トランプVSクリントンに
今年は四年に一度のオリンピックイヤーだ。ブラジルのリオデジャネイロで行われる今回のオリンピックは、会場工事の進捗の遅れやルセフ大統領の弾劾などで、円滑な開催が危ぶまれている。また今年は四年に一度のアメリカ大統領選挙の年でもあるが、こちらは大混戦が必至だ。
三回結婚し、四回破綻し、三回大統領選に挑んだドナルド・トランプ氏は、泡沫候補扱いだったのに、今や大番狂わせで、共和党の大統領候補となることが確実視されている。彼は共和党主流派に沿うような真っ当な政策を主張しても予備選挙に勝てないと判断し、極端な政策を口にすることで世の中の注目を集める戦略をとった。メキシコとの国境に壁を造って、費用はメキシコの負担にとか、イスラム教徒のアメリカ入国を禁止すべきとか、日本や韓国、ドイツに駐留するアメリカ軍の費用を、被防衛国が全額負担せよとか、日本や韓国に核武装を認めるべきなど、これまでの大統領や大統領候補、ワシントンのエスタブリッシュメントが決して口にしなかったことを公言することで多くの支持を集め、有識者達の事前の予想を大きく越える勢いで、全米各州での予備選挙を勝ち進んできた。世の中では常に、豊かな人は少数派で、貧しい人が多数派だ。エリートも少数で、ノンエリートが多数だ。金持ちやエリートが多数いるならば、彼らは決して金持ちやエリートとは呼ばれないだろう。民主主義体制下では、少数派も多数派も一人一票に変わりはない。多くの貧しい人とノンエリートの心をどう掴むかを考えたトランプは、意図的に現代の普通の政治家が口にできない、「ポリティカル・コレクトネス」(政治的に正しい用語)に反するが、本音の部分で人々の共感を得られる政策を主張することで、予備選挙を制してきた。
次の相手となる民主党の大統領候補は、ヒラリー・クリントン氏になることがほぼ確定している。民主党にも大番狂わせがあるとしたら、今FBIが捜査の最終段階に入ったと報道されているメール問題で、彼女が刑事告発されるなど、致命傷を負った場合だけだろう。今の世論調査では、クリントン氏の方が優勢だ。トランプ氏が勝つためにはこれまでとは異なり、実現可能でアメリカの国益に沿う正論を主張して、真っ当な形でのディベートで優位に立たなければならない。そのためにも、トランプ氏の政策ブレーンと副大統領候補の選定が非常に重要になる。
日米安保の本当の役割
日米安保条約が片務的だと問題視したトランプ氏だが、彼は日本国憲法とセットになっている日米安保の真の意味を理解していない。
憲法と安保の背景にあるのは、先の大戦で日本があまりにも強かったことと、原爆投下の呪縛だ。先の大戦末期、ナチス・ドイツを倒すべく、アメリカによって行われた膨大な対ソ軍事援助によって、ソ連は軍事的なモンスターとなっていた。このままでは、ソ連は陸続きのヨーロッパ、アジア全てを共産化する世界赤化に乗り出し、それを巡って第三次世界大戦が勃発、一千万人以上の人々が犠牲になると考えたアメリカは、議会機密費によって開発していた原爆を、ソ連に対する威嚇として、戦争中になんとしてでも使用する必要があった。そのためには完成までの時間と原爆投下の理由がいる。日本が国体護持のみを条件に降伏する意志があることを知ったアメリカのバーンズ国務長官は、ポツダム宣言から日本の国体を保証する項目を削りわざと戦争を長引かせ、原爆開発の時間を稼いだ。また原爆だけが悲惨なのではなく、戦争そのものが悲惨なのだと主張するために、木造家屋の実験場まで造ってシミュレーションを重ねた上で東京大空襲を実施、周囲を焼夷弾で爆撃して人々の退路を絶ちその内部に絨毯爆撃を行って、通常兵器でもたった一晩で十万人もの犠牲者が出ることを示した。さらに、制海権も制空権も握っている以上、特に占領する価値が少なく、二万人もの日本軍が地下陣地を造り、背水の陣を敷き、立てこもる硫黄島への海兵隊の上陸作戦を敢行し、先の大戦で唯一日本軍よりも多い二八、六八六人の戦死傷者を出した。日本本土決戦になれば、百万人ものアメリカ軍将兵が戦死傷するという推論を裏付けするために、硫黄島の戦いが行われたと考えられる。今でもアメリカには、百万人のアメリカ兵を救うためには、原爆投下はやむを得なかったと考えている人が多数存在する。
