Big Talk

健康寿命を伸ばすために口腔健康管理をVol.346[2020年5月号]

学校法人日本歯科大学 理事 口腔外科教授 小林隆太郎
×
APAグループ代表 元谷外志雄

創立から一一四年、世界最大の歯科大学であり、日本最初の歯科医学校である日本歯科大学の口腔外科で教授を務める小林隆太郎氏。口の中の健康が体の他の部分の健康にも繋がるという口腔健康管理の普及に尽力する氏に、単に歯を削る治療から患者の命と向き合う治療へと変化している歯科の最前線の動向をお聞きしました。

小林 隆太郎氏

東京生まれ。日本歯科大学歯学部卒業後、大学院歯学研究科博士課程修了。専門は口腔外科で、平成13年日本歯科大学歯学部附属病院顎変形症診療センター長、平成22年日本歯科大学口腔外科教授に就任。現在、日本歯科大学理事を務める。社会活動関連では日本生活習慣病予防協会参事、日本歯科医学会歯科医療協議会座長、日本歯科医学会総務理事、日本歯科医学会連合専務理事として医療保険、健康と食などをテーマに幅広く活動し、国民の健康増進と歯科界活性化に尽力している。

お酒を飲んですぐ寝ると
歯の表面が溶けていく

元谷 今日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。小林さんの専門は口腔外科ということですが、この言葉だけではぴんと来る人は少ないのではないでしょうか。

小林 お招きいただきありがとうございます。まずは、私が専門にしている口腔外科についてお話しさせていただきます。口腔外科は、手術を含めた口の外科的な治療を行う分野です。具体的には技術的に難しい歯の抜歯、口の粘膜や骨の病気の治療など、悪性のものを含めた口の中に生じる様々な病気を対象としています。日本歯科大学附属病院では紹介率の一番多い診療科となっています。歯科というとこれまでは歯を削って治療するものというイメージが強かったですが、食べる、飲む、しゃべる等の機能を含めた口全体の健康を考える医療でもあります。やはり大切なことは、「楽しく食べること」でしょうか。

元谷 アメリカ人の友人は皆歯が綺麗で、聞くと子供の頃に矯正をしているのです。韓国の人も歯を綺麗にしていますね。日本人の歯や口腔の意識というのはどうなのでしょうか。

小林 かつて、日本では歯のことは軽視されていましたが、だんだん良い方に変わってきています。代表や私の子供時代にはまだ歯はそんなに大事にされていなかったと思います。三歳児、十二歳児を調べると必ずう蝕(むし歯)がありました。しかし今、この年齢の子供のう蝕は平均で1本を切っています。この三十年で子供のう蝕の数が激減しているのです。歯と口の機能を大切にする口腔衛生は、子供に歯が萌えた時、萌える前から考えなければならないことですが、それが日本にも徐々に根付いてきています。

元谷 子供の歯が綺麗かどうかは、親の責任が大きい気がしますが…。

小林 はい。育った家庭環境や家族の習慣がどうなっているかによると思います。

元谷 昔は歯を磨くのは朝だけだったという記憶があります。歯を磨く頻度として最適なのは、一日何回になるのでしょうか。

小林 専門家の中でもいろいろな意見がありますが、私はマナーも考えて何かを食べたら磨くことにしています。

元谷 朝と夜は家にいるので歯磨きできるのですが、昼食は外食も多く、なかなか歯を磨く環境にないのです。

小林 食後に歯磨きをする環境があれば一番いいと思いますが、昼の間は、しゃべったり食べたり飲んだりすることで唾液が出ます。唾液が出ると口の中で自浄作用が働きます。逆に夜寝ている間は唾液が少なくなり、また、口の中は三六℃台の保温器となるので、朝起きた時の口の中は数多くの菌が繁殖しています。私は朝起きたらすぐに天然素材の歯磨剤で歯磨きをしています。天然素材のものは香りも残らず、食事などの前に歯磨きをしても味覚に影響がなく優しいです。昼間は歯磨きができなくても、うがいを念入りにしたり、朝・夜の歯磨きに重点を置くのも方法の一つです。

