「平和ボケ」状態
十月三十日付の夕刊フジに、「一〇・三一衆院選を語る」「無風選挙は問題」「政府もメディアも国民も危機感が薄い」という見出しと共に、私へのインタビューに基づく記事が掲載されている。「アパグループの元谷外志雄代表が、一〇・三一衆院選を注視している。岸田文雄首相率いる自民党と、立憲民主党と共産党などの左派野党、第三極の日本維新の会などが、新型コロナ対策や経済政策、外交・安全保障政策などをめぐって、激しく競り合っているからだ。保守系言論人としても活躍する元谷氏が、四年ぶりの政権選択選挙を分析した」「『今回の衆院選はあまり盛り上がっていない印象がある。国民も「自民党は議席を減らしそうだが、とても政権交代は無理だ」と分かっているからではないか。いわゆる無風選挙だが、それは問題ではないか』元谷氏はこう語った」
アメリカのシカゴに本社を置く業界誌『HOTELS』の「スペシャルレポート HOTELS 225」に掲載されたリード文によれば、「コロナ禍、そして宿泊業界にとって史上最悪の年であったにも拘わらず、世界的に大きなホテルチェーンのほとんどはポートフォリオを拡大させた。」と記載があり、その詳細には、「世界の大きなホテルチェーンランキングの二〇二〇年末のデータは、実に、旅行・観光業界の強さの証である。パイプラインは元気で、未来の予測は明るい。」「ヒルトンCEOのクリス・ナセッタ氏がニューヨーク大学のバーチャルイベントで的確に述べた通り『旅は止められない衝動だ』。」「HOTELS年間ランキングは、今年は二百社と、昨年同様の組合二十五団体に絞られ、ランキングへの登場は七千室近くが基準となっている。」「二〇二〇年には大きなM&Aもなかったため、ランキングに大きな変化はない。OYOについて、データを取得することが困難であり、またOYOのビジネスモデルを他社と対比することも難しかったため、ランキングから削除した。同社のウェブサイトによるとホテルの客数は百万室、四万三千の提携ホテルがあると記載されていることには触れておく。」「他に言及すべき点として、親会社であるサービス・プロパティズ・トラストといくつかの取引をし九十六位から五十一位へ躍進したソネスタインターナショナルホテルズコーポレーションが挙げられる。二〇二一年には更に、レッド・ライオン・ホテルズ社と合併したため、来年のランキングではまた著しく順位が上がるだろう。」「ほかにもいくつか躍進した企業はあったが、変わらなかったのがマリオット・インターナショナルをはじめとするランキングトップの企業だ。また、ヒルトンは百万室を割り、中国のホテル会社の数が増えている。」「このランキングでは様々なストーリーが見えてくる。資本を成長させている会社や、次のM&Aの対象となり得る、苦しんでいる会社を見つけてみるのも良い。」とある。そのランキングでアパグループは六六二棟十万三千百五十九室で世界で十九位に躍進した。
十月三十日付の夕刊フジの私へのインタビューに基づく記事には、「国内最大のホテルネットワークを持つアパグループは二〇一九年一一月期までの四年間、連続して毎年三三〇億円を超える経常利益を出し、コロナが直撃した昨年も、ほとんどのホテルが赤字を計上するなか、一〇億円超の経常利益を出した」「コロナの新規感染者が激減し、本業の本格復活が注目されるなか、元谷氏は日本を取り巻く安全保障環境の変化を懸念している」
「『北朝鮮は衆院選公示日(一九日)に、迎撃が困難な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。中国とロシアの海軍艦艇一〇隻は一七~二三日、日本列島をほぼ一周して威圧してきた。政府もメディアも国民も「日米安保がある」と安心しているのかもしれないが、危機感が薄い』『中国は台湾への野心を公言して、軍備増強を進めている。軍事のバランスが崩れれば、戦争・紛争が起きかねない。「台湾有事」は「沖縄有事」「日本有事」に直結する。衆院選では、もっと外交・安全保障政策を議論すべきだ。「平和国家」が「平和ボケ国家」になっている』」「元谷氏は『自分の国は自分で守る』という常識を取り戻すためにも、憲法改正を訴え続けている。