日本を語るワインの会247

ワイン247恒例「日本を語るワインの会」が会長邸で行われました。二十四歳で創業した会社が、五十六期目の今年には売上六千億の大企業になった加賀電子株式会社代表取締役会長の塚本勲氏、東京国際大学で企業の社会的貢献についての講義を行う慶應義塾大学名誉教授・公益財団法人アパ日本再興財団理事の塩澤修平氏、大学時代に母親が浦安市議になったことから政治家を志した千葉県議会議員(浦安市選出)の折本龍則氏、公認会計士となって丸十年の金井公認会計士・税理士事務所代表の金井義家氏をお迎えし、ビジネスから政治まで、幅広いテーマで議論を交わしました。
半導体で遅れをとった日本
これからでも追いかけるべき
 今年六月にLGBT理解増進法が可決したが、これはアメリカのラーム・エマニュエル駐日大使による内政干渉によって成立したものだ。折本龍則氏や他の地方議員、国会議員はアメリカの独立記念日である七月四日に合わせてアメリカ大使館を訪れ、抗議文を手渡した。しかしエマニュエル大使は返事もせず、無視を続けたままだ。キックバック問題で国会が混乱する今、地方議員がきちんとしていないと、日本人が舐められることになる。千葉県の熊谷俊人知事は二〇二一年の選挙での公約で、あらゆる人が差別を受けることなく個人として尊重されることを趣旨とした多様性尊重条例の制定を謳っていた。今千葉県議会でこの条例案が検討されようとしているが、自民党が単独過半数を越えている県議会では、自民党内部でも意見の統一ができずに揉めている状況だ。
 二〇二二年には、日本中で半導体が不足して大騒ぎになった。日本は半導体製造で遅れをとり、すっかり台湾や中国、韓国の後塵を拝している。こんな状況は田中角栄のように、日本のためなら十兆円や二十兆円ぐらい貸してやるという政治家がいないと打開できない。台湾の半導体メーカー・TSMCが熊本に工場を建設することが決まり、ようやく五兆円の投資で北海道千歳市に国策半導体メーカー・ラピダスが誕生する。日本は結局十年ほど遅れたことになるが、これから電気自動車(EV)の普及等で半導体の需要は増える一方だ。遅れたとはいえ、とにかく今からでも早く事業を進めた方がいい。しかし足りないのはエンジニア。慌てて、いろいろなところから集めている真っ最中だという。
 石川県出身で最も成功した経営者と会長が認める塚本勲氏だが、氏が秋葉原で事業を始めた時には、まだデジタルの「デ」の字もなく、真空管の時代だった。しかし世の中は急速に変化して、半導体による高集積化と高速化が進み、コンピューターやインターネットが登場した。アナログからデジタルの移行の中で加賀電子は成長していったが、常に勉強して世の中についていくのが大変だったという。
 会社名が個人名ではなく、石川県にちなんだものでもなく、なぜ「加賀」か。塚本氏は独立して会社を興す際に資金が足りず、郷里に住む母親と兄に頼み込んで、二十万円を貸してもらった。その際に会社の名前をどうするかの話題になり、母親が「加賀百万石だから加賀電子にすれば」と言った。塚本氏には違う考えもあったが、金を借りたという弱みもあり、母親の言に従ってこの社名にしたという。
 加賀電子所属の女子プロゴルファー・山下美夢有選手が二年連続の賞金女王に輝いた。加賀電子とは契約金に加えて、インセンティブボーナスが出る契約となっているので、今年も多額のボーナスが加賀電子から彼女へと支払われる。不思議なことにプロゴルファーは所属を変更すると、成績が落ちると言われている。
 塚本氏は、「ツインフィールズレディーストーナメント」が毎年開催されている「ゴルフクラブ ツインフィールズ」の経営を無報酬で行っている。経営難で前経営者が自殺、誰もが怖がって手を出さなかったのを、塚本氏に経営の要請が来た。クラブハウスやコースが素晴らしいことから、塚本氏はまず前経営者のお墓にお参りをしてから、要請を受諾した。トーナメントも開催されるようになって経営は徐々に改善している。また縁あって、塚本氏は金沢カレーの雄「カレーの市民アルバ」の取締役最高顧問もボランティアで務めている。
自衛隊の予算充実のために
「防衛版ふるさと納税」を
 五年間で防衛費をGDPの二%にまで増額する方針が示されているが、その財源はこれからの議論だ。いっそのこと、国の安全保障を考える人からの募金を集めて基金を創設すればどうか。個人でも法人でも税制上の優遇を設ければ、三〜五兆円はすぐに集まるだろう。自民党では「防衛版ふるさと納税」として、特に自衛隊員の福利厚生の充実に使うものとして既に議論の俎上には上がっているが、ぜひ実現させて欲しい。世界中の基地同様、在日米軍基地には必ず将兵のためのトレーニングマシンが整った施設がある。しかし自衛隊の基地には一カ所もなく、自衛隊員は民間施設を利用するか、米軍の施設を使わせてもらって体を鍛えていた。防衛費増額によって、ようやく一部の自衛隊基地に試験的にトレーニングマシンが導入されることになっている。国防力強化のためにも、こういった施設の充実は寄付を募ってでも行うべきだ。
