Essay

記憶力ではなく創造力を磨く教育をVol.384[2024年9月号]

藤 誠志

未来予測を的確にできる人が
真のエリート

 戦後教育を受けて育った我々は記憶力勝者を以ってエリートとされているが、真のエリートとは創造力や構想力があり、未来予測が的確な人ではないだろうか。丸暗記が上手で、決められた試験の範囲を制限時間内に回答することで高い評価を得てエリートと呼ばれるようになった人は、真のエリートとは言えない。世界基準で考えると、世の中の現状を把握し、未来予測をし、それに対してどう対処するか、生きる知恵を駆使して最善手を選択することができる人こそがエリートと呼ばれるべきだろう。
 それにも拘らず、間違った基準を以ってエリートとして、記憶力勝者を育てる日本の教育では、創造力、構想力、未来予測力を養えるものではない。戦後教育で育てられた人の中から、かつての日本人のような人物はなかなか生まれてこない。
 かつての日本人は今日のようにコンピューターを使わずに、世界最大の軍艦ともいえる戦艦「大和」を造り、その時代で最も優れた戦闘機である「ゼロ戦」を造り、さらに実戦に使用したことで、アジアの小さな国でありながら、多大な戦果を上げることができた。そして、その技術の遺産によって、戦後の日本は世界第二位の経済大国となることができたのだ。

戦艦「大和」は
無用の長物ではない

 戦艦「大和」については、戦後“無用の長物”“時代遅れ”と酷評される事がある。二〇二三年十二月七日付夕刊フジ公式サイトのzakzakに掲載されている『歪められた真実 昭和の大戦 大東亜戦争』で第六回アパ日本再興大賞を受賞した井上和彦氏のコラム「歪められた真実」は、次の通りだ。「戦艦『大和』の建造が始まったのは、一九三七(昭和一二)年一一月四日のことで、その頃はどの国もが、強力な戦艦を建造することにしのぎを削っていたのである。つまり世界はいわゆる大艦巨砲主義の真っただ中にあったのだ」「よく考えていただきたい。戦艦『大和』が起工された三七年に、その四年後の航空機時代の到来を予測できるだろうか。戦艦『大和』の就役は四一(同一六)年一二月一六日で、真珠湾攻撃の八日後だった。『大和』の登場を得意げに批判する論の多くは、『大和』の就役が、航空機時代到来が証明された海戦の後だったことをもって『大和』を〝時代遅れ〟だのと物知り顔で嘲笑しているのだ。だがこうした人士は、艦艇の建造には四年という歳月を要することを理解していない」「さらに知っておきたいのは、当初計画では『大和』の就役予定は、四二(同一七)年六月一五日だったということである。これは驚くべき事実であり、現代における艦艇建造でも納期を半年も前倒しすることは、そう簡単なことではない」「高度なコンピューターやインターネット、通信機器などがない時代に、よくぞあのような巨大戦艦を設計し、製造工程を縮めて完成させたものだと感心する。納期を縮めるためには、建造に関わるすべての製造会社が生産工程を一斉に変更しなければならなかったことはいうまでもない。また、下請け会社も失敗は許されなかった。後続して納入される部品や機器の取り付けにも影響が出てしまうからである。つまり『大和』は、その建造のための『生産管理』と『工程管理』がなによりも先に称賛されるべきなのだ。ところが、『大和』に対する評論には、こうしたシステム構築の英知と高い生産技術に対する評価がまるっきり抜け落ちているのである」。