元谷 うがいをすることでむし歯防止にはなるのでしょうか。

小林 補助的な効果はありますが、やはり機械的に歯ブラシで除去するのが一番です。例えば、食器洗いを考えてみてください。流すだけでなくスポンジを使い洗うことでより汚れが落ちます。食べたり飲んだりすると口の中にいる細菌が食べ物や飲み物に含まれる糖をエサに酸を作り出し、歯の表面を溶かします。数字的にはpH値が五・五以下になると、歯の表面のエナメル質が溶けるのです。ワインのpH値が二〜三台等、お酒はpH値が低めなので、飲んでそのまますぐに寝てしまうのは歯にとっては最悪です。酸性の飲食物ばかりを摂取していると歯の表面の成分が溶け出し脱灰が起こります。これを酸蝕症と言います。

元谷 お酒を飲んでいる時や後に、水を飲むのは歯には良いということですね。

小林 そのとおりです。またpH値が低いのは炭酸の入った清涼飲料水です。子供の歯を守る観点からは、あまり清涼飲料水はお勧めできません。お酒や清涼飲料水だけではなく、レモン等柑橘系果物も酸性のものが多いですね。ただ人間は良くできていて、酸っぱいものを食べるとちゃんと唾液が出てきます。唾液には歯を保護する役割があります。また食べる時に良く噛むといいと言いますが、それは噛むことで唾液が出てくるからです。噛むことで唾液がより出て食べ物を消化されやすい状態にします。唾液ほど素晴らしい天然の薬はないことが、いろいろな研究からわかってきています。その唾液効果を生かすためにも、口の中の清潔さが重要になってくるのです。

元谷 なるほど。良くわかりました。

小林 現在、私達が力を入れているのが、健康寿命を伸ばすことです。健康寿命とは介護なく健康に生活できる期間の事です。日本人の平均寿命は2018年で男性81.25歳、女性87.32歳となっています。大事なことは健康で長生きすることです。つまり、健康寿命の延伸です。

元谷 私も人生の最終的な勝者は、闊達に長生きした人だと思っています。

小林 健康寿命を伸ばすために大事なのが、口腔健康管理なのです。

元谷 口腔健康管理は初めて聞く言葉です。

小林 口腔健康管理は口の健康を守ること。その中心は、口腔衛生管理と口腔機能管理です。やはり「食べること」が重要なキーワードとなります。私達の大学の授業でも食についてのカリキュラムを導入しています。そして私の授業では食の大切さとして、「食は命なり」「食は血となり肉となる」「万病一元、血の汚れから生ず」という考え方を取り入れ、食のことを語れる歯科医を養成しています。「食の大切さ」は大学創設者の「食養道」の考えにも遡ります。

長い歴史に磨かれた
日本の食事文化

元谷 西洋医学だけではなく、東洋医学的なことも教えているのですね。私もどちらかに偏重するのではなく、両方取り入れるのが良いと思います。

小林 ミックスすることが、一番効率が良いですね。日本の食事が優れているのは、見た目や美味しさだけではなく、組み合わせ等が長い歴史に磨かれていることです。焼き魚には大根おろしを付けますが、これにはちゃんと毒消しの意味があります。食養の基礎理論として、食材は陰か陽に分けることができます。日本人は中庸にあたる穀物を中心に食べてきました。肉は食べてきていません。私は人類が元々狩猟民族で肉ばかり食べていたというのにも疑義を持っています。どちらかというと人類は穀物中心で生きてきたのではないでしょうか。人間の歯は上下合わせて、臼歯が二〇本、犬歯が四本、切歯が八本で、五:一:二となっています。これは穀物:肉類:野菜と考えてみてもよいと思います。

元谷 肉のみで食料を賄おうとしたら、かなりの頭数の獲物を捕獲しなければなりません。食料問題が人口を抑制していたのです。そんな中、稲作等の農業によって食料が十分に確保できるようになり、人口が一気に増えたのです。稲作で食料を確保、四方を海に囲まれて飢えることなく暮らしてきたからこそ、今の日本文化があるのではないでしょうか。

小林 その通りだと思います。

元谷 古くは同じ民族が同じ宗教で、同じ言葉を話してきましたから、日本人は連帯感が強く、助け合いの精神が根付いているのです。これが日本の強みなのですが、このことも食料がしっかりと確保されていたからこそなのでしょう。

