柴山 昌彦氏
1965年名古屋市生まれ。1990年東京大学法学部卒業後、住友不動産に入社。1998年に司法試験に合格し、2000年弁護士登録。2004年自民党公募新人第1号に選ばれ、初当選。以後7期連続で当選。外務大臣政務官、総務副大臣、内閣総理大臣補佐官等を歴任した後、2018年第4次安倍改造内閣で文部科学大臣に就任(~2019年)。現在、自民党政務調査会長代理を務める。
議員歴十四年で大臣に就任
元谷 今日はビッグトークへの登場、ありがとうございます。六月三日のアパグループ創業祭のパーティーにも来ていただいて、大変感謝しています。
柴山 お招きいただき、ありがとうございます。よろしくお願いします。
元谷 まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
柴山 わかりました。私は初当選が二〇〇四年になります。その前年の二〇〇三年に安倍晋三先生が四十代の若さで自民党幹事長に就任されていたのですが、彼が手掛けた大きなチャレンジが、二〇〇四年の埼玉八区の衆議院議員の補欠選挙において、初めて全国規模で候補者を公募することだったのです。この補欠選挙は、自民党の議員が選挙違反で逮捕されたためのもので、党は後継候補者選びに苦労していました。埼玉八区は所沢市を含むのですが、たまたま私はそこに住んでいたのです。選挙違反の後ですから、自民党にとっては当然厳しい選挙戦になることが予想され、地元の地方議員の方々は一向に手を上げない。安倍幹事長はそんな膠着状態の中、しがらみのない候補者を選びたいということで、公募することを決断したのです。
元谷 私も安倍さんとは親交が深かったですが、そういうことがあったのですね。
柴山 当時私は弁護士として活動していて、自民党に対しては個人的に関心のある憲法改正を進める党として支持をする一方、選挙違反を行うような古い体質は問題だと感じていました。そんな時に読んでいた新聞にベタ記事で候補者の公募が出ていて、稲妻に打たれたようにインスピレーションが働き、応募したのです。よく考えれば、当時の小泉純一郎首相の自民党改革のお手伝いをしたいという思いもあり、また選挙違反の後ですから自分の弁護士という経歴がプラスになるのではという計算もありました。両親はもちろん親戚にも全く政治家のいない私ですが、全国から応募してきた八十一人の中から選ばれて、幸運にも初当選することができました。以来二十年間、一度も議席を失うことなく政治家としてのキャリアを積んできました。安倍首相の下、二〇一八年二〇一九年には文部科学大臣を拝命いたしました。
元谷 政治家のキャリア的には、このタイミングでの大臣就任は、非常に早い抜擢だったのではないでしょうか。
柴山 はい。外務大臣政務官を皮切りに次から次へと役職をいただき、トントン拍子で文部科学大臣になりました。丁度平成から令和に変わるタイミングでしたね。文科大臣として様々な改革を推し進めたのですが、その後大臣経験を活かして、中長期的な教育を考える自民党の教育再生実行本部に加わりました。馳浩先生が本部長だったのですが、石川県知事選挙への出馬をされる時に後継者に私を指名していただきました。元々教育再生実行本部は安倍晋三総裁直轄の組織だったのですが、高市早苗政調会長がこの組織の名称を教育・人材力強化調査会と変えて政調会長直轄組織となり、私が会長に就任しました。政調会長も高市先生の後は萩生田光一先生、そして今は渡海紀三朗先生となり、その下で教育再生のための提言書をまとめています。
元谷 私は馳浩さんとは、彼が国会議員になる前からの付き合いです。北朝鮮のプロレスの大会で出会ったのが最初ですね。非常に明るい性格の方で、すっかり仲良くなりました。その後、馳さんが石川県から参議院議員選挙に出馬した時には、全面的にバックアップをしました。そして衆議院に鞍替えして、そこでも当選して。二〇一五年にはとうとう文部科学大臣という要職にも就きました。奥様の高見恭子さん共々親しくしています。
柴山 馳先生は元プロレスラーなのですが、非常に優秀で教育問題にも大変造形が深く、いろいろと教えていただきました。
日本ではまだ希薄な意識だ
