恒例「日本を語るワインの会」が会長邸で行われました。日本に来てもう五十七年になる拓殖大学国際日本文化研究所客員教授のペマ・ギャルポ氏、ギャルポ氏の指導で立ち上げたアジア仏教クラブの座長に今年三月に就任した酒生文弥氏、一九九九年に来日、日本人と結婚し日本に帰化している在日シッキム州インド国公式代表の海藤ラファエル氏、ネパール人に特化した人材ビジネスを展開するBLUE SKY JAPAN株式会社代表取締役のポウデル・サントシュ氏をお迎えし、日本や世界の今後について語り合いました。
仏教文化を強く感じる
「元王国」のシッキム州
「元王国」のシッキム州
海藤ラファエル氏は西ベンガル州の州都であるコルカタ(旧カルカッタ)の出身。この街の出身で最も有名なのは、一九一三年アジアで初めてノーベル文学賞を獲得した詩人、ラビンドラナート・タゴールだ。タゴールはインドを訪れた岡倉天心との親交も結んでいる。日本と協力してインド独立運動を行ったチャンドラ・ボースや、一九九八年アジアで初めてノーベル経済学賞を獲得したアマルティア・センはコルカタ大学の出身だ。インド人は一般的に理数系が強く、その分野で優秀な人が多いと言われている。
海藤氏が代表を務めるインドのシッキム州は、ネパールとブータンの間の山間部に位置する。ここは一九七五年まではシッキム王国という三百年続いた小さな仏教国だった。周辺国の影響を強く受けており、ダライ・ラマを法王とするチベット仏教の信者も多く、多くの日本人がイメージするインドとは少し異なる。外国人は入域許可証(すぐ取得できる)がないと入ることができない「秘境」だ。州都ガントクは賑わう都市だが、平地がほとんどなく坂道だらけ。郊外のルムテク僧院等、点在するチベット仏教の寺院が見どころだ。シッキム州の南にある西ベンガル州の都市・ダージリンは、かつてはシッキム王国領だったことがある地。紅茶の産地として知られているが、標高が二千m以上あるため、植民地時代にはイギリス人の避暑地として栄えた。ダージリン県の中心都市で、周辺の人々はこの街で教育を受けることが多く、ペマ・ギャルポ氏もダージリンの学校にいたことがある。今シッキム州と日本の山梨県で、姉妹関係を結ぼうという動きがある。日本ではムンバイ等インドの西側に眼が向きがちだが、東側の方が日本との親和性が高い。
ペマ・ギャルポ氏はチベット生まれだが、一九五九年のチベット動乱の際に、五歳でダライ・ラマ十四世とともにチベットを脱出、以後しばらくインドにいた。その後来日して大学・大学院で学び、二十四歳でダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表に就任した。拓殖大学での教職や岐阜女子大学南アジア研究センター長に加え、暗殺される直前の安倍晋三氏と相談して立ち上げた一般社団法人インド太平洋戦略研究センターの代表理事兼会長も務める。
海藤氏が代表を務めるインドのシッキム州は、ネパールとブータンの間の山間部に位置する。ここは一九七五年まではシッキム王国という三百年続いた小さな仏教国だった。周辺国の影響を強く受けており、ダライ・ラマを法王とするチベット仏教の信者も多く、多くの日本人がイメージするインドとは少し異なる。外国人は入域許可証(すぐ取得できる)がないと入ることができない「秘境」だ。州都ガントクは賑わう都市だが、平地がほとんどなく坂道だらけ。郊外のルムテク僧院等、点在するチベット仏教の寺院が見どころだ。シッキム州の南にある西ベンガル州の都市・ダージリンは、かつてはシッキム王国領だったことがある地。紅茶の産地として知られているが、標高が二千m以上あるため、植民地時代にはイギリス人の避暑地として栄えた。ダージリン県の中心都市で、周辺の人々はこの街で教育を受けることが多く、ペマ・ギャルポ氏もダージリンの学校にいたことがある。今シッキム州と日本の山梨県で、姉妹関係を結ぼうという動きがある。日本ではムンバイ等インドの西側に眼が向きがちだが、東側の方が日本との親和性が高い。
