中国のウイグル族弾圧
三月三日付のブルームバーググローバルファイナンスの一面トップの見出しは、「米 対中政策は強硬姿勢」だった。筆者であるエリック・マーチン氏は以下のように記している。「米通商代表部(USTR)は一日公表した年次報告書で『あらゆる手段を講じて中国の不公正な慣行に対処する』と表明した。対中通商政策については前トランプ政権からの強硬姿勢を変えないとの立場を鮮明にした。一方で、その他の通商分野の課題については前政権とは対照的な取り組みを進める方針を示した」「対中問題では、前政権から続く重要な目標の一つとして、中国に説明責任を負わせることを挙げ、通商政策であらゆる手段を講じて中国の不公正な慣行に対処するほか、新疆ウイグル自治区でのウイグル族弾圧に対する取り組みを優先課題と位置付けた」。アメリカのみならず、今世界各国で、新疆ウイグル自治区における中国政府のウイグル族弾圧が問題視されている。
数年前からウイグル族の人々が強制収容所に入れられているという噂は出てきていたが、昨年辺りから衛星写真等でこの情報が裏付けられるようになった。BuzzFeed Newsでは、二〇二〇年九月二十一日付で「中国政府、ウイグル自治区でイスラム教徒の強制収容所を拡大。衛星画像分析で明らかに」という見出しの記事を掲載している。「イスラム系少数⺠族を『再教育』する目的で強制収容する中国の政策に関して、BuzzFeed Newsは過去にない広範な調査を実施した。衛星写真を分析した結果、二〇一七年以降、強制収容所の特徴を有する構造物が二六〇以上も建設されたことが明らかになった」「中国政府による前例のない大規模な活動の一環として建設されているこうした施設には、これまでに一〇〇万人超が拘束されたと見られており、二〇一九年に建設もしくは大幅に拡大された施設も複数ある」「こうした大規模な拘束が始まったのは二〇一六年後半のことだ。さらにこの年、新疆ウイグル自治区のトップの陳全国・共産党委員会書記は、顔認証カメラ、携帯電話の追跡、検問、強圧的な治安当局の取締りにより、イスラム系少数⺠族を絶え間ない監視下に置いた」という。
ウイグル族の収容所
このウイグル族に対する中国政府の対応について、アメリカは「ジェノサイド(民族大量虐殺)ではないか」という疑いを顕にしている。サンケイビズは一月十五日付で「中国・新疆ウイグル自治区で『ジェノサイドの可能性』 米報告書」という記事を報じている。「米国の中国問題に関する超党派の連邦議会・行政府委員会(CECC)は一四日に公表した二〇二〇年の年次報告書で、中国当局が新疆ウイグル自治区のウイグル族などのイスラム教徒少数⺠族に対し、国際法上の犯罪である『ジェノサイド(⺠族大量虐殺)』を実施している可能性があると指摘した」「報告書によると、自治区ではウイグル族やカザフ族、キルギス族などの少数⺠族や約一八〇万人が『広範かつ組織的』に施設に収容され、強制労働に加え、拷問や政治教化を受けている。また、外部に流出した中国政府の文書によると、強制収容システムが中国共産党の最高幹部の指令によって構築されたことが一層裏付けられたとした」という。また、フォーブスジャパンも二月二十六日付で、「英法律意見書『ウイグル族のジェノサイドに信憑性の高い証拠』」という見出しの記事を掲載している。「ロンドンを拠点とする『エセックス法廷弁護士事務所(Essex Court Chambers)』に所属する弁護士グループが、中国の新疆ウイグル自治区でウイグル族に対して行われているとされる残虐行為をめぐり、法律意見書を公表した。それによれば、人道に対する罪とジェノサイド(民族大量虐殺)が行われていることを示す信憑性の高い証拠があるという」「意見書ではさらに、新疆におけるウイグル族に対して広範かつ組織的な攻撃が行われており、次のような犯罪行為が存在することを示す十分な証拠があると述べられている。
・収容施設の元収容者および現収容者に強制労働させることによる奴隷化
・起訴や裁判を経ずに収容施設に拘留することで、ウイグル族の自由を大規模に奪うことにより構成される、投獄もしくはその他の形での重大な身体的自由の剥奪
・『タイガー・チェア』(長時間拘束するための鉄製の椅子)や性暴力などを用いた収容施設内での拷問
・収容施設でのレイプ
・ウイグル族人口を減少させる計画の一環として行われる、ウイグル族女性に対する不妊手術の強要
・ウイグル族もしくはムスリムであることを理由に個人に対して行われる、権利の剥奪・性暴力・奴隷化などさまざまな迫害
・ウイグル族に属する者の強制失踪」
とし、さらに意見書は「各国政府は是が非でも緊急行動を起こさなければならないと我々は考えている」と訴えているという。中国の狙いはウイグル族の数を減少させて、その代わりに漢民族を移民させ、人口比率でウイグル族よりも漢民族の方を多くなるように持っていくことだろう。これはチベットでもモンゴルでも行ってきたことだ。
中国は二十三年で反故に
もう一つ、今中国政府の動向で世界中の注目を集めているのは、香港問題だ。NHKのホームページの解説アーカイブスに二〇二〇年七月二日付で「香港激震 踏みにじられた一国二制度」という記事が出ている。