元谷 また、私はかつて安倍晋三を首相にする会の副会長で、安倍さんが若い時から親交がありました。真っ当な政治家として、私は彼を高く評価していたのです。第二次安倍政権は非常に上手くいき、結局辞任しましたが政界でまだまだ活躍すると思っていたのに、あんなことになって。安倍さんが首相を続けていれば、憲法改正もあったかもしれませんが、辞任して亡くなってしまったことで、すっかり動きが止まってしまっているように思えます。ウクライナやガザ地区で戦闘が起こり、東アジアでも日本を取り巻く中国や北朝鮮等の動きによって緊張が高まっています。今日本にとって一番大切なのは、真っ当な国として自分の国は自分で守るという精神を持つことです。日米安保に頼り、いざとなったらアメリカが助けてくれるという考えの国民や国会議員も多いですが、それは間違いです。自らの国を守る体制を築いた上で、足らざるを補うのが同盟関係であり、日本で言えば日米安保条約なのです。このまず自分の力で自国を守る体制構築のためには、憲法の改正が絶対に必要です。
柴山 全く同感です。戦後日本は日本国憲法の下、徹底した平和主義を貫いてきました。しかし侵略戦争は放棄するけれども国連憲章で認められている自衛権は持っているというのが当然の解釈で、そのための力も必要なのですが、憲法にはこのことは明記されておらず、逆に「戦力は、これを保持しない」と書かれているのです。こんな憲法は、他の国にはありません。そんな中で安倍首相は、どうすれば現実的な形で自衛力の保有をきちんと認められるようになるのか、懸命に模索をされていました。ここから発想されたのが、「第九条に自衛隊を明記する」という改憲なのです。
元谷 そうなのですが、改憲へどうも動かない。自民党は憲法改正を党是としていたはずで、その原点が忘れられているような気もします。
柴山 政治家の本音としては、防衛や安全保障について語ることが、正直あまり票に結びつかないのです。私の地元にはアメリカ軍の所沢通信基地があり、この基地の用地の返還を求める市民運動が熱心に行われてきました。ただ徐々に返還も進み、二〇二〇年に民間人の通行も可能な東西連絡道路ができています。また、二〇二二年にウクライナ戦争が勃発しました。ウクライナがNATOに加盟できていなかったために、ロシアの侵攻を留めることができなかったという考え方もあり、防衛力と同盟関係をもっとしっかり日頃から考えていかないと、東アジアの状況が緊迫している中、ウクライナと同じように日本が不測の事態に巻き込まれることもあり得ると、多くの人々の理解が進んできたようにも思います。
元谷 確かにウクライナ戦争の衝撃は大きかったですね。
柴山 これまでは日米安保に頼りきっていて、長年日本の防衛費は対GDP比一%でした。これをなんとかヨーロッパ並の対GDP比二%に上げるべく、一昨年の十二月に新しい防衛三文書を閣議決定、防衛費を五年間で四十三兆円とする方針を打ち出し、防衛装備品の整備等を進めてきました。国の予算や税制にも関連する話なのですが、安全保障について国民の関心がいまだに強くなく、理解を得ることが難しい事態になっています。これは教育の問題です。今の複雑な国際情勢と安全保障の基本を、子供達に正確に教えていく必要があるのではないでしょうか。
元谷 教育についてはその通りです。あと国会議員が、票が減るのを覚悟で安全保障の大切さをもっと人々にアピールすることが求められているのではないでしょうか。
柴山 確かに仰る通りです。日本独自の安全保障政策の重要性を訴える場合に障害になるのは、一つは会長が指摘されたような日米安保への過渡な依存であり、もう一つは平和外交だけで平和を守ることができるという理想主義です。この理想主義は野党の中に非常に多いのですが、歴史的にはこんな理想が無惨にも吹き飛んでいる事例が、枚挙に暇がないほど存在します。豊かな国が自衛手段を持たず、外交交渉だけで独立と国民の安全を守れるほど、国際社会というのは甘くはありません。このことを、機会があるごとに繰り返し主張するべきなのかもしれません。
元谷 その通りで、大切なのはバランス・オブ・パワー、力の均衡なのです。力があるから戦争になるのではなく、力の空白が生じると戦争になる。常に相手がどういう装備をしてどんな力を持っているかを測り、それに応じた対抗策を講じることで力の均衡を維持しないと、戦いが起こってしまうのです。弱いところは突かれるというのが国際政治の常識なのですが、平和を唱えれば平和になるとか、軍備を持つと戦争になるとか、日本ではおかしな考えが蔓延っています。この辺は政治家が主導して、正していく必要があるのではないでしょうか。