小林 また、日本人は欧米人に比べて体は小さいですが、腸は長いのです。

元谷 植物性の食料を消化するのには、その方が都合が良かったからでしょうか。

小林 はい、そうです。漢字というのは非常に良く出来ているのですが、「腐」という文字は内蔵(府)の中に肉が入っています。日本人には肉は合わないということを示した字ではないでしょうか。

元谷 野菜と一緒にある程度の量なら良いのでしょうが…。

小林 肉が長時間、腸に滞留すると悪玉菌によって腐敗し、毒性を高めていくと考えられます。肉のみが体内に入ると血液は酸性に傾き、その結果、イライラや攻撃的になるとも言われています。一八八五年頃まで世界の栄養学の研究は西ヨーロッパで行われていたと思われ、その中心はドイツで、その内容は大きな体格と攻撃性を高める戦場の栄養学であったと考えられます。その中心となる食物が肉ではないでしょうか。優しく生きてきた日本人には、そもそもそういう文化はありません。

元谷 逆にヨーロッパではそうしなければ生き残れなかったから、肉を食べてきたとも言えますね。

小林 その通りです。漢字の成り立ちを調べると、その意味深さに非常に感銘を受けます。

元谷 表意文字である漢字と、表音文字であるひらがなとカタカナを併用する日本語の表現力には、素晴らしいものがあります。だから表現に補足を行う必要がなく、言葉の表現力が劣る欧米人が良く使用するジェスチャーが発達しなかったのです。

小林 「食」という漢字は人を良くすると書きます。「癌」という漢字は食品を山程食べると発症する病気と読めます。適度な食事量が健康には一番ということです。漢字はいろいろなことを教えてくれます。私はこれから歯科医にとって、食を語ることが大切な仕事になると考えています。

元谷 和食の文化レベルの高さも特筆すべきものです。私は少しずついろいろな料理が味わえる懐石料理が好きです。

小林 見た目と食材と栄養のバランスが良いですね。実は食で一番大切なことは、ミネラルをしっかり摂ることです。加工された食品は、見た目は良いのですが、全部工場で洗浄されていて、ミネラル分が抜けています。

元谷 カップ麺の容器から溶出する成分が、日本人のホルモンに影響して中性化を促しているという説を読んだことがあるのですが。

小林 それはスチレンモノマー、ダイマー、トリマーのことでしょうか。カップ麺容器に一〇〇℃のお湯を入れても溶出しないのですが、脂分のある食材と共にお湯を入れると、スチレンが溶出してくる。これはスチレンが油溶性だから。このことが判明、大手メーカーは対応を行い、少しずつ食の安全環境は整ってきたと聞いております。

元谷 最近人工肉の話題も増えました。まだ価格は高いですが、ハンバーガーにした場合、食感も味も本物の牛肉に近いと言われています。こういった人工肉が欧米の菜食主義者に人気だそうです。菜食主義者の中でもビーガンと呼ばれる人々は、卵や乳製品も口にしません。それでは栄養のバランスが…と心配になってしまいます。また宗教によっては、食べてはいけない食品を定めているものもあります。日本人は八百万の神を信じていますから、一神教とは異なり食べてはいけない食品はありません。これも共存共栄を重んじる日本人らしい特性だと思います。

小林 そういう文化があるから、日本人はあまり偏向することがないのでしょうか。

歯周病から認知症に
口の不調が全身の病を招く

元谷 一神教同士の戦争は悲惨です。キリスト教国からは英雄視された十字軍ですが、イスラム教徒から見れば単なる侵略者だったはず。なぜ多くの人が英雄視しているかと言えば、歴史は勝者が作るものだからです。アメリカ人はフロンティア・スピリットを素晴らしいことのように語りますが、彼らがその精神の下に行ったのは、西部開拓でのネイティブ・アメリカンの虐殺でした。西へ西へと向かったアメリカは太平洋に達し、さらにハワイやフィリピンへと進出していきます。テロ等からイスラム教徒が残酷だと言われますが、歴史を見ればキリスト教徒も残酷です。カトリックとプロテスタントの過酷な戦いや、南米大陸でのスペイン人による先住民の虐殺もありました。しかし戦勝国史観によって、それらの史実は覆い隠されているのです。日本も同様で、もっと日本人は真実を知ってアメリカに押し付けられた東京裁判史観を捨て、この国の歴史に誇りを持つべきなのです。この考えから私は「真の近現代史観」懸賞論文制度やアパ日本再興大賞を創設する等で、人々に真実を伝える活動を行っているのです。とにかく全てのことに関して、バランスが大切なことは間違いありません。