ペマ・ギャルポ氏はチベット生まれだが、一九五九年のチベット動乱の際に、五歳でダライ・ラマ十四世とともにチベットを脱出、以後しばらくインドにいた。その後来日して大学・大学院で学び、二十四歳でダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表に就任した。拓殖大学での教職や岐阜女子大学南アジア研究センター長に加え、暗殺される直前の安倍晋三氏と相談して立ち上げた一般社団法人インド太平洋戦略研究センターの代表理事兼会長も務める。
国際的な組織のリーダーは
仏教・神道信者の日本人に
仏教・神道信者の日本人に
僧侶でもある酒生文弥氏が座長のアジア仏教クラブの直近の目標は、正統なダライ・ラマを守ることだ。この七月六日でダライ・ラマ十四世は八十九歳になった。このダライ・ラマが往生されると、生まれ変わりの子どもを様々な手段で探して次のダライ・ラマとする。しかしもしダライ・ラマ十四世が亡くなれば、中国が正しい手続きを無視して、都合の良い「生まれ変わり」を見つけてくることは確実だ。この中国の行動を止めることは難しいが、中国のダライ・ラマを無視することで、宗教的に無力にすることは可能なはず。アジア仏教クラブはまずそれを実行する予定だ。またアジアの仏教やヒンドゥー教を結びつけ、東アジア共同体を堅牢なものにすることに貢献したいと考えている。アジアにはカンボジア等独裁体制の国も多く、宗教の自由の確保が重要な課題だ。酒生氏は英語も堪能であり、国際会議にも馴れているため、座長には適任だ。仏教や神道は平和な宗教であり、他者と戦うことを望まない。だから国際的な組織では、日本人がリーダーになれば一番まとまる。一神教は信仰を契約だと考えているから揉めるのだ。
石川県には東本願寺が多いが、福井県は西本願寺が多い。そもそも本願寺を西と東に分けたのは、徳川家康だった。戦国時代の一向一揆は浄土真宗本願寺教団によって組織された権力者への反抗で、その強さに織田信長も苦しめられた。だから徳川家康は本願寺を二つに分けて、その勢力を削いだ。ただそもそも家康は浄土宗の信者で、「南無阿弥陀仏」を唱えていた。「南無阿弥陀仏」はインド・パキスタン辺りが発祥で、シルクロードを通って、朝鮮半島、日本、ベトナムまで伝わった。しかし「南無妙法蓮華経」は日蓮が作ったものでお経に無く、日本だけで唱えられているものだ。
キリスト教等では人が神に祈るが、仏教では神様が祈ってくれている。神様の祈りを興すから念仏という。殺生しない、嘘を言わない、盗まないはどの宗教でも共通だが、その教義がどう実践されるかは、実践する人や政治によって変わる。ペマ・ギャルポ氏は亜細亜大学で「民族と宗教」というクラスを作り、イスラム教の人達も呼んで講義を行った。そこでわかったのは、本当にコーラン通りの実践を行えば、我々日本人の行動と大差がほとんどないことだ。イスラム教のスンニ派はマホメットの血筋が後継で、シーア派は弟子が後継という違いだが、政治的にはサウジアラビアを代表とする勢力がスンニ、イランを代表とする勢力がシーアとなっている。信徒の奪い合いや教典の解釈の議論等、同一宗教の宗派間の争いは悲惨な状況になることが多い。
石川県には東本願寺が多いが、福井県は西本願寺が多い。そもそも本願寺を西と東に分けたのは、徳川家康だった。戦国時代の一向一揆は浄土真宗本願寺教団によって組織された権力者への反抗で、その強さに織田信長も苦しめられた。だから徳川家康は本願寺を二つに分けて、その勢力を削いだ。ただそもそも家康は浄土宗の信者で、「南無阿弥陀仏」を唱えていた。「南無阿弥陀仏」はインド・パキスタン辺りが発祥で、シルクロードを通って、朝鮮半島、日本、ベトナムまで伝わった。しかし「南無妙法蓮華経」は日蓮が作ったものでお経に無く、日本だけで唱えられているものだ。
キリスト教等では人が神に祈るが、仏教では神様が祈ってくれている。神様の祈りを興すから念仏という。殺生しない、嘘を言わない、盗まないはどの宗教でも共通だが、その教義がどう実践されるかは、実践する人や政治によって変わる。ペマ・ギャルポ氏は亜細亜大学で「民族と宗教」というクラスを作り、イスラム教の人達も呼んで講義を行った。そこでわかったのは、本当にコーラン通りの実践を行えば、我々日本人の行動と大差がほとんどないことだ。イスラム教のスンニ派はマホメットの血筋が後継で、シーア派は弟子が後継という違いだが、政治的にはサウジアラビアを代表とする勢力がスンニ、イランを代表とする勢力がシーアとなっている。信徒の奪い合いや教典の解釈の議論等、同一宗教の宗派間の争いは悲惨な状況になることが多い。
