Essay

日本は自衛的防衛力を強化せよVol.354[2022年3月号]

藤 誠志

極超音速兵器に対抗すべく
レールガン技術開発を加速

 一月五日付の日本経済新聞朝刊の一面トップは、「対中抑止へ次世代技術」「レールガン、極超音速兵器を迎撃」という見出しの記事だった。「防衛省はミサイル防衛の立て直しに乗り出す。電磁力で砲弾を発射してミサイルを迎撃する技術を中核に据える。中国などが研究を進める変則軌道で飛ぶ極超音速兵器を打ち落とせるようにする。相手の発射基地まで届く長射程ミサイルなどの開発とあわせ、二〇三〇年までに体制を刷新する」「レールガンと呼ぶ技術を二〇年代後半に実用化する計画だ。リニアモーターカーのように電磁力を使って弾を発射する。実用に近い試作機をつくる費用として二二年度予算案に六五億円を計上した」「火薬の燃焼を利用するミサイルより高速なうえ、理論上はもっと低いコストで連射もできる。一般的なミサイルの初速は秒速一七〇〇メートル程度だが研究段階で同二三〇〇メートル近くを達成した」「念頭にあるのは音速の五倍超で軌道を変える極超音速兵器だ。従来の弾道ミサイルが放物線を描いて飛び、経路が予測しやすいのと比べて迎撃が難しい。中ロや北朝鮮が開発で先行する」「既存のミサイルも同時に複数が飛来すると守るのが困難だ。防衛省はミサイルでミサイルを撃ち落とす現在の体制は限界があると判断した」「①現行システムの強化②レールガン③離れた位置から反撃できる長射程ミサイル――の三段階で防ぐ体制にする。相手のミサイルを探知する能力を上げるため小型衛星網の整備も検討する」「長射程ミサイルは攻撃を受けた際に相手拠点をたたく『敵基地攻撃能力』として保有を検討する。迎撃用ではなく相手に攻撃を思いとどまらせる目的だ」という。
 同じ日の日本経済新聞朝刊にはレールガンの解説の囲み記事も掲載されている。「火薬を使わずに電磁力の原理で弾を高速で撃つ技術。電気を通しやすい素材で作ったレールの間に弾を置き、電流と磁界を発生させて発射する。磁場のなかで電気を流すと力が発生する『フレミングの法則』で弾を動かす。モーターや発電機など身近に使われる技術が基礎になっている」「電力と磁力を使ってものを動かす技術にはリニアモーターカーがある。リニアは電流をコイルに流して磁力を発生させ、磁石の反発力で車両を動かす。一方、レールガンは磁界の中を電気が流れると物体が動くという別の仕組みを応用する」「防衛省は中国や北朝鮮、ロシアが開発を進める極超音速ミサイルを迎撃するための次世代技術として研究する。音速の五倍超の極超音速兵器と比べると、音速の六倍近い秒速二〇〇〇メートル以上で飛ばせる。砲の内部の磁界が強くなるようレールの配置を工夫し、電気を通しやすく頑丈な金属素材を選定する必要がある」としている。

着々と実戦配備に向かう
北朝鮮の極超音速ミサイル

 奇しくも翌一月六日、NHKのニュースサイトに「北朝鮮機関紙 “極超音速ミサイル発射実験 五日に実施”伝える」という記事が配信されている。「北朝鮮は、国防科学院が五日、極超音速ミサイルの発射実験を行い『七〇〇キロ先の目標に誤差なく命中した』と発表しました。極超音速ミサイルの発射実験の発表は、去年九月に続いて二回目です」「六日付けの朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は二面で、国防科学院が極超音速ミサイルの発射実験を五日、行ったと伝えました」「紙面には、先端がとがったミサイル一発がオレンジ色の炎を吹き出しながら移動式の発射台から上昇していく様子を捉えた写真が一枚掲載されていて『ミサイルは発射後に分離され、七〇〇キロ先に設定された目標に誤差なく命中した』としています」「その上で『国防五か年計画における戦略兵器部門の五つの最優先事業のうち、最も重要な核心事業を完遂するという戦略的意義を持つ』と強調しています」「発射実験には、党の軍需工業部と国防科学部門の幹部が立ち会ったということです」「韓国軍は、北朝鮮が五日午前、北部のチャガン(慈江)道から日本海に向けて弾道ミサイルと推定される飛しょう体一発を発射したと明らかにしていて、発表はこのミサイルを指すとみられます」「北朝鮮による極超音速ミサイルの発射実験の発表は、同じチャガン(慈江)道で新たに開発した極超音速ミサイル『火星八型』の発射実験を行ったとした去年九月に続いて二回目です」「防衛白書によりますと、『極超音速兵器』は、音速の五倍にあたるマッハ五以上の『極超音速』で飛行する兵器で、その速さだけではなく、長時間、低い軌道でコースを変えながら飛ぶ特徴があり、探知や迎撃が一層困難になるということで、アメリカや中国、ロシアなどが開発を進めています」「北朝鮮は、去年一月の朝鮮労働党大会で示した国防五か年計画で、極超音速兵器の開発を挙げました」「去年九月には、新たに開発した極超音速ミサイル『火星八型』の発射実験を初めて行ったと発表し『国家の自衛的防衛力をあらゆる方面で強化する上で大きな戦略的意義を持つ』と強調していて、関係国が警戒を続けていました」という。
 二つの記事に共通する「脅威」は極超音速兵器だ。これには「極超音速滑空ミサイル」と「極超音速巡航ミサイル」の二種類がある。前者は弾道ミサイルに載せて打ち上げられ、その弾頭部分だけが滑空翼体(グライダー)となり、大気圏上層部を極超音速で「滑空」し続けるものだ。後者は「スクラムジェットエンジン」等、従来のものとは異なる新設計のジェットエンジンによって、極超音速で「巡航」するミサイルになる。北朝鮮が一月五日に打ち上げたのは極超音速滑空ミサイルであり、発表によれば弾道ミサイルでは行い得ない「側面機動」と呼ばれる水平旋回を行ったという。
 私は六年前から本稿でレールガンを取り上げてきた。Apple Town二〇一六年六月号のエッセイでは、雑誌THEMISの二〇一六年一月号の「米国―『新型駆逐艦』で中国軍事都市殲滅へ」という記事を引用、日本の防衛省が九〇年代初期からレールガンの研究開発予算を計上、三菱重工等七社に研究開発を発注する一方、電磁波の衝撃に耐えられる製鋼技術を既に日本製鋼所が獲得していることを指摘して、「レールガン技術が世界で最も進んでいるのは日本」と結論付けている。このことがようやく表に出てきたのが、今回の記事である。予測しやすい弾道を飛ぶ弾道ミサイルとは異なり、極超音速で旋回まで行うことができるミサイルに対しては、連射も可能なレールガンによる迎撃を行うしかない。このように状況変化が明確になった故の、レールガン開発の「公表」なのだろう。