ベルリンを陥落させた数千両にも及ぶ戦車から成る機甲部隊で、ヨーロッパ全域への進撃体制を準備していたソ連だったが、正にこれらを一撃で壊滅させるオフセット戦略が可能な原爆が実戦に使用されたために、起こるはずだった第三次世界大戦という「熱戦」は「冷戦」へと変わった。四十五年後、その冷戦にソ連が敗北した最も大きな要因は、技術革命だった。ビデオの普及で、西側諸国の豊かな暮らしぶりを知ると共に、アメリカのレーガン大統領が仕掛けたスターウォーズ計画で、莫大な軍事予算の必要な軍拡競争による戦費の調達についていけなかった事と、コンピューター技術やインターネット等の急速な情報技術の発展に、ソ連は技術的にも経済的にも耐えられなくなり崩壊した。一方、日本は冷戦時の朝鮮戦争、ベトナム戦争などを通じて冷戦の漁夫の利を得て、また家電から自動車、IT製品などの民生技術で世界を席巻し、世界第二位の経済大国となった。これを支えたのが、アメリカが作って日本に与えた、平和憲法とも呼ばれる日本国憲法と日米安保のセットだ。軍事的にアメリカが守ってくれたことで日本は防衛費を膨張させることなく、経済大国への道を突き進むことができた。また在日米軍は東アジアの安全を守り、中国やロシアに睨みを利かせるための要石であるのと同時に、日本が再び軍事大国化しないよう抑えこむ軛の役割も担ってきた。さらに軍需産業の要請もあったが、アメリカはこれまで、莫大な費用と時間と人命を費やして、朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争などを戦い、世界覇権、特に太平洋における覇権を維持してきた。従って、そのアメリカが太平洋から撤退することはあり得ないのである。トランプ氏はこの仕組みが解っていない。
アメリカは戦後も原爆投下を正当化するために、アメリカはいい国であり、日本は悪い国だという刷り込みを占領下の日本国民に対して行った。東京裁判やGHQが作った日教組の指導で作成された歴史教科書によって、日本人に自虐史観が植え付けられ、GHQが定めた三十項目のプレスコード(新聞編集綱領)に縛られて、メディアは自虐史観に従った報道を繰り返した。占領当時の調査で二十万人の人口だった南京で、三十万人の虐殺が行われたと言うのだが、その一カ月後には人口が二十五万人に増えていたという、到底あり得ない「南京大虐殺」や、一つの記録も記事も残っていない「従軍慰安婦二十万人強制連行性奴隷説」などの捏造の歴史が流布された。そもそも日本は侵略国家ではなく、アジアを侵略して植民地としていた欧米列強から、アジアの人々を解き放った解放国家だ。GHQはそういった正しい歴史認識を持っていた知識人、二十万人の日本人を、公職追放として世の中から抹殺し、日本の正しい考えや歴史を伝える
七、七六九種類もの書籍を焚書にして、日本人の洗脳を行った。今も日本は、米国に植え付けられたこの自虐史観に苦しんでいる。
衆参同日選挙を行うべきだ
戦後七十年間に亘って、アメリカは日本を独立国家ではなく、従属国家として扱ってきた。日本国憲法と日米安保に縛られた自衛隊は、他国に対する攻撃用兵器を一切持たない、あたかも植民地軍だ。日米安保は片務的だ、在日米軍の駐留費は全て日本が負担すべき、さもなければ撤退する、また日本の核武装も容認すると主張するトランプ氏が大統領になることは、日本にとっては自国の防衛を自国が行う、真の独立国家へと歩み始める大きなチャンスだ。そのための第一歩は、もちろん憲法改正となる。
硬性憲法である日本国憲法の改正のハードルは高い。救いは安倍政権の支持率の高さである。熊本地震で衆参同日選挙が遠のいたとの見方もあるが、私はそうは思わない。安倍首相は東日本大震災級の天災やリーマン・ショック級の経済変動が起こった場合には、来年四月に予定されている消費税の一〇%への増税を凍結するとしていたが、熊本地震に加え、円高・株安が進行する現状は、これらに匹敵する状況だ。消費税増税の凍結を決意し、国民の信を問うという形で衆参同日選挙に打って出るべきではないか。衆議院の改憲勢力の議席数は少し減るかもしれないが、必要な三分の二は確保できる。そして今足りない、参議院での三分の二の議席が、衆参同日選挙によって確保できる可能性は高い。衆参ともに改憲勢力が三分の二の議席を確保できれば、憲法改正の発議ができる。発議の後は、十八歳以上の国民による投票で、過半数の賛同を得ることが必要だ。状況によっては、いきなり憲法第九条や第九六条の改正という、真正面からの憲法改正の発議も必要かもしれないが、一度国民投票で否決された改憲案について、再度発議するのは非常に困難だ。憲法前文や緊急事態条項など、明らかに時代に合わなくなってきている憲法の不備を正す事等、多くの人が賛同できる改正から行うべきではないか。まずは日本国憲法が不磨の大典ではないことを示し、その後の更なる改正への道をつけるべきだ。
