Essay

国家の安全と利益を守れVol.373[2023年10月号]

藤 誠志

米の対中輸出規制に対抗
中国がドローン輸出を規制

 八月一日付の産経新聞の一面に、「中国、ドローン輸出を規制」という見出しの下記の記事が掲載されている。
「中国政府は三十一日、一部の無人機(高性能の民生用ドローン)と関連機器の輸出規制を九月一日から実施すると発表した。国家安全に関わる戦略物資や技術の輸出を規制する『輸出管理法』などに基づく措置。当局の許可を得ずに輸出することを禁じる」「ドローンでは中国企業が世界的に高いシェアを持つ。米国が先端半導体などの対中輸出規制を強化しており、習近平政権による対抗措置の一環の可能性がある」「中国商務省などの発表によると、『国家の安全と利益を守る』ための措置で、国務院(政府)と中央軍事委員会の承認を経て決定した。一定の基準を上回るなど該当する一部のドローンのほか、そのエンジンやレーザー装置、対ドローンシステムなどが対象になる。許可なく輸出した場合は刑事責任を追及するという」。確かに、武器としてのドローンの「価値」は、近年上昇する一方だ。今行われているロシア・ウクライナ戦争でも、双方がドローンによる攻撃を強めている。
 四月十七日にフライデーデジタルにて配信された「時速四百キロメートル超&一台二十三億円“空中殺戮マシーン”…最新『軍事ドローン』の恐ろしすぎる性能」というタイトルの記事に、そのドローン戦の現状が詳しく書かれている。「もはや人が前線に立って戦争をする時代は終わろうとしているのかもしれない。ロシアに対し徹底抗戦を続けているウクライナ軍だが、その背景には西側諸国から大量に支援された軍事ドローンの存在があるとされる。偵察、攻撃、自爆……さまざまなタイプのドローンが実戦投入され、多大な戦果を挙げているのだ」「ドローンは今や戦場兵器の主力になりつつあり、各国は有事に備え熾烈な開発競争を繰り広げている」と前置きした上で、各国のドローン開発状況を下記のように伝えている。「現在、最強と言われるのが『空飛ぶ死神』こと米国製の『MQ‐9リーパー』だ」「レーザー誘導ミサイルも使え、二〇年には、イラン革命防衛隊司令官ソレイマニ氏の位置を特定。空港に降り立って車に乗り込んだところを気付かれないようはるか上空から暗殺しました。通常、米国から二人のオペレーターが機体カメラの映す映像などを見て遠隔操作します。給油なしで片道三〇〇〇km以上の距離を飛行でき、世界各地の米軍基地に配備すれば、世界中どこでも攻撃できるようになります。一機の価格は約二三億円と高額。昨年一一月には海上自衛隊の鹿児島県・鹿屋航空基地に警戒監視目的で配備」している。「米国に対抗すべく、中国もドローン開発に躍起になっている」「昨年一一月に公開された『翼竜3』は『MQ‐9リーパー』を意識した高性能機です。四〇時間の飛行ができ、航続距離は一万km以上。二tの武器を積載して中国からハワイの米軍基地まで飛行可能で、空中給油も可能と言われています。最近では中国の軍用ドローンが沖縄周辺空域を偵察目的で飛ぶことが増えていて、航空自衛隊のスクランブル発進が急増している」という。さらに「中国による侵攻に備えるべく、台湾では急ピッチでドローンの開発が進められている。今年の防衛費は昨年よりも一四%増額され、約二兆五五〇〇億円という過去最高額を計上。軍用ドローン三〇〇〇機の調達も決めた。今年三月には、台湾が独自開発した新機種も大々的に報道陣に公開された。『公開された八機種すべてが台湾製です。人工知能を搭載して敵軍用艦を一六時間、距離三〇〇kmにわたって自動追尾が可能なものや、小型で空中からミサイルを発射できる機種も導入されます。このタイミングで公開したのは、軍事的圧力を高める中国を牽制する狙いがあると見て間違いないでしょう」(全国紙国際部記者)」という。