検討中の米新核政策は
核使用を核抑止に限定

 同じく一月五日付の日本経済新聞には、「米、核使用の厳格化検討」「『核に反撃 限定』裁量余地も」「軍縮へ月内にも指針」という記事が掲載されている。「バイデン米政権が一月にも公表する核政策の新たな指針で、核兵器の使用条件を厳格にする案を検討していることがわかった。核兵器の使用を主に核攻撃への反撃と定める構想が浮上している。足元ではロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻する可能性が取り沙汰されている。欧州諸国の一部は、厳格化で抑止力が低下しかねないとの懸念をバイデン政権に伝えた」「米政権は新たな指針である『核体制の見直し(NPR)』で、核軍縮に向けた具体策を示す。バイデン大統領は、同氏が副大統領として仕えたオバマ元大統領から『核なき世界』の理念を引き継いでいる」「NPRの焦点は核使用の条件変更だ。現在は『米国や同盟国、パートナーの死活的利益を守るため極限の状況においてのみ核兵器使用を検討する』と定義している」「核兵器と同様に大量破壊兵器とされる生物・化学兵器、大規模な通常兵器による攻撃に対し、核兵器で反撃する可能性を否定していない。サイバー攻撃に核兵器で報復できるとの見方もある。幅広いシナリオで核を使う余地を留保していると考えられている」「これを見直すうえで、バイデン政権は核使用の条件を最も厳しくするとされる『核先制不使用』の方針は採用しない方向で同盟国と調整に入った。NPRの検討状況を知る二人の関係者が明らかにした」「核先制不使用とは、核攻撃を受けた場合に限って核兵器を使うと公に約束し、明文化する方針だ。与党・民主党のリベラル派や核軍縮を訴える団体が採用を働きかけていた」「かわりにバイデン政権は『唯一の目的』と呼ばれる構想を検討している。唯一の目的とは、世界での核軍縮を巡る議論で使われる用語だ。一般的な解釈では、核保有の目的を敵からの核攻撃の抑止に絞るとされる。核使用は核攻撃への反撃とするといわれているが、決まった定義はなく裁量の余地が残る」「唯一の目的構想を採用すると、生物・化学兵器や大規模な通常兵器による攻撃への反撃に核兵器を使用することはいまよりも難しくなる。敵の核攻撃を事前に察知した場合、攻撃される前に核兵器を使って阻止することを許すとの解釈もあるが、核先制使用もかなり困難になりそうだ」という。

日本は防衛力の強化と
独自の抑止力が必要になる

 このバイデン政権が検討している核への反撃のみに核を使用する「唯一の目的」政策に対して、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大半が賛同していない。その理由はロシアへの抑止力の低下だ。アメリカと同盟関係を結ぶ日本等アジア諸国にとっても同様な状況で、二〇三〇年に核弾頭保有が一千発に及ぶ中国や、核以外にも生物・化学兵器を開発しているとされる北朝鮮への抑止力の低下が懸念されているという。そのため「米政権は、こうした同盟国の懸念に配慮し、唯一の目的政策をめぐり、核使用の条件に『生存に関わる脅威』への対処を加える案を同盟国に示した」というが、そうなると現政策との区別が難しくなる。また米軍は核使用の選択肢を残したいと考えており、アメリカ国内も一枚岩ではない。「バイデン政権は、唯一の目的構想の是非を慎重に見極める構えだ」とこの記事は結んでいる。
 核兵器の開発・研究は、それが抑止力を目的とするものであっても、日本では支持を得られない。だから中国や北朝鮮の核兵器に対して、日本はアメリカの核抑止力に頼るか、それとも自力の核以外の防衛力、抑止力を持つかしかないのだ。しかしアメリカは、その核抑止力を自ら低減しようとしている。これを補う意味でも、日本は独自の抑止力を持つ必要がある。それは最初に紹介した日経の記事が示す通り、長距離ミサイルによる敵基地攻撃能力を保有することで抑止力を得ることが、最も現実的だろう。そして実質的な防衛能力は、低コストで連射可能なレールガンが担うことになる。北朝鮮だけではなく、中国もロシアも着々と極超音速兵器の開発と実戦配備を行っている。日本もこれらに対抗すべく、レールガンの開発と抑止力としての敵基地攻撃能力の保有を一刻も早く進めるべきなのだ。日本は戦争抑止力としての攻撃力を絶えず磨いて、バランスオブパワーに基づく平和を維持していかなければいけない。

2022年1月18日(火) 18時00分校了