中国を批判し始めた
一九一七年のロシア革命によって誕生した共産党一党独裁国家・ソ連は、その七十四年後の一九九一年に崩壊、米ソ冷戦が終結した。一九四九年の中華人民共和国建国から七十一年が経過し、今新たに米中冷戦と呼ばれるような状況が現出してきている中、あと三年で七十四年目となる。先月号の本稿において、私は以下のように書いた。「六月三十日に中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法を成立させたことで、トランプ政権は中国への圧力を一層強め、七月になって、アメリカは空母ニミッツと空母ロナルド・レーガンを中心とする二つの空母打撃群を南シナ海に派遣した」。ニミッツは先の大戦中のアメリカ太平洋艦隊司令長官であり、日本軍と戦って勝利を得た名将だ。ロナルド・レーガンは軍拡によってソ連を疲弊・崩壊させ、米ソ冷戦に勝利した大統領である。アメリカは絶えず台頭してくる強大な敵と戦って屈服させてきた。今回アメリカが、日本とソ連に打ち勝った男の名を冠した空母を二隻体制で南シナ海に派遣したことには、大きな意味があると思う。
月刊誌「明日への選択」九月号に「米中新冷戦・本格化する共産主義との戦い」というタイトルで、福井県立大学教授・島田洋一氏への巻頭インタビューが掲載されている。島田氏の主張は以下のようなものだ。
・七月二十三日に行った演説で、アメリカのポンペオ国務長官は従来の対中政策の失敗を認め、中国の共産主義を真っ向から批判した。これは「『新冷戦』が実質化したと言える」「歴史的な演説」だ。
・ポンペオ演説で重要なのは「『習近平国家主席は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ』」と「習近平の実名を挙げて、共産主義を指弾した」ことだ。さらに子孫が中国共産党に蹂躙されないために「自由主義国が新たな同盟体制を作っていかないといけない」とも主張している。
・このポンペオ国務長官の前に、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、レイFBI長官、バー司法長官らの重要閣僚も演説を行って、テクノロジーの違法持ち出し案件の徹底的な取り締まり等司法カードを使って、中国を締め上げていく方針を述べている。これらは全てトランプ大統領の承認を得た演説。経済問題に自信を持つトランプ大統領は「その部分で中国の共産党官僚なんかにコケにされるのは絶対に許せない」「四人の演説も徹底的にやれという感じ」だという。
・「米国の対中認識・対中政策が共和党・民主党を問わず、転換したのは事実」であり、香港人権法やウイグル人権法等も共和党、民主党を含むほぼ全会一致で議会において可決されている。しかし民主党の対中姿勢には実行力が伴わない。民主党の大統領候補であるバイデン氏は長年上院議員をやっているが、全く実績を残していない。もし当選しても年齢と基礎疾患のためにホワイトハウスで隠居状態に。民主党内部は左派が勢力を伸ばしていて、バラマキ福祉のために軍事関連予算をカットするという方針だ。「特にバーニー・サンダース一派は、中東からのシーレーンを米海軍が守ってはいけないと明確に主張」「そういう考え方がもし政策に反映されると、安全保障上、日本の周辺も不安定化せざるを得ません」。
大統領選に勝利すれば
アメリカはおかしくなる
・日本の役割は軍事的には「中国から尖閣諸島と沖縄から台湾に至る海域シーレーンをしっかり守ると同時に日米安保条約に基づいて米軍をサポートする」ことだ。そのためにも海底九百メートルぐらいまで潜ることができると推定される世界一の性能を誇る「そうりゅう」型潜水艦にその深海でも使える八九式魚雷を装備して日本を取り巻き護るように、現在、十二隻配置されているが、さらに十隻程度配備する必要がある。
・日本の経済的な役割は「ハイテク技術が中国に流出しないよう」にすること。アメリカが中国のハイテク企業への半導体供給をストップしようとしているが、日本企業は供給を続けている。日本政府はこれを止めさせなければいけない。米中双方にいい顔をして漁夫の利を狙っていると、日本企業がアメリカの司法によって摘発されることもあり得る。
・ポンペオ氏は中国と「汎用品や日用品の分野では取引を続けてもいいと示唆」「ただし、戦略分野・ハイテク分野に関してはサプライチェーンからはっきり中国を外して行く」と言っている。これを今後日本政府が守れるかどうかが鍵だ。
・アメリカで沸き起こっている人種差別への抗議運動の暴動や略奪への拡大は、極左勢力の「ブラック・ライブズ・マター」や「アンティファ」が過激な方向に誘導したもの。それがワシントンやジェファーソンの銅像破壊に繋がっている。昨年からニューヨーク・タイムズが「一六一九年プロジェクト」を開始、アメリカは「アフリカから奴隷を連れてきて抑圧し搾取して国を作ってきた。合衆国憲法などはそういう実態をごまかすための衣装に過ぎないと。その観点から歴史を見直す運動を展開している」。そういった極左勢力がアメリカの建国の父たち、その中でも特にワシントンを非難している、今の民主党は、最もリベラルだと思われていたカーター元大統領から見ても左傾化し過ぎだ。
島田氏はこのインタビューを、「左傾化した民主党のような政治勢力が政権を取ったら、米国がおかしくなるのはもちろん、日本と国際社会にも悪影響を及ぼすと思いますね」と結んでいる。私も同感であり、今年の大統領選には、共和党のトランプ氏に是非再選して欲しいと願っている。
