Big Talk

安倍政権の次の課題は憲法改正を成し遂げることだVol.300[2016年7月号]

衆議院議員 長尾敬
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APAグループ代表 元谷外志雄

民主党時代から保守政治家として安倍首相や周辺の政治家と行動を共にしてきた衆議院議員の長尾敬氏。憲法改正の志を貫くために民主党を離党して自民党に移り、安倍政権を支える一人として活躍する氏に、安倍政権の成果やトランプ旋風の日本への影響などについてお聞きしました。
長尾 敬氏

1962年東京生まれ。1986年立命館大学経営学部経営学科卒業、明治生命保険相互会社に入社、2002年まで勤める。2009年の衆議院選挙で初当選。衆議院厚生労働委員会理事などを務める。現在2期目。

様々な問題が指摘されている
沖縄の新聞二紙

元谷 今日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。ビッグトークは今回で第三百回を迎えるということで、私と思想的な連帯感があり、勝兵塾の関西支部長として活躍している長尾さんをお招きしました。関西勝兵塾は長尾さんのお陰で、毎回満員御礼です。

長尾 今日はよろしくお願いいたします。関西勝兵塾の盛況は、関係スタッフ皆様のご努力の結果だと思っています。

元谷 いろいろ長尾さんのことを聞きたいと思っています。出身は東京だそうですが、今選挙区は大阪ですよね。この辺りのことから…。

長尾 はい。私は生まれも育ちも東京なのですが、父は大分県出身で、元々西日本に親戚が多かったのです。また父は十人兄弟の下から二番目の子で、大正元年生まれ。私は父が五十歳の時に生まれた子供です。ですから、父の兄弟のほとんどが明治人。私も父から非常に厳しく教育されました。子供は早く一人立ちしろという教育方針だったのでしょうか親元から出て、京都の立命館大学に進学したのです。

元谷 卒業後は明治生命ですよね。

長尾 はい。会社には十七年間勤めたのですが、転勤族でしたから、いろいろな土地に赴任しました。特に関西には縁があったので、大阪の選挙区から出馬することになったのです。

元谷 今は自民党の議員ですが、最初は民主党からの出馬でしたね。

長尾 多くの人からその質問を受けています(笑)。私の専門は厚生労働で、特に社会保障制度を改善したいというのが、政治の世界に入った動機です。これを民主党に認めていただき、声を掛けていただきました。当時の民主党は今とは異なり、憲法改正の議論にも前向きでしたし、集団的自衛権の行使についても勉強して考えようという姿勢でした。しかし、二〇一〇年の尖閣諸島での中国漁船と巡視船との衝突事件辺りから、民主党がおかしくなってきました。最終的には民主党では、政調会長補佐まで務めさせていただいていて、今や死語になっていますがマニュフェストの作成を担当していました。ところが政調の役員会で、憲法改正は議論しないという党の政策決定が行われたのです。この件で「この党にいてはいけない」と痛感し、二〇一二年に離党しました。

元谷 民進党の国会議員の中にも保守の考えを持つ人達がいて、私と交流があります。党を中から変えていく勢力も必要でしょう。元々自民党的な思想を持っていても、選挙区の事情で民主党から出馬した人もいます。

長尾 その点では私は運が良かった。民主党時代でも保守という枠組みで、私は安倍首相周辺の議員と行動を共にすることが多かったのですが、二〇一二年に日本維新の会が誕生した時に、私の選挙区の大阪十四区の対抗馬だったベテラン議員が、自民党から日本維新の会に鞍替えしたのです。自民党の議員が他党に移るのは私の思惑外のことですから、非常にラッキーでした。その後、安倍総裁からお声をかけていただき、今日があります。

元谷 そうして自民党に移って、今や安倍政権を支えるべく活躍されています。また長尾さんは選択的夫婦別姓制度に反対したり、竹島について国際私法裁判所で決着を付けるべきだと主張していますが、私も全く同意見です。沖縄タイムスと琉球新報の偏向の件も同感です。昨年文化芸術懇話会で講師の百田尚樹さんがこの沖縄の新聞二紙を批判して問題になりましたが、長尾さんも同席していましたね。

長尾 あの百田さんの発言は私が引き金を弾いたのです。私以外の二名の議員は、一般的なメディアの報道の在り方を批判したのですが、私は沖縄における市民運動を隠れ蓑にした反社会的な行動の存在を指摘して、なぜ沖縄二紙はこれを報道しないのかと言ったのです。