ただ、衆院選の議論を聞く限り、安倍晋三政権時代に比べて、改憲機運は高まっていない」「『今そこにある危機』を前にして、現在の与野党のリーダーをどう見るか。元谷氏は語った」「『岸田首相は温厚なイメージだ。平時にはいいが、有事には少し不安がある。中露艦隊による日本列島周回行動に、もっと強くアピールすべきだ。言論戦で負けているようでは、国民は不安になる。立憲民主党の枝野幸男代表は、この安保環境でよく、党綱領に「日米安保廃棄」「自衛隊解消」を掲げる共産党と共闘したものだ。本気で政権を獲る気がないとしか思えない』」と記載されている。
日米同盟を安保の基軸に
では一〇・三一の衆院選に関して、各政党はどのような外交・安全保障政策を公約として打ち出していたのか。「各党の『安全保障政策』をチェックする」という黒井文太郎氏の記事が、FRIDAY DIGITALに十月二十九日付で配信されている。各党の公約を比較・分析したものだ。自民党が一番に強調しているのが「経済安全保障」だ。その内容は「重要な物資の供給を守ったり、物資や技術の海外への不正な流出を防止したりするため、『経済安全保障維持法』(仮称)を策定するということ」だという。技術流出を防ぐためにITセキュリティ人材の育成に加え、経済安全保障分野でのインテリジェンス能力の向上を公安調査庁の強化で担うとしている。国防の基本路線は日米同盟の強化であり、さらにウイグル、チベット、内モンゴル等の具体名を上げ、中国を念頭においた人権問題の追求の姿勢もみせている。また令和四年度から防衛力の大幅な強化を行うとして、NATO諸国並の国防予算対GDP比二%以上を目指すとしている。敵基地攻撃能力にも触れ、「わが国の弾道ミサイル等への対処能力を強化するとともに、相手国領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組みを進めます」としている。公明党の公約は基本的には自民党と同じだが、核兵器禁止条約批准への環境整備やLAWS‐自律型致死兵器システム(人間の関与なしに自律的に攻撃目標を設定することができ、致死性を有する「完全自立型兵器」)の開発規制にも言及している。
一方の立憲民主党も日米同盟を基軸とし、「豪州やインドなどアジア太平洋地域、とりわけ近隣諸国との多国間協力を推進するとともに、各国との連携を強化した現実的な外交・安全保障政策を」というくだりは、自民党と同じ方向性だ。「中国の一方的な主張に基づく、尖閣諸島周辺でのわが国に対する挑発行為や、南シナ海での現状変更の試みは国際法違反」と明確に名指しで中国を批判、尖閣防衛に関しては「領域警備・海上保安庁体制強化法案」の制定を主張している。自民党と異なる公約は、沖縄の辺野古新基地建設の中止とイージス・アショアの代替として計画されている「イージスシステム艦」の導入反対だ。共産党は対米従属を批判して日米安保条約破棄を掲げるなど自民党とは全く異なる。そしてアメリカに対しては対等な日米友好条約の締結を主張、アメリカ製武器の大量購入や護衛艦の空母化に反対している。中国についてはその覇権主義を強く批判、自公政権の弱腰を非難する一方、対中関係を地域的な平和秩序の下に築くべきと、ソフトな路線を主張している。日本維新の会や国民民主党も、基本的には日米同盟基軸という自公政権と同じ考え。れいわ新選組は今の安保政策に反対、社会民主党も日米の軍事演習や辺野古基地建設の反対を主張している。
安保議論は迷走状態
