Essay

文化大革命の名において2000万人もの人が虐殺されたVol.362[2022年11月号]

藤 誠志

多くの国民を犠牲にして
権力を維持する中国共産党

 夕刊フジに井沢元彦氏が連載している「絶対に民主化しない中国の歴史」だが、「中国史上もっとも中国人を殺害」という見出しの付いた九月一日付の紙面に掲載された「蒋介石と毛沢東(六)」が興味深かった。「文化大革命とは、毛沢東が強行した中国史上、いや人類史上最大の愚行であり、中国人大虐殺であった。それがどういうものであったか、ここは敢えて日本でもっとも『親中派』とされる朝日新聞社発行の用語集「知恵蔵」の記述を引用しよう。ただし、かなり長文なので肝心なところだけ抜粋する」「『文化大革命 一九六六年夏から一〇年間にわたって繰り広げられた熱狂的な大衆政治運動。毛沢東自ら発動し、中国では「無産階級(プロレタリア)文化大革命」といわれた。「造反有理」(謀反には道理がある)を口々に叫んだ紅衛兵運動に始まり、指導者の相次ぐ失脚、毛沢東絶対化という一連の大変動によって、中国社会は激しく引き裂かれ、現代中国の政治・社会に大きな禍根を残して挫折した。文革には共産党内部の権力闘争と、その大衆運動化という二重の性格があり、悲劇は拡大した。文革中の奪権闘争や武闘で約二〇〇〇万人もの死者が出たともいう』」「おわかりだろう。日本の親中派の巣窟ともいえる朝日新聞社ですら断定は避けているものの、二〇〇〇万人もの中国人が文化大革命の名において虐殺されたことを認めているのだ。実は、自由なマスコミや報道機関が存在しない(させない)ことをいいことに、自らの誤りについて必ず隠蔽する中国共産党ですら、『約四〇万人の死者と一億人の被害者』がいたこと、『中華人民共和国の創設以来、最も厳しい後退』であったことを公式に認めている」「毛沢東が極めて悪辣なのは、この大虐殺を『紅衛兵』と名付けた青少年にやらせたことである。アドルフ・ヒトラーも使った手だが、純真な青少年を一方的な『教育』で洗脳し自らの政治目的の手先に使うことは、私は仮に目的が正しかったとしても、人間として政治家として絶対にやってはいけないことだと考えている。ましてや、この文化大革命、目的が正しいどころか、毛沢東自身のミスをごまかし反対派をつぶすために行われたことであった。そのミスとは、これも中国史上最大の愚行というべきだが、大躍進政策である。毛沢東は農業や生物学の専門家ではないのだが、国力をつけるためには農業を盛んにし食料を増産すべきだと考え、『農作物を食い荒らす』ネズミ・ハエ・蚊・スズメを撲滅すべきだと考えた。四害駆除運動という」「念のためお断りしておくが、これは冗談でなく本当にあった話なのだが、毛沢東は農業の敵として特にスズメをやり玉に挙げ、国民に見つけ次第すべて殺せと命令した。国民はその命令を忠実に守った。結果どうなったか? 実はスズメは害虫を食べてくれる益鳥でもあるのだが、本当に中国国内からスズメがいなくなったために生態系が崩壊し、大飢饉が起こった。その結果、少なくとも数千万人の中国人は餓死したはずなのだが、その数字は公表されていないので明確ではない」「だがそれが大失敗であり、毛沢東に国民の恨みが集中し、政敵にも権力奪取のチャンスが生まれた。それを叩き潰し自分の権力を絶対化するために、物事の判断力がまだ形成されていない青少年を使って、毛沢東は文化大革命を強行したのだ。つまり大躍進政策の犠牲者も含めれば明らかなことだが、中国史上もっとも中国人を殺したのは他ならぬ毛沢東なのである」「しかし今でも中国の天安門広場には革命の英雄として毛沢東の肖像が飾られ、各地には銅像が建てられ、紙幣の肖像も毛沢東である。これが中国という国の姿である」という。ウィキペディアによると、一九五八年から三年間行われた大躍進政策の犠牲者は、一五〇〇万人~五五〇〇万人となっている。そこまで国民に大きな犠牲を強いた政治家を今でも崇拝しているということは、また同じような犠牲を出すことも厭わないというのが、中国の現在の姿勢なのではないだろうか。