 塩澤修平氏は神奈川県の「ヘルスケア・ニューフロンティアの推進」のアドバイザーも務めている。この事業は、「最先端医療・最新技術の追求」と「未病の改善」という二つのアプローチで健康長寿社会を目指すというもの。健康を維持している人の健康保険料を、健康を維持できなかった人が使うことへの不公平感は強い。健康へのインセンティブを持たせるべく、公的支援として健康維持者へ何らかの優遇を与えることも、今話し合われている。
 金井義家氏は東京の勝兵塾に必ず参加している。勝兵塾は統一された明確なメッセージがあるわけではないが、先人の知恵をしっかり学んだ、レベルの高い様々な講師の主張を聞くことで、自分で本当のことが何かを考えるきっかけを得ることができる。「本当のことを知れば保守になる」は会長の言葉だが、今の世の中では本当のことを教えられていない人が多すぎる。
需要と供給から料金を決定
ブランド力のあるホテルへ
 アパホテルの高収益の理由は、次から次へと新しいホテルを適切な場所に建設しているからだ。今、資産の時価評価額はおよそ一兆三千億円で借入金が四千億円なので、実質的な純資産額は九千万円になる。アパグループのインタレスト・カバレッジ・レシオを見ると、利益は支払利息の十倍にも及び、財務的に非常に健全な状態だ。プロジェクト毎の借入金は年々減ってきており、キャッシュで買ったり返済が終わった無借金のホテルが約九十棟ある。これらはすぐに資金化することが可能だ。物件の保有にこだわってきたのも、高収益の要因の一つだ。どのホテルも公共交通機関から近く、含み益が出るのも当然だ。二〇〇八年にアパグループへの耐震偽装疑惑があったが、二〇一一年の東日本大震災の際には東京のアパのマンションはびくともしなかった。これで耐震偽装疑惑が完全に晴れ、東京の物件が一気に売れた。
 もう一つ、ホテル経営で大切なのは、宿泊費が高額でも選ばれるブランド力だ。今東京にもどんどん新しいアパホテルを建設しているが、インバウンドのお客様にも綺麗で安いという評価が定着しつつある。コロナ前に一泊三万円の宿泊費を出してメディア等に叩かれたことがあったが、本来価格というのは市場の需要と供給で決まるものだ。それまで季節以外の変動がなかったホテルの料金に、需要と供給のダイナミックプライシングを導入したのはアパホテルが最初だ。世間の圧力を気にせずこの方針を貫いていたら、今ではどのホテルも同様の料金設定をするようになってきている。稼働率の高さも高利益率の要因の一つだ。東京のアパホテルの稼働率は一〇〇%を越えている。これはデイユースの部屋を更に宿泊でも販売しているからだ。稼働率向上のために、社員一人ひとりが知恵を絞って活動していることも大きい。
部下にランチを奢ることは
お金の一番の有効活用だ
 アパグループの二〇二四年春の新卒採用内定者は現在のところ六百十名。新規ホテルのオープンに伴い人材の必要性は増しており、専務だけでも約千人の学生と面接をするなど採用活動に力を入れた結果、直近の就職企業人気ランキングでアパホテルは四十位台まで順位を上げてきた。
 一九八四年の十二月十二日にアパホテル〈金沢片町〉がオープンした。今、このホテルのロビーには、アパホテル第一号のプレートが掲示されていて、触ると商売繁盛のご利益があるという噂がたっている。非売品であるアパホテルオリジナルのうまい棒は、パッケージを破る時にホテル社長の顔で上手く裂けると、魔除け効果が高まると言われている。
 北陸や山陰などの日本海側は、今がズワイガニのシーズンだ。オスの立派なズワイガニはもちろん美味しいが、石川県では小ぶりなメスのズワイガニを香箱ガニと呼び、リーズナブルにいただけるそのカニを珍重する。金沢おでんにはこの香箱ガニを使った「カニ面(づら)」が欠かせない。アパホテル&リゾート加賀片山津温泉佳水郷では、「蟹づくし会席」と銘打って、ズワイガニも香箱ガニも味わえてお得なプランを売り出している。ズワイガニは金沢の近江町市場では、一杯三万円のものも出ている。しかし鳥取ではズワイガニが一杯三〜四千円、香箱ガニは一杯五百円で売られている。同じものでも、近江町市場の方が高く売れるらしい。
 専務が『わらしべ長者の魔法』という本を出したきっかけは、豊富な人脈の中で様々な人々を結びつけ、その結果それぞれの企業の売上を上げたり、チャンスを増やしたりしている専務の活動を見た出版者の編集者が、「わらしべ長者みたい」と言ったこと。わらしべ長者の話は、交換するどちらも付加価値を高める結果となっていて、経済学的に合理性が非常に高い取引と言える。
 ホテル社長に「お寿司を食べに行こう」とランチに誘われると、まず三玉まで無料のうどん店に連れて行かれ、その後に寿司へ。さらにラーメン店に行き、残った汁にご飯を入れて食べてようやく終了するという。一緒にお腹いっぱいご飯を食べると、人と人は仲良くなる。手元にある一万円を有効に使おうと思うのであれば、まずは部下と食事をすることだ。