柴山 その通りだと思います。またメディアがこれまで、シビアな国際情勢について十分報道してこなかったことも大きいでしょう。最近はウクライナ戦争や中東情勢によってエネルギーをはじめとする物価に影響が出るようになり、ようやく私達の暮らしに国際情勢が直結していることが理解されて、海外のニュースも頻繁に報道されるようになってきました。各種世論調査を見ると、私は今であれば、憲法改正に多くの国民が昔のようなアレルギーを感じないのではないかと期待をしています。
防衛協力強化が重要だ
元谷 そもそも憲法改正の要件が厳しすぎるのです。まず手続きを決めた憲法第九六条を改正して、もっと柔軟に憲法を変えることができるようにするべきではないでしょうか。
柴山 私は先程お話したように二〇〇四年に初当選したのですが、その一期目の時から国会の憲法調査会に参加することになりました。憲法調査会というのは衆議院と参議院の両方にあり、普通の委員会とは異なり大臣は出席しないのですが、各党の代表が憲法改正について調査をしたり、議論をしたりする、そんな会議があるのです。通常一期目の議員が関われる会議ではないのですが、私は弁護士だったことから参加することができました。今は憲法調査会から憲法審査会に名前が変わっていて、私は今の自民党の政調会長代理をやる前には、憲法審査会の幹事をやらせていただいておりました。憲法調査会では今の経済再生担当大臣の新藤義孝先生らと党派を越えて、憲法改正について議論してきました。今自民党の中では、古屋圭司先生が本部長をされている憲法改正実現本部で憲法改正の議論が行われています。しかし非常にハードルが高い。衆参両院とも三分の二の議員の賛成が得られないと発議ができませんから、憲法審査会で野党にも改正案の賛成をいただいていて三分の二の見込みが立っていないと、国会に提出できないのです。
元谷 この厳しい改憲条項は、日本が再び軍事的な力をつけて自分達を脅かしてこないようにと、アメリカが意図して憲法に入れたものに思えてなりません。日米安保は結びつつも、常に自らの下に日本を抑え込んでおこうとしていると思うのです。自らの利益のために他国の弱体化を図るのは、国家の戦略としては当然なのですが、日本としてこれに甘んじていると国を壊すことになります。自らの国は自ら守れるよう改憲条項を含めて憲法を改正し、アメリカの軛から逃れるべきなのです。
柴山 アメリカでも保守的なのは共和党で、リベラルなのは民主党と主張が分かれています。ただアメリカのリベラルは、日本のリベラルと安全保障に対する考え方が全く異なります。政権交代をしても、アメリカの独立を守るという安全保障問題については一貫していて、揺るがないのです。今は民主党のバイデン大統領ですが、リベラルとはいえ軍の最高指揮官ですから、国民を守るための軍事ミッションをしっかりと指揮しています。しかし日本において政権交代をして最大野党の首相が誕生した場合、会長が仰るような「自分の国を自分で守る」という気概を持って自衛隊を指揮できるのか。ここのところを、国民の皆様には冷静に考えていただきたいなと思います。
元谷 確かに国民が安全保障についてもっと学んで、よく考えることが必要かもしれません。そうなれば、安全保障の主張によっても票を獲得することが可能になるでしょう。
柴山 今は票にはならなくても、私達自民党は国を自ら守るという方向に向かって政策を進めていかなければならないと考えています。また世界的に見ても、もうアメリカ一国だけで世界の警察ができるような時代ではなくなっているのです。中国は強力に軍事力の増強を図っていますし、ロシアと連帯する姿勢を見せています。またそのロシアは、金正恩総書記率いる北朝鮮と急速に接近して、軍事的な関係を深めています。日本を取り巻く近隣諸国の状況は、緊張感を増すばかりです。
元谷 そんな状況下なのですから、日本はアメリカだけではなく、他の国とも防衛協力を強化していくべきです。特に大きなポイントとなるのは、これからのインドとの関係でしょう。巨大な人口を抱え、経済的にも躍進をしていて、さらに中国と国境紛争を起こしているインドは、日本の防衛には欠かせないパートナーになるはずです。七月に日本とフィリピンは外務・防衛閣僚会合を行って連携を確認しましたが、このような関係を多方面に展開して、どこからも襲われることのないような国造りを行っていく必要がありますね。
