今年も開始した
公益財団法人アパ日本再興財団は、今年も四月一日より「真の近現代史観」懸賞論文とアパ日本再興大賞の推薦作品の募集を開始した。アパ日本再興大賞は同財団が主催する勝兵塾の講師特待生等推薦資格のある方の推薦が必要だが、懸賞論文の方は応募要件さえ満たせば誰でも応募することができる。また、懸賞論文の最高賞である最優秀藤誠志賞の賞金は五百万円と、同様の懸賞論文制度の中では破格の賞金となっている。是非多くの方々に応募して頂きたいと思っている。この「真の近現代史観」懸賞論文制度は、二〇〇八年に創設した当初は私が個人で主催したが、その後活動を財団法人化し、二〇一五年六月に公益認定を受けて、現在は公益財団法人による「公益事業」として行われている。
第一回の懸賞論文において、最優秀藤誠志賞を受賞したのは当時現職の航空幕僚長だった田母神俊雄氏の『日本は侵略国家であったのか』と題した論文だった。この論文は、審査委員長だった渡部昇一氏をはじめ、審査委員の方々から高い評価を受けた一方で、現職航空幕僚長が政府見解に反する論文を書いたということで、政界やメディアで大騒動となったことを記憶されている方も多いだろう。この際、田母神論文の全文をアパグループのホームページに掲載していたが、多くの人々はメディアが切り取った論文の一部しか目にしていないだろうと思った私は、田母神氏が参議院外交防衛委員会に参考人として招致される日に合わせて、産経新聞に広告という形で論文全文を掲載した。その結果、ネットは見ないが、新聞によって論文全文を読むことができた高齢の方々から、多数の激励のファックスや電話がアパグループ本社に届いた。
先の大戦について日本の教育は、軍部が暴走して中国をはじめアジア諸国を侵略し、過酷な植民地支配や残酷な虐殺を行ったかのように教え、日本人に日本は悪い国だったという贖罪意識を植え付けてきた。さらにメディアはGHQによる占領政策の一環として行われた言論統制を今でも守り、いわゆる東京裁判史観に反する言論を自ら封じてきた。しかし、田母神論文が大きな話題となり、この論文が多くの人々の目に触れるようになったことで、その後田母神氏が講演者として引っ張りだこに、出版する書籍は軒並みベストセラーとなり、日本人が自虐史観から脱却し、正しい歴史認識に覚醒する大きなきっかけとなった。
その後、最優秀藤誠志賞を受賞した方々も、受賞後に講演活動を活発に行ったり、書籍を出版したりするなどして、日本の保守化に大きく貢献している。私はかつて、保守の言論がどうしても保守の仲間内だけで共有され、保守ではない人々に広がっていかないことに危機感を持っていた。それが田母神論文騒動をきっかけに、保守的な歴史認識が広く一般に、その中でも特に若い年齢層に広がってきたことは、喜ばしいことだと思う。
車の両輪である
私がこの月刊誌Apple Townに連載している「APA的座右の銘」の一つに、「二兎追う者は 二兎共を得る」という言葉がある。私は事業活動の傍ら、日本に誇りを取り戻すための言論活動を行ってきた。かつては「言論活動は事業活動にとってマイナスではないか」と言われたこともあったが、私にとって事業活動と言論活動は車の両輪のようなものであり、事業活動で成功したからこそ言論活動に対する信用を担保することができ、言論活動を行ってきたからこそ、そこで生まれた思想的連帯感が事業活動にも良い影響を与えてきた。
二〇一七年一月にアパホテルに宿泊した学生が、「南京大虐殺を否定する書籍がアパホテルの客室に設置されている」と中国のSNS「微博」に投稿、これが大炎上したいわゆる「書籍問題」が起こった。中国政府までがアパホテルを批判、中国の旅行会社がアパホテルの取り扱いを取り止めるなど過剰な対応も行われた。書籍の撤去やむなしとするメディアもあったが、私は即座に公式見解を発表し、書籍の撤去を否定した上で「事実に基づいて本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています」と表明したが、誰も指摘はしてこなかった。この騒動で中国人の宿泊客は激減したものの、国内からはアパホテルを応援する声を多数頂き、業績に影響を及ぼすことはほとんどなかった。
