木村 次郎氏
1967年青森県藤崎町生まれ。1991年中央大学法学部法律学科卒業、青森県庁に入庁。2017年衆議院議員選挙に初当選、国土交通大臣政務官、防衛大臣政務官を歴任。
県庁職員から国会議員へ
元谷 今日はビッグトークへの登場、ありがとうございます。
木村 よろしくお願いいたします。
元谷 ご出身が青森県で、お父様も国会議員だったとお聞きしています。
木村 はい。昨年亡くなった父の守男は、河野太郎氏のお祖父さんになる河野一郎元建設大臣の秘書を経て県議会議員となり、さらに元々目指していた衆議院議員になり、最後は青森県知事を務めました。また私の祖父も衆議院議員を三期務めました。
元谷 守男氏が知事になった後、お兄さんの太郎氏が衆議院議員になったのですね。
木村 はい、兄は一九九六年に初当選しました。菅義偉前首相や河野太郎氏とは初当選同期になります。
元谷 三世代にわたる政治家一族ということですね。
木村 兄が衆議院議員をさせていただいており、私自身は大学を卒業して青森県庁の職員をしておりました。ただ兄が二〇一七年に五十二歳で亡くなり、跡継ぎは私しかいないという地元の皆様の後押しを受けて、その年の選挙で当選、今国会で働かせていただいております。予期せぬタイミングで人生が一変したという思いです。
元谷 それから七年が経ち、もう二期目に入っていると思います。様々な要職を歴任されていると思うのですが、政治家になってからやられたお仕事で、強く心に残っていることは何でしょうか。
木村 国会議員になってから、国土交通大臣政務官と防衛大臣政務官を務めさせていただきましたが、それぞれ任期中に非常に大きな事案が発生しました。国土交通大臣政務官だった二〇二二年四月には、北海道の知床半島沖で観光船・KAZUⅠ(カズワン)が沈没し乗員・乗客全員が犠牲になるという、大変痛ましい事故がありました。私は海上交通の安全を担う国交省の海事局、捜索を行う海上保安庁等を所轄する政務官でしたから、事故直後から副大臣と交代で現地の対策本部に張り付き、延べ三週間程現地で陣頭指揮を取っていました。また毎日、乗客のご家族の皆様に捜索状況の報告を行っていました。海上保安庁だけではなく、北海道警察や海上自衛隊も含め総動員で捜索を行ったのですが、全員を発見するということはできませんでした。そんな中でのご家族との対話は、時には大変困難な場面もあったのですが、私としては政治家としての糧となった経験だと思っております。
元谷 それは大変なお仕事でしたね。沈んだ船は見つかったのでしょうか。
木村 はい、どうにか水中捜索によって沈没している船を発見、その後サルベージ船で引き揚げました。潮の流れの関係か、そこにはご遺体は一体もありませんでした。
元谷 大変悲惨な事故だったのですが、原因は何だったのでしょうか。
木村 直接的な原因は、船首にあったハッチの留め具が経年劣化で不良となっており、ふたを締め切ることができなかったことです。嵐の中、ここから海水が機関室に入ってエンジンが停止、さらに浸水が進んで沈没してしまったのです。またその背景としては、この観光船を運営していた会社の管理の杜撰さや、当日天候が良くない予報だったのに他の同業者のアドバイスも聞かずに出港したことも挙げられていました。運営会社の社長の経験のなさと、様々な責任を果たしていなかったことが、このような大きな事故に繋がったとされています。また検査機関においても、船舶への検査体制に少し問題があったのではという課題が指摘され、改善を行うことになりました。
元谷 特に旅客を運搬する交通機関には、慎重な上にも慎重な安全対策が望まれます。一方、防衛大臣政務官の時には何があったのでしょうか。
木村 今も続いていますが、北朝鮮による頻繁な弾道ミサイルの発射があった時期でした。発射に伴うJアラートの発出もありました。そんな状況の中、一昨年の十二月に防衛三文書の閣議決定が行われ、防衛費の拡充方針も示されました。これによって自衛隊員の生活環境も充実していくと思うのですが、私としては「戦わずして勝つ」ことを根本に据え、有事を起こさないための備えの充実に道をつけることができたと考えています。
元谷 「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる」ということですね。
