Essay

今こそ日米同盟を強化し、真の独立国家を目指せVol.391[2025年4月号]

藤 誠志

活発な活動を開始した
第二次トランプ政権

 この一月二〇日に、トランプ氏は第四十七代アメリカ合衆国大統領に就任した。アメリカのメディアの多くは民主党寄りで反トランプであるため、メディアによってトランプ氏がとんでもない大統領のようなイメージが創られ拡散されているが、トランプ氏は「ビジネスマン」に例えられるように、その考え方は極めて合理的であり、彼が掲げるアメリカ第一主義を実現するためにディールをしているに過ぎず、過度に恐れることはない。
 トランプ氏は大統領に就任すると同時に、「トランプ大統領の米国第一の優先事項」を発表した。その内容が、一月二十一日付のJETROのHPのビジネス短信に「トランプ米大統領が就任、優先政策分野を発表」のタイトルで紹介されている。「『米国を再び安全に』『米国を再び手頃な価格でエネルギー大国に』『既得権益の一掃』『米国の価値の復活』の四項目にわたって、トランプ大統領が優先的に取り組む政策分野が示された。最初の『米国を再び安全に』では、国境の壁の建設、不法入国者に対する亡命の廃止など、主に不法移民対策を掲げた。トランプ大統領は、選挙期間中から強硬な不法移民対策の必要性を繰り返し訴えていた。共和党の政策綱領で示された『速やかに達成する二〇の約束』でも、『国境を封鎖し、移民の侵入を阻止する』『米国史上最大の強制送還作戦を実行する』を最初の二つに記載しており、政策的優先度の高さがうかがえる。『米国を再び手頃な価格でエネルギー大国に』では、エネルギー緊急事態の宣言やパリ協定からの再度の離脱などを示した。『既得権益の一掃』では、『必要不可欠な分野を除いて官僚の採用を凍結する』『バイデン政権で発表された、まだ発効していない負担の大きい急進的な規制を一時停止する』などと記載した。一般的に、大統領令で定められた規則は大統領令で撤回可能であるほか、一定期間内であれば、政府が制定した規則を連邦議会による承認の下で失効させられる議会審査法(CRA)もある。『米国の価値の復活』では、『男性と女性を生物学的な現実として確立し、急進的なジェンダーイデオロギーから女性を守る』と記載した」「通商政策については、『米国を再び手頃な価格でエネルギー大国に』で、『米国第一の通商政策を発表する』との記載にとどまった。トランプ大統領は就任演説でも、『私はただちに、米国人労働者と家族を守るために貿易システムの改革に着手する』と述べたが、具体的には『全ての関税、税、収入を徴収する外国歳入庁を設立する』と述べたのみで、全ての輸入に一〇~二〇%の関税を課すベースライン関税、メキシコやカナダに対する追加関税、中国に対する追加関税率の引き上げなどについては触れなかった。就任初日には追加関税を課す発表はせず、米国の貿易赤字の恒常化を緩和し、他国による不公平な通商政策、為替政策についての調査や、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)および二〇二〇年に発効した中国との第一段階の経済・貿易協定の順守状況の評価などを指示する、と報道されている(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版二〇二五年一月二〇日)」という。
 しかし二月一日にトランプ大統領は、カナダとメキシコに二五%、中国に一〇%の追加関税を課す大統領令に署名した。この関税措置が四日に発動するということで、二月三日月曜日の市場では、日経平均が千円を越す下げになったのをはじめ、世界中で大きく株価が下がった。しかし三日にトランプ大統領はメキシコのシェインバウム大統領、カナダのトルドー首相とそれぞれ協議を行い、関税の発動を三十日間延期することで合意、株価は世界的に落ち着きを取り戻した。しかし追加関税が発動された中国は、アメリカからの石炭やLNG、トラック等への追加関税や、レアメタルの輸出規制等の報復措置を発表している。アメリカと中国の貿易戦争の行方は、今の段階では全く見通せない。