現行法の下では自衛隊は
ドローンを運用できない

 この記事では「日本も、二二年一二月、攻撃用を含む軍事ドローンを、二五年度以降に数百機規模で配備することを決定」としているが、その運用には不安が大きい。ダイヤモンド・オンラインで二〇二二年十二月二十八日に配信された部谷直亮氏による記事「自衛隊がドローンを本格導入、なのに『有事でも自由に飛ばせない』理由」によると、小型無人機等飛行禁止法によって、この法律が指定する重要施設(自衛隊駐屯地や米軍基地、皇居、首相官邸等)上空で飛ばす際には、四十八時間前までに自衛隊から警察への「通報」が必要だという。つまり現行法下では、有事でもすぐにはドローンを飛ばすことができないのだ。また同メディアが二〇二三年一月二十五日に配信したヒラタトモヨシ氏による記事「自衛隊を縛るドローン規制の時代錯誤『自撮り棒にカメラを付けて走った方が速い』」によると、電波法によって日本においてドローン操縦に無条件に使用できる電波の周波数は二・四GHz(ギガヘルツ)に限るという、世界でも異常に厳しい規制がかけられていて、これは自衛隊のドローンにとって民間と同様の足枷になる。二・四GHzは電波干渉を受けやすく、それもあって海外では六km飛行可能な仕様のドローンが、日本では三〇〇m程度と飛行距離が二十分の一になっているものもある。実際、電波障害の多さからドローン離陸に時間が掛かるため、「数百mの距離であれば、自撮り棒にカメラを着けて走った方が速い!」と証言した現役の自衛官もいるという。これも、他の国がドローン操縦の標準とする五GHz帯等が使用できれば、解決することなのだ。日本では、小型無人機等飛行禁止法や電波法等の法律による規制によって、現状では軍事的にドローンを十分に活用することができない。