木村 会長の仰る通りです。
自国を守る気概を醸成する
元谷 そもそも北朝鮮が許可もなく、日本の領空を侵して弾道ミサイルを発射することが、大きな問題なのです。本来であればこれに厳しく対処するべきなのですが。
木村 北朝鮮とは国交がない中で、ミサイル発射の都度、特定のルートを通じて抗議はしているのですが、なかなか伝わらないというのも確かです。もう少し踏み込んで、強い圧力を掛けるべきでしょう。北朝鮮の主張では自国の安全保障のためにミサイル等の軍事開発を進めているのですが、それを日本に向けても意味がないことをしっかりとわからせる必要があると思います。
元谷 その通りだと思います。またどの国も自国の防衛は自国の軍隊が担っており、それだけでは不十分なところを同盟で補っているのです。しかし日本では、日米安保があるが故に、アメリカが守ってくれるとの雰囲気が蔓延しています。まず自分の国は自分で守るという、気概というか世論というものを醸成していく必要があります。そのためには教育や報道を変えなければならないのではないでしょうか。こういった議論をもっと国会議員の中でやって欲しいですね。
木村 自民党の中にも安全保障調査会という組織があり、多くの議員が常に議論をしています。そこでも話されることですが、もちろん日米同盟をより強固にしていくことも重要なのですが、同時に日本の自立した防衛体制の充実も確実に必要なのです。そしてその意識は政府や自衛隊だけではなく、国民全員に理解していただき、共有すべきものです。「有事に国を守るために戦いますか」という国際的なアンケート調査で、日本では「はい」と答えた人が他国よりも非常に少なかったという結果が出ています。若い人に歴史をしっかりと教え、いざという時には自分の力で国を守るのだという意識を醸成しなければならないでしょう。そういう努力が国としても必要だと痛感しています。
元谷 その通りだと思います。また戦争を起こさないためには攻撃を受けたら反撃するぞという反撃能力を、抑止力として保持する必要があります。戦争とは力のバランスが崩れた時に起こるものであって、バランス維持のための軍事力の増強は戦争を防ぐためにはどうしても必要なのです。ですから、平和憲法があるから大丈夫だとか、日米安保があるから大丈夫だとか、非現実的な安全保障議論はもう止めにしなければなりません。もっと日本としてリアルに、近隣諸国が侵略の誘惑を断ち切れるような、戦争抑止力の増強を中心とした国防政策を議論するべきなのです。私はこの日本人の国防意識の甘さの一因は、島国であることだと考えています。ヨーロッパのように陸続きであれば否が応でも緊張状態を維持しなければなりませんが、周囲が海であるが故に安心感が漂っているのです。そうではないことを、国会議員が率先して国民を啓蒙してもらえればと感じています。
木村 仰る通りですね。また日本がアメリカにおんぶに抱っこの国ではないと示すことは、アメリカからより深い信頼を得ることに繋がると思います。
元谷 普通、北朝鮮のように無警告に弾道ミサイルを上空に飛ばされたら、戦争になります。また北朝鮮に日本から拉致された人々の帰国も一向に実現しません。これらについて、少し情けない気持ちになるのです。さらに、私は戦争を起こさないために、抑止力としての軍事力増強を主張し続けていて、これを世間に伝えるためにエッセイを書いたり、今回のような対談を行ったりしています。世の中に見られるような、とにかく戦争は悪という傾向も問題です。今のウクライナのように、国を守るためにはどうしても戦わなくてはならない時もあるのですから。特に今は経済発展を遂げた中国が、日本の防衛費の何倍もの費用を使って軍事力を増強してきています。バランス・オブ・パワーによって平和が維持されるのであれば、日本も中国に合わせた軍事力の強化を行わないと非常に危険なのです。
木村 そうですね。
元谷 ウクライナ戦争でもドローン等近代兵器がどんどん出てきていますが、日本の安全保障で最も重要なのは、私は潜水艦だと思います。例えば中国がなんらかの軍事行動を台湾や日本に対して行う場合には、必ず海上で兵員を輸送する必要が生じるのです。その際に海に潜んでいる潜水艦から艦船を自在に攻撃できるということは、中国に対する強い抑止力になるでしょう。通常動力型では日本の潜水艦技術は世界屈指だと言われています。海上自衛隊は現在二十二隻の潜水艦を保有していますが、もっと増やしてもいいのではないでしょうか。