黒井氏は今回の選挙では安全保障が争点になっていないと分析、その理由としてコロナや経済問題に国民の関心が奪われていることに加え、「日本の安全保障環境が厳しくなったこと」を挙げる。「北朝鮮は二〇一七年に六度目の核実験を強行、同時にミサイル発射を繰り返しており、日本は『北朝鮮の核ミサイル』の脅威下に置かれた」「その後、電撃的に米朝首脳会談が行われるなど、非核化の期待が一時的に高まったものの、そんな雰囲気は完全に過ぎ去っており、この九月から再びミサイル発射を繰り返している」「中国も香港の民主派を強権的に排除して民主主義を潰し、さらにウイグル人を大規模に弾圧している。ミサイルや戦闘機、空母、潜水艦などの戦力を急速に強化しており、台湾有事を懸念する声も高まっている」「本来なら、このように台湾有事で日本への脅威が高まっている状況であれば、安保政策はきわめて重要であり、大きな争点になるべきだ。しかし、そうはなっていない。それは、日本への脅威が増大したことにより、有力政党間に安全保障に関してそれほど大きな政策の違いがなくなっているためだ」というのだ。であれば今後、積極的な安全保障議論が展開されるかというと、そうではないという。与党も野党もあまりの知識の貧弱さから、具体的議論に向かえない「迷走状態」だと、この記事は分析している。
集団的安全保障体制構築へ
夕刊フジのインタビューで私が最も主張したかったのは、日本人は日米安全保障条約に頼り切ってはいけないということだ。日米安保条約は、世界の中でもアメリカの力が他を圧倒している時には有効だった。しかし近年、中国が経済力を増すと同時に軍事力も増強してきたため、アメリカは自国防衛のために、次第にモンロー主義的に内に籠もるようになってきた。アフガニスタンからの撤退のように、他国に駐留しているアメリカ軍の規模を縮小しているのだ。アメリカの安全保障観の変化に、日本は気づく必要がある。
日米安保があるとはいえ、内省的になっているアメリカは、日本有事の時にどれくらい一緒に戦ってくれるのか。安全保障観が変化したアメリカに大きく期待するのは無理があり、少なくとも日本はまず自らが戦うことを求められるだろう。そもそも、国家は自らの手で自らの国土や国民と、自ら作ったその政治体制を守ってこそ、独立国家だと呼べる。またその独立国家同士が相互に助け合い、どちらかが侵攻を受ければ一緒になって戦うのが真の同盟関係だ。しかし日本の場合、日本国憲法第九条による制限によって、独立国家になることも、真の同盟を結ぶこともできない。
私はかつて、地中海のマルタ島のイギリス海軍基地にある旧日本海軍戦没者墓地の戦没者慰霊碑を訪れて参拝したことがある。第一次世界大戦の時、日英同盟を結んでいた日本は、イギリスからの要請を受けて第二特務艦隊を地中海に派遣した。艦隊は一年半に亘ってイギリスの輸送船舶の護衛任務に就き、ドイツ軍のUボートと戦った。数多くの船舶を護衛、イギリス海軍から高い評価を受けたこの任務だが、駆逐艦「榊」が雷撃を受けて艦長以下五十九人が戦死、彼らの他にも第一次世界大戦に際して派遣されていた戦病死者も加え、計七十三人がマルタ島にあるイギリス海軍基地の墓地に埋葬されている。日米安保と異なり、日英同盟下では日本はイギリスのためにヨーロッパで戦って、戦死者も出している。これが真の同盟関係だろう。同盟の原点に還って、一方的に守られる関係ではなく、相互に守り合う関係を築いていかなければ、国家の安全は守られない。特に米中新冷戦下、中国とアメリカの力の差が急速に縮まっている現状ではなおさらだろう。日本は一日も早く憲法を改正して真の独立国家となり、日米安全保障条約をより相互的なものに改正、さらに近隣の友好国家と集団的安全保障条約を締結、ヨーロッパにおけるNATO(北太平洋条約機構)のような体制をとる段階に来ているのではないだろうか。
国民のあらゆるステージで
一〇・三一の衆議院選挙では、自民党が絶対安定多数の二六一議席を獲得、三二議席の公明党と合わせて、与党の議席は二九三議席となり、安定した政権運営ができるようになった。また与党に日本維新の会の議席数を加えれば三三四議席となり、憲法改正の発議に必要な三分の二の三一〇議席を超えた。議席数も十分であり、国民の支持も受けやすいこの好機に、与党は憲法を改正しインテリジェンスの強化や防衛費GDP比二%以上を軸にした強力な安全保障政策を推進していくべきだろう。日本が将来、中国の「日本自治区」に成り下がるかはここ数年の対処に掛かっている。さらに活発な安全保障の議論が国会をはじめ国民のあらゆるステージで行われ、多くの人がより一層適切な知識を身に付けた上で日本の将来を深く考えていくことを、私は強く望んでいる。
2021年11月12日(金) 17時00分校了