小林 口の中の健康に関する研究は、遺伝子レベルにまで及んでいます。食べたり、しゃべったり、飲んだりという機能に関する障害以外で口の中の二大疾患と言えば、歯周病とう蝕です。そしてこれらは他の病気と密接な繋がりがあることがわかってきました。例えば歯周病は、虚血性心疾患、動脈硬化性疾患、早産、低体重出産、誤嚥性肺炎、リウマチ、そして糖尿病と関係があります。さらに近年、世界各国で研究が進んでいるのは、歯周病と認知症の関係です。

元谷 認知症は本人だけではなく、家族等周囲にも大きな影響を及ぼす病気です。

小林 その通りです。著名な学術雑誌「サイエンス」に掲載された論文によると、歯周病菌が脳内の炎症を惹起して、アルツハイマー型認知症の状態を増悪するというのです。また歯がなくなったために流動食系を食べていると、咀嚼機能が低下します。すると体のバランスが悪くなり、転倒が起きやすくなるのです。一方脳では、記憶を司る海馬神経の脱落が起きて、認知症を誘発するという研究があります。

元谷 歯周病やう蝕を予防することが、認知症予防にも繋がるということなのですね。歯を削ってう蝕を治すという医療から、口の中を通して体全体のケアを行う医療へと変わってきているということでしょうか。

小林 その通りです。二〇一八年十二月に国会で「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立しました。この法律の附則の第二条には、「歯科疾患と循環器病の発症との関係に係る研究を推進するものとする」と明記されています。口の中の健康の重要性は私達が主張しているだけではなく、科学的データに基づいて定められた法律によって、国の方針として研究が進められているのです。私自身も今、医療側からの政策を提言する仕事をしています。これまでは行政からの提言が主流だったのですが、医療側からも声を上げないと時代に遅れ、また提言だけでなく、具現化を目標に活動しています。健康に関するテーマで医療が五年後、十年後の社会を牽引するような提言を行い、それを具現化していくことが、私が今、もっとも重要視しているテーマです。日本歯科医学会は、来る二〇二一年九月二十三日から三日間、横浜市のパシフィコ横浜にて四年に一度の日本の歯科界最大のイベントを開催いたします。「逆転の発想 歯科界二〇四〇年への挑戦」がテーマです。健康寿命の延伸など内容を含め公開フォーラムなども企画しています。多くの方々にご参加いただければ幸いです。

元谷 日本は古くから大家族主義の国だったのですが、戦後アメリカの占領政策の一環として核家族化が進められ、最近ではさらに個家族化となってしまっています。今の日本で最大の不幸は白骨死体で発見される孤独死です。データは発表されていませんが、年間数万人にも及ぶのではないでしょうか。家族がいれば救急車を呼ぶなりで助かった命が、一人暮らしのために失われているケースも多いと思います。ですから固定資産税を二世帯同居なら二分の一、三世帯同居なら三分の一にする等、税制による誘導で大家族制度を復活させるべきです。孤独死を防ぐ以外にも、世代間の知恵の伝承や家族や地域の連帯感の強化、さらには幸福感に満ちた生活が営める等、そのメリットは非常に大きいと思います。

小林 私も家族制度についてはいろいろと思うことがあります。

口と腸の菌の管理で
免疫力をアップする

元谷 今世界中で、新型コロナウイルスが大きな騒動となっています。日本ではとうとう三月二日から小中高の全国一斉休校が始まりました。日本の中でも感染者の出ているエリアと出ていないエリアがあり、それを一斉に休校にするのはどうなのでしょうか。子供が休校になることで仕事に行くことができない人も出てくる等、様々な弊害が予想されます。しかし安倍総理は勇気をもってリスクのある決断をしたのです。

小林 政治的判断の是非は私にはわかりませんが、このような感染症の世界的な広がりは、日本をはじめ世界各国の国にとって、一九一八年のスペイン風邪やその後の感染症以来大変な出来事です。今回を踏まえて、今後また襲ってくるさらなる発生にむけての大切な対応経験と考えております。