木村 昔から日本の造船技術には大変優れたものがありますから、潜水艦もその流れを汲むものなのでしょう。戦闘機同様、潜水艦にも今やステルス性能が求められているのですが、自衛隊にはそういう技術も蓄積されています。会長が仰るように、潜水艦隊は日本の防衛力として大きな柱になっていくのではないかと、私も期待しています。先ほどお話しした防衛三文書では、いわゆる反撃能力を備えることを明記したことが、これまでの防衛政策から見て画期的なことでした。敵のミサイルを撃ち落とすだけではなく、敵国の領域に対してこちらもミサイル等スタンド・オフ防衛能力で攻撃できるようにすることで、抑止を図るものです。この一環として、自衛隊の潜水艦から発射可能な長距離ミサイルの開発計画も発表されています。第二次安倍政権以降、集団的自衛権を可能にした有事法制等、様々な形で安全保障の充実が図られてきました。ただまだ十分とは言えないこともある。さらに今後は無人兵器やAIも進化、戦いの舞台も宇宙やサイバー等に広がっていきます。これらの新しい要素が複雑に入り交じる事態の中でも、適応した防衛体制を築くべく、与党として議論を重ねていきたいと考えています。
様々な課題を解決する
元谷 安全保障も大きな課題ですが、日本は自然災害も多く、これへの対策も非常に重要です。百一年前に発生した関東大震災では、犠牲者の約九割が家屋の倒壊による圧死ではなく、広まった火災による焼死でした。これを防ぐためにも、都市には防火帯ともなる百メートル道路のような幅の広い道路の建設を考えるべきでしょう。また直線に長い道路を建設すれば、有事には戦闘機の滑走路として使用することが可能です。そのように、防災にも安全保障にも活用できる道路のような国土計画を、これからもっと議論するべきだと思うのですが、いかがでしょうか。
木村 そのような観点での国土計画は、あまり進んでいないように思います。ただ道路はやはり重要で、この正月の能登半島地震の際も道路が寸断されて、自衛隊等が速やかに救援に向かうことができなかったと言われています。いざという時に滑走路になる道路は、このような場合の空からの物資の輸送に役立つかもしれません。少し話はずれるのですが、これから全国の原発が審査を経て再稼働していきます。原発の稼働には、自治体が作成する避難計画が非常に重要になりますし、当然道路の整備も求められます。私の地元の青森県も下北半島に核燃料サイクル施設や原発があり、避難道としての道路整備が必要となっています。さらに青森県では、有事に使用するシェルターの議論も本格的に開始しました。今後は、多角的な視点で国民を守るためのインフラストラクチャーの議論をしていく必要があると感じています。
元谷 脱炭素の流れのために原発の有用性が見直され、その技術も発展してきています。大きな原発が広域の発電を担うよりも、そのエリアのみの電力を担う小さな原発を沢山作れば、いざという時に電力が供給できないエリアを減らすことができるのではないでしょうか。SMR(小型モジュール炉)と呼ばれる最新の小型原子炉技術であれば、自然冷却が可能なために電源を喪失してもメルトダウンを引き起こすことがありません。非常に安全性が高い原子力活用の施策だと思います。
木村 そういった発想での原発整備もあり得るかもしれません。交通網の整備という観点では、私がこれから進めたいと考えているのは、第二青函トンネルです。青森県と北海道を結ぶ青函トンネルは現在、新幹線と貨物列車が線路を共用しています。しかし新幹線と貨物列車がすれ違う時の風圧でのコンテナの破損を防ぐため、本来時速二百六十kmまで出せる新幹線の速度が、青函トンネル内では時速百六十kmまでに制限されているのです。新幹線の性能を存分に発揮できないのはもったいないことですが、日本の食料基地である北海道から農作物等を運搬する貨物列車の重要性は、改めて言うまでもありません。もう一本トンネルを掘って新幹線と貨物列車を分ければ、東京札幌の新幹線の運行を早く、本数も多く行うことが可能になります。また有事にも有効です。北海道にはかなりの数の自衛隊の部隊があり、弾薬の備蓄もあります。南西エリアでの有事が発生した場合、これら部隊や弾薬を船や航空機で運ぶのには制限がありますが、第二青函トンネルがあれば、鉄道によって今よりも大量かつ速やかに移動させることが可能です。さらに北海道と本州の食料輸送ルートが太くなることは、食料安全保障の観点からも望ましいことです。様々な問題が根本から解決されるということで、この第二青函トンネルの勉強会を先日立ち上げたばかりです。