アラスカのLNG開発支援は
日本の打ち出した「好手」だ

 日本政府の動きについて日本経済新聞の電子版は、二月二日付で「トランプ氏の年内来日、日米首脳会談で要請へ」という見出しの記事を配信している。「石破茂首相がトランプ米大統領との会談で年内の来日を求める見通しとなった。防衛力強化の取り組みや、日本が米国への最大の直接投資国であることも説明する。米国からの液化天然ガス(LNG)輸入拡大に前向きな考えを示す」「日米首脳は七日にワシントンで会談する予定だ。一月二〇日にトランプ氏が大統領に就いた後、初の首脳会談となる。安全保障だけでなく経済や技術など幅広い分野での協力を通じて日米同盟の深化を狙う。会談後に共同声明を発表する調整を進めている」「首相は首脳会談で米国産シェールガスを含むエネルギーの米国からの輸入拡大を議題に取り上げる構えだ。石油・天然ガスの増産をうち出したトランプ氏に呼応する」という。
 このLNGに関しては、既にロイターが一月三一日付で「アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トランプ米政権が関心」というタイトルの記事をHPに配信している。「トランプ米大統領が意欲を示す四四〇億ドル(六・八兆円)規模のアラスカ州のガス開発計画に、日本政府が支援する可能性を議論していることが分かった。米国の貿易赤字を問題視する新政権との摩擦を防ぐ狙いがある」「関係者の一人によると、日本側は米国の対日貿易赤字五六〇億ドルを削減し、トランプ政権から関税を課せられるリスクを払しょくしたい考え」「トランプ政権と向き合う上でのカードの一つとして検討されているという」とする。トランプ大統領は関税を武器に、「ディール」を持ちかけてくる。アラスカのガス開発を巡る日本側の対応は、トランプ大統領の要請に応えつつ関税を回避しようというもので、私は評価できると思う。

追加の経済制裁によって
露に停戦を迫るトランプ

 このように通商問題では強硬なイメージがあるトランプ大統領だが、前政権時にはロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記とも会談し、必ずしも強硬姿勢一辺倒だったわけではない。むしろ、カーター元大統領以来、新たに戦争を始めなかった初のアメリカ大統領という側面も持っている。「ディール」という形で外交面での相手の妥協を引き出しつつ、軍事力の使用等強硬な対応は極力避けてきたと言えるだろう。トランプ大統領は以前から「自分が大統領であれば、ウクライナ戦争はなかった」「(ウクライナ戦争を)二十四時間以内に解決する」などと発言していたが、BBC NEWS JAPANは一月二十三日付で「トランプ氏、ウクライナでの『ばかげた戦争』停止をプーチン氏に要求 応じなければ追加制裁と警告」という記事を配信した。「アメリカのドナルド・トランプ大統領は二二日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナでの戦争を終わらせなければ、ロシアに高関税と追加制裁で対応すると警告した」「トランプ氏は二一日の記者会見で、プーチン氏と『とても近いうちに』話をするつもりだと述べ、プーチン氏が話し合いのテーブルにつかない場合は追加制裁を加えるという展開が『あり得る』と話していた」「二二日には、さらに踏み込んだ内容をトゥルース・ソーシャルに投稿。『経済が後退しつつあるロシアとプーチン大統領に、とても大きい手助けをしてあげるつもりだ』とした」「『今すぐ和解して、このばかげた戦争をやめろ! もっとひどいことになるだけだ。「取引」しないなら、それもすぐにしないなら、私は、ロシアがアメリカやほかの様々な参加国に売るものすべてに、高い水準の税金、関税、制裁を加えるしかなくなる』」「さらに続けて、『自分が大統領だったら、そもそも始まらなかったはずのこの戦争を終わらせよう! 今こそ「取引をまとめる」時だ』とも、大統領は書いた」と報じている。このように、トランプ大統領はウクライナ戦争をも「ディール」によって停戦させようとしているが、既にアメリカはロシアに対して、かなりの経済制裁を実行している。果たしてこの「ディール」が上手くいくのか、先行きは全く不透明だ。