元谷 通常は同一地域に二つの新聞があれば、主張が左右に分かれそうなものですが、沖縄の場合は二紙とも同じスタンスです。全国紙は午後にしか到着しないので、多くの人が二紙のどちらかを購読して、同じ考えに染まってしまっています。反基地闘争も、沖縄の利益からというよりも、本土から渡った左翼運動家の扇動によって展開されています。それを新聞二紙が沖縄の世論のように報道している。

長尾 二紙が強いのには別の理由もあります。沖縄にはご先祖を大事にする気風があり、訃報欄の需要が高い。二紙とも見開き二面を訃報欄にしています。これがキラーコンテンツになっているのですね。全国紙が沖縄本島に輪転機を設置して朝新聞が届くようにしても、これが真似できなければ誰も購読しません。

元谷 なるほど。そういう理由もあるのですね。

長尾 またタイムスも新報も、ネット版での報道も行っています。これを世界中の人が見て、沖縄県民の総意だと思い込んでしまう。これも問題です。

元谷 記事の意図的な歪曲も多いですね。集会に集まった数字も、実際に写真を分析してみると、かなり水増しされていることが明らかになっています。また、昨年の「真の近現代史観」懸賞論文で入賞した元在沖縄米海兵隊外交政策部次長のロバート・エルドリッヂさんが告発した二紙の捏造報道も、酷いものです。これを暴くためにエルドリッヂさんは、基地監視カメラの映像を外部メディアに公開したのですが、それを理由に海兵隊を解雇されました。昔であればこの事も話題にならなかったかもしれませんが、法律に詳しくなくて、都知事選挙における事後買収とかで拘留されている田母神俊雄さんが「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を獲得したことが覚醒効果を生み出し、世の中が次第に保守化、沖縄メディアの偏向問題なども大きな話題になるように変わってきました。

働き方改革などの提唱等
安倍政権で変わる自民党

長尾 今の保守への流れの根幹には、第一次安倍政権が掲げた「戦後レジームからの脱却」というテーマがあると思います。最初聞いた時は、全身鳥肌が立ちました。日本経済を世界第二位にまで高めたのは、戦後の政府や国民の力でした。しかし国防をアメリカに委ねた為に、日本という国の形に関する根幹の議論を避けてきたのです。「戦後レジームからの脱却」というのは、このことを正面から見据えた戦後自民党の総括ともいえる言葉で、素晴らしい着眼点だったと考えています。

元谷 私もようやくこういうことが言える世の中が来たのか…と思いました。しかし「戦後レジームからの脱却」と言ったことで、安倍さんに対するアメリカからの風当たりは非常に厳しくなり、結局健康を害して一年で辞任に追い込まれました。しかし、五年後に再び自民党総裁になり首相に。一度辞めた首相が再登板というのは…。

長尾 神がかり的なことだと思います。

元谷 その通りです。実は二〇〇八年の第一回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀となった田母神俊雄さんの論文を、賞の一般への発表の前に安倍さんにお見せしたのです。そして首相への再登板は難しい以上、そしてこういう親米保守ではなく真正保守の動きが出てきている以上、これから真正保守の会を作るので、ぜひ会長に就任して欲しいと安倍さんに頼んだのです。私は安倍さんが最初に首相になる前に、「安倍晋三を総理にする会」の副会長でしたから。私の申し入れに対して安倍さんは、数日考えた末に、時期尚早ということで断りを入れてきました。しかし私の考えは良くご存知なので、最初の政権でも二回目の政権でも、私の思うような政策を実現させてくれています。

長尾 そんなことがあったのですね。

元谷 第二次安倍政権における安倍さんは非常に成長していて、プラグマティズム的に政権運営を行っています。「戦後レジーム…」のようなストレートな主張は避け、迂回戦略をとりつつも、少しずつ思っている方向に日本を向かわせつつあります。安保法制やTPP、日韓合意など賛否の分かれる案件も、できるだけ多くの人に理解されるように努めているのがよくわかります。次の大きな課題は憲法改正です。これも多くの人が支持をしてくれる案件から、まず一度改憲を実現させるというアプローチで進めると思います。そして何度かの改正を経て、今掲げているような憲法改正案に近づけていくことになるでしょう。やはり衆参両院の三分の二の議員の賛成による発議と、国民投票による過半数以上の賛成というハードルは非常に高いものです。特に国民投票では、全国に組織を持つ九条の会などが、強力な反改憲キャンペーンを行うでしょう。改憲のためには次の参院選が非常に重要ですし、衆参同時選挙の可能性も私はまだあると考えています。