元谷 それはぜひ進めるべきです。トンネルであれば、有事に食料や弾薬を攻撃を避けて備蓄する「備蓄庫」としての活用も可能でしょう。そもそも自衛隊には弾薬の備蓄が非常に少ないと聞いています。継戦能力を高めるためにも、特に今後、弾薬の備蓄が重要ではないでしょうか。
木村 拡充した防衛費では拠点拠点での弾薬の備蓄の強化が謳われていますので、今後しっかりと進んでいくと思います。
夢に向かって努力をする
元谷 私の出身地である石川県小松市には、航空自衛隊の小松基地がありますが、備蓄されている燃料や弾薬、さらには戦闘機等が上空からの攻撃に弱いように見えます。掩体壕や地下施設等で空からの攻撃を防ぐようにしないと、戦い続けることが非常に難しいのではないでしょうか。戦争が起こらないことを前提に設備を考えるのではなく、戦争は必ず起こることを前提に対応策を実行しておく必要があります。このような軍事力の強化を主張すると、メディアは戦争を煽るものだと批判するのですが、抑止力まで批判してどうやって国を守るのでしょうか。永世中立国として評価されるスイスですが国民皆兵制の国であって、二十歳から五十歳の男性は全員、一定期間の軍事訓練が義務付けられていて、予備役になっています。そのため、各家庭に自動小銃と弾薬が貸与されていて、いざとなればそれらの予備役の人々が銃を持って戦うのです。スイスの永世中立は、自国を侵す勢力は必ず酷い目に合わせるぞという軍事力を背景に成り立っています。隣国との外交関係の維持はもちろん大切ですが、状況によっては敵国になるという想定も非常に重要です。地震に関しては、日本はどこも大きな地震に襲われる可能性があるという前提の下、建物については震度六強~七程度の揺れでも倒壊しないという高いレベルの耐震基準の策定や地震に伴う火災や津波の対策立案を、万が一に備えて行っています。これと同様に、戦争に関しても万が一に備えるべきなのです。冷戦時には、ソ連の侵攻を撃退すべく北海道に陸上自衛隊が重点的に配備され、それを支援すべく青森県の三沢飛行場にアメリカ空軍や航空自衛隊の戦闘機部隊が置かれました。しかし今は、弾道ミサイル等の攻撃をどう軍事力で抑止するかを考えて、配備を決めていかなければなりません。防災から軍備に至る、そういった非常時に強い国造りというのが、今後の国会議員の重要な仕事になっていくのではないでしょうか。
木村 仰る通りだと思います。
元谷 特に野党の主張を聞いていると、日本が戦争を起こさないために軍備を制限すべきだと主張しているように聞こえます。「日本が悪い」という東京裁判史観を引きずっていると、このような発想しかできないのでしょう。今の日本が国際法を破ってまで他国と戦争することなど、あり得ません。しかし日本が戦争を起こさなくても、他の国が戦争を仕掛けてくることは十分に考えられるのです。まず他国に軍事行動を起こさせないための戦争抑止力が必要なのはもちろんですが、不幸にして戦いが始まった場合の継戦能力の維持のための豊富な弾薬等の備蓄も必要です。先程木村さんが指摘されたように、防衛費の増額によって既に備蓄にも手当が行われているということですが、本当にしっかりと備えて欲しいと願っています。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きして、結びとしています。
木村 時節柄卒業式にお邪魔をしてお話をさせていただくことも多く、その際私が若い皆さんにお話しているのは、「自分の夢や目標に向かって努力をする」ことの重要さです。また「常に新しいことに挑戦する気持ちを持つことを大切に」とも伝えています。ただ、国防でも防災でもそうなのですが、崇高な志があってこそ、努力を続けることができると思うのです。ぜひ国のため、地域のため、そして自分の周りの人のためといった意識を持って、確かな歩みを進めてもらえれば。
元谷 その通りですね。今日はありがとうございました。
木村 ありがとうございました。