日本を語るワインの会249

ワイン249恒例「日本を語るワインの会」が会長邸で行われました。「真の近現代史観」懸賞論文に過去最も多く入賞を果たしている国際経済政治学者の山下英次氏、一月に最新刊『自民党崩壊』(ビジネス社)を上梓したばかりの産経新聞上席論説委員の乾正人氏、商社勤務の経験を活かした中小企業の応援の傍ら、官僚OBとアジア各国で対中活動を行っている株式会社HAYAコーポレーション代表取締役会長の小塩一氏、CA時代の経験から『どんなストレス、クレーム、理不尽にも負けない 一流のメンタル 100の習慣』(朝日新聞出版)を上梓したことがある株式会社CCI代表取締役の山本洋子氏をお迎えし、今の日本の政治の混乱等について語り合いました。
マッカーサーが演出した
米軍日本占領の第一歩
 二〇二二年に誕生した大阪公立大学は、小塩一氏が卒業した工学部が東京工業大学と同様の起源を持つ大阪府立大学と、山下英次氏が長年教鞭を執り、その経済学部が一橋大学と同じ商科大学の起源を持つ大阪市立大学が統合した大学だ。二〇二五年に開設される森之宮キャンパスを含む八つのキャンパスを持っている。ドイツのAI研究所が設置される等、注目の大学だ。
 小塩氏の父親は北海道出身だが次男だったために軍隊に入り、先の大戦の開戦時にはフィリピンに上陸する部隊の中隊長だった。精神に異常をきたした他の中隊長の代わりに、三百人の部下と共に先頭となって上陸作戦を敢行、風に流されたおかげで敵のいない海岸に無事上陸でき、九死に一生を得た。
 フィリピンから帰国した小塩氏の父親は、有末精三中将の命令で彼の娘と結婚した。有末は終戦後、天皇陛下に命じられてマッカーサーの出迎えを行った人だ。イタリア駐在の武官の経験もあった有末は、八カ国語が話せるほど語学が堪能だった故に、出迎えを任されたと思われる。ただ有末はヨーロッパには詳しかったが、アメリカについての肌感覚はない。そこで陸軍士官学校同期の鎌田銓一中将のことを思い出した。工兵畑の鎌田は陸軍大学ではなく京都帝国大学工学部で学び、その後アメリカ駐在となり、マサチューセッツ工科大学で学ぶ一方、マッカーサーが連隊長を務めていた工兵連隊の大隊長にもなっていた。有末はこのアメリカ通の消息を探し、終戦時には北京で鉄道の司令官となっていた鎌田を、日本に呼び戻した。
 このことをフィリピンにいたマッカーサーは、通信傍受により知っていた。そこで中隊長として鎌田の下にいたチャールズ・テンチ大佐を日本占領の先遣隊二百名のトップに据えて、送り出したのだ。日本でアメリカの先遣隊と会った有末と鎌田は、家族に青酸カリを持たせるなどして、決死の覚悟でアメリカ軍を迎えたのだが、テンチ大佐がいきなり親しげに「大隊長、お懐かしいです」と話しかけてきて、鎌田とハグ。いっきに打ち解けて、緊張の薄らいだ中で占領の第一歩を踏み出すことができたという。日本軍では参謀等作戦畑が出世したが、当時のアメリカ陸軍では工兵隊がエリートであり、マッカーサーもそれを考慮して工兵隊を志願して出世した。
次期首相の本命は上川陽子
対抗は石破茂になるだろう
 山下英次氏は、民間の国際交渉である日米財界人会議の事務方を務めたことがある。時は一九八六年七月、急激な円高を引き起こしたプラザ合意の十一カ月後だった。山下氏のカウンターパートはキャタピラー社のロビイストで、彼が書いてきた会議の声明文の下書きを、山下氏が経済用語を正して全て書き直した。そして日米の主張の溝は埋まらず両論併記で、「合意しなかったということで合意した」という声明文を作った。日本側の事務方のトップは新日鉄の部長だったが早く合意を得るために、アメリカに妥協しろとばかり指示してきて、山下氏はこれを跳ね除けるのに大変苦労したという。こういう場で過剰な配慮をして、自らの意見をきちんと主張してこなかったのが、今の日本の状況を生み出しているのではないか。
 さらに日本の弱腰の片棒を担いだのが、日本経済新聞だ。日米貿易摩擦で何かアメリカが日本に要求すると、日経はそれがあたかも天啓かのように一面で報じた。そのアメリカべったりの態度が、日本経済を今の状況にした一因だと考えられる。
 乾正人氏は政治部記者として、一九八九(平成元)年に竹下内閣が終わる時から、平成令和の歴代の首相を見てきた。乾氏はどんな政治家にも威圧されることはないが、それは最初に会った首相が宇野宗佑氏だったからだ。「三本指」で首相の座を早々と降りることになった宇野氏だが、この程度の人でも首相になれるのかと思った。もし最初に会ったのが中曽根康弘氏だったら、乾氏の政治家観はもっと異なるものになったはずだ。乾氏にとって凄い政治家は、やはり中曽根氏と安倍晋三氏だ。小泉純一郎氏も凄いが、それは「狂的」な意味だ。ただ小泉氏の引き際は素晴らしく、今は反原発以外、一切政治に口出しをしていない。これも一つの政治家の在り方だろう。