リスクしかない
今年は戦後八十年となる節目の年である。二月二十八日に配信された毎日新聞ネット版の「石破首相、戦後八〇年談話発表を検討 国際情勢踏まえ平和国家意義示す」という見出しの記事は次のように報じている。「石破茂首相は、戦後八〇年談話を出す検討に入った。二〇一五年八月、当時の安倍晋三首相が戦後七〇年談話を出して以降、ロシアによるウクライナ侵攻などで国際情勢が変化していることを踏まえ、先の大戦を検証したうえで戦後の日本の平和国家としての歩みを改めて国内外に示す意義は小さくないと判断したとみられる。政府関係者が二八日、明らかにした」。
一〇年前の二〇一五年八月十四日に出された当時の安倍首相による戦後七〇年談話が、保守からリベラルまで幅広い層に配慮し、過去の談話のキーワードである「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「お詫び」という言葉を盛り込みつつも、過去の談話と異なる文脈を用いて、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」という一文を差し込むなど、内外の戦争犠牲者に思いを馳せながらも謝罪外交に区切りをつけ、日本が一方的に謝罪するような内容とはしなかった。実によく練られたものだったと、私は高く評価している。それだけに、石破首相がこの安倍談話に上書きするような談話を出せば、我が国の歴史認識が後退することになるのではないかと、私は危惧していた。
しかし、三月二十七日に配信された産経新聞ネット版の「『どれだけ大変か分かっているのか』党重鎮の助言で戦後八〇年談話見送りも検証にこだわり」という見出しの記事は、「石破茂首相は戦後八〇年の首相談話を見送る方針を固めた。一方で、先の大戦の検証は行い、所感も公表する方向だ。『戦後レジームからの脱却には検証が必要』というのが首相の持論だからだ」「『絶対に出すべきではない。安倍晋三(元首相)氏がどれだけ苦労したか分かっているのか』。関係者によると、麻生氏は首相に戦後七〇年談話は安倍氏が半年ほどかけて準備したと伝え、外交上も影響が大きいと説いた」「ただ、首相は戦後の自衛権が限定されている現状への問題意識は強く、『日本の自主独立のためには先の大戦の敗戦は検証が不可欠だ』との強い思いを持つ」と報じた。戦後八〇年談話が見送られたことは幸いであり、リベラルに傾いている今の自民党の中にもこうした抑止力が残っていることは評価したいが、問題は政府主導の歴史の検証である。石破首相の歴史観に加え、有識者会議にどのようなメンバーを選ぶかで、検証の方向性が決まってしまうだろう。
石破首相は「石破茂オフィシャルブログ」において、二〇〇八年十一月五日に「田母神・前空幕長の論文から思うこと」というタイトルの記事の投稿を行っている。「田母神(前)航空幕僚長の論文についてあちこちからコメントを求められますが、正直、『文民統制の無理解によるものであり、解任は当然。しかし、このような論文を書いたことは極めて残念』の一言に尽きます」と田母神論文を否定した上で、「『民族派』の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを『勉強不足』『愛国心の欠如』『自虐史観』と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます」「在野の思想家が何を言おうとご自由ですが、この『民族派』の主張は歯切れがよくて威勢がいいものだから、閉塞感のある時代においてはブームになる危険性を持ち、それに迎合する政治家が現れるのが恐いところです」「加えて、主張はそれなりに明快なのですが、それを実現させるための具体的・現実的な論考が全く無いのも特徴です」と、保守論壇や保守派の政治家をも否定的に捉えている。こうした首相の下での有識者会議で実施される歴史の検証には期待ができないばかりか、周到に準備され高く評価された安倍談話を無効化し、中国や韓国等から歴史認識問題を蒸し返されるリスクしかないだろう。
国益のぶつかり合い
