ロシアの残虐行為
四月六日付の産経新聞一面トップに、「ウクライナ 民間人虐殺『かなり増える』」という見出しの記事が掲載されている。「ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどロシア軍が占領していた地域で多数の民間人が虐殺された問題について、国連のグテレス事務総長は五日、責任追及のための『独立した調査』を求めた。グテレス氏は、国連安全保障理事会がウクライナ情勢をめぐって開いた会合で演説した。ウクライナのベネディクトワ検事総長はブチャに近接するボロディアンカで最も大きな被害が確認されたとしており、民間人の犠牲者は増えそうだ」「ブチャでの状況に関してグテレス氏は、殺害された人々の恐ろしい映像を『生涯忘れない』と発言。国際人道法や国際人権法への『重大な違反だ』とする認識を示した。グテレス氏はまた、『安保理常任理事国のロシアが国連憲章に違反してウクライナに本格的に侵攻を行った』と名指しでロシアを批判。常任理事国の不一致によって、安保理が行動を起こせずにいることに『憤りを抑えることができない』と述べた」「ブリンケン米国務長官は同日、記者団に対し、ブチャでの民間人殺害は『不良部隊がでまかせにしたことではない』と指摘。『殺害し、拷問し、残虐行為を犯すという計画的な軍事行動だ』と断じた」という。
戦場の悲惨さを報じるべき
新聞やテレビ等、日本のメディアもこの虐殺について報じているが、遺体は極力見せず、その残虐さに対する報道には生ぬるさを感じる。その点、海外のメディアの方が、実際に起こっていることに忠実だ。四月六日にヤフーニュースで配信された韓国のハンギョレ新聞の「ロシア軍による民間人虐殺、ブチャに続きモティジンでも確認」という見出しの記事のリードは、「キーウ西方地域で相次いで民間人の遺体発見 頭にテープ巻かれていたり、縛られたまま井戸の中で発見 『町の指導者一家は拷問を受け、殺害された』 ウクライナ外相『南東部のマリウポリはさらに深刻』」というものだ。記事は以下のように続く。「世界中に衝撃を与えた『ブチャ大虐殺』に続き、キーウ(キエフ)西方の都市モティジンでも民間人の遺体が相次いで発見され、ロシア軍が占領地で広範囲にわたって民間人虐殺を行った可能性への懸念が現実のものとなっている。国際人権団体『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』も緊急報告書を発表し、ロシア軍の様々な戦争犯罪を告発するウクライナ人の証言を紹介した」「ウクライナ当局は四日(現地時間)、キーウから西に四五キロメートル離れたモティジンで、この町の指導者と妻と息子が死亡した状態で砂に覆われているのを確認した。ウクライナ内務省のアントン・ヘラシチェンコ顧問は、ロイター通信に『ロシア占領軍が町の指導者オルハ・スヘンコとその妻、二五歳の息子を拷問して殺害した。占領軍は一家がウクライナ軍に協力していると疑い、ウクライナ軍の砲台の位置情報を要求して拷問した』と述べた」「死亡したスヘンコ氏の息子の交際相手の女性は、一家が先月二三日、ロシア軍に捕まったと証言した。同日午前、スヘンコ氏の自宅を捜索したロシア軍が数時間後に再び戻って、家族をどこかに連れて行ったという。一家はその後、砂に覆われた遺体で発見された」「同通信は、モティジン郊外の破壊された農場からも、遺体がいくつか発見されたと報じた。遺体はほとんど砂に覆われており、そのうち一体の頭にはテープが巻かれていた。別の農場で発見された遺体は縛られたまま井戸に投げ込まれていた。モティジン市議会代表のバディム・トカール氏は、遺体の周辺に地雷が埋設されたかも知れないため、これまで遺体を収拾できず、そのままにしておくしかなかったと語った」「ヒューマン・ライツ・ウォッチが三日に公開した緊急報告書『ウクライナ‥ロシア占領地域内の明白な戦争犯罪』でも類似した証言が多い。同団体は十人の目撃者や被害者、住民とインタビューを行い、今年二月二七日から三月一四日の間にロシア軍が犯した明白な戦争犯罪を告発した」「報告書によると、ロシア軍は三月四日に大虐殺が起きたブチャで民間人五人を集め、そのうち一人を『即決処分』した。この光景を見た目撃者は『ロシア軍が五人に道路の片隅にひざまずくように言った後、Tシャツを引き寄せて顔を覆った』と話した。その後、ロシア軍は五人のうち一人の頭の後ろから引き金を引いた。男は前に倒れて死亡し、この光景を見ていた女性は悲鳴を上げた」という。この他にも様々なロシア軍の残虐行為に関する証言が、記事には書かれている。日本のメディアもこのような証言を積極的に報じて、戦争の悲惨さを伝えるべきではないだろうか。今ウクライナで起こっていることは、旧ソ連に属した国同士の争いである。人類の歴史では内戦が一番過酷な戦争であり、アメリカで最大の戦死者を出した戦争は、第二次世界大戦でもベトナム戦争でもなく南北戦争だ。戦争の悲惨さをもっと世界中に伝えることで、今後の戦争を抑止するための教訓としていかなければならない。
騙されてはいけない
