Essay

領海を侵す中国への対応を厳しくするべきだVol.367[2023年4月号]

藤 誠志

国産化した水中ドローンで
海洋の安全保障を強化

 二月二日付の読売新聞の政治面に、「水中ドローン 部品共通化」「政府 国産化へ戦略」という見出しの、小さな記事が出ていた。「政府は年内にも、全自動で水中を航行できる自律型無人探査機(AUV)の国産化を進めるための戦略を策定する。製造コストを抑えるため、機器や部品、ソフトウェアの共通化や互換性の確保を図ることを明記し、国内企業に製造への参入を促す」「AUVは『水中ドローン』とも呼ばれ、船舶とケーブルでつないで人が操作する必要がなく、広範囲の海域で活動できる。日本は現在、海洋資源開発や海底地形の観測、調査などに活用。今後は、洋上風力発電設置のための地形調査や保守点検、港湾施設などのインフラ管理のほか、潜水艦の監視など安全保障分野での利用拡大も期待されている」「現在、国内で使われているAUVの多くは海外製で、国内企業の参入は遅れている。戦略には、メーカーの人材育成や海外展開を支援する方針なども盛り込む方向で、先行する米国や中国に対抗したい考えだ」「政府は五月にも決定する次期海洋基本計画で戦略の基本的な方向性を打ち出す」という。
 AUVとはAutonomous Underwater Vehicleの略で自律型潜水調査機器とも訳される。プログラミングに従って「自律的」海中を航行するため、「水中ドローン」の他に「無人潜水調査ロボット」と呼ばれることもある。実際にAUVがどのように運用されているか、海上保安庁海洋情報部技術・国際課が令和四年五月に出した「海上保安庁海洋情報部の海の次世代モビリティについて」という報告書が詳しい。海上保安庁では二〇一三(平成二十五)年から海洋調査能力向上のために、カナダ製と日本のIHI製の二種類のAUVを運用して、海面の測量船では調べ切れない海底の詳細な地形調査に活用しているという。ケーブルなしに自在に航行できるAUVの海中調査能力は非常に高く、安全保障分野での利用も十分に考えられる。海に囲まれている日本が、その領海や尖閣諸島、八重山諸島等を含む領土を守るためには、海上自衛隊の潜水艦隊の整備に加え、このAUVと呼ばれる水中ドローンの整備も進める必要があるだろう。
 中国は拡大する経済力を基盤に、年々軍事力を強化しており、それを背景にした行動を取るようになっている。中国と日本との「最前線」となる尖閣諸島周辺では、二月七日にも接続水域に中国海警局の船が四隻航行しているのが確認されており、この時点で十三日間連続、中国の船が出現していることになるという。海上保安庁の巡視船は中国公船に領海に近づかないよう警告をしているが、二〇二一年に中国で施行された海警法に基づきこれらの船は武器の使用も可能になっており、船に装備した機銃を見せつける等、日本に対する圧力もかなり露骨だ。この尖閣諸島に関する件も含め、今後中国が日本に厳しい要求を突き付けてくる可能性は高い。これに対抗して日本の権益を守るためにも、日本もそれ相応の軍事的な力をつけておかなければならない。

南シナ海の海上民兵が
東シナ海にも出没

 今後心配なのは、中国の公船だけではない。海上民兵が乗り組む中国漁船への対応も迫られる。二〇二二年九月十一日、NHK NEWS WEBに「『海上民兵』乗船か 中国漁船の一部 尖閣周辺でも航行 NHK分析」という記事が配信されている。「中国が海洋進出を強めるなか、アメリカの研究機関が『海上民兵』が乗っている可能性があると特定した中国漁船の一部が、東シナ海でも活動し、沖縄県の尖閣諸島周辺の海域を航行していたことがNHKの分析でわかりました」「アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所が注目するのが、軍事的な訓練を受けた『海上民兵』と呼ばれる人員が乗り組む中国の大型漁船です」「これらの漁船は、通常の漁業活動に加えて、海域に居座る示威活動や偵察・監視などを担っているとされています」「南シナ海では、中国と領有権をめぐって対立するフィリピン政府が、自国の排他的経済水域とする海域で、去年三月、二〇〇隻を超える中国漁船が停泊し続け、アメリカ国務省は、漁船に『海上民兵』が乗り組んでいるという見方を示していました」「今回、NHKでは、CSISが中国側の公開情報などをもとに、南シナ海で活動し、『海上民兵』が乗っている可能性があると特定した漁船、一二二隻について、船の位置情報を発信するAIS=船舶自動識別装置のデータをもとに分析」「その結果、去年一年間でこのうちの一〇隻余りが、尖閣諸島から二〇〇キロ以内の東シナ海でも活動」「中には尖閣諸島の領海や接続水域を航行した船も確認できました」という。
 海上民兵とは、「軽武装をしているほか、特別な訓練を受けたり、中央政府から燃料代や船の改修のための補助金が支給されたり」「表向き漁業をしていますが、国の政治的や軍事的な目的を達成するためにさまざまな活動をする」人々のことだ。そんな人々が漁民を装って日本の領海に侵入を繰り返し、公船とともになし崩し的に日本の領海を侵そうとしている。これらに対して日本は基準を定めて、もう少し厳しく対処すべきではないか。

