Essay

憲法改正で国防軍を持つ決断をVol.328[2020年1月号]

藤 誠志

今回の香港の民主化デモに
百万人が参加

 香港の民主化デモが収まる様子をみせない。この背景は以下の通りである。一九八四年一二月一九日に署名された中英連合声明において、一九九七年の香港返還以後五○年(二〇四七年まで)は鄧小平が提示した一国二制度に基づき、香港においては社会主義政策を実施しないとされていて、二〇一四年には、普通選挙制度が導入される予定だったにも拘わらず、二〇一七年香港特別行政区行政長官選挙において、中国指導部は民主派の立候補を事実上排除する制度を導入した。これに対して民主派の学生団体は、二〇一四年に香港反政府デモ(雨傘革命)を展開したが、長期間にわたる金融街の占拠は市民の反感を買い、具体的な成果が得られないまま警察による強制排除を受けて失敗に終わった。
 今回の逃亡犯条例改正案への反対を契機としたデモは、二〇一四年の雨傘革命とは異なり、リーダーがおらず、SNSの発信で集会の場所や日時を皆に伝えて一斉に行動する新しいスタイルのデモで、二〇一九年三月から始まった。
 六月九日に行われたデモには、主催者発表で百三万人が参加した。香港の人口は約七百四十万人だから、その一四%もの人々がデモに参加したことになる。香港の人々にとって、将来の生活を賭けた大きな関心事となっていることは明らかだ。
 しかし、中国はこのデモの鎮圧のために、数万人もの武装警官を深圳と香港の境界付近に待機させて、デモの鎮圧訓練を見せ付けている。この武装警察や人民解放軍が一九八九年の天安門事件のように介入して、一万人もの市民や学生を虐殺して収拾すれば、中国政府は世界中から強い批判を浴びせられるだろう。そして中国各地でこのようなデモが広がり、チュニジアで二〇一〇年から始まったジャスミン革命(民主化運動)とも言われる「アラブの春」のようなことが起こることを恐れて、今は何とか香港警察の力だけで事態を乗り切ろうとしている状況だ。
 中国政府は次は台湾で騒ぎを起こし、そしてその次は沖縄へ、日本へと民主主義を押し潰しにかかるだろう。香港の動向に日本人は決して無関心であってはならない。

台湾が対中兵器として
弾道ミサイルを開発

 十一月七日付の産経新聞朝刊の一面トップには、「台湾 弾道ミサイル開発推進」という見出しが踊っている。「一九九六年三月に台湾で行われた初めての総統直接選を前に、中国が九五年夏から投票直前まで大規模な軍事演習と弾道ミサイル実験を行い緊張が高まっていた。九六年三月には中国の短距離弾道ミサイル『東風(DF)一五』が北部・基隆と南部・高雄の沖合に着弾。米国は二個の空母戦闘群を台湾近海に派遣し、中国を牽制した」。その「台湾海峡危機」の際、台湾の李登輝政権が「中国への『抑止力』として準中距離弾道ミサイル(MRBM)の開発を進めていたことが六日、産経新聞が入手した当時の機密資料で分かった。『中距離弾道ミサイル』の開発はこれまで関係者の話として報道されてきたが、公式な文書で弾道ミサイル開発への政権中枢の関与が明らかになるのは初めて」だという。
 中国は建国百周年の二〇四九年までにアメリカを追い越す超大国となる「百年マラソン」戦略を進めている。アメリカ太平洋軍司令官だったキーティング氏は、現職だった二〇〇七年の訪中の際、中国海軍高官から「太平洋を米中で分割しよう」という案の提示を受けたと証言している。また二〇一七年には中国の習近平主席がアメリカのトランプ大統領との共同記者発表の場で、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言、超大国を目指す中国が太平洋の西半分を手中に収めることを狙っているのは明らかだ。その中国の野望に対抗すべく、台湾の李登輝政権は弾道ミサイルの開発を行っていたという。さらに産経新聞の記事は「台湾の国防部(国防省)関係者は、李政権で開発を進めた弾道ミサイルのエンジンの技術は現在、一般的に巡航ミサイルとされる『雄風二E』の一部に応用されて実戦配備され、中国大陸の上海以北まで攻撃可能だと明らかにした」と報じている。台湾は中国の脅威に対して軍事力の強化を目指し、その成果が今の巡航ミサイルという抑止力に反映されている。正に李登輝総統は正しい対応を選択していたと言えるだろう。