長尾 おっしゃる通りだと思います。国民投票になると、護憲派は死に物狂いで反対するでしょう。

元谷 それをメディアが過剰に報道するはずです。これに打ち勝たなければ、改憲は実現しないでしょう。

長尾 憲法改正にしても、また五月二十七日に実現することになったオバマ大統領の広島訪問にしても、安倍首相は外堀から埋めるように丁寧に物事を進めています。国会運営を見ていても、そう感じますね。

元谷 第一次政権にはなかった我慢強さを感じます。

長尾 私の専門である厚生労働の分野でもこれまで自民党が採用しなかった概念、例えば働き方改革、女性なども含む一億総活躍社会などを提唱しています。自民党は大きく変わってきていますよ。

トランプ氏の登場は
改憲議論の良いきっかけ

元谷 日米関係の話に戻しますと、私は真の日米友好関係を築くためには、アメリカが原爆を投下した真の目的を日本が認めてあげることだと考えています。その真の目的とは、第三次世界大戦という熱戦を冷戦に変えたことです。先の大戦末期、ナチス・ドイツを打ち破るために、アメリカはソ連に多大な軍事援助を行い、結果ソ連を軍事的なモンスターにしてしまいました。このままではヨーロッパやアジア、アフリカまでがソ連によって共産化されてしまう。この世界赤化を防ぐために、様々な工作によって投下の理由付けを行った上で、ソ連への牽制として日本に原爆を投下したのです。これを日本が認めてあげれば、アメリカも日本を悪い国にする必要性を失い、南京大虐殺や従軍慰安婦を豊富な証拠によって積極的に否定する側に回ってくれるでしょう。日本とアメリカの距離がぐっと縮まるはずです。

長尾 非常に鋭い分析だと思います。今回のオバマ大統領の広島訪問について、謝罪をしないのであれば来る意味がないと言う人がいます。気持ちとしては私も同感ですが、政治的対応としては少々違うと思う。戦後七十年も経ったのだから、どちらが悪いのかという議論は総括を避けてきた双方のしこりが、将来に向けた行動を起こすことが重要です。

元谷 そうですね。そのように未来型の思考を持つことも重要ですが、その前提として本当の事を知る必要があります。戦後日本を占領したアメリカは、プレスコード(新聞編集綱領)で報道を縛ったり、公職追放で真実を知る二十万人の日本人を表舞台から消し去ったり、日教組を作り偏向した歴史教科書を使用した教育を実行したりしました。全ては原爆を投下したアメリカがいい国で、投下された日本が悪い国であり続けるためだったのですが。

長尾 その点GHQは占領政策のプロ集団であり、非常に緻密に様々な施策が進められたと思います。

元谷 日本が日露戦争に勝った直後から、アメリカは対日戦略を練っていましたからね。

長尾 オレンジ計画ですね。アメリカの太平洋での覇権確立のためには、日本が目の上のたんこぶだったからでしょう、

元谷 その通りです。共和党の大統領候補であるトランプ氏が日米安保は片務的で、アメリカが攻撃されても日本に防衛義務がないのはおかしいと主張しています。しかし彼はわかっていない。日本国憲法と日米安保は、日本が再び軍事大国にならないように、そしてペリー来航からの悲願だった太平洋の覇権の維持のためアメリカが作り上げた「軛のセット」なのです。しかし根本的に考えれば、トランプ氏の言っていることは真っ当で、日米安保は双務的にならなければ。もし彼が大統領に就任することになれば、日本はそれをチャンスとして憲法改正を行い、専守防衛ではなく攻撃力を持ち抑止力を重視した形での再軍備を整えていくべきです。

長尾 私も同感です。トランプ氏の存在は、日本にとって改憲や再軍備議論の良い切り口になると思います。専守防衛という言葉は聞こえはいいですが、必ず最初に誰か日本人が犠牲にならないと反撃できないという意味です。この「誰か」になりたいと思う人がいるでしょうか。私には人ひとりの命を軽んじているとしか思えません。

元谷 戦後の「刷り込み」によって、普通に考えればわかることに気が付かなくなっているのです。

長尾 しかし今はインターネットというツールがあります。ネット上には真実も嘘も玉石混交ですが、人々が情報の目利きになることができる環境であることは確かです。

元谷 自分で調べることができるのが大きいですね。それによって覚醒する可能性があります。ソ連崩壊の一因はビデオの普及だったという説があります。放送されない西側の豊かな生活をビデオで見てしまったことが、体制への不信に繋がったというのです。今はこの役割をインターネットが果たしています。いずれは「護憲」という洗脳状態からの主張を、世の中の大半の人がおかしなものと看做すような時代が来ると思います。