一方ロシアは、このブチャでの民間人の虐殺を「フェイク」だと否定している。産経新聞のウェブサイトが四月八日に配信した「ロシア大統領報道官、自軍に『甚大な損失』認める 民間人虐殺は『フェイク』と否定」という記事によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は七日にイギリスのテレビ局のインタビューに答えた。「ペスコフ氏は露軍がウクライナで行った残虐な行為が相次ぎ報告されていることを受け、民間人の遺体が撮影された衛星画像や映像などを『うまく演出された当てつけ以外の何物でもない』と指摘。『大胆なフェイクだ』と話した」という。それ以前の四日にも、ロシアのラブロフ外相がブチャの虐殺を「作り話」だと断じている。しかしこれまで数多くのフェイクニュースを発信してきたのは、ロシアの方だ。
日本経済新聞電子版は四月八日に「ロシア、口実捏造の軌跡」「映像・SNSでフェイク分析」という特集記事を公開した。それによると、まず旧ソ連圏で広く使われているSNSである「テレグラム」を分析、二月二十四日の侵攻開始が近づくにつれロシア政府系アカウントのフェイクニュースが増加、それを政府に近い専門家が拡散し、情報工作用のアカウント群が拡散を加速、一千万を超える圧倒的な閲覧数を確保して、ロシア国民に多大なる影響を与えたという。またこのフェイクニュースを中国、ギリシャ、アルメニア等、親ロ的スタンスを持つ国のニュースサイトが無批判に転載、ロシア以外の国にもフェイクニュースが広がっていった。またこの記事ではロシアのメディアが流した動画を分析して、ジャーナリストがウクライナ軍のドローン攻撃を受けた映像が自作自演である可能性を指摘、また世界中に広まったウクライナのゼレンスキー大統領が投降を呼びかける動画が、本人そっくりの偽動画を作成する「ディープフェイク」技術を使ったものである証拠を提示している。またウクライナのネットテレビ局が撮影したキエフ近郊の町の住民の遺体の動画を、ロシア国防省は「遺体が動いている」ことを根拠にフェイクだとテレグラムに発信しているが、それは目の錯覚であるとも分析している。ただ今回はウクライナ側からもインターネットに偽写真の投稿等が行われており、何が正しいかを見極めることは非常に難しい。情報に触れる際には、まず「あり得る話なのか、あり得ない話なのか」を考え、根拠を持って冷静に判断する姿勢が、今後より一層人々に求められていくだろう。
警戒を怠ってはいけない
夕刊フジのウェブサイトであるzakzakに四月八日付で「狂気『北海道はロシアのもの』露の下院副議長、領土的野心あらわ 不法占拠の北方領土で不穏な動き『ウクライナ手詰まりで上陸』に警戒」という記事が配信されている。「ロシア下院議会の有力議員から『北海道はロシアのものだ』と、領土的野心をむき出しにした発言が飛び出した。ロシアによる残虐非道なウクライナ侵攻に対し、日本を含む西側諸国はロシアへの経済制裁を強化している。有力議員はこれに反発したようで、ロシア軍も不法占拠している北方領土で軍事演習を行うなど不穏な動きを活発化させている。要警戒だ」「『どんな国も、隣国に対し領土要求を出せる。専門家によると、北海道の全権はロシアにある』『日本の政治家は、第二次世界大戦の教訓を学んではいない。(旧日本軍の)関東軍がたどった運命を思い知らせ、その記憶を新たに思い起こさせなければならない』」「ロシアのオンラインメディア『レグナム通信』は四日、セルゲイ・ミロノフ下院副議長の、このような発言を報じた」「ミロノフ氏は、ロシア議会で上院議長を務めるなど、ロシア政界では知られた人物だ。中道左派の野党議員だが、ウラジーミル・プーチン政権との関係も近いとされる」「ただ、旧ソ連は第二次世界大戦末期、日ソ中立条約を一方的に破棄し、『北海道占領』をもくろんで南樺太・千島列島などに侵攻してきた。北の大地は、樋口季一郎陸軍中将の指揮で、日本陸軍第五方面軍が必死に抗戦して死守した」「プーチン大統領は二〇一八年一二月、首都モスクワでの人権評議会で『アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する』との考えを示したとされる」「ロシアが、北海道などに領土的野心を持っているのは確かで、『アイヌ民族の保護』などを名目に侵攻してくる可能性もゼロではない」「軍事ジャーナリストの井上和彦氏は『ウクライナの戦況で手詰まり感のあるロシア軍が一転して、在日米軍がいない北海道に上陸作戦を仕掛ける可能性は捨てきれない。日本は中国が威圧する沖縄県・尖閣諸島との二正面作戦を強いられることも想定し、日米同盟をより強固にし、備えるべきだ。これこそが危機管理だ』と語っている」と報じている。
現在、ロシアのアイヌ民族はカムチャツカ地方に百人程度しかいないと言われているが、旧ソ連時代からロシアはアイヌ民族の存在を公式には認めてこなかった。それを転換する二〇一八年のプーチン大統領の認定方針は、日本がアイヌ民族を先住民族と認め、彼らが北方四島に住んでいたことを日本領の根拠とする姿勢を牽制するものだと見られていた。ウクライナで苦戦しているロシアが、すぐに東側の日本に戦力を持ってくることは考え難く、今回のミロノフ氏の発言は西側諸国の一員としてロシアに制裁を加える日本に対する牽制と見るべきだろう。しかし、ロシア海軍は昨年十月に中国海軍と軍事演習を行い、「合同海上パトロール」と称して津軽海峡の真ん中にある公海区域を通過した。ロシアが日本に対して、軍事的圧力を掛け続けていることは明らかだ。万が一の侵攻に備えて警戒を怠らないのはもちろん、抑止力の強化を図るべく防衛費の増加を行い、さらには憲法改正と自衛隊の国軍化を目指し、日本が独立自衛の国となるべき道筋を早急につけるべきである。「平和を守りたければ、戦争の準備をせよ」、この言葉を今ほど実感できる時はないだろう。
2022年4月12日(火) 18時00分校了