戦後の技術大国・日本の
基礎となった戦艦「大和」

 さらにコラムは続く。「実はこうした『大和』をはじめ軍艦の建造に関わるさまざまな科学技術や管理技術などが、戦後の技術大国日本の基礎となったことを忘れてはならない。戦後、マンモスタンカー造船技術は、まさにこうした『大和』をはじめ日本の高い軍艦建造実績が基礎になっていたのである。こうした視点を用意すれば、戦艦『大和』に対する評価は大きく変わってくることだろう」という。
 これからは、使い古した能力を使い続けるだけでは、世界に太刀打ちできなくなる。物事を創り出す創造力、この先どうなるかという未来予測を育み、構想力を鍛える教育が必要である。戦前、戦後の教育を比較すると戦前の方が優れていたという説もある。今の時代、インターネットやパソコンが無ければ無から有を創ることは難しい。世界に類を見ない、戦艦「大和」や最先端の戦闘機である「ゼロ戦」を造った日本人がいたことを戦後教育で日本人は忘れてしまっている。当時の日本人がいたからこそ、世界第二位の経済大国となれたことを忘れてはいけない。
 今後の日本のありようについては、まずは教育から変えなければならない。記憶力勝者を以ってエリートとしている考え方から、無から有を創り出す創造力を磨く教育へと転換する。そういった教育によって再び日本が英米独仏を圧倒する経済大国となるべきである。「自国の歴史を忘れた民族は滅びる」と言われる。

ルーズベルト大統領に
宛てた日本軍将校の手紙

 かつて大東亜戦争の激戦地であった硫黄島で戦死した市丸利之助中将は、地下二十メートルの洞窟の中で、アメリカのルーズベルト大統領に宛てた手紙を書いた。次にウィキソース(ウィキメディア財団が運営するウィキを利用した自由に利用できるテキストを集めた電子図書館)に掲載されている現代語訳を掲載する。市丸中将は戦死による特進で中将となったが、手紙を書いた時は少将だった。「日本海軍、市丸海軍少将がフランクリン・ルーズベルト氏に手紙を送る。私は今、わが戦いを終えるに当たり、一言あなたに告げることがある。日本がペリー提督の下田入港を機会に、広く世界と国交を結ぶようになってから約百年、この間、日本の国の歩みは困難をきわめ、自ら望んだのではないにも関わらず日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、支那事変を経て、不幸にもあなたの国と戦争するに至った。これによって日本を見て、あるいは好戦的国民だとし、あるいは黄禍だと言って貶め、あるいは軍閥の専断だとする。考えの足りないこと甚だしいと言わざるを得ない」「あなたは真珠湾の不意打ちを、対日戦争唯一の宣伝材料としているが、日本が自滅を免れるためこの行動に出るほかない窮地にまで追い詰めた諸種の情勢は、あなたの最もよく熟知しているところだと思う。おそれおおくも日本天皇は、皇祖皇宗建国の大詔に明らかなように、正義・明智・仁慈を三つの原則とする、八紘一宇[天下を一つの屋根の下に]の文字によって表現される統治の計画に基づいて、地球上のあらゆる人間にその分に従い、その郷土において、生まれながらの生きる権利を認め、それによって恒久的平和の確立を唯一の念願となさっているのに他ならない。かつての『四方の海 皆はらからと思ふ世になど波風の立ちさわぐらむ』[私は世界中が皆兄弟姉妹だと思っているのに、なぜ戦乱が起こるのだろうか]という明治天皇の和歌(日露戦争中の作)は、あなたの叔父セオドア・ルーズベルト閣下の感嘆を呼んだところであり、あなたもまた熟知の事実であるはずだ」。

