日本を語るワインの会230

ワイン230恒例「日本を語るワインの会」が代表邸で行われました。国際通貨システムのスペシャリストが今は歴史研究に邁進するようになった大阪市立大学名誉教授の山下英次氏、京都大学を卒業後自衛隊に三十二年間奉職した日本安全保障フォーラム会長の矢野義昭氏、国際派ビジネスマンから転じて今は歴史教育の正常化を推進する活動を行っている公益社団法人国民文化研究会理事の伊勢雅臣氏、父の後を継いで「台湾は台湾人の国である」という運動を展開する台湾独立建国聯盟日本本部委員長代行の王明理氏をお迎えし、非業の死を遂げた安倍晋三氏を悼み、日本の歴史教育や安全保障政策、台湾独立問題について、意見を交わしました。
三度目の首相も期待された
安倍氏の死は非常に残念
 七月八日、安倍晋三元首相が奈良市で銃撃されて亡くなった。会長は以前、安倍晋三を総理にする会の副会長だったことがあり、安倍氏との強い連帯があった。安倍氏は世界で最も知られる日本の政治家であり、まだ六十七歳。五十二歳で最初に首相になってから十五年間、潰瘍性大腸炎という持病に悩まされながら、日本のために尽くしてきた。あと十年は政界で活躍できたであろうし、三度目の首相就任を期待する声もあった。警護については、奈良県警の大失態であることは明らかだ。背後は車で塞いでいたというが、その間を犯人は縫って安倍氏に接近したようだ。犯人が元海上自衛官であることがしきりと報道されており、防衛費の増額にも影響がでそう。宗教団体との関連や、安倍氏の動向をなぜ犯人が知っていたか等、まだまだ謎が多い。今安倍氏が亡くなって一番喜んでいる国は中国だろう。
 日本の歴史教育に歪みがあるのは、日教組と出版社、文科省が鉄のトライアングルを形成しているからだ。このトライアングルを壊すためには、弱点を突かなければならない。日教組や文科省が重用する東大名誉教授の油井大三郎氏は、偉人教育に反対をしている。これが弱点だ。人物の基を辿っていくと、イデオロギーが入る余地はなくなる。小・中学生ぐらいで偉人伝をしっかりインプットする仕組みを作ることが、正しい歴史教育に繋がる。そこで地方の教育委員会の協力を得て、郷土の偉人についての論文を子供達に書いてもらうのだ。どんな教育委員会でも学校でも、地域の偉人の話を嫌がる人はおらず、親や教師に直接アクセスできる運動が展開できる。伊勢雅臣氏は今、この運動を組織化してNPO化、歴史教育の正常化に貢献しようとしている。
 山下英次氏はGHQがメディアを使って行った洗脳工作についての研究を行っている。保守の考えを持つ人で、日本が真の独立国ではないことを否定する人はいないが、これについて何もしない人が多い。できることをやるべき。先の大戦後、ドイツのメディアは全部解体させられたが、新聞やNHK等日本のメディアは戦前からずっと続いている。解体される代わりに、彼らはGHQの洗脳に加担させられた。させられたにも拘らず、あたかも最初から自分たちの意志で行ったようなフリをしている。これでは人々が洗脳から解けることはない。メディアはGHQの洗脳に加担したことを、自ら告白するべきだ。山下氏はこのことを二〇一四年から主張してきたが、今年の四月二十八日のサンフランシスコ講和条約七十周年の日に、産経新聞は「主張」にてこのGHQの洗脳を認めた。これを書いたのは、先日論説委員長になった榊原智氏だ。また六月二十二日付の産経新聞の「正論」には、拓殖大学顧問の渡辺利夫氏がGHQの検閲について触れている。産経新聞はメディアの洗脳への加担を暴く気満々なのだが、一紙だけでは影響力が小さい。読売新聞等他のメディアにも、この流れを広げなければならない。
台湾よりも韓国よりも
日本は国防体制が弱い
 矢野義昭氏は陸将補として陸上自衛隊を定年退職するまで、師団長から幹部候補生学校の教官まで様々な仕事に携わったが、若い時に北海道の名寄市にある第三普通科連隊(現・第三即応機動連隊)に勤務したこともある。この連隊の任務はソ連軍が上陸した場合、稚内と旭川の中間の天塩川の渓谷でその進軍を止めるというものだった。塹壕の作り方まで全て計画が立案されていて、これを前提に訓練が行われていたという。長く自衛隊に勤務して矢野氏が得た結論は、国民の意識を変えないと防衛は成り立たないというものだ。実際、自衛隊は「弾がないのが玉に瑕」と揶揄される通りの、弾薬不足の「張子の虎」状態だ。確かにミサイル一発数千万円の世界なのだが、予算を削っても国民にも政治家にもわからない。担当者は「当面戦争なんかないんだから」と予算を削る。矢野氏のような実務担当者は、国民に対する反逆と知りつつ、それを容認していた。予算を増やすには政治が動く必要があり、政治が動くには国民が変わらなくてはならない。
