Essay

アメリカは新大統領の下、一刻も早い団結をVol.340[2021年1月号]

藤 誠志

コロナウイルス対策で
民主主義が揺らいでいる

 今年は四年に一度のオリンピックの開催とアメリカ大統領選挙の年だった。前回から五十六年ぶりの開催となるはずだった東京オリンピックだが、中国・武漢から広がった新型コロナウイルスの感染拡大によって、一年間の延期が決定して二〇二一年の開催となった。このウイルスは中国から東アジア、ヨーロッパ、アメリカと感染が広がり、十一月七日時点で世界中での感染者数は約四千九百三十二万人、死者数は約百二十四万人に及ぶ。十月に入ってイタリア、スペイン、フランス、イギリス等のヨーロッパ各国では、第二波と呼ばれる感染者の再増加が発生、既に二十四万人(十一月十三日現在)の死者を出しているアメリカでも感染者の数は依然増え続けていて、このパンデミックは終息の兆しが見えない。
 雑誌「選択」の二〇二〇年十一月号に、「社会の『幼児化』が背景」「欧州がかくもコロナに脆い理由」という記事が掲載されている。「新型コロナウイルスの世界的拡大で、欧州連合(EU)の民主主義国の苦境が際立っている」「中央政府と地方自治体が対立して、感染対策が宙に浮くといった民主制度の問題や、規制がなければ『何でもあり』といった無責任な行動まで、欧州民主主義の弱点を曝け出す例が相次いでいる。科学者や知識層の間からは、『なぜ東アジアとこれほど差をつけられるのか』との疑問が出始めた」「最初に感染者数の規模を知ってもらおう」「日本国内の感染者の累計は十月下旬、約九万七千人で十万人に迫った。一方、EU二十七カ国と英国、さらにリヒテンシュタインなどミニ国家群を合わせると、累計は八百万人超である」「十月二十四日までの直近二週間では、感染者数は二百十万人を超えていた。日本と似たような規模の国家群で見ると、直近二週間でフランス三十五万人超、英国二十五万人超。連日、各国で一万〜四万人超の新規感染者が出ている。西欧諸国が、特大の『第二波』に襲われていることが分かる」「ところが、感染対策となると驚くようなことが起きている」「各国の中央政府が『感染の著しい地域に、限定的な外出制限を導入する』との方針を決めると、当該地方政府の首長と議会が『なぜ我々だけが?』と猛反発して、感染対策がストップしてしまうのだ」「英国のグレーター・マンチェスターが好例だ」「ここは、マンチェスターを中心に約二百八十万人が住む、英国屈指の行政区である。十月上旬、ボリス・ジョンソン英首相が『マンチェスターで感染者が急増している。地域限定の外出・営業規制を導入する』と発表した」「ところが即座にグレーター・マンチェスターのアンディー・バーナム市長が、『何で我々だけが規制されるのか』と異論を唱え、制限導入を拒否した。市長は労働党で、元来『反ジョンソン政権』の立場だが、地元選出の保守党下院議員たちも一斉に、市長に同調した。国が決めた規制措置を、地方自治体がボイコットするという、異常事態が起こった」という。今世界の主流となっている自由民主主義を否定するような現象が、新型コロナウイルスによって引き起こされているのだ。

防止策が百年前と同じ
感染症拡大の恐ろしさ

 一年延期された東京オリンピックだが、果たして開催できるのか。全世界に感染が拡大し第二波に襲われている地域もある中、観光大国化を目指している日本だが、希望通り世界中から多くの観光客を受け入れるということは、とてもできそうにない。非常に残念なことだが、PCR検査で陰性になった選手と役員関係者のみを受け入れるような、縮小されたオリンピックにならざるを得ないだろう。
 記録が残っている近代以降において最悪のパンデミックは、一九一八〜一九年のスペイン風邪の大流行だ。患者数は世界人口の二五〜三〇%、致死率は二・五%以上、死亡者数は全世界で四千万人〜一億人と言われている。日本だけでも患者数が約二千三百万人、死者数が約三十八万人という内務省の統計があり、今回の新型コロナウイルスよりも遥かに被害が大きい。この時代には抗生物質も発見されておらず、インフルエンザウイルスを分離する技術もないためワクチンは論外で、感染拡大を防止するのは患者の隔離、接触者の行動制限、個人衛生、消毒と集会の延期といった方法に頼るしかなかったという。しかしこのことは、まだ新型コロナウイルス用のワクチンも特効薬も開発されていない今の状況と、全く同じである。百年経っても変わらないのだ。人類が滅亡するとすれば、致死率が高い感染症の大流行が原因となることが、最も可能性が高いのではないだろうか。被害をスペイン風邪のような悲惨なものにしないためにも、世界は結束してこの事態に対応しなければならない。