「国際秩序への脅威」中国は
分裂して民主化すべき

 例えばその中国政府の姿勢は、新疆ウイグル自治区での行動に表れている。産経新聞電子版は九月一日に「国連ウイグル報告書、人権侵害の実態明確に 国際社会の連携が焦点」という見出しの記事を配信している。「中国新疆ウイグル自治区をめぐり、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が八月三一日に公表した報告書は、少数民族ウイグル族らへの人権侵害の実態を改めて明確にした」という内容で、少なくとも二〇一七~一九年に多くのウイグル族が「職業技能教育訓練センター」に収容され、そこで拷問や虐待、性的暴行を受けたと報告、また二〇一七年以降行われた強制不妊政策で、ウイグル族の人口が抑制されたともしているという。国家の目的のためには、国民の人権などお構いなしというのは、今も変わっていないのだ。
 しかし、それほどまでにウイグル族を締め付けることには理由がある。今の中国は、十四億人という巨大な人口を中国共産党一党で治めるという、人類がかつて経験したことがない「実験的」とも言える統治形態をとっている。これの維持のためには、手段を選ばないということだろう。そして経済発展に伴って、強大な軍事力を手中にして大国化し、軍事力と核兵器を背景にして近隣諸国への圧力を強めている。アジアのみならず、世界の多くの国々が、今や中国を国際秩序に対する脅威だと見做しているのだ。
 様々な民族からなる十五の共和国で構成されていたソ連は、結局十五の独立した国へと分裂して民主化への道を辿った。漢民族の他に五十五の民族がおり、内モンゴル自治区、広西チワン族自治区、チベット自治区、新疆ウイグル自治区、寧夏回族自治区の五つの自治区や三十の自治州のある中国が、ソ連と同じように分裂して民主化された数多くの独立国となることが、世界にとっては望ましいことだ。中国が肥大化して武力による世界支配実現へと露骨な行動を始める前に、民主主義国が協力して中国分裂への「ソフトランディング」をサポートしていく必要がある。