そして世論を高めた後、憲法第九条を改正して、独自の攻撃力を持つ精強な軍隊を持たなければならない。独立国は自分の国は自分で守るという気概を持ち、それにふさわしい軍備を持つべきなのだ。もしトランプ大統領が誕生し、アメリカ軍の駐留費全額を請求してきたら、日本は「では日本から撤退してください」と言って、米軍基地跡地を自衛隊の基地にすればいい。もしくはビジネスライクに考えるのであれば、駐留費を負担する代わりに思いやり予算は全額カット、さらに国有地や都道府県所有地にある、米軍基地の地代を請求すれば、トランプも飲まざるをえないだろう。
一八五三年のペリー来航以来、太平洋を握ることはアメリカの悲願であり、在日米軍の全てが撤退することはあり得ない。ペリーが浦賀に来航したのは、太平洋の覇権を握ることが最大の目的であり、ペリーは大砲の威力を背景に江戸幕府に開国を迫ったのである。その証拠に、終戦後、ミズーリ号での降伏文書の調印式では、ペリーが来航したときに使用していたサスケハナ号の星条旗が掲げられていた。
アメリカは東部13州からスタートし、マニフェスト・デスティニー(明白なる天命)に従って、西部開拓を行った。すなわち、無人の荒野を進むが如く、インディアンを虐殺、駆逐していったのである。さらに西海岸に到達した後は、太平洋に進出するため、メイン号を自ら爆破したのをスペインの仕業に見せかけ、「リメンバー・メイン号」と国民を煽り、米西戦争を起こしてキューバやプエルトリコ、グアム、フィリピン等を占領した。さらに、アメリカは日本を戦争に追い込み暴発させ、「リメンバー・パールハーバー」と国民を煽って戦争を起こし、念願の太平洋覇権を手にしたのである。これもトランプ氏が理解していないことの一つだ。
トランプ勝利の鍵になる
日本はGDPの一%を防衛費の基準にしていて、これは約五兆円だ。一方のアメリカは、二〇二一年まで毎年、年間五兆円の防衛費の削減を行うことを公言している。在日米軍の縮小、撤退は、いずれにせよ不可避なものだ。そのために生じる力の空白を日本が憲法を改正して埋め合わせることが、東アジアの平和と安定の為に不可欠となる。一億総活躍社会のGDP六百兆円の目標を達成できれば、その一%の六兆円を防衛費に充てることができる。攻撃こそ最大の防御であり、同じ防衛費でも防衛的な装備から攻撃的な装備に当てる予算を増やすことで、大きな抑止力を得ることができる。防衛的な装備として、自衛隊はイージス艦などミサイル防衛システムを保有しているが、日本を攻撃する勢力が飽和戦略を採用、日本の迎撃力以上のミサイルを発射した場合には、日本は全てのミサイルを防ぐことはできない。迎撃しきれなかったミサイルの中に、核弾頭を持つものがあれば、日本は壊滅的な被害を受けることになる。防衛的な装備だけでは防衛はできない。これらの防衛的兵器に自衛隊が莫大な予算を充てているのは、アメリカの軍需産業が日本の世論操作を通じて行う提案を受け入れているからだろう。攻撃的な兵器、極端な例を挙げれば、核弾頭を装備したミサイルを数発でも保有すれば、日本に対する核攻撃の恐れは無くなる。