柴山 正に会長が仰るような方向で、今政府自民党は価値観を共有できる国との連携を深めようとしています。「自由で開かれたインド太平洋」の枠組みの中ではインドやオーストラリア等と、さらに日本とNATO諸国との連携も強化されてきています。中国は東南アジアを経済的にも軍事的にも息のかかったエリアにしようとしていますから、先日のフィリピンとの連携強化と同様、ベトナムやインドネシア、シンガポール等の東南アジア諸国との協力も重要になってくると思います。
元谷 そのような形で、足らざるを連携で補っていくことが大切だと思います。先程平和外交が理想主義という話がありましたがその通りで、外交は単に仲良くすればいいというものではありません。力の背景がないのに単に仲良くすれば、相手に喰われてしまうだけです。バランス・オブ・パワーを重視する感覚で外交を行うことが重要なのです。
国のこともしっかり考えて
柴山 教育に関しても、軍事力を保有したから戦争が起こるのではなく、バランス・オブ・パワーが崩れた時に戦争になるのは歴史的に明白であり、これをまずきっちりと教える必要があります。さらに日本は先の大戦に敗れて極端に領土が縮小しましたが、領土問題において日本と紛争相手国がそれぞれどのような主張をしているかを教えることも必要でしょう。学習指導要領は着実に正常化していて、国を大切にすることや領土問題の正確な記述、国旗・国歌に敬意を表すること等、かつての教育現場では混乱が起きていたことが安倍首相の時代にきちんと整理され、ようやく教育現場に浸透してきています。安倍首相は本当に教育の問題に熱心に取り組んでらっしゃいました。
元谷 そういうことを聞くと、本当に安倍さんが亡くなったことが惜しまれます。
柴山 安倍先生が進めようとしていたことを、残された私達議員がしっかりと引き継いで進めていくことが、これからの複雑化する国際社会の中においても非常に重要なことだと考えています。
元谷 柴山さんには是非自民党内、さらには政界のリーダーシップをとってもらって、日本を良くするために頑張って欲しいと思います。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。
柴山 これだけインターネットが普及して、多様な分野について知ろうと思えば知り得る時代ですから、様々なことに関心を持つことはとても重要です。ただその一方で、関心に従ってチャレンジを行ったり、自分の未来を切り拓くことの根底にあるのは、日本が安心で安全な国であることです。チャレンジスピリットを育てて、再び日本を活力のある国にしていくこともどんどん進めて欲しいのですが、日本の国益をしっかりと学び、経済や福祉等の社会についての関心も持って知見を広げることも同時に行って欲しいのです。特に日本の安全保障や憲法の在り方について、世界の他の国に負けないぐらいに認識を深めていくことも大切です。こういった若い人が増えていくことを私は期待していますし、自身も可能な限り、そういった人材の育成をサポートしていきたいと考えています。
元谷 特に教育については、従来の記憶力勝者が強い偏差値教育を改める必要があると思います。各人が独自の考え方をすることが大切なのであって、一定のことを暗記するだけで評価が高くなるとか、エリートになれるというのは、今のインターネット時代には合ってないのです。多様な価値観を認めて高めてあげて、様々な分野で伸びる力のある人を伸ばしてあげることが、日本を豊かな国にすることに繋がると思います。
柴山 会長の仰る通りです。特に気になるのは、戦後の理想的平和主義の教科書で育ってきた人々が、その価値観からの視点でしかモノが見えなくなっていることです。今、明らかに国際情勢は変化してしまっているのですから、新しい時代の新しい価値観を学び取ることが必須です。生成AI等新しい技術も日進月歩でどんどん登場していますし、サイバーセキュリティやロケット開発等人材を必要とする新しい分野も増加しています。今の若者は内向きとか安定志向等と言われますが、新しい価値観を学び、新しい分野に挑戦する人がもっと増えていくように、私も応援していきたいと考えています。
元谷 その通りですね。これからの活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
柴山 ありがとうございました。