 日本の防衛予算は果たしてGDPの二%になるのか。確かに目標として意味はあるのだが、五年掛かりは長すぎる。これからの五年以内に日本が戦場となることは、十分有り得るのだ。何もやっていない日本に比べて、韓国や台湾は真剣に国防体制を整備している。人口が約二千三百万人の台湾には、二百万人の予備役の軍人がいる。人口が約五千万人と日本の半分以下の韓国でも、予備役が三百万人いる。この両国は、数百万人の兵力を即座に集めることができるのだ。今、ロシア・ウクライナ戦争でウクライナが善戦できているのも、ソ連時代から武器弾薬の備蓄があり、シェルターも昔から準備していて、予備役も備えているからに他ならない。しかし日本には、何の備えもない。今から着手しても台湾や韓国並みの兵力を育てるには、十年、二十年という時間が必要であり、これでは有事に間に合わない。日本の安全保障のために矢野氏が提案するのは、核武装によって抑止力を持つことだ。これで当面は攻められない体制を作り、時間稼ぎをして、その間に国民の意識を変えていくのである。
左翼が軍拡に反対なのは
日本特有の現象だ
 矢野氏はニュークリア・シェアリングには反対だ。その理由は、ニュークリア・シェアリングのシステム下では、核兵器を日本に置こうがドイツに置こうが、最終的な引き金を引くのはアメリカ大統領だからだ。これでは抑止力は生まれない。東京や沖縄を守るために、ニューヨークを犠牲にして核を使ってくれと言っても、アメリカ大統領は承諾しない。ニュークリア・シェアリングで米中の核戦争に日本が巻き込まれるかもしれないが、日本が必要な時にアメリカが核攻撃を行う確証はない。かつてフランスのド・ゴール大統領はアメリカのケネディ大統領に、「パリのためにニューヨークを犠牲にする覚悟はあるのか」と迫り、これに対する回答がなかったために、フランス独自で核武装することを決断した。これが国際関係のリアルだ。ドイツも核武装したかったが、そもそも敗戦国で国土も狭いので断念。アメリカの核をドイツ国内に置いておけば、有事にはアメリカも巻き込まれるだろうという象徴的な意図で、ニュークリア・シェアリングに参加している。超リアリストであるアメリカのキッシンジャー元国務長官は、ニュークリア・シェアリングには実質的な意味はないと明言している。ニュークリア・シェアリング同様に、核の傘も真っ赤な嘘だ。
 日本が核兵器を保有する場合、周囲が海であるために、最も現実的な運搬方法は原子力潜水艦を使うことだ。海上自衛隊の潜水艦隊司令も認めているが、通常型の潜水艦は先の大戦の「回天」のように特攻兵器だ。一発ミサイルを発射すると位置が特定され、速度が出ないので、対潜哨戒機等に追われると逃げ切れない。しかし原潜なら逃げ切れる。費用は一隻三千億円だ。日本の核兵器や原潜の保有に対して、アメリカはどう考えるのか。トランプ大統領時代に、アメリカは韓国の原潜保有を許可しており、もう韓国は建造に着手している。核保有に関しても韓国国民の六~七割が賛成している。また韓国の防衛費は、ムン・ジェイン前大統領の就任時でもGDPの二・一%あり、その後二・九%を目標として、今二・八五%まで来ている。ドイツは今年の防衛費がGDP比一・五七%だから、これを二倍にすると三%を超える。ドイツは一気にヨーロッパ一の軍事大国となるのだ。またこれを決断した政権が、緑の党と社会民主党による左翼政権というのも興味深い。左翼が軍拡に反対というのは、日本だけの現象なのだ。
「台湾有事は日本有事」を
多くの日本人が理解すべき
 王明理氏の父親の王育徳氏は、日本で台湾独立運動を始めた人だ。元々、中国人と台湾人は異なる。先の大戦後日本は台湾を去ったが、そこに蒋介石の国民党軍がやってきて、日本語教育を受けていた台湾人等三万人を虐殺した(二・二八事件)。京都大学を出て検事をしていた王育徳氏の兄も殺され、氏自身も国民党の粛清リストに入っていると知り、香港経由で日本に密入国した。四年間の不法滞在の間に以前通っていた東京大学に復学し、台湾語と中国語を研究してこの二つが言語学的に異なることを示す本を出版、台湾人のアイデンティティの明確化に寄与した。そこから台湾独立運動を展開していったのだ。安倍元首相が台湾有事は日本有事と主張していたが、それは当たり前のことだ。迷惑に思う日本人もいるようだが、戦時ではない今、台湾海峡を守り海上交通の安全を確保しているのは台湾軍だ。台湾が中国にやられると、その守りが失われ、日本も大きな影響を受ける。そのことを多くの日本人が理解するべきだ。安倍氏のことを台湾人は非常に頼りにしていて、台湾で安倍晋三友の会を設立する動きもあった。今回の死去は、非常に残念なこと。台湾では民進党政権も誕生、王育徳氏が目指した「台湾人による政治が行える自由な国」という当初の目標は達成した。しかし国民党はまだ存在し、皮肉なことに今や中国共産党から金銭面や人的な支援を受けている。まだまだ油断はできない。
 また新型コロナのPCR検査の陽性者が増えてきている。陽性者の宿泊療養施設等として一棟貸しされているアパホテルは、現在六十棟を超えている。駐在する医師の数等の関係からか、自治体としてはある程度の規模のあるホテルの方が都合が良いよう。一棟貸しについてはホテル近隣にも極力配慮をしていて、周辺に大規模な集合住宅のあるアパホテルの貸し出しは行っていない。