長尾 スポンサーが付いているテレビやラジオなどのメディアの報道が、どこかがおかしいとサイレントマジョリティが気付き始めています。彼らの出番を作るのが私達政治家の役割です。しかしこの辺りは左翼勢力の方が上手いですね。左翼は活動家が多く、保守には評論家が多いようです。

組合費の天引きを禁止して
左翼の資金源を断つべきだ

元谷 世の中を真っ当にするアイデアの一つなのですが、労働組合の組合費の給与からの天引きを法律禁止するという手があると思います。

長尾 正に左翼が手を入れられたくないのは、そこです。私もサラリーマンを長くやっていましたからわかるのですが、普通の給料取りは所得税など天引きされている額に注意していません。支払った税額もわかっていないので、税の使い道にもうるさくない。アメリカのように、サラリーマンも確定申告をすべきではと民主党の集会で発言したことがあるのですが、ものすごい反発を受けました。それで組合費の天引き問題はアンタッチャブルだと感じましたね。

元谷 この天引きで左翼は資金を持っています。だから動員力もある。デモの参加費やバス代に使っています。保守にはこういう資金力はありません。

長尾 沖縄で私達保守のデモと左翼のデモがすれ違ったことがあります。ある夫婦が間違って左翼のデモから保守のデモに紛れてしまった。その夫婦が帰り際に「日当を下さい」というので、私達も彼らが紛れてきたということがわかったのです。左翼のデモはお金で駆り出されている人が多い。

元谷 まずは天引きされた組合費の用途の明確化を求める法律を作るべきでしょう。政治資金よりもよっぽど不明瞭ではないでしょうか。次にそんなことに使用される組合費自体を問題化して、天引きを禁止するという二段階で攻めるのがいいと思います。

長尾 給与所得者の納税意識を高める意味でも、よい切り口だと思います。考えてみると、保守のサイレントマジョリティが表にでるきっかけとなったのが、田母神論文でした。あれを読んで、私もずっとそう考えていたという人が、どんどん出てきた。保守運動のエポックメイキングな出来事だったと思います。

元谷 次の転換点は今年の選挙ではないでしょうか。ここで改憲勢力が三分の二の議席を確保できるかどうかです。安倍政権で改憲ができなければ、この先いつできるかわかりません。私はラストチャンスだと思っています。自民党の党則を改正して、安倍首相の任期を二期六年ではなく三期九年に伸ばしてでも達成すべきです。その次は誰か。私は勝兵塾から大臣と首相を出すと明言してきました。そして昨年、馳浩さんが文部科学大臣になりました。次の首相に期待しているのは、稲田朋美さんです。安倍首相には九年の長期政権を目指して、党内を取りまとめていって欲しいのですが。

長尾 魑魅魍魎が跋扈する霞が関と永田町では、バランス感覚が非常に重要です。安倍政権がこれまでの政権と異なるのは、官邸の力がいい意味でバランス良く強大だということでしょう。権力を振りかざすのではなく、その怖さを知りながら政権運営を行っています。また二〇一四年に内閣人事局が発足して、官僚の人事は今官邸が抑えています。これはあまり評価されていませんが、凄いことです。

元谷 それだけの実績を上げている安倍政権ですから、今年の選挙にも勝って、ご褒美として任期の延長を。あと二年数ヶ月では少なすぎます。安倍政権を長期政権にして、ぜひ憲法改正を達成して欲しい。長尾さんにもサポートをお願いしたいと思います。

長尾 わかりました。私も国会議員としてはまだまだ成長途上ですので、経験を積んでそのような立場になれるよう、頑張ります。

元谷 最後に「若い人に一言」をお願いしているのですが。

長尾 次の国政選挙から選挙権年齢が18才以上へ引き上げられました。選挙権はもちろんのこと被選挙権を行使するという気概を持って欲しいですね。江戸時代は武士の家系でないと政治には関与できませんでした。また最近まで特定の層の人々が政治を動かしてきましたが、今は違います。私の父はサラリーマンでしたし、私もかつてはそう。親が政治家でなくても、いろいろなバックボーンを持った人が政治家になれる環境が整ってきました。誰もが日常生活の中で法律に接して暮らしていますし、政治はもっと身近なものであるべきなのです。若い人の中から、選挙に出てみようという人が増えてくれば、もっと良い世の中になると思います。

元谷 昔は末は博士か大臣かと言われましたが、今はどうか。数万円のお金の使い道のような細かいことで責められるのは御免だという人も多いでしょう。もっと世の中が鷹揚になって、政治に夢を感じる人が増えるといいですね。

長尾 そうですね。若者はもっと大きくダイナミックに。私もまだ若いですから、そうあるべく先頭に立って頑張ります。

元谷 期待しています。今日は本当にありがとうございました。