トランプ大統領
十二月四日付の日本経済新聞夕刊の三面に「世界の死者一五〇万人超」「米は一日二八〇〇人、四月超す」「新型コロナ、医療人材不足問題に」という見出しの記事が出ている。「新型コロナウイルスによる全世界の死者数が四日、累計で一五〇万人を超えた。米国では二日、一日あたりの新規死者数が二八〇〇人超と四月のピークを上回り過去最多となった。入院患者数も最多を更新し続けている。医療現場では応援看護師を送り込んで対応を急ぐが、全国的な感染拡大で人材不足が問題となり始めている」というのだ。また同じ三面には「自宅待機命令再発動へ」「カリフォルニア州、集中治療室不足で」という見出しの記事も掲載されている。「新型コロナウイルスの感染が再拡大している米カリフォルニア州は三日、自宅待機命令の再発動に向けた新たな基準を公表した。各地域の病院の集中治療室(ICU)の収容能力に基づいて命令を出すかどうかを判断する。ニューサム知事は三日の会見で、一二月下旬までに全地域で命令を出す見通しを示した」「一日当たりの新規感染者数が一万八千人を超え過去最多の水準にある同州では、入院患者数も急増している。人口の多いロサンゼルス郡などの地域では、すでにICUの病床数が足りなくなる恐れが高まっていた」。冬になって寒さが増し、それに伴ってウイルスの生存期間が長くなっていることが主な要因と思われるが、新型コロナウイルスは世界中でさらに猛威を振るっている。
こんなコロナ禍の中、世界中からウイルスの発生源である中国へのバッシングが強まりつつある。十一月十八日付のサンケイビズでは「対中国包囲網を構築へ」「バイデン氏、同盟国と連携強化」という見出しの記事が掲載されている。「米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領は一六日、日本などの同盟国を中心とした各国との連携強化で貿易や投資のルール作りを主導し、対中国の包囲網を構築する考えを示した。トランプ大統領が乱発して貿易摩擦を招いた制裁関税には否定的な考えで、中国の貿易慣行是正に向け各国と協力し圧力をかける方針。製造業を手厚く保護する政策も打ち出した」「バイデン氏は、中国に対処する上で『他の民主主義国家と連携する必要がある』と訴えた。中国による知的財産権侵害や産業補助金といった慣行を多国間で押さえ込む考えだ。トランプ政権が実施した制裁関税を念頭に『懲罰的な手段は求めていない』と述べた」という。次期民主党政権でも対中強硬の姿勢は変わらないというアピールだが、伝統的に親中的な民主党が実際にどのような対中政策を採用するのか、実際にバイデン政権が始まってみないとわからないことも多い。
一方政権末期を迎えているトランプ大統領だが、最後まで強硬な対中姿勢を貫く方針を続けている。十二月四日の日本経済新聞夕刊の一面には、「中国共産党員ビザ短縮」「米、最大一〇年を一カ月に」の見出しの記事が掲載されている。「米国務省は三日、中国共産党員とその家族が米国に入国する際の査証(ビザ)の有効期間を従来の最大一〇年から一カ月へと大幅に短縮すると明らかにした。米世論に悪影響を与える工作活動に歯止めをかける狙いだが、中国の反発は確実だ」「制限対象は商用と観光ビザ。一度でも入国すれば、それ以降は無効となる。ただ、著名な党幹部はともかく、九二〇〇万人とされる党員の全てを把握するのは容易ではないとの見方もある」「国務省は今回の措置を『中国共産党の悪質な影響力から米国を守るための試みだ』とした。トランプ政権はかねて中国共産党がプロパガンダを通じ、米国人に影響を及ぼそうとして米国での活動を活発にしているとの懸念を示していた。国務省は『米国の価値に敵意を持つ個人のビザを制限する権限がある』と強調した」という。