自由民主主義国が結束して
膨張してくる中国に
対抗すべきだ

 十一月三日にアメリカ大統領選挙の投票が行われ開票が進んだが、大変な接戦となった。十一月七日にようやくバイデン氏がペンシルベニア州を制して過半数の選挙人を獲得し、決着が付いた。トランプ大統領は一部の州で開票差し止めを求める訴えを起こし、接戦州を獲得して逆転勝利を実現しようとしていた。世界の民主主義国のお手本とされてきたアメリカだが、今回の大統領選挙では意見の相違による「分断」が際立ち、選挙後に結果を認めて一致団結することが難しくなっているように思える。
 自由主義を真っ向から否定する社会主義による独裁国家である中国の台頭が著しい。世界中の自由民主主義国は、結束してこの膨張する中国を抑え込まなければならない。アメリカは自由民主主義国のリーダーとして、選挙で選んだ大統領を中心に自由と平等の旗を高く掲げ、自由民主主義体制の維持に邁進してもらわなければならない。アメリカ大統領選挙の決着を踏まえ、一刻も早い、大統領を中心としたアメリカの団結が強く望まれる。一方日本も、世界中に自国第一主義が蔓延る中、自分の力で自国を守ることのできる国家にならなければならない。独裁国家中国は十四億人の数の力で蓄えた経済力を使って、軍事力を強化してきている。日本はこれに飲み込まれて、中華人民共和国日本自治区となることのないよう、自らの軍事力を増強する必要があるのだ。

衰退していくアメリカと
台頭してくる中国の
狭間にいる日本

 十一月十一日付の読売新聞の一面には「バイデンの試練」、「分断修復 多難な道」とのタイトルの記事が掲載されている。「米大統領選を民主党のジョー・バイデン氏が制した。政権交代は米国と世界に何をもたらすのか。
 バイデン氏の勝利が判明した七日昼、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外で、トランプ大統領の支持者とバイデン支持者がにらみ合っていた。警察隊を挟んで『負け犬』『票を盗むな』とののしり合う姿は、米社会の分断の深刻さを浮き彫りにした。
 衝撃的なデータがある。大統領選前の世論調査で『支持候補が落選した時に暴力は正当化される』と答えた人が、共和党と民主党のどちらの支持者も約二割に上ったという。対立は双方で極端に振れている。
 米社会の分断の歴史は長いが、これほど深刻化したのは南北戦争以来ともいわれる。対立をあおり支持を固めるトランプ氏の手法に加え、SNSの普及も拍車をかけた。考えの似通う者が地理的距離を超えて共鳴し合い、異なる意見は締め出される。
 バイデン氏の勝因は『反トランプ票』の掘り起こしに成功したことだが、トランプ氏への支持もなお根強い。得票数では、四年前を八百万票上回った。
 本来なら、政治を職業とする議員たちの出番だ。感染症対策であれ経済再生であれ、国民の共通の利益のために妥協点を探り、超党派の議論を通じて合意にこぎつける。現実の施政はそうして成り立ってきた。
 しかし対話は当面、望めそうもない。トランプ氏は『選挙はまだ終わっていない』と法廷闘争で続投の道を探る構えだ」とある。
 世界で衰退していくアメリカと、台頭してくる中国の狭間にいる日本は、いつまでもかつての米ソ冷戦の漁夫の利をむさぼっていた時のようにしていてよいのだろうか。日本は世界の平和と繁栄に手を貸し、共に繁栄を求めて共存共栄の道を進めなければいけない。

国連の日本人職員
拠出額のわりに少なすぎる

 ニューズウィーク十一月十七日号にて「平等重視の国連で高官は白人ばかり」とのタイトルの記事がある。「本部機関の上級ポストは欧米人が独占している 国際援助の現場での植民地主義的視点に批判が」という見出しの下、「百九十三の加盟国を抱える国連は、世界で最も多様性に富んだ組織の一つと言える。しかし批判的な人たちに言わせれば、実は国連自体が多様性を欠いている。
 国連の職員で最も多いのは今もアメリカ人だ。ドナルド・トランプ米大統領は国連におけるアメリカの影響力低下に繰り返し不満をぶつけてきたが、昨年四月に公開された職員育成に関する報告によれば、今も全職員の六・七五%に当たる二千五百三十一人がアメリカ人だ。イギリスやフランス、イタリア、スペインなどの欧州諸国からも、人件費で見ると不当に多くの職員が採用されている。
 途上国出身の人も現場レベル、とりわけコンゴ民主共和国やマリのような紛争地帯では多数が採用されている。しかし待遇がよくて地位も高い本部職員(ジュネーブの欧州本部職員を含む)に関しては、圧倒的に欧米系が多い。」とある。
 拠出額の割に日本人の職員が少ないのは、日本人は語学力の面で不利であり、外国人と物事を進めていく多文化の中で働くのが苦手だということだ。これだけ日本は多くの国連分担金を負担しているのだから、もっと多くの日本人職員が国連に採用されるべきで、日本の国際化はこの国連における職員ウェイトを高めていくことである。
 今や、世界はひとつの文化圏で、共通の言語は英語と言っても良い。もっと国際舞台で働ける日本人を輩出していかなければならない。
 これまでは日本における英語教育が英会話から入るのではなくて、英文法や英単語を重視した日本人教師による英語教育であったが、積極的にネイティブな英語を使える欧米人を多く採用して、英語でのディベート能力を養って、世界で活躍する日本人をもっと多く育成していかなければならない。

2020年11月13日(金) 15時00分校了