改憲のタイムリミットは
今の日米首脳在任の五年間

 翻って日本はどうか。まだ日米安保条約があるからアメリカが守ってくれるとか、日本国憲法第九条があるから戦争にならないと言っている人が多いのが現状だ。しかし、戦争が起きるかどうかはバランス・オブ・パワーの問題であって、軍事的な対抗手段を持つことが平和を維持することに繋がる。東アジアの平和のためには日本は独立自衛できる軍事力を持つことが必要だが、それにはまず憲法改正を行い、第九条二項を削除、自衛隊を本格的な国軍としなければならない。日本における改憲のハードルはやはり高い。アメリカの了解も、トランプ大統領と安倍首相が共に在任していないと得られないだろう。アメリカ大統領の任期は二期八年であり、トランプ大統領が再選されれば任期は二〇二四年まで続く。安倍首相の任期は二〇二一年までだが、自民党党則を変更して総裁の四選を可能にすれば、二〇二四年まで任期を引き伸ばすことが可能だ。そうなれば、トランプ大統領と安倍首相に残された任期は、共に後五年ということになる。この間に日本は憲法改正を行い、自分の国を自分で守ることができる真っ当な国家にしなければならない。
 現在自民党が掲げている憲法改正案での自衛隊の扱いは、ただ憲法に自衛隊を明記するだけである。これでは依然として自衛隊は軍隊ではなく、警察権でしか動けない組織のままとなる。そこで、さらに第九条第二項を廃止する「二段階改正」を行う必要がある。まず憲法改正が可能であることを示すために自衛隊の憲法への明記という改正を行い、さらに改憲の機運を高め、国民投票で過半数の支持を得られるべく国民運動を行って、普通の独立国家として国防軍を持つという国民による決断を憲法改正によって行うのだ。

日米安全保障条約を
日英同盟と同様の
双務条約とすべきである

 しかし残された時間は短く、一日も早く、第一段階の改憲を行わなければならない。今年の参議院選挙の結果、参議院では改憲賛成議員が改憲発議に必要な三分の二の議席を割り込んでしまった。自民・公明・維新の改憲政党の他にも、無所属や他政党からの支持がないと、三分の二の賛成によって発議を行うことができない。しかも加憲を主張する公明党は、時期尚早と、改憲を先延ばししようとしている。この間にも中国の肥大化は進む一方だ。彼らは海洋覇権を確立すべく、南シナ海の環礁を埋め立てて軍事基地化を行い、さらに中国軍指揮下の海警局の公船によって頻繁に日本の領海を侵犯する等、日々挑発を行っている。一日も早く、日本はこれに対抗できるよう、バランス・オブ・パワーの確立に必要な軍事力を備えなければならない。
 中国が世界覇権の獲得を目標とする二〇四九年までは後三十年だ。中国の他、ロシアも北朝鮮も周辺国の全てが核保有国化する中、日本が安心できる状況とはとても言えない。日本は戦争抑止力としての軍事力を強化するための策を講じるべきであり、台湾のように、攻撃兵器として弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発・配備を進める必要がある。さらに検討すべきは核兵器の導入だろう。非核三原則の中の少なくとも「持ち込ませず」は廃して、核兵器を持たずして核保有国と同レベルの核抑止力を持つ方法として、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を結ぶべきだ。この協定は現在NATO四カ国(ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダ)とアメリカとの間で結ばれており、平時は核兵器非保有国内で核兵器を共同で管理、有事には非核保有国がイニシアティブをとって核兵器を使用できるというものだ。NATO四カ国がニュークリア・シェアリング協定を結ぶ目的はかつてのソ連に対抗するためだが、日本の場合は当然中国や北朝鮮に対する核バランスを保持するためである。かつての米ソ冷戦は、今は米中冷戦へと変わり、アメリカにとって対中国の一番の前線基地が日本となっている。
 しかし、現行憲法と日米安保条約下の今の状況では、日本が他国から侵略を受けた場合、アメリカは第三次世界大戦を覚悟して日本を防衛しなければならないが、アメリカが侵略された場合には、日本にアメリカを防衛する義務はない。トランプ大統領が「日本人はアメリカへの攻撃をソニー製のテレビで観るだけで不公平だ」と主張することには、根拠があるのだ。現状の日米安保は、日本は単にアメリカに軍事基地を提供しているだけの片務条約だ。これをかつての日英同盟のように、双務条約とするべきである。私がかつて訪れたことのある地中海にあるマルタ島のイギリス連邦軍墓地には、日本軍将兵七十一名を祀る慰霊碑が建てられている。第一次世界大戦時、日英同盟の下、イギリスから輸送船団護衛への協力要請を受け、日本海軍が艦隊を一九一七年二月、地中海に派遣、この艦隊は目覚ましい活躍を見せ、「地中海の守り神」と呼ばれた。しかし一九一七年六月、護衛作戦中の駆逐艦「榊」が潜水艦の攻撃を受け、艦長以下五十九名が戦死、その他戦病死者十二名を加えた七十一名が、その慰霊碑に祀られている。このように同盟とは双方が血を流して守り合うものであって、片方が一方的に条約に基づいて守ってくれるという考えは甘いとしか言えない。

