人を巡るスキャンダルで支持率が五%まで低下するなど世界が混乱している中、政治的に安定している日本にチャンスが訪れている。安倍首相の任期が三期九年に延長されれば、いずれ先進国で最も長くその地位にいるトップとなり、サミットの仕切りも行うことができるようになるかもしれない。このチャンスには、まず北方領土問題を解決して日本とロシアの関係を深めるべきである。日ロ平和条約締結を実現すれば、安倍首相の世界への影響力は増すだろう。次に取り組むのは憲法の改正だ。これは二段階で行うべき。第一段階では前文のように誰もが改正に同意する部分での改憲を、第二段階では公明党も巻き込んで本格的な改憲を行う。これには時間が必要だが、三期九年あれば可能だ。

大深度地下を利用した核シェルターの整備が急務
 国際的な交渉力の背景には軍事力が必要であり、その軍事力の背景には核兵器が不可欠だ。核なしでは日本が世界でリーダーシップを発揮することは難しい。日本独自の核武装にはアメリカも中国も反対するのは確実だ。であればアメリカの枠内での核武装ということで、ニュークリア・シェアリングであれば認めるのではないか。同じ敗戦国のドイツやイタリアに認めて、日本に認めない理由はない。独自の核武装を断念する替わりと言えば、アメリカが認める可能性は高いだろう。
 十一月十日にインドのモディ首相が来日、この時に日本の原子力関連技術の輸出が可能になる日印原子力協定が署名される予定だ。インドがNPT(核拡散防止条約)を締結していないことなどがネックになり、十年掛かりの交渉だった。広島・長崎に続く三つ目の核爆弾が投下される可能性が高いのは、やはり核保有国に囲まれた日本だ。アメリカを核攻撃できる力を中国が持ち、北朝鮮がもうすぐ持とうとしている現状では、アメリカの核の傘など幻想に過ぎない。日本に必要なのは、まだ〇・〇二%しか普及していない核シェルターの建設だ。スイスやイスラエルでは一〇〇%、ノルウェーは九十八%、アメリカは八十二%、ロシアでも七十八%、核シェルターが普及している。大深度地下に地下鉄を通し、空気清浄システムを完備して駅を核シェルターにするような工夫が必要だろう。戦争防止には抑止力が重要であり、その抑止力は攻撃力だ。先の大戦後の世界は、核兵器による抑止力で世界大戦を防いできた。しかし核というだけでアレルギーのある日本では、シェルターには大きな反対の声が上がるだろう。これはメディアの責任が大きい。一貫性なく原発反対を主張し始めた元首相の言動も問題だ。
 アパホテルの建設・オープンラッシュで、代表、ホテル社長、アパグループ社長の六曜で良いとされる日程はすぐに埋まる。しかし、江戸時代に中国から日本に入った六曜の元々の意味は、今とは少し異なる。大安は大きく安らかにする日でいわば安息日。人生の大切なことはむしろ避けた方がいい。仏滅は人間ゴータマが肉体を離れ永遠の仏となった日なのでむしろめでたい日。先勝は午前中に大事を行えばいい。