アフリカ・中東以外の
全ての国で人口が減少する

 世界の人口は約八十億人と言われているが、中国はその約一八%を占めていることになる。その膨大な人口の大半から搾取することで経済繁栄を続けてきた中国だが、「一人っ子政策」「二人っ子政策」が無くなったにも拘わらず、人口増加に陰りが出ている。この出生率減少の件は、YAHOO!ニュースで七月十五日に配信された荒川和久氏の「遂に日本を下回った中国の出生率。インドも含め軒並み下がるアジアの出生力」という記事に詳しい。「少子化とそれに伴う人口減少は日本に限らず、全世界的に今世紀中にやってくる現実である」「日本の二〇二一年の合計特殊出生率は一・三〇で、これもまた大騒ぎするメディアもあるのだが、実はその日本以上に急激に出生率が低下しているのがアジア諸国である」「先ごろ公開された最新(二〇二二/七月)の国連WPP統計によれば、韓国は、同出生率〇・八八でこれは世界最下位である。台湾も一・一一であり、シンガポールも一・〇二、タイですら日本とほぼ同等の一・三三なのである。※国連WPPのデータと各本国が発表するデータとでは違いがある場合がある」「そして、衝撃的なのは、中国の近年の出生率の急降下である」「国連の数字を正として判断すれば、二〇二一年の中国の出生率は一・一六となっている。日本よりも低いのだ。ほんの数年前まで一・六~一・八をキープしていたとは思えないほど、直近の四年間でガタ落ちとなった」「よく『一人っ子政策』のせいだと勘違いしている人がいるが、実際すでにもうその制限は撤廃されているどころか、当局は出産を推進しているにもかかわらず子どもの数は増えていない。母親が産まないから少子化なのではなく、そもそも結婚の数が減っているから出生が増えないのである。その原因は日本の『少母化』と同様だ。つまり、婚姻数の減少と離婚数の増加に伴う『結婚持続率』の低下なのである」「中国は日本に先駆けて『結婚滅亡』に突入しているのである」「もうひとつの人口大国であるインドですら、二〇二一年の出生率は国連の統計によれば二・〇三となった」「インドも二・〇を切るのが目前にきているということであり、これは、中国とインドという二国あわせて三〇億人の人口の国が少子化と人口減少モードに突入したことを意味する。それは自動的に、世界の人口が大きく減少していくことにつながる」「但し、いまだにアフリカ全体では、四・二八という高い出生率をキープしている。逆に言えば、アフリカと一部の中東を除けば、それ以外のすべての国は今世紀中に大きく人口が減る」という。
 半世紀前の一九七二年に、国際的なシンクタンクであるローマクラブが発表した「成長の限界」という報告書は、「人口増加や環境汚染等が続けば、一〇〇年以内に地球上の成長は限界に達する」として、世界に衝撃を与えた。止まらない人口増加に対して、食料など資源が枯渇することを予測した報告書だったが、実際には世界の人口の増加スピートは鈍化する一方、資源を得る技術が向上することによって、この「警告」の実現から世界は遠のく一方だ。

所得格差の大きい中国は
「豊かになる前に老いる」

 しかし中国の人口減少は、この国の将来に大きな影響を与えるかもしれない。ニュースサイトBusiness Journalで二〇二〇年十一月三日に配信された経済産業研究所上級研究員の藤和彦氏の「中国、二〇二五年までに内部崩壊する可能性も…未曾有の少子高齢化、工場と人の海外逃避」という記事によると、近年、中国は経済発展のために従来からの貿易を中心とした外需を高めることに加え、内需拡大にも注力し始めた。しかし「個人消費は、中国経済にとっての長年の懸案である。中国の昨年の個人消費の対GDP比は三九%である。米国の六八%、日本の五五%、ドイツの五二%に比べると格段に低いが、その理由は所得格差の大きさにある」「中国の所得分配が非常に不公平であることは周知の事実である。人口の約半分にあたる七億一〇〇〇万人の国民は、月収二〇〇〇元(約三万二〇〇〇円)以下で生活をしている。中国の高度成長を支えてきた二億九〇〇〇万人の農民工の収入も、二〇一五年以降、減り続けており、所得格差が改善されない限り、個人消費が伸びることはない」「個人消費が今後さらに低迷する要因がある。少子高齢化である」「『総人口に占める六五歳以上の割合が一四%を超える』社会を国連は『高齢社会』と定義づけているが、中国の民間シンクタンクは一〇月、『二〇二二年に総人口に占める六五歳以上の割合は一五%以上になる』と予測した」「日米など先進諸国が高齢社会となった時点の一人当たりのGDPは、二万ドルをはるかに上回っていたが、これに対して中国の一人当たりのGDPは一万ドル程度にとどまっている。中国社会は『豊かになる前に老いる』という事態に直面している」という。「『今後一〇年以内に米国を超え世界一の経済大国となる』とされている中国だが、『内外からの圧力の高まりで一瞬の内に瓦解してしまう』というリスクが高まっているように思えてならない」と結論付けている。少子高齢化等が原因の経済成長の鈍化が、中国分裂のきっかけとなるかもしれない。自由民主主義を信奉する諸国は、今後の中国の人口動態、経済状況を注視するべきだろう。

2022年9月12日(月) 18時00分校了