Essay

日本の安全保障の為、タブーなき議論をVol.356[2022年5月号]

藤 誠志

ロシアの原発攻撃に
世界中から非難が集中

 三月四日付の日本経済新聞夕刊の一面トップは「ウクライナ原発火災」「欧州最大級『ロシアが砲撃』」という見出しの記事だった。「ウクライナ南部ザポロジエにある原子力発電所で四日、ロシア軍の砲撃を受け火災が発生したとウクライナのクレバ外相がツイッターで表明した。原子炉六基がある同原発は欧州最大級の発電能力を持つ。国際原子力機関(IAEA)は『同原発の放射線量に変化はないとウクライナ当局から報告を受けた』として『主要設備に影響はない』とツイッターに投稿した」という。ウィキペディアによれば、このザポロジエ(ザポリージャ)原子力発電所は「ウクライナのザポリージャ州エネルホダルに存在する原子力発電所。ヨーロッパ最大の原子力発電所であり、また、世界で三番目に大きな原子力発電所でもある。発電所はウクライナ中央部、ドニエプル川のカホフカ貯水池の岸に存在する。近くにはザポリージャ火力発電所が存在する」「六基のVVER‐1000を擁し、それぞれおおよそ一〇〇〇MWe、合計六〇〇〇MWeが発電できる。最初の五基は一九八五年から一九八九年の間に連続して稼働を開始し、六号機は一九九五年に追加された。同原発はウクライナ国内の原発の半分にあたる電力を生成している。ウクライナの全電力の五分の一を供給していると言われる」という。
 このロシアのザポロジエ原発への攻撃に対する国際世論の反発は凄まじく、東京新聞は三月五日配信の「原発への攻撃 国際社会が非難 ロシア『ウクライナ工作員が』 ウクライナ『うそやめろ』」という見出しの記事で「国連は四日、ザポロジエ原発での攻撃と火災を受け、安全保障理事会が緊急の公開会合を開催。二日前の総会で、ウクライナへの侵攻についてロシアを非難する決議を採択したばかりだが、撤退要請を無視して攻撃を激化させる一方のロシアに失望が広がった」「米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は『ロシアのプーチン大統領は(総会の決議に)耳を貸さないばかりか、われわれは欧州と世界への恐ろしい脅威が深刻化するのを見せつけられた』と非難。英国のウッドワード国連大使は『国際法は原子力施設の特別な保護を求めている。二度とあってはならない』と強調した」「IAEAのグロッシ事務局長も四日に緊急記者会見し、ザポロジエ原発での火災は、ロシア軍が発射した『飛翔体』が原因との見方を示した。二月二四日に原発への攻撃や脅威は、国連憲章、国際法、IAEA憲章の原則に反すると警告するなど再三にわたってロシアをけん制してきたが、懸念は現実に」と報じた。

非常事態に対応できるよう
「海上原発」を検討すべきだ

 東洋経済オンラインが三月八日に配信した「専門家が語る『ロシア軍の原発攻撃』の無謀さ」という記事では、原子力コンサルタントの佐藤暁氏が記者の質問に答えている。ロシアがチェルノブイリやザポロジエの原発を攻撃・占拠したのは、それをNATOの攻撃に対する盾にする意図ではないかということ、しかしそもそも原発は軍事攻撃に耐えられるような安全性は持っておらず、それ故国際法でも原発の攻撃は禁じられていること、ミサイル等で原子炉の格納容器が破壊された場合、原子爆弾のような爆発現象は起こらないが、「全方位に拡散される放射性物質による影響は、一〇メガトンの水爆をもはるかに上回る」という。ザポロジエ原発でこれが現実のものとなれば、ウクライナのみならず世界が受ける被害は想像を絶するものになるだろう。
 アメリカで過去最大の戦死者を出した戦争は、独立戦争でも第二次世界大戦でもなく、約六十万人の戦死者を出した、一八六一~一八六五年に戦われた南北戦争だ。死者が多かった理由は、この戦争がその後の第一次世界大戦の先を行く「近代戦」の始まりだったからだ。今回のウクライナとロシアの戦いは南北戦争同様、原子力発電所を攻撃したり、ドローンを駆使したりと、今後の戦争の形を先取りするものになり、兵士だけではなく市街戦等で多くの市民も犠牲になる様相を見せ始めている。国際社会は何とか早くこの戦いを終わらせる枠組みを、早急に構築しなければならない。
 専門家が指摘するように、現状では原発は軍事攻撃に耐えうる構造をしていない。今回の戦争でも今はまだ大惨事になってはいないが、なんらかの偶発的事態が発生しないとも限らない。私はカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)を睨んで、日本でも世界でも原子力発電を活発化させるべきだと考えている。小型モジュール原子炉(SMR)が世界でも注目されている。この小型で低出力、そして安全性が高く、工場でモジュールを製造して現地で据え付けることができて建設コストが安く、大規模なインフラを必要としないSMRは、電力が必要な場所の近くに建設することができ、地球温暖化防止にも役立つと思う。ただ建設にあたっては、戦争や地震等の非常事態に対応できるような立地が求められるだろう。私は陸に近い海上に原子力発電所を建設するのが良いのではないかと考えている。海上であれば、地震や津波にも強く、一時的に水没させ軍事攻撃からも免れることも可能で、全電源喪失となっても海水の注入は容易だし、さらに状況が悪化した場合には水中に沈めることで、放射性物質の拡散範囲を狭めることができる。実際にロシアでは、水上原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」が二〇二〇年五月に営業運転を開始している。ロシアのウクライナ侵略以降、世界の原子力発電所はより非常事態対策を考慮した立地になっていくだろう。

