日本を語るワインの会267

ワイン267恒例「日本を語るワインの会」が会長邸で行われました。日本への留学経験があり、日本語が堪能な駐日モンゴル共和国大使館特命全権大使のバヤルサイハン・バンズラグチ氏、学生時代には声楽を学んでいた石川県議会議員の太郎田真理氏、一九八四年のロサンゼルスオリンピックのレスリングフリースタイル五七kg級で金メダルを獲得した公益財団法人日本レスリング協会会長の富山英明氏、零歳児から八歳までの六人の子供を持ち、少子化対策等政治問題にも積極的に発言をする評論家の橋本琴絵氏をお迎えし、日本が直面する様々な課題について、語り合いました。
大使の熱烈な要請で
両陛下の訪蒙が実現
 天皇皇后両陛下が七月にモンゴルを訪問したことが象徴しているように、モンゴルと日本の関係は現在極めて良好だ。一九九〇年にモンゴルは社会主義国から民主主義国への転換を図り、その新生モンゴルに西側首脳として一九九一年に初めて訪問したのは、日本の海部俊樹首相だった。この時の取り決めによって、一九九四年にバンズラグチ氏は日本に留学することができた。卒業後日本の民間企業で働いていたバンズラグチ氏だが、その後モンゴル国首相直轄の国家開発庁長官や首相補佐官、駐日モンゴル国大使館の経済貿易担当参事官を歴任、二〇二三年に特命全権大使になった。この年の十二月七日に信任状捧呈式が行われ、その際バンズラグチ氏は天皇皇后両陛下のモンゴル訪問を熱心に要請、それが今年になって実現した。
 中国とロシアに挟まれているモンゴルは、ある意味島国のように孤立しており、同じく島国の日本との関係を非常に重要視している。民主主義国となった後、日本は教育やインフラ建設等様々な面でモンゴルを支援した。二〇二一年に開港したチンギスハーン国際空港は、日本の政府開発援助による円借款によって建設され、成田国際空港・日本空港ビルデング・JALUX・三菱商事とモンゴル政府との合弁会社が空港運営を行っている。モンゴルは非常に観光資源の多い国であり、今後は観光立国を目指しているが、受け皿となるホテルや二次交通の整備はこれからだ。そのためにも、日本との連携の強化がモンゴルの大きな目標となっている。
 駐日モンゴル国大使館では外交官が十三名、テクニカルスタッフを含めて総勢二十七人が働く。ロシア、中国、韓国、アメリカに並び、駐日大使館はモンゴルにとっての五大大使館の一つだ。首都・ウランバートルに近いチンギスハーン国際空港には日本から毎日直行便が飛んでおり、従来のモンゴル航空に加え、この五月にユナイテッド航空の成田〜ウランバートル便が就航した。
 来年サッカーのワールドカップが開催されるが、モンゴルでは皆日本代表チームを応援している。モンゴルには裸になって風呂に入るという習慣がない。アパホテルに団体で宿泊したモンゴルの人々が、服を着たまま大浴場に入ってしまったこともあった。バンズラグチ氏も日本に留学していた時に、父親を日本に呼んで一緒に旅館に宿泊したことがあるが、父親は恥ずかしがってバンズラグチ氏と一緒に温泉に入らなかった。モンゴル周辺の国では、キルギスの人が一番昭和の日本人に近い。キルギスもカザフスタンも元々はモンゴル帝国内の、キリギス族とカザフ族の国だった。中央アジアの人々を見ていると、日本人のルーツがどこかを探求したくなる。
 モンゴルには日本の県にあたる二十一のアイマクがあり、その下の行政区・ソムが三百三十一ある。地方の主要な交通機関は馬であり、小学校に通うのに子供が馬を使う地域もある。伝統的な住居であるゲルは、木の枠の上に羊毛で作った厚いフェルトを掛けたもので、冬にはマイナス三十度になる中でも暖かく、夏は涼しい。意外と長持ちもし、バンズラグチ氏の祖父のゲルは、六十年以上前に建設されたものだ。日本でも今、ゲルにグランピングのように宿泊できるリゾートが増えてきている。
海外で暮らすとわかる
日本という国の良さ
 太郎田真理氏も橋本琴絵氏も海外に留学した時に、日本の良さを強く感じたという。太郎田氏が大学時代に交換留学生として訪れたのはワシントンD.C.とバージニア州だったが、一人では決して歩いてはいけないというエリアが必ずあった。日本では夜であろうが子供であろうが、安全に歩いて移動することができる。橋本氏が留学したのはイギリスだったが、ブレグジット前で移民も多く、大々的には報道されないが窃盗や性犯罪等の話をかなり聞いた。今日本も移民を推進しようとしているが、これには慎重な判断が求められるだろう。富山英明氏もレスリングの大会で、高校時代から世界中を毎年巡ってきたが、やはり住心地が一番いいのは日本だ。食べ物や料理が美味しく治安が良く、交通機関が時間に正確で様々な文化が発展している等、日本以上の国はないように感じている。