ケネディ大統領暗殺同様
疑惑の多い安倍元首相暗殺
疑惑の多い安倍元首相暗殺
宗教法人に税金が掛からないのは、かつては国家のための役割を担っていて、神社や寺院の土地も公有地に近い感覚だったことの名残だろう。実際には法人税や固定資産税は免除されているが、雇用されている僧侶らの給料からは所得税が支払われている。
政教分離について、日本のように厳しく政治と宗教を分けている国は、ライシテが実施されているフランス以外にはない。明治憲法下の日本において国家神道の影響力が強すぎたために、その根っ子を断ち切るために極端な政策が実施されていると言うべきだろう。アメリカでは紙幣や硬貨に’IN GOD WE TRUST’(我々は神を信じる)と書かれているし、大統領は就任時に聖書に手を置いて宣誓を行う。大統領演説の最後は必ず’God bless you’(神のご加護を)でしめる。就任演説のGodやその言い換えのAlmightyの数を数えると、一番少ない大統領でも十七になるという。リンカーン大統領のゲティスバーグ演説の「人民の人民による人民のための政治」の直前には、’this nation, under God, shall have a new birth of freedom’(この国は神の下、自由の新しい誕生を迎える)という言葉が入っていた。本来政教分離というのは、国家が特定の宗教を国民に押し付けたり、特定の宗教を優遇したり、逆に弾圧してはいけないというもので、今の日本のように国家が宗教に一切タッチしてはいけないというものではない。社会にとって宗教や秩序はどうしても必要なものだ。
安倍晋三氏が二〇二二年七月八日に暗殺されてから、もう二年が経過した。日本ではなぜか安倍氏が「銃撃された」「凶弾に倒れた」という表現はするが、「暗殺された」とは報じない。「暗殺」だとリンカーン大統領やキング牧師等、偉人的なイメージがつくからだろう。要は安倍氏を英雄にしたくないのだ。YouTube等では、安倍氏を殺したのは山上徹也容疑者ではないという言説が出されている。これは単純に陰謀論では片付けられない。安倍氏が撃たれた後に医師が会見、首から二発銃弾が入って心臓に達したと発表しているが、水平に撃って首に当たった銃弾が心臓に達するのは変だ。実際には上から射撃されたのではないか。ケネディ大統領暗殺がオズワルドの犯行ではないという説が消えないのと同様、安倍氏暗殺も今後の真相究明が求められる。
政教分離について、日本のように厳しく政治と宗教を分けている国は、ライシテが実施されているフランス以外にはない。明治憲法下の日本において国家神道の影響力が強すぎたために、その根っ子を断ち切るために極端な政策が実施されていると言うべきだろう。アメリカでは紙幣や硬貨に’IN GOD WE TRUST’(我々は神を信じる)と書かれているし、大統領は就任時に聖書に手を置いて宣誓を行う。大統領演説の最後は必ず’God bless you’(神のご加護を)でしめる。就任演説のGodやその言い換えのAlmightyの数を数えると、一番少ない大統領でも十七になるという。リンカーン大統領のゲティスバーグ演説の「人民の人民による人民のための政治」の直前には、’this nation, under God, shall have a new birth of freedom’(この国は神の下、自由の新しい誕生を迎える)という言葉が入っていた。本来政教分離というのは、国家が特定の宗教を国民に押し付けたり、特定の宗教を優遇したり、逆に弾圧してはいけないというもので、今の日本のように国家が宗教に一切タッチしてはいけないというものではない。社会にとって宗教や秩序はどうしても必要なものだ。