また読売新聞の十二月四日朝刊の二面には「米、インド太平洋に第一艦隊」「海軍長官発言 中国軍に対抗」という記事がある。「米国のケネス・ブレイスウェイト海軍長官は二日、議会上院の公聴会で、インド太平洋地域に『第一艦隊』を編成する考えを明らかにした。活動範囲を遠洋に広げている中国海軍に対抗する態勢を強化するとともに、横須賀に司令部を置く第七艦隊の管轄海域を二分して、負担軽減を図る狙いだ」「米海軍は現在、ハワイに司令部のある太平洋艦隊の下、日付変更線以東の太平洋を第三艦隊が、日付変更線以西の太平洋からインド洋を第七艦隊がそれぞれ管轄している」「ブレイスウェイト氏によると、第一艦隊は『主にインドや南アジア地域』を担当し、司令部は陸上ではなく『機動的な洋上司令部』とする考えだ。第七艦隊などに配備されている艦艇を状況に応じて第一艦隊に派遣し、共有する体制を取るという。編成の時期や拠点については言及しなかった」「ブレイスウェイト氏は『同盟国やパートナーを安心させると同時に、法の支配と海洋の自由を確保するための我々の関与を潜在的な敵対勢力に知らせることができる』と意義を強調した。第七艦隊については、『西太平洋からインド洋を通って中東湾岸まで移動する上で、大きな課題を抱えている』との認識を示した」「第一艦隊は第二次大戦直後に編成され西太平洋を担当したが、一九七三年に解散し、欠番となっている」。
さらに十二月一日の夕刊フジには「トランプ最終シナリオ」「電撃訪台」の文字が踊った。ジャーナリストの宮崎正弘氏による「米国激変」というコラムについての見出しだ。「フランスの政治思想家、アレクシ・ド・トクヴィルは、米国政治を『多数派の専制』と言った」「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や、気候変動に関するパリ協定、旧ソ連と締結した中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱したドナルド・トランプ大統領は、この基本政策を、当選確実が報じられたジョー・バイデン前副大統領が逆転できないように、強固な予防策を実行中である」「政権最後の日々、トランプ氏が没頭しているのは『やり残した約束』を任期中にすべて済ませてしまうことだ」「土壇場で何をやらかすか?」「米保守系雑誌で、ある政府高官経験者は『仕上げはトランプ大統領の台湾訪問である』と主張している」「もし実現すれば現代史を塗り替える大事件になる。トランプ氏ならやりかねないだろう。過去四年間で対中戦略を一八〇度転換させ、中国敵視政策に移した『実績』を見よ」「台湾との関係を劇的に変更し、一九七九年の『台湾関係法』に基づき、最新型のF一六戦闘機や、主力戦車『M一A二Tエイブラムス』、地対空ミサイル『パトリオット』や『スティンガー』、対艦巡航ミサイル『ハープーン』、高性能魚雷などの供与を発表した。中国の批判など、どこ吹く風だった」「二〇一八年の『台湾旅行法』制定は、米政府高官ばかりか大統領自身の台湾訪問を可能にした。そして、アレックス・アザー厚生長官や、キース・クラック国務次官を台北へ送り込んだ。『次は、もっと大物が訪台する』という予測はあった」「さらに、今年三月発効の『TAIPEI法』は、台湾と断交した国にも制裁を加えるなど、台湾擁護の姿勢はますます密度が濃くなっていた」「一九六三年、当時のジョン・F・ケネディ大統領はベルリンを訪問し、大群衆を前に演説し、全体主義の圧政にうめき、気迫が沈殿していたベルリン市民に勇気を与えた。旧ソ連への痛撃となった」「従って、トランプ氏が残された任期中(=辞めてからでは効果が半減する)に『台湾訪問』を果敢に実行すれば、自由アジアはどれほど勇気づけられるだろうか」「特に、自由を圧殺され、全体主義の管理・監視体制に陥った香港の人々、圧政に呻吟しているチベットやウイグルの人々は、固唾をのんで見守っている」「前出の政府高官経験者は『仕上げはトランプ大統領の台湾訪問だが、次善の策としてマイク・ペンス副大統領、あるいはマイク・ポンペオ国務長官の台湾訪問』を提唱している」「次期大統領の就任式(来年一月二〇日)前に何が起きるか?」という。
四年後の再選を目指す