アメリカのトランプ大統領は就任初日から、パリ協定からの離脱やWTO脱退のための大統領令に署名する等、「アメリカ第一主義」を推し進めてきたが、最近はトランプ大統領の打ち出す関税政策に世界は戦々恐々とし、金融市場がすっかり彼に振り回されている。
四月二日にトランプ大統領が発表した「相互関税」では、相手国の関税率や非関税障壁を踏まえて税率を算出、それに応じた国別の一律の関税率を定めており、日本については二四%の関税を課すとした。NHK NEWS WEBは四月三日、「トランプ大統領 相互関税発表 世界各国の反応は?」という記事を配信している。これによれば、三四%の関税を課される中国商務省の報道官は、一方的な相互関税は国際貿易のルール違反とアメリカを批判、対抗措置を講じると表明、関税二〇%のEUのフォンデアライエン委員長は「世界経済にとって大きな打撃」として批判すると共に「対抗措置を取る考えを強調した」という。既に二五%の関税が課されているカナダやメキシコは今回の相互関税の対象外だが、カナダのカーニー首相は「アメリカの関税措置と闘う」とSNSで表明している。一方、日本政府内でも対応が協議されているが、産経新聞が四月三日に配信した記事「『極めて遺憾』『深刻な懸念』林官房長官 米相互関税 日本政府、措置見直し申し入れ」によると、林官房長官は三日の記者会見で相互関税措置を「極めて遺憾」とし、世界経済の悪影響への懸念を表明したが、対抗措置については「具体的な検討状況をつまびらかにすることは差し控える」と曖昧な回答にとどまった。
朝日新聞デジタル版で四月一日に配信された記事「なぜ関税強化なのか トランプ政権ブレーンが語る『改革保守』の真意」は、トランプ政権のブレーンとされる保守系の論客、オレン・キャス氏のインタビューだ。この中でキャス氏は、中国が参加する自由貿易によってアメリカの産業基盤が弱体化したのであり、これを解決するためには関税の強化がどうしても必要だと、政策の背景を説明している。キャス氏は二〇一八年に出版した自著で、「労働者の利益が第一」の政策を提言しており、関税強化もこの一環だろう。トランプ政権の関税強化策は気まぐれでも思いつきでもなく、キャス氏が「真正の保守派」と呼ぶ人々の主張であり、彼はトランプ以後も、ヴァンス副大統領やルビオ国務長官らの次世代の共和党のリーダーがこの「現代化された保守思想」を引き継ぐとしている。アメリカのこの政策が一過性のものではない以上、日本も腰を据えて対応を考える必要がある。相互関税についても日米関係を考えれば対抗措置は難しいが、例えば第一次トランプ政権時に結ばれた日米間の関税を定めた物品貿易協定等をベースに、粘り強く交渉を続けていくべきだろう。
国際社会は国益を巡る力と力のぶつかり合いであり、話し合いの背景には軍事力が必要だ。日本は敗戦国で核兵器を保有しないため、国際社会においてその経済規模に比して発言力は弱かった。さらに日本には憲法九条の足枷がある。日米同盟について、トランプ大統領からは「アメリカは日本を防衛しなければならないが、日本はわれわれを守る義務はないのは不公平だ」と言われたが、日米安保条約が片務的であるのは確かだ。日本がこれから国際社会で強い発言力を持ち、その国益を守っていくためには、日米同盟を片務的なものから対等なものへと進化させ、日本が真の独立国家となることが不可欠である。そのためには憲法を改正し、自衛隊を国軍とすることが大前提となるが、あれだけ選挙に強かった安倍政権でさえも、結局メディアの妨害により改憲案の発議にさえも至らなかった。ましてや今の少数与党の状況では憲法改正は困難であり、ほとんど話題にもならなくなった。これから私達が行うべきことは何か。少し遠回りにはなるが、今の若者に歴史の真実や国際社会の本質を伝えて啓蒙し、真の保守政党が将来力を持つよう促していくしかない。それには私が続けてきた公益財団法人アパ日本再興財団による様々な言論活動が、大きな役割を果たすだろう。日本は歴史上何度も危機的な状況を乗り越えてきた。しばらくは厳しい時代が続くだろうが、いずれそれを乗り越えるだけの力がこの国にはあると信じている。
2025年4月16日(水) 17時00分