安倍晋三氏が二〇二二年七月八日に暗殺されてから、もう二年が経過した。日本ではなぜか安倍氏が「銃撃された」「凶弾に倒れた」という表現はするが、「暗殺された」とは報じない。「暗殺」だとリンカーン大統領やキング牧師等、偉人的なイメージがつくからだろう。要は安倍氏を英雄にしたくないのだ。YouTube等では、安倍氏を殺したのは山上徹也容疑者ではないという言説が出されている。これは単純に陰謀論では片付けられない。安倍氏が撃たれた後に医師が会見、首から二発銃弾が入って心臓に達したと発表しているが、水平に撃って首に当たった銃弾が心臓に達するのは変だ。実際には上から射撃されたのではないか。ケネディ大統領暗殺がオズワルドの犯行ではないという説が消えないのと同様、安倍氏暗殺も今後の真相究明が求められる。
ホテルの客室清掃には
外国人労働者が不可欠に
外国人労働者が不可欠に
八月十四日に岸田首相は九月の自民党総裁選に出馬しないことを表明、その後継者については混迷を極めている。安倍氏が存命であれば、まだ混乱を収めることができたかもしれない。安倍氏は石破茂氏と河野太郎氏が総裁になるのだけは、強く拒絶していた。小泉進次郎氏が国民に人気があるというが、実際に総裁選に投票できるのは党員・党友と国会議員だ。原田義昭氏が環境相の任期の最後に、福島第一原発の処理水の放出への道をつけたのに、次に環境相になった小泉氏はそれを潰した。世の中を知らず、国民に阿って正しい道から外れる傾向がある人だ。
ポウデル・サントシュ氏が経営するBLUE SKY JAPAN株式会社は、二〇一九年から始まった「特定技能」の在留資格を利用して、ネパール人の人材を日本企業に提供するサービスを行っている。特定技能一号には介護やビルクリーニング等十二の分野が指定されていて、条件に合う人はこの決められた分野で働くことが可能だ。特に需要が多いのが、ビルクリーニングの一環として行われるホテルの客室の清掃業務だ。今はどのホテルの清掃業務においても、ネパール人等の外国人なしでは回らない状態になってきている。ネパール人は学校で学ぶために英語が得意なことに加え、学習にも熱心で日本語の習得が早いため、日本で活躍する人が増えている。二〇〇二年には日本にいるネパール人は五千人だったが、今は二十万人になっている。日本に住むインド人が四万人であることを考えると、どれだけネパール人が日本社会に溶け込んでいるかがわかるだろう。
そもそもネパールは中国とインドに挟まれていて海に面しておらず、貿易が非常に困難で経済が発展しにくい。主な産業は「出稼ぎ」。国のGDPの三割が出稼ぎの仕送りになっていて、この割合は世界的に非常に高い。多くのネパール人は中東に働きに行くが、労働環境が悪く給与が低いために仕送りも十分にできない。今ネパールでは日本に人材を送り込むことが国家戦略になっており、労働担当大臣が九月十八日に来日、セミナー等が行われる予定だ。
ポウデル・サントシュ氏が経営するBLUE SKY JAPAN株式会社は、二〇一九年から始まった「特定技能」の在留資格を利用して、ネパール人の人材を日本企業に提供するサービスを行っている。特定技能一号には介護やビルクリーニング等十二の分野が指定されていて、条件に合う人はこの決められた分野で働くことが可能だ。特に需要が多いのが、ビルクリーニングの一環として行われるホテルの客室の清掃業務だ。今はどのホテルの清掃業務においても、ネパール人等の外国人なしでは回らない状態になってきている。ネパール人は学校で学ぶために英語が得意なことに加え、学習にも熱心で日本語の習得が早いため、日本で活躍する人が増えている。二〇〇二年には日本にいるネパール人は五千人だったが、今は二十万人になっている。日本に住むインド人が四万人であることを考えると、どれだけネパール人が日本社会に溶け込んでいるかがわかるだろう。
そもそもネパールは中国とインドに挟まれていて海に面しておらず、貿易が非常に困難で経済が発展しにくい。主な産業は「出稼ぎ」。国のGDPの三割が出稼ぎの仕送りになっていて、この割合は世界的に非常に高い。多くのネパール人は中東に働きに行くが、労働環境が悪く給与が低いために仕送りも十分にできない。今ネパールでは日本に人材を送り込むことが国家戦略になっており、労働担当大臣が九月十八日に来日、セミナー等が行われる予定だ。