十一月のアメリカ大統領選挙では僅少差で破れ、最初は裁判によって選挙結果を覆そうとしていたトランプ大統領だが、敗北宣言こそ出していないが政権移行業務は容認するようになっており、「潔い撤退」に方向転換したように思える。これは四年後の大統領選挙を見据えてのことだろう。様々な対中強硬政策で成果を上げてきたトランプ大統領だからこそ、潔い撤退と仕上げの台湾訪問は、次期大統領への道を開くことになる。
共和党としても負けたとはいえ、七千万票を獲得したトランプ大統領に替わる候補を、次の四年のうちに見つけるのは難しいだろう。またバイデン氏は現在七十八歳であり、次の大統領選挙に出馬はないと言われている。厳しい米中関係が当面続く中、民主党の新しい候補よりも、経験のあるトランプ氏の方が有利になるのは明白だ。四年後の再選に向けて、台湾訪問以外にトランプ大統領が注力するのは、新型コロナ対策だ。アメリカのファイザーやモデルナといった製薬会社が開発したワクチンの使用許可を申請、イギリスやカナダはファイザーのワクチンを早々に承認して接種を開始している。トランプ大統領もいずれかのワクチンの承認を急ぎ、コロナを退治した大統領としての名を残そうとするだろう。抗生物質もなくワクチンを開発する技術もなかった一九一八〜一九年のスペイン風邪の大流行では、世界中で四千万人〜一億人が亡くなった。今回の新型コロナの感染拡大でも、ワクチンや特効薬がない状態では、このスペイン風邪の時となんら変わらない。新型コロナワクチンを開発して、この事態を打開できれば、さらにトランプ大統領の四年後の勝利が見えてくるだろう。
大統領選挙に勝ったバイデン氏だが、それは彼の政策がトランプ大統領の政策に優ったからではなく、トランプ大統領に反発する票が集まった結果である。その意味では、バイデン氏の勝利は理想形ではない。議会下院は与党・民主党優勢だが、上院は共和党が過半数を獲得する公算が高く、議会がねじれ状態になったとしたら、なおさらバイデン氏の実効性のある政策実行は難しくなるだろう。また歴史的に民主党は対中融和的だ。中国の習近平主席は早速バイデン氏に祝電を送り、米中関係の改善に期待を見せている。しかし日本にとっては、アメリカが中国との関係の改善に動くよりも、経済的にも軍事的にも膨張する中国に対して、ビザ発給の制限や第一艦隊の創設に見られるように、しっかりと対峙する姿勢を見せることが望ましい。まだ未知数ながら、バイデン氏にこれは期待できないのではないか。私としては四年間見守って、再びトランプ氏が大統領になるよう、エールを送りたい。
中国の責任を追及すべきだ
アメリカの対中政策も重要だが、日本にとっては自分の国は自分で守る姿勢がもっと大事だ。国際社会は力のせめぎ合いであり、力のバランスによって平和を維持するのが道理だ。バランス・オブ・パワーで日本を守るべく、一刻も早く憲法を改正して自衛隊を国軍としなければならない。そして半独立国に対する庇護条約のような今の日米安全保障条約は改正すべきだ。現行の日米安保では、有事に戦っている日本に対してアメリカが援軍を送ることはあっても、日本に代わってアメリカ軍が戦ってくれることはあり得ない。またアメリカが日本の代わりに戦うことは、アメリカの世論が許さないだろう。日米安保が庇護条約的なのは、日本の憲法解釈が軍隊を持たないことになっていることとセットだ。改憲と日米安保条約の改正を進める一方で、中国に対しては、日米豪印の四カ国からなる日米豪印戦略対話(Quad クアッド)を中心に、ベトナムやフィリピン等を巻き込んで中国包囲網を構築していくべきだろう。
また国としての主張もしっかりと行うべきだ。多くの国では、今回の新型コロナ騒動に関して、中国に対して賠償請求の訴訟が起こされているが、日本は中国批判すら行っていない。武漢市でウイルスの研究をしていた中国科学院武漢病毒研究所から漏洩したことを考えると、この街にあるウイスル研究所が大元である可能性が非常に高いのだが中国はそれを認めず、国際的な責任を取るつもりは皆無だ。国家間の交渉はその背景に力が必要だ。日本も中国と対等に共存するのであれば、対抗できる軍事力を持つことが必須である。独立自衛の国となるべく、憲法改正の機運を高めていかなければならない。
2020年12月18日(金) 18時00分校了