「イギリスから返還二三周年の記念日を一日に迎えた香港では、施行されたばかりの国家安全維持法に反対する香港の人たち一万人が、身の危険をかえりみず抗議デモを行い、警官隊とぶつかりました。香港当局の発表によりますと、これまでに国家安全維持法に違反したとされる一〇人を含む、合わせておよそ三七〇人が逮捕されたということです。香港の人たちの激しい怒りに対して、中国政府で香港問題を担当する責任者は次のように述べて法律の施行を正当化しました。『この法律は香港が正常な軌道に戻る転換点となるものだ。香港の返還二三年に合わせた 「誕生日プレゼント」であり、将来、その価値が表れてくるだろう』」「それでは、今回、香港議会の頭越しに北京の中央政府から押し付けられた形の香港国家安全維持法とは、どのような法律なのでしょうか。発表によりますとこの法律は、▽国家の分裂や▽政府の転覆、▽テロ活動、それに▽外国勢力との結託によって、国家の安全に危害が及ぶ犯罪を処罰するものです。最も重い罪には『終身刑』が課せられると規定されています。また香港政府からの管理を一切受けずに、中央政府が独立して取り締まりができる出先機関も設けられます。さらに容疑者を中国本土で裁判にかけることもできると規定されています」「これは、どう考えても返還後五〇年間は、香港の人たちによる高度な自治を保障してきた『一国二制度』の大原則を、ないがしろにするものと言わざるを得ません」としている。
香港の「一国二制度」保障を明確に約束したのは、一九八四年の中英共同声明だ。ここでは中国の社会主義体制を香港には当てはめず、これまでの資本主義体制や生活様式を返還後五十年は維持すると明記されていた。一九九七年の香港返還から五十年と言えば二〇四七年になるが、その半分の二十五年も経たない二〇二〇年にこの約束は反故にされた。二〇二〇年七月に施行された香港国家安全維持法に基づき、民主活動家の周庭氏や「リンゴ日報」創業者の黎智英氏ら多数の人々が逮捕され、実刑判決を受けたり勾留されたりしている。
中国は尖閣諸島を狙う
一九四九年の建国直後のチベット侵攻から内モンゴル自治区の成立、一九五五年の新疆ウイグル自治区の設置等で、中国は周辺の少数民族エリアを全て自国に併合した。その後の自治区の漢民族化に対する国際世論の批判も、内政問題だと無視してきた。今回のウイグル弾圧、香港の一国二制度廃止もこの方針の延長線上にあり、自国に都合よく人権や約束を捻じ曲げている。また、中国はソ連とアムール川の支流ウスリー川の中州であるダマンスキー島の領有権を巡って交戦、インドとはヒマラヤ地方の領有権を巡って中印国境戦争、そして自国民を百~三百万人虐殺したポル・ポト政権を追い詰めるためカンボジアに侵攻したベトナムを懲らしめると、ベトナムに侵攻した中越戦争など、陸続きの周辺国と一通り戦って力のバランスに基づき国境を確定させてきており、今や海への領域拡大を行おうとしている。太平洋を中・米で分割支配する話を持ち出したり、南シナ海の岩礁を埋め立てて軍事基地化を図り、さらに太平洋への玄関口として狙いを定めているのが尖閣諸島だ。尖閣諸島付近の海域には、常に中国海警局の公船が侵入するようになっている。中国がなし崩し的に尖閣諸島の領有を狙ってきているのは明らかだ。
中国海警局は二〇一八年から準軍事組織である武装警察部隊に編入されており、さらにこの二月一日に施行された海警法によって、指示に従わない艦船に対して武器の使用が認められるようになった。そもそも海警局の公船には中国海軍払い下げの船舶が使用されており、これらは大型で装甲も厚く、砲も備えている。尖閣諸島周辺で、海警局の公船が装備の弱い日本の海上保安庁の巡視船に一方的に指示を出し、それに従わないとして武器で攻撃する可能性があるのだ。武器による威嚇によって、海警局の公船が尖閣諸島の島に上陸作戦を展開することも十分に考えられるだろう。これでは朝鮮戦争末期の一九五三年、韓国の義勇兵と称する軍隊によって軍事的に不法に占拠されてしまった竹島の二の舞になる。尖閣諸島が奪われれば、二百海里の排他的経済水域も奪われ、海底資源の採掘権や漁業権も奪われる。そして次は沖縄、そして日本本土が狙われるだろう。中国にとって日本を併合すれば、優秀な技術と人材が手に入ることになるからだ。中華人民共和国日本自治区とならないためにも、日本は強い警戒心の下、今のタイミングで十分な対策を実施する必要があるのではないか。
日本のメディアは中国に甘く、ウイグル問題も香港問題も、強く批判的に取り上げることがない。これに伴ってか、日本政府の中国批判も切っ先が鈍い。ウイグルと香港問題に対して、メディアも政府も明確な姿勢を示すべきだろう。また中国が行っている日中中間線付近の東シナ海ガス田開発によって、日本側の資源までが吸い取られている。日本も中国側が採掘を止めるまで、対抗的に日中中間線付近で開発を行うべきではないか。日本の領土である尖閣諸島の住民は、かつて多い時には二百人を超え、政府の許可のもとで様々な経済活動が行われていた。さらに、一九二〇年中華民国駐長崎領事は、尖閣諸島に漂着した中国漁民を救助した島民や、その他の地元沖縄の日本側関係者に対し、漂着地が沖縄の一部であることを明記した感謝状を贈っている。このように、尖閣諸島(当時)の島民は日中友好の担い手でもあり、明確に日本領なのに、中国は自国領だと中国海警局の公船を日本の領海に侵入させている。この中国海警局の公船に対抗するために、艦船にも砲を備えるとともに、海上保安庁を海上自衛隊が積極的にサポートする体制をとるべきだ。最も重要な原則は、中国の横暴が罷り通らないよう、対等の立場に立って領海防衛に自衛隊が対応することだ。今後も中国はその経済力を軍事力に転換してさらに膨張を続けるだろう。日本もこれに負けない姿勢で防衛体制を築くことが求められている。
2021年3月18日(木) 13時00分校了