アングロサクソンの意図は
世界の利益を独占

 「私たち日本人はそれぞれ階級がある。さまざまな職業に従事しているが、結局はその職業を通じてこの天皇の統治の計画、つまり天皇の仕事を補佐しようとするのに他ならない。われわれ軍人もまた、武器を使って天皇の仕事を広めることをつつしんで承っているに他ならない。私たちは今、物量に頼ったあなたの空軍の爆撃と艦砲射撃の下、外形的には後退するのやむなきに至っているが、精神的にはいよいよ豊かになり、心はますます明朗になり、歓喜を抑えられないものがある。これは天皇の仕事を補佐するという信念に燃える日本国民共通の心理であるが、あなたやチャーチル氏らの理解に苦しむところだろう。今ここにあなた方の精神的貧弱を憐れみ、以下一言しばらく教えさとそうと思う。あなた方のすることを見れば、白人とくにアングロサクソンで世界の利益を独占しようとして、有色人種をその野望実現の前に奴隷化しようとするに他ならない。このために卑劣な策をもって有色人種を欺き、いわゆる悪意の善政によって彼らの本心を失わせ無力化しようとしている。近世に至り、日本があなた方の野望に抵抗して、有色人種、とくに東洋民族をあなた方の束縛から解放しようと試みたところ、あなた方は少しも日本の真意を理解しようと努めることなく、ただあなた方にとって有害な存在だとして、かつての友邦を仇敵野蛮人と見るようになり、公然と日本人種の絶滅を叫ぶようになった。これは果たして神の意思にかなうものだろうか」「大東亜戦争によっていわゆる大東亜共栄圏が成立すれば、その中の各民族は私たちの善政を謳歌し、あなた方が今これを破壊することがなければ、全世界にわたる恒久的平和の到来は決して遠くない。あなた方はすでに十分な繁栄にも満足することなく、数百年来のあなた方の搾取から逃れようとするこれら憐れむべき人類の希望の芽をなぜ若葉のうちに摘み取ろうとするのか。ただ東洋のものを東洋に返すに過ぎないではないか。あなた方はどうしてこのように貪欲でしかも狭量なのか」。

大東亜共栄圏の存在は
あなた方の存在を脅かさない

 「大東亜共栄圏の存在は、少しもあなた方の存在を脅かさない。むしろ、世界平和の一翼として、世界人類の安寧幸福を保障するものであり、日本天皇の真意もまったくこれ以外にないことを理解する雅量が[あなた方に]あることを希望してやまないものである。翻って欧州の事情を観察しても、また相互無理解に基づく人類闘争がいかに悲惨であるかを痛嘆せざるをえない。今ヒトラー総統の行動の是非を云々するのは慎むが、彼の第二次欧州大戦開戦の原因が第一次欧州大戦終結に際して、その開戦の責任のいっさいを敗戦国ドイツのせいにし、その正当な存在を極度に圧迫しようとしたあなた方の先輩の処置に対する反発に他ならなかったことは看過してはならない。あなた方がよく戦って、ヒトラー総統を倒すことができたとして、どうやってスターリンを首領とするソ連と協調しようとするのか」「およそ世界を強者の独占するものにしようとすれば、永久に闘争を繰り返し、ついに世界人類に安寧幸福の日はないだろう。あなた方は今、世界制覇の野望が一応、まさに実現しようとしている。あなた方の得意は想像できる。しかしながら、あなた方の先輩ウィルソン大統領はその得意の絶頂において失脚した。願わくば私の言外の意を汲んでその轍を踏まないことを」と市丸海軍少将は書き残した。

先見の明に満ちた
「ルーズベルトニ与フル書」

 市丸中将は当時米兵が戦死した日本兵の遺体から所持品を調べることを知っており、和文、英文を別々の日本兵に持たせた。その後、「ルーズベルトニ与フル書」は米兵により二人の戦死した日本兵の遺体から発見され、米国内の様々なメディアで紹介され、現在はアメリカ海軍兵学校内アナポリス博物館にて大切に保管されているが、ほとんどの日本人はこのことを知らない。当時のアメリカが自国優先・白人優位の世界を前提とした世界戦略を行っていたことは明白なことであるし、ドイツをたとえ打ち破ったとしても、多大な貢献をしたソ連とどう向き合うかは大きな問題であり、事実大戦後には冷戦へと発展している。市丸中将は極めて冷静に世界情勢を見極めた慧眼の持ち主であり、これが戦前の教育の賜物であったことは明らかだろう。混迷する今の日本には、この市丸中将のような創造力や分析力、未来予測力、そして鉄のごとく強い意志を持つ人間が求められている。

2024年7月18日(木)17時00分校了