現実的な予想として、今の状況では「トランプ大統領」がどんなに望んだとしても、太平洋の覇権維持のためには、沖縄の在日米軍の撤退や日本の核保有は、軍や議会の大反対によって認められないだろう。しかし日本はもっと先を見越して、真の独立国家となるべく、憲法を改正して攻撃用兵器を持ち、アメリカ軍の力が縮小していく中で東アジアのバランス・オブ・パワーの維持に備えるべきだ。膨張する中国に対してバランスをとるべく、アメリカがぎりぎり承認できる核保有方法である「ニュークリア・シェアリング(核の共有)」を日米間で協定し、かつての日英同盟のように、日米安保を双務化することが必要だ。孤立主義へと向かっているアメリカ世論も、このような形であれば、東アジアにおいて、日本がこれまでのアメリカの力の肩代わりをすることを認めるのではないか。実際アメリカからの軛は緩みつつある。習近平やプーチンはトランプが大統領になることを恐れているが、彼らはパナマ文書で追及を受け、苦しい立場にある。安倍総理はロシアを訪問し、プーチンに接近している。北方領土はアメリカが四島返還に拘ることで、日本とロシアとの間に争点を残してきたが、安倍総理が「新しい提案」と言っていることから、二島返還等の妥協点を見つけようとしているのだろう。このように日本を取り巻く情勢は大きく変わろうとしている。日本はそろそろ独自の外交を展開できるフリーハンドを手にすべき時だろう。
日本は米ロ中韓に舐められないよう、力のバランスを保つ、抑止力となる攻撃力を身に付けながら、再び世界第二位の経済大国を目指すべきである。そのためには、日本の得意とする先端科学技術と先端医療技術を活かしていく必要がある。さらに、最先端科学技術を使って、核ではないハイテク兵器(レールガンやレーザー砲)を開発していくべきである。フィリピンでは親中派の大統領が誕生した。世界は大きな変わり目にある。これは日本の復興にとってチャンスになる。
東大法学部卒のトップエリートが阿吽の呼吸で連携して守ってきた、官界、法曹界、メディア界を中心とするステルス複合体(戦後敗戦利得者)の化けの皮がはがれてきた。これは広告というかたちで私が大手メディアに初めて「プレスコード」について掲載させたことをきっかけに、その存在を多くの人々が知ることとなったことの影響も大きいだろう。さらに現在は東大法学部の学生は、官界や法曹界に進もうとせず、外資系の投資銀行やコンサルティング会社に就職している。その結果、ステルス複合体の結束が弱まってきた。その背景にはネット社会の到来があり、多くの人々が真実に触れることができるようになり、大手メディアの信頼性が失われたことがある。
このような変化のきっかけになると考え、アメリカ大統領選挙では私はトランプ氏の勝利に期待している。以前、共和党の予備選挙において、私はマルコ・ルビオ氏が候補になることを望んでいたが、彼はまだ若く上院一期生ということで経験も浅く、選挙戦から脱落した。トランプ大統領の次の候補として、八年後に力をつけて再挑戦して欲しい。貧しくて学歴のないノンエリートを扇動して、予備選を制したトランプ氏だが、これからは民主党のクリントン氏との戦いだ。今の民主党は東部の高学歴者と、アメリカの人口の四〇%を占める有色人種からの支持が多い。トランプ氏は、これらの層からの票を得るために、現実に立ち返った主張を行うだろう。例えばTPPについても今反対をしているが、この協定の目的は中国の膨張を抑えることだ。理解を深めれば、トランプ氏も態度を変えるのではないだろうか。さらにトランプ氏は、メキシコとの国境に壁を造って不法移民の入国を防ぐと言っているが、既に入国している移民は認め、さらにその家族や親戚などを含め、緩やかに入国を認めるだろう。なぜなら、アメリカの農業は移民がいないと成り立たないからである。
またクリントン氏は、意外にも女性からの支持が今ひとつだ。トランプ氏は副大統領候補に女性、しかも非白人で、若く魅力的な人物を選ぶだろう。予備選挙でも、美しいトランプ夫人や娘が集票に大きく貢献していた。例えばインド系アメリカ人で、四十四歳のサウスカロライナ州女性知事のニッキー・ヘイリー氏や同じくアラスカ州女性知事サラ・ペイリン氏、予備選で早々と敗退した上院議員ルビオ氏のように、若くて聡明で、共和党主流派の支持を得られる人物を副大統領にするのは、共和党にとっても保険になる。なぜなら、トランプ氏が大統領となり、万一自らの主張に固執した場合には、ケネディの二の舞になりうるからである。ケネディはベトナム戦争拡大に反対していたため、軍産複合体は意のままに動く副大統領のジョンソンを大統領にするためにケネディを暗殺したという説もある。トランプ氏が共和党の意に添わず暴走すれば、トランプ氏は暗殺され、副大統領がそのまま大統領になる。今後どのように展開していくか。アメリカ大統領選の行方に引き続き注目していきたい。
2016年5月16日(月)10時00分校了