竹島の二の舞を防ぐため
決して上陸を許さない

 小さくても、中国に対して毅然と対応している国がある。第四回アパ日本再興大賞を受賞した葛城奈海氏の著書「戦うことは『悪』ですか サムライが消えた武士道の国で、いま私たちがなすべきこと」に紹介されているパラオの例だ。「パラオ共和国。人口僅か一万八千人で、軍隊も持たない。そんな小国でさえ、平成二四(二〇一二)年、違法操業した中国漁船を警察船が追いかけ、停船させようとして警告射撃を行った。中国漁船はこの警告を無視し、小型艇二隻を降ろして操業を続けようとしたため、パラオ警察艇が小型艇を追跡、強制停船させようとエンジンを狙って射撃したところ、誤って中国人ひとりを射殺してしまった。それでも怯むことなく、小型艇に乗っていた残り五人を逮捕、他の二〇人は証拠隠滅のため、漁船に放火して海に飛び込んだが、最終的には二五人全員を逮捕、起訴している。人口僅か一万八千人の国が、である。日本の人口は、いったい何人だろうか?一億二五五七万人(令和三年一月一日現在)、パラオの実に六九七六倍だ。はるかに優位な国力を持つはずの我が国が、領海内での違法操業を長年黙認してきたのだ」。私も全く同感だ。
 私が最も危惧するのは、漁民を装った中国の海上民兵が、台風等からの避難を理由に尖閣諸島に上陸、そのまま居座ってしまい、そこを事実上中国領化してしまうことだ。思い起こされるのは竹島のケースだ。歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本領である竹島に関して、一九五二年、韓国は一方的に竹島を取り込んだ李承晩ラインを引いて領有権を主張、一九五三年には無人島だった竹島に韓国の独島義勇守備隊が上陸し、以降占拠を続けている。この場合も、いきなり警察等正規の国家権力が上陸するのではなく、「義勇守備隊」と名乗る民間組織を尖兵とするという段階を踏んでいる。一旦上陸されてしまえば、その排除は非常に難しい。竹島の場合も、一九五四年に海上保安庁の巡視船が接近しているが、島からの砲撃を受け、そのまま引き返している。まずは上陸されないよう、領海に入った船舶への対応を厳しくしていく必要があるのではないだろうか。

国民の安全第一のために
自衛隊の足かせを外すべき

 領海の場合はまず国際的に認められた無害通航権があり、この範囲を越えた活動を行った船舶に対して厳しい対応を行うことになる。一方、領空の場合には無害通航権はなく、外国の航空機が無断で領空に侵入した場合は国際法上の違法行為である「領空侵犯」であって、すみやかな退去等警告に従わない場合には、即座に撃墜等の措置が可能とされている。この領空に関しても、中国やロシアが日本に圧力を掛けてきていて、航空自衛隊の戦闘機の緊急発進(スクランブル)の回数は、近年高止まりしている。二月に話題になったのが、中国の気球のアメリカへの飛来だ。中国は気象研究用の気球が偏西風の影響でアメリカに流れたと弁明したが、アメリカは領空侵犯の飛行体として、二月四日、F‐22戦闘機によるミサイル攻撃で気球を撃墜した。中国は過剰反応としてこのアメリカの対応を批判しているが、もし民間の気球だとしても、事前通告なしの領空侵犯であり、このような措置を取られても文句は言えないだろう。
 同様の気球が日本に飛来した場合はどうなるのか。日本経済新聞が二月五日付で「日本に気球飛来なら… 自衛隊、緊急発進で警戒監視」という記事を配信している。「米軍が撃墜した中国の偵察気球が日本に飛来した場合、自衛隊は戦闘機の緊急発進(スクランブル)などで警戒監視にあたる。領空侵犯は国際法違反になる。気球であっても武器を使って動きを妨げることは禁止されていない」「防衛省の青木健至報道官は三日の記者会見で『これまで気球による領空侵犯について確認して公表した事実はない』と話した。米国の事案と同様のケースが過去に日本であったかを問われて答えた」「気球は国際法上の航空機として捉え、領空侵犯があれば『個別具体的な状況に応じて対応する』と説明した」「二〇二〇年六月に宮城県上空などで気球のような物体が漂った。当時の河野太郎防衛相は『レーダーなどで警戒監視を続けている』『安全保障に影響はない』と述べるにとどめた。他国による領空侵犯だとは認定しなかった」「自衛隊法八四条は外国の航空機が日本の領域の上空に侵入したときに、自衛隊が着陸・退去に必要な措置を講じられると定める。航空機には小型無人機(ドローン)も含む」「一七年五月に中国公船がドローンを飛ばし、沖縄県・尖閣諸島周辺の領空に入った例がある。一九五八年に対領空侵犯措置を開始して以降、現在までに自衛隊が領空侵犯を確認したのは計四五件で、ロシア・旧ソ連が四二件に上る。中国が二件、台湾が一件ある」「警告などに相手機が従わなければ、正当防衛や緊急避難に該当する場合に限ってミサイルなどの武器を使える。気球の早期の撃墜を採っていた米国と比べると、武器使用には抑制的に対応すると想定される」「実際には領空の外側に設けた防空識別圏(ADIZ)に進入する機体を見つけた時点で自衛隊は戦闘機などでの対処を始める。領空に入ってからでは防衛に間に合わない可能性があるためだ」「ADIZへの進入を踏まえた自衛隊戦闘機による緊急発進は二〇二一年度に一〇〇四回で過去二番目の多さだった。中国機向けが全体の七割を占めた」という。
 日本の場合は一見無害な気球を撃墜するのは難しいとの説もあるが、二月七日の記者会見で浜田靖一防衛大臣は、必要であれば撃墜も実施すると明言した。その見解自体は妥当だと思うが、そもそも自衛隊の活動を縛るのは、武器使用の条件が正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されるということであり、こんな足かせを掛けられている軍隊は世界で他にはない。やはり一刻も早く武器使用条件や軍法会議のできる法改正を行うべきであり、それに必要だというのなら憲法の改正も行うべきだ。これを速やかに行わなければ、日本の領土と国民の安全が十分に守られないことを、今以上に多くの国民が理解しなければならない。

2023年2月9日(木) 12時00分校了