 太郎田氏の祖父は陸軍少将で、工兵の連隊長を務めていた。勝兵塾のおかげでそのことを知り、さらに祖父の戦歴を調べ始めた。各都道府県に保管されている戦歴では飽き足らず、防衛省まで行って調べたところ、かなりの情報を得ることができた。改めて日本の国は、このような沢山の人々によって守られてきたことがわかったという。
少子化と指導者不足で
スポーツ界は曲がり角に
 少し前は外国人を含めた観光客が多かったが、最近多くの若い人が靖国神社を参拝している。富山氏が金メダルを獲得したロサンゼルスオリンピックへと出発する直前、レスリング日本代表の監督だった福田富昭氏は、選手達を靖国神社に連れて行き、遊就館の展示を見せ、英霊の犠牲があったから今日の日本が、お前達があるんだと伝えた。さらに続けて「試合を怖いと考えるな。戦争中は皆死を覚悟して戦地に赴いた。お前達は緊張するかもしれないが、決して殺されることはない」と選手を激励した。そして監督・選手全員が英霊に手を合わせた上で、オリンピックの地へと乗り込んだという。富山氏もその時すぐには理解できなかったが、平和であるからこそオリンピックが開催できる幸せを、後になってしみじみと感じるようになった。
 日本の政治家が靖国神社を参拝することを外国政府が批判するのは内政干渉であり、日本国民が批判するのは信仰の自由の侵害だ。首相はもちろん、天皇皇后両陛下や皇族の皆様も是非堂々と参拝して欲しい。全ての人が自由に靖国神社に参拝できるようになれば、日本は復興して素晴らしい国になる。
 二〇二四年のパリオリンピックでは、レスリングで日本は八個の金メダルを獲得した。柔道の三個に比べると、これは非常に大きな成果だった。これまでの金メダルの数だと、柔道が五十一個、レスリングが四十五個、水泳が三十六個でベストスリーになる。このようにレスリングは、日本のスポーツ界をリードしており、三年後のロサンゼルスオリンピックにも期待が持てる。
 富山氏は日本大学生物資源科学部の特任教授という研究者であり、日本レスリング協会会長はボランティアで引き受けている。日本のスポーツ界では野球やサッカー等のメジャースポーツとは異なり、レスリングやウェイトリフティング等のマイナースポーツの財政状況は厳しい。柔道は国技であり、全国の警察官が学び講道館という組織があって、財政的には全く心配がない中、五十一個の金メダルを獲ってきた。レスリングは財政状況が厳しい中でも頑張って、企業等の支援も受けて、四十五個の金メダルを獲得している。特に二〇〇四年のアテネオリンピックから始まった女子の活躍が目覚ましく、前回のパリでは男女とも四つずつの金メダルを獲得した。日本のレスリングが強い理由は、草の根レベルでの活動が活発だからだ。全国に三百もの「ちびっこレスリング」のクラブがあり、高校の高体連では二百四十の学校が加盟、小中高大の連携が上手く機能している。今後は少子化と指導者不足が大きな問題になるが、オリンピックで選手が活躍することが、競技存続の大きな原動力になる。この六月に橋本聖子氏がJOCの会長に就任したが、二〇二一年の東京オリンピック以降スポンサーが減少している。日本のスポーツ界は、今後様々な障害を乗り越えていく局面になっている。
学校教育で「君が代」を
しっかりと教えるべき
 橋本氏は今年三月に六人目の子供を出産した。モンゴルでは四人以上子供を作ると第二等、六人以上だと第一等の勲章が授与される。日本の今の少子化対策は経済的な支援が中心だが、モンゴルのような名誉に着目した施策も効果的ではないか。またさらなる経済的な支援としては、子供が多い家庭の税金を少なくすることも必要だろう。今首都圏のマンションは七十㎡で一億円の高値になっており、これでは子供を作ることに躊躇する夫婦も多いはずだからだ。
 西暦二〇四〇年の皇紀二千七百年まであと十五年。日本をこの間になんとか再興させないと、将来的に中国の自治区になってしまう。様々な式典での国歌斉唱の時に、太郎田氏は必ず大きな声で「君が代」を歌うのだが、同僚の議員はこれを凄く嫌がる。子供によっては、「君が代」をお相撲さんの歌という。大相撲で「君が代」が流れる場面が多いからだろうが、学校の教育がおかしくなっていることの証明だ。太郎田氏は小学生の時に、担任の先生から小学校の校歌と共に「君が代」を学んだ。その時に先生は言葉一つひとつの意味も丁寧に解説し、「さざれ石」は細かい石という意味の一つの言葉だから、「さざれ」の後で息継ぎをしてはいけないと教えてくれた。このような教育が大事だ。昔は当たり前だった祝日に国旗掲揚を行う家もめっきり減ってきて、今では旗を掲げると「右翼」と呼ばれそうな雰囲気だ。世界中どの国でも国旗を大切にしていて、日本のこの風潮は変だ。
 AIの普及に従って教育も大きく変化せざるを得ない。小学校の読書感想文の宿題も、従来の形であればAIに書かせる児童が出てくるので成り立たない。本を読むことが宿題で、実際に感想文を書くのは授業の中で行う等、いろいろな形で考える力をつける工夫が必要になっていくだろう。