増額する防衛費は
軍事産業育成に使うべき

 トランプ大統領は前政権で、安全保障の分野でも同盟国に対して大幅な負担の増加を求めたが、今回も同様のことが起こると考えるべきだろう。トランプ政権においても日本はアメリカにとって最重要な国のひとつであることには変わらないが、応分の負担を求めてくることは間違いない。防衛予算については、十二月二十七日に日本経済新聞が「防衛予算案、最大の八・七兆円 トランプ政権で増額圧力も」という見出しで、以下のように伝えている。「政府が二七日に閣議決定した二〇二五年度の防衛予算案(米軍再編経費など含む)は過去最大の八兆七〇〇五億円になった。反撃能力の整備に必要な装備品の取得経費や自衛官の処遇改善費を確保した。防衛力の強化方針に沿い、予算は年一兆円ペースで拡大している。トランプ米次期政権の発足で再増額の圧力が増すとの見方もある」「NATOは加盟国が投じる国防費目標を三〇年までに三%に引き上げる案を検討しているとされる。英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は、トランプ氏が五%に引き上げるよう要求する意向だと伝えた」「国防総省のナンバー3にあたる国防次官(政策担当)に就く見通しのエルブリッジ・コルビー元国防副次官補は、日本に対して防衛費をGDP比で三%に増額すべきだと主張してきた人物だ。トランプ氏自身も一期目(一七~二一年)に日本の防衛費の増額を迫った経緯があり、二期目も同様に増額を要求される可能性がある」という。
 日本は岸田政権時代に二〇二七年度に防衛費をGDP比二%に増額することを決め、段階的に増額しているが、これでは足りないということになるかもしれない。ただ、防衛費を増額するにしても、その増額分の全てをアメリカからの武器の購入や在日米軍の駐留経費に充ててはいけない。独立国家となるためには軍の独立性が必要条件であり、そのためには武器の独立性が必要である。我が国においても、国産の武器の購入を増やし、武器の輸出を振興することで軍事産業を育成し、独自の武器を持てるようにしていく必要がある。

日米同盟を互恵関係に
自衛隊を軍隊に変える

 また、二〇二二年十二月に発表された、いわゆる安全保障三文書において、「反撃能力の保持」が記され、予算案においてもそのために必要な予算が計上されている。しかし、「専守防衛」という非現実的な理念の下、現行憲法との関係で自衛隊のできることに制約を受ける状況で、有事の際にどこまで反撃能力を行使することができるか疑問である。そもそも日本政府はこれまで近隣諸国との争いを避け、領土問題に対して消極的な対応しかしてこなかったと言える。その結果が竹島の韓国による実効支配であり、尖閣諸島周辺で繰り返される中国による領海侵犯だ。他国に対して毅然とした態度が取れないようでは、いくら武器を揃えても実効性は乏しいだろう。
 こうした現実を変えたいという思いから、私は事業活動の傍らで、「誇れる国、日本」の再興を目指すための言論活動に力を入れてきた。正しい日本の近現代史を知り、自国に自信と誇りを持つとともに、国際社会の現実を知り、我々が今何をすべきかを考えなければならない。その上で、親米派でも親中派でもない、日本派の政治家を選挙で選び、我が国の国益のために官僚も働くような国造りをしていく必要がある。憲法第九条があっても、平和を唱えても日本の安全は保障されない。日本が他国の攻撃を受けたとき、日本人が率先して戦う姿勢を見せなければ、いくら日米同盟があってもアメリカが日本人のために戦ってくれるはずもない。日本が攻撃を受けたらアメリカが助けるというのなら、アメリカが攻撃を受けたときは日本も助けなければ、真の対等な同盟関係とは言えない。そして、対等な同盟関係なくして真の独立国家と言えるだろうか。こうしたことを可能にしていくためには現行憲法を改正し、自衛隊を軍隊として位置付ける必要がある。
 トランプ大統領の誕生によって、今後我が国も厳しい要求を突き付けられることもあるだろう。しかし、日本はアメリカにとって最大の直接投資国であり、安全保障においても重要なパートナーだ。日米間の「ディール」によって、着地点を見出すことは可能だろう。一方、我が国にとってもアメリカにとっても目下の最大の脅威は中国である。日本はまずは日米同盟を強化して、中国の脅威と対峙しつつ、真の独立国家となることを目指していかなければならない。

2025年2月18日(火) 18時00分