中国の野望を阻止するのは
日本しかいない

 また、現行の日米安保条約の下でも、日本が攻撃された場合、アメリカはすぐに戦ってくれるのだろうか。アメリカは国益に沿わない戦いは行わないし、民主主義を非常に重んじる国で、アメリカの国内世論が日本防衛に反対した場合にはどうなるのか。アメリカ軍兵士の血を流して戦うためには、国民の支持が不可欠であり、世論の支持がなければトランプ大統領といえども軍を動かすことはできない。アメリカの世論を味方にするためにも、日本はまずは自国を自分の力で守る意志を明確にして、それをアメリカ軍が補完するという形を取らなければならないだろう。日本が戦わずに、アメリカのみが戦うということはあり得ないということを、多くの日本人は理解しなければならない。
 毎年軍事力を強化してきた中国は、圧倒的な軍事力をひけらかして憚らない。日本は中国に対しては、今や唯一制海権を保持しているのみだろう。これが保持できているのは、日本の海上自衛隊が世界で唯一となる深深度に対応した潜水艦や魚雷を保有しているからだ。通常の潜水艦であれば潜航深度はせいぜい二百〜三百メートル、原子力潜水艦であれば五百〜六百メートルだが、海上自衛隊の潜水艦の潜航深度は九百メートルにも及ぶ。この深度からの魚雷攻撃が可能なのも日本だけだ。また静粛性も高く、高性能のリチウム電池の使用により長時間の潜航も可能だ。こんな潜水艦が日本近海の水深の深い場所に待機していると知っているだけで、日本を海から攻めようという意図は挫かれるだろう。
 実際、日米の合同演習で、海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦を(模擬)撃沈したという話もある。しかし技術の進歩は日進月歩だ。今は日本にしかない技術も、中国がそれを上回る技術を開発すれば、四方を海に囲まれた日本の防衛上の優位性は失われる。こんな事態が到来する可能性が十分想定されるのだ。
 覇権主義国・中国は内モンゴルを併合し、チベットに侵攻、朝鮮戦争で韓国と戦い、国境紛争でインドと戦い、ダマンスキー島の戦いでソ連と戦い、中越戦争ではベトナムと戦い、陸続きの国とは全て戦ってきた。そしてさらに南シナ海の軍事基地化に着手、着々と百年マラソンの完走に向けて、陸上に加え海上での覇権確立を目指して合理的に行動している。香港から台湾、沖縄、日本に至るラインも、当然中国が権益確保を目指す領域だ。そして軍事的にこの中国の野望を阻止できるのは日本でしかない。そのためには非核三原則の撤廃と憲法改正が必須であり、今がその最大のチャンスである。日本だけではなく世界の将来のためにも、安倍首相には改憲の初志を貫徹すべく、全力を尽くして欲しい。私も全面的にバックアップする所存だ。

2019年11月21日(木) 16時00分校了