元谷 アメリカは二月二日に、過去二週間以内に中国を旅行した全ての外国人の入国を禁止しました。しかし日本は、二月十三日に湖北省と浙江省に過去一四日間に滞在していた外国人の入国を禁止したのみで、中国の他の省からやってくる人々を受け入れていたのです。日本に感染が広がったのは、これが原因ではないでしょうか。またクルーズ船のダイヤモンド・プリンセスは日本の船ではなく、イギリス船籍で運用はアメリカが行っていたものです。たまたま横浜港に入港して検疫を行うことになっていたために、多くの人が感染したことが全て日本政府の責任とされてしまっています。寄港自体を認めなければ良かったのかもしれません。今アジア全域が危険エリアと捉えられていて、インバウンド客が激減しています。

小林 代表のご指摘も含めて各機関で多くのことを学び、反省するところは反省しないとならないでしょう。

元谷 そうですね。あと新型コロナウイルスに関しては、広報の方法に問題があるでしょう。インフルエンザでも日本で毎年三千人以上の方が亡くなっていますが、どこで誰が罹患して誰が亡くなった等は一切発表されません。交通事故もかつては年間一万六千人が亡くなっていましたが、昨年の死亡者は三千二百十五人です。でも新型コロナウイルスで亡くなったのは、二月二十八日段階でクルーズ船を除けばたったの五名です。感染して発症した人は多いのですが、亡くなっているのは元々糖尿病等の病気を持っている方だと聞いています。

小林 基礎疾患がある方とない方では、危険度が全く異なります。

元谷 データが正確に開示されると安心感が増します。中国では一万人以上が感染しているので、重症化する可能性の高い年齢層や既往症等のデータが収集できるはずです。中国は共産党に都合の悪いデータは加工して発表するので、信憑性には疑問があるでしょうが…。Apple Town四月号のエッセイに書いたのは、武漢からチャーター便の第四便までで帰国した日本人の感染率は約一・一八%で、これを人口一千百万人の武漢に当てはめると、約十三万人の感染者がいるはずではと推測しました。実際、武漢のある湖北省の感染者数は私の推測当時は一万五千人でしたが、今は六万人を超えています。今後はさらに増えるのではないでしょうか。

小林 その可能性はあるでしょう。

元谷 ホテル業の最大のリスクは感染症によるパンデミックです。出張も旅行も止まり、宴会や会議も取りやめになりますから、ダメージが大きい。今回は昨年十月の消費増税と新型コロナのダブルの要因で、景気減速が進みそうです。

小林 今回の新型コロナウイルスの件で歯科の範囲で少しお話しすると、人間の免疫力の大元であるウイルスへの抵抗力とは、腸内細菌の環境と考えています。腸内には善玉、悪玉、中立と三種類の菌がいますが、この善玉菌を増やすには、やはり日本人が古くから食べている良い食物を摂取するしかないと思います。そして口の中の菌も口腔健康管理でしっかりコントロールする。口腔内の悪玉菌が腸内細菌に関連するという研究者の意見を聞いております。「食と口腔衛生管理」私もそれらを実践していますから、インフルエンザにも風邪にも罹りません。当然、ワクチンは接種していません。

元谷 三食決まった時間に食事を摂ることも大事ですね。そして腹八分目。

小林 私の健康の秘訣は少食で肉体労働かもしれません。食べすぎた場合には翌日セーブする等、二日間で調整しています。

元谷 わかりました。最後にいつも「若い人に一言」を聞いています。

小林 私達の大学の学部名は歯学部ではなく生命歯学部です。学生によく言っているのは、口だけを診るのではなく全身、人を診る、つまり命に向き合うということ、歯科を通じて健康を考えることだと。そこで、健康という意味で個人的な話になってしまいますが、私には「ストレス」がありません、ないというより自分の辞書から削除しました。この都合のいい言葉が嫌いだったからでしょう。その代わりに「修行」としてみました、かなり気分がいい状況です。体への毒の入り口の多くは、口と心からと思っています。健康を考える意味で「食」と「心」に興味を持って頂けたら幸いです。

元谷 今日は良い話をありがとうございました。

小林 こちらこそありがとうございました。

対談日 2020年2月7日