「三原則」変更でも進まない
日本の防衛装備品の輸出

 これまでは戦争は兵士らが武器を持って戦うものだったが、映画「トップガン マーヴェリック」の中でも指摘されていたように有人の戦闘機が無人のドローンに取って代わる等、無人兵器同士がその性能を競うものに変化していこうとしている。この時流の中で安全保障を確かなものにしていくためには、ドローンをはじめとした最新兵器の開発能力が重要となる。日本の武器開発の障害となってきたのは、「『武器』の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としてはその輸出を促進することはしないという政策」である「武器輸出三原則」だった。輸出不可能なため生産量は限定的に、必然的に日本製の武器は高価になると同時に利益率は低下、この事業から撤退するメーカーが続出した。さらに「武器輸出三原則」は他国との共同開発すら認めなかったため、高額の研究開発を必要とする現代の兵器開発のトレンドから日本は遅れつつあった。これらを改善すべく、第二次安倍政権下の二〇一四年に新たに閣議決定されたのが、政府が採る武器輸出規制および運用面の原則を新たに定めた「防衛装備移転三原則」だ。これは武器輸出を行うことを前提に、防衛装備の移転を禁止する条件を明確化すると同時に、移転を認める場合の厳格な審査と情報公開を定めたもので、国際共同開発への参加も可能とした。輸出可能な分野を救難、輸送、警戒、監視、掃海の五類型に限定する運用指針も示されている。
 しかしこの「防衛装備移転三原則」が定められてからも、日本の防衛装備品の海外への輸出は進んでいない。これについて、日経ヴェリタス二〇二二年十一月二十日号の「売れない日本の防衛装備品 輸出促進、利益率向上に課題」という記事が詳しい。「安倍政権が『防衛装備移転三原則』を決めたのが二〇一四年四月。武器輸出を原則禁じてきたルールを改め、日本の安全保障に資する場合の海外移転や国際共同開発に道を開いた。しかし政府や防衛産業が当初、期待したような成果はこれまで上がっていない」「有望株とみられたオーストラリア向け潜水艦や英国向け哨戒機は他国に競り負け、引き合いが多い救難飛行艇も条件面で折り合わない。完成装備品の海外移転は二〇年夏、三菱電機製の警戒管制レーダー(四基で約一億ドル)のフィリピン国防省との契約のみだ」「なぜ日本の装備品はこうも売れないのか」「自民党の松川るい元防衛政務官の評価は明確だ。『少量生産で価格が高く、海外に輸出することを前提にした生産体制ができていない。自衛隊用をダウングレードして売れるようにしないと。防衛装備移転三原則の手かせ足かせがたくさんあり、見本品すら簡単に渡せない。政府にも前面に立って企業を支える体制がない』」「首相や浜田靖一防衛相は『防衛産業はわが国の防衛力そのものだ』と繰り返し、国内基盤の強化に強い意欲を示している。ロシアのウクライナ侵攻をみれば、有事の際の弾薬、装備品の補給と増産体制がどれだけ戦況と継戦能力を左右するかがわかる」「まずは国内の生産基盤の体力をどうやって保つかだ。国内で防衛事業から撤退した企業は、過去二〇年で一〇〇社を超えるとされる」「世界の軍需産業のトップ一〇に名を連ねる米国や中国の大手とは経営規模、防衛事業の比重において大きな格差があり、国内メーカーは人材や予算を優先的に振り向ける状況にない」「政府・与党は『五年以内の防衛力の抜本的な強化』を掲げる。防衛産業の強化も柱の一つであり、①長期契約と成果に応じた利益水準②装備品の輸出を促す三原則の規制緩和と官民協力の体制整備③研究開発の支援強化――などの検討を急いでいる」という。
 この七月に自民・公明両党は「防衛装備移転三原則」の要件緩和について協議を行い、論点整理をまとめた。ロイターによる二〇二三年七月五日付の「防衛装備品で自公が論点整理、武器輸出で政府解釈の明示化求める」によると、(運用指針の)「五類型に自衛隊法上の武器が含まれるか、『これまで明確な整理がなされなかった』と指摘、政府の解釈を確認し明示化するよう求めた」「国際共同開発の装備品を巡っては、現在認められていない第三国への輸出を『できるようにする方向で議論すべきだ』との声が中心を占めたとした。日本・英国・イタリアで共同開発する次期戦闘機を念頭に、第三国輸出ができない場合『日本が国際共同開発に参画できなくなるリスクがある』(公明・浜地雅一氏)ためだ」「装備品輸出について『外交政策を展開していく手段』との意義を三原則で明確化するよう求めたほか、ロシアによるウクライナ侵略を念頭に『侵略や武力行使・威嚇を受けている国への支援』との趣旨も三原則に書き込むべきとした」という。ウクライナ支援強化を念頭においた要件緩和だが、防衛産業強化への一歩とも言えるだろう。

自衛隊の武器の最新化と
関連法の改正を行うべき

 平和はバランス・オブ・パワー、力の均衡によってのみもたらされる。いざというときには自国を防衛したり、友好国への輸出を行ったりできるよう、日本も絶えず武器の最新化を図ることで、近隣国とのバランス・オブ・パワーを維持していかなければならない。日本の十数倍もの人口を有する隣国がどんどんと経済力・軍事力をつけてきて、日本を傘下に治めようと虎視眈々と様子を窺っている。この現実がある限り、それに備えていかなければならない。幸い日本は海に囲まれた国だ。海上自衛隊による制海権の確保のため、通常動力型では世界最強と言われる高性能な潜水艦隊を維持することは必須であり、加えて今後の原子力潜水艦の導入も検討すべきだろう。制空権を確保するために現在第五世代戦闘機のF35(敵より先に発見し撃墜する高度な火器管制装置付き)の導入を進めているが、日本・英国・イタリアで共同開発を行う予定の第六世代戦闘機についても、早急に第三国への輸出の承認を行って開発を一段と前進させていくべきだ。今の日本は防衛産業と防衛力の強化を、法律をはじめとしてあらゆる角度から真剣に考えなければならない段階にあるのだ。

2023年8月21日(月) 18時00分校了