 一方、今の岸田文雄首相は残念なことが多い。安倍氏をあれだけ近くに見ていたのにとも思うが、やはり元々持っているものが違い過ぎるのだろう。今や何をやっても支持率は回復しない。低くても良いのだが、民主主義国家・日本では、選挙に勝たないと力は振るえない。次の選挙を岸田首相のまま行うと、自民党は大敗するだろう。ではポスト岸田は誰か。本命は上川陽子外務大臣、対抗が石破茂氏というところだろう。麻生太郎氏はもう岸田首相を見放しているから、上川氏を推すはずだ。
 岸田氏を多くの人が過小評価しているという声もあるが、彼がもっとしっかりしていれば、今のような自民党の裏金騒動など起こっていない。二月四日に投開票された前橋市長選挙では自民党・公明党推薦の四期目を目指した現職候補を、野党が支援した無所属の新人候補が大差で破った。こんなことは、本来あり得ない。中曽根系が反旗をひるがえしたといっても、現職には創価学会がついており、そもそも福田系は強い。にもかかわらず敗れるとは、国民にかなり鬱憤が溜まっている証拠だ。少なくとも早急に「表紙」を代えないと、自民党は本当に崩壊するだろう。
政治家に寄付をする文化が
優秀な候補者を見つけ出す
 イギリス、イタリア、日本で共同開発をする次期戦闘機に関連して、共同開発の防衛装備品の第三国輸出についての与党協議が行われているが、公明党がこれに反対している。中国に配慮しているのだろう。自民党は公明党をすっぱり切れればいいのだが、切れない。当選四回以下の小選挙区の自民党の衆議院議員は、公明党が野党に回って対抗する候補者を出されたら勝てないからだ。
 知らない人が多いが、日本ほど選挙にお金が掛からない民主主義国家は、北欧の一部の国を除ければ存在しない。中選挙区制の時は選挙に勝つには五億円必要だったが、小選挙区制となり政治資金規正法が施行された今は、数千万円で勝てる。しかし小選挙区の場合は一位を取らないと勝てないために、旧統一教会や創価学会等の宗教団体の力に頼ることになる。成長の家は選挙からは一切手を引き、成長の家を辞めた一部の人が日本会議の幹部で活動している。しかし日本会議は過大評価されていて、集票マシーンとしてはあまり力がない。全国で百万人単位の信者がいないと、まとまった票にはならない。旧統一教会は確かに数はいないが、熱心な信者が様々な活動を無料で行ってくれるので、多くの議員が世話になっている。
 日本には政治家や政党に寄付をする文化が育っていない。例えば四年前のアメリカ大統領選挙では、両陣営合わせて二兆円の政治資金が使われた。日本の自民党でも年間の政治資金は二〜三百億円だから桁が違う。この資金が全て寄付なのだ。PAC(政治活動委員会)よって寄付は集められるが、一般市民が少額を寄付することが非常に多く、この分だけでも一兆円になる。お金を集められる候補は、魅力があるということだ。こういう文化を日本でも広めていかないと、世襲から脱した良い政治家が出てこられない。
日本航空の没落の原因は
メディアのアメリカ偏重だ

 山本洋子氏は一九八五年にCAとして日本航空に入社、地上勤務で研修中の八月十二日に、ジャンボ機の墜落事故が発生した。この事故をきっかけに多くの現役CAが退職、山本氏らの研修が短くなり、すぐに正社員となって実務に配属されることになった。国際線のCAとして活躍した山本氏だが、二〇一〇年の日本航空の経営破綻を機に退職した。
 事故と破綻には密接な関係がある。事故の原因は明確で、尻餅事故の後のボーイング社の修理・点検を担当した二人の整備士の初歩的な作業ミスだ。しかし新聞をはじめとするメディアは、アメリカ人やアメリカ企業を強く批判する報道をせず、結果日本航空が悪いことになっている。このことが、日本航空という立派な会社を駄目にした。再建した日本航空だが今は酷い状態で、路線網が大幅に縮小している。今は全日空の方が路線網を拡大、食事も美味しいと評判だ。
 日本航空と全日空ではCAの行動基準が全く異なる。日本航空では常にきれいなトイレを使ってもらえるように、誰かがトイレに入って出ると、しばらくしてからすっとCAが掃除を行っている。しかし全日空では乗客が出ても、一切トイレ掃除をしない。次の人がトイレに入り汚れているのを見たところにCAがやってきて、乗客の眼の前で掃除をする。すると乗客は、自分のために掃除してくれているような気になって、喜ぶのだ。どちらの方がいいのかということは難しいが、こういうことの差が今の両者の印象の違いに繋がっている。
 例えば今、ロンドンのヒースロー空港の航空会社のカウンターにはほとんど人がおらず、そこでチケットも買えない。チケットの購入は全てネットからになっている。日本でもJRの駅の窓口が減少していて、インバウンド客が困っている。昔あった東京メトロのカードサイズの路線図も、今は作っていなくて、スマホで見てくださいになっている。
 今インドネシアは中国人に警戒心を持っていて、パージを行っている。晴海のような埋立地にマンションを建設、中華系の人々を強制的に押し込んで、いざとなったら橋を落として、孤立させられるようにしている。中国人の多い日本も参考にするべきだ。