安倍元首相が
核シェアリングを提言

 ロシアがウクライナの侵略を開始したことに関連し、二月二十七日にフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した安倍晋三元首相は、私が常々採用すべきだと主張しているニュークリア・シェアリング(核共有)協定について議論すべきだという考えを示した。以下がFNNプライムオンラインに掲載されている安倍氏の番組内でのやりとりだ。「橋下徹氏(番組レギュラーコメンテーター・元大阪府知事・元大阪市長・弁護士)‥ウクライナ情勢を見てつくづく思ったのは、自分たちの国を守る力が絶対に必要だということ。ウクライナは今それで本当に苦労している」「安倍さんが言ったように、日本が打撃力・反撃力を持つこと。米国と共同して中距離ミサイルを日本に置くことも考えなければいけない。さらに言えば、日本がいきなり核を保有するのは現実的でないにせよ、非核三原則の『持ち込ませず』は、米国と共同で(見直す)という議論をしていく。自民党はちょっと腰が引けている。この話をすると、一部メディアから思いきりたたかれるから。でも、次の参議院選挙でしっかり争点にしてほしい。日本の防衛はどの方向で行くのかと。核というものを考えていこうという方向でいくのか、いかないのか。選挙で問うてもらいたい」「安倍元首相‥『敵基地攻撃』という言葉にこだわらないほうがいい。彼らの軍事中枢自体を狙っていく。軍事をつかさどるインフラを破壊していく。基地である必要は全然ない。むしろそういう反撃力だ。先制攻撃は国際法違反だからそもそもしない。核の問題は、NATOでも例えば、ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリアは核シェアリング(核共有)をしている。自国に米国の核を置き、それを(航空機で)落としに行くのはそれぞれの国だ。これは、恐らく多くの日本の国民の皆さんも御存じないだろう。日本はもちろんNPTの締約国で、非核三原則があるが、世界はどのように安全が守られているか、という現実について議論していくことをタブー視してはならない」「橋下氏‥日本でもこれから核シェアリングの議論をしていくべきだ。NATO加盟国(の一部)は現実に核シェアリングをしており、ロシアは簡単には手を出せない。核は絶対使ってはいけないが、議論は必要だ」「安倍元首相‥かつてウクライナは世界第三位の核保有国だった。『ブダペスト覚書』で核を放棄する代わりにロシア、米国、英国が安全を保障することになっていた。国境や独立が守られるはずだったが、残念ながらそれは反故にされてしまった。もしあのとき一部戦術核を残して、彼らが活用できるようになっていれば、どうだったかという議論が今行われている。そういう意味で冷静な議論を行う。ただ、核被爆国として核を廃絶する目標は掲げなければいけないし、その目標に向かって進んでいくことは大切だ。この(ウクライナの)現実に、日本国民の命、日本国をどうすれば守れるかについては、さまざまな選択肢をしっかりと視野に入れて議論するべきだ」「橋下氏‥日本も核シェアリングの議論は絶対に必要だ」というものだ。

日本の核保有に対して
アメリカで前向きな動き

 この安倍氏の発言に対して、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏がウェブメディアJBpressに「『核シェアリングの議論を』安倍氏の提起に米国で歓迎の声」という記事を掲載している。この中で古森氏はウォール・ストリート・ジャーナルが三月二日付の社説で「日本での新たな核議論」というタイトルで安倍氏の発言を紹介していることを取り上げている。そこでは、「日本は米国の核の保護を受けながら、自国の領内への核配備を拒み、核抑止に関する議論も避けてきた。だが安倍氏の指摘どおり、日本の指導者は核に関する戦略的課題の議論を拒むことはもうできない」、しかし「日本が西欧の諸国のように米国の核兵器のシェアリングを実施するには、日本国内の政治的な反対や対外的な外交課題、さらには核共同管理のための装備の整備、日米両国の一線部隊の協力の強化など、克服しなければならない障害は多い」とはいえ、「安倍氏の提言はロシアや中国という専制国家の新たな膨張進行に対して防御的な反応として出てきたことを米国側も銘記すべきだ」と主張している。同紙は三月四日の「中国の悪のウクライナ戦争」と題した社説でも、ロシアのウクライナ侵略でヨーロッパやアジア諸国の対中政策までもが硬化、その一つが安倍氏の核共有発言だとして、「日本では、安倍晋三元首相が、米国の核兵器の日本国内配備を提唱する最も高位の政治指導者となった。その案の実現は将来の課題だが、中国政府は日本が従来の消極的平和主義を保ち、そうした動きには出ないことを望むだろう。だがウクライナ戦争がアジア諸国の関心を台湾の安全保障に集中させた現在、中国のそんな希望は手遅れかもしれない」と安倍氏の提言を好意的に取り扱っているという。
 古森氏は自身の記事を、「米国に今回の安倍氏の発言に対するこうした広範な前向きの反応があることは、日本側としても知っておくべきだろう。なにしろ主題は日本の国家や国民の安全と独立をどう守るか、なのである」と結んでいる。正にその通りであり、日本は自国の安全保障のために、あらゆる手段を検討、実行しなければならない事態に直面しているのだ。核保有についても、改憲による自衛隊の国軍化についても早急にタブーなく議論を行い、日本を一刻も早く独立自衛の国へと転換していかなければならない。

2022年3月17日(木) 10時00分校了