ポンペオ国務長官の演説が示す通り、アメリカの対中スタンスは大きく転換した。かつてのオバマ大統領の姿勢は中国に譲歩するものだった。豊かになれば共産主義政権が崩壊すると考え、様々な手段でアメリカは中国の経済発展を援助してきたのだが、思惑とは異なり中国共産党はその資金力とハイテクを活用して、ますます独裁体制を強固なものにしてきた。今はアメリカの軍事力が中国を上回っているが、いずれこれは逆転する可能性が高い。そうなれば、中国の世界覇権が現実のものになるだろう。手に負えなくなる前に自由民主主義国家が手を取り合って、今の中国の体制から中国国民を解放しなければならない…というのが、ポンペオ氏の主張なのだ。
米中軍事衝突の可能性
アメリカ大統領は二期八年を務めて、初めて評価される。世界恐慌へ有効な対策が取れず民主党のルーズベルトに選挙で大敗、一期のみの任期となった共和党のフーバー大統領の評価は低い。後任のルーズベルト大統領はフーバーの二の舞とならないよう、壮大な需要の創出(戦争)によって世界恐慌の影響から脱することを目指した。ニューディール政策によって公共事業を増やして需要を増やす一方、日本を挑発して暴発させ、日独伊三国同盟を利用して日米開戦を機にヨーロッパ戦線に参加し、対独戦争を始めた。これによって生まれた莫大な戦争需要によってアメリカ経済は完全に回復し、この功績を以てルーズベルト大統領は他に例のない四選を果たした。トランプ大統領も再選のためには、現職大統領として持てる力の全てを使ってくる。そのオプションの一つには、台頭する中国に対する「一撃」も入っているだろう。
月刊誌「選択」九月号に「南シナ海『人工島』攻撃が焦点に」「米中『限定軍事衝突』はあり得る」という記事が掲載されている。中国が南シナ海で進めた七つの人工島建設だが、オバマ大統領は「航行の自由」作戦等のデモンストレーションといった対応しか行っていなかった。転機は四月に出版された軍事戦略の専門家、クリスチャン・ブローズの『THE KILL CHAIN』という本だ。この中でブローズは「多くの政治家や国民が感じていた米国の退潮の本質を指摘するとともに、南シナ海での中国の軍事プレゼンス拡大を黙認した米国の失敗をえぐり出した」という。これを踏まえて七月十三日にポンペオ国務長官は、「中国の南シナ海における権益主張は完全に違法なものであり、世界は南シナ海を中国の“海洋帝国”とは決して認めない」との声明を発表。これは行動に向けたアメリカの「明確な戦略転換」だと見做されている。予想される発火点はフィリピンだ。昨年ポンペオ国務長官は、中国とフィリピンが領有を争うスカボロー礁を「フィリピン領とする」認識を示し、「フィリピンの漁民や軍が中国艦船から攻撃を受ければ、米軍が介入し中国軍排除に動く」と発言、さらに中国とフィリピンの両国が領有を主張するミスチーフ礁は埋め立てられ軍事基地化され、中国の戦闘機が常駐、対艦巡航ミサイルも配備されている。スカボロー礁を巡っての軍事衝突にミスチーフ礁からの兵器が使用されれば、アメリカは「反撃する正当な理由を得る」という。南シナ海の中国の人工島には民間人がいないことも、国際世論の理解を得やすいと考えられていると、この記事は述べている。
このように南シナ海でのアメリカ軍の軍事行動の可能性は高まっている。もしトランプ大統領の再選の可能性が危ぶまれるようなことになれば、選挙の直前に中国のそれらの基地への軍事行動を起こすことで、一気に支持率を上げて再選へ持ち込むことも考えられるだろう。どの国でも最高権力者がその持てる力によって権力の維持を図ることは、当然のことだ。かつてルーズベルト大統領が日本を挑発して日米開戦に持ち込んだことも再選戦略だ。また一九九九年、モスクワ等の都市のアパートが続けて爆破され三百人もの犠牲者が出た事件は、当時首相だったプーチン氏の自作自演との説もあり、この爆破をチェチェン独立派ゲリラの仕業として第二次チェチェン紛争を始めたことも選挙戦略と思われる。チェチェン戦争により国民の支持を得たプーチン氏はその後大統領となり、今に続く長期政権を担っている。
日本は改憲し独立自衛の国に
米中関係が緊迫感を増す中で、日本はどのように行動すれば良いのか。憲法によって日本は制約された軍事力しか保有していない。一方、海洋覇権を目指す中国が、例えば避難という名目で漁民に扮した人民解放軍の兵士を尖閣諸島に上陸させて、これを占拠することも十分考えられる。これを排除するにはやはり武力行使しかないだろうが、憲法上は相手が武器を使わなければ日本も使えない。バランス・オブ・パワーを維持することが戦争抑止に繋がるのであって、武力行使ができないと明言することでは平和は保たれない。憲法第九条があったから戦後これまで日本は戦争に巻き込まれなかったというのは間違いで、日米安保条約があったからこそ日本の平和は守られてきたのだ。しかしアメリカの軍事力を凌駕しようとする中国が、この日本の安全保障体制に強い圧力を掛けてきている。
周囲の全ての陸続きの国と一戦を交えて領土拡大を図ってきた中国は、今は海へ向けてその勢力を伸ばそうとしている。南シナ海の軍事基地化に加え、尖閣諸島を領有することで、第一次列島線を越えて太平洋に進出する道を開くことは、中国の悲願だ。これを日本は阻止する必要がある。現在かろうじて周辺海域における制海権を日本が維持できているのは、海上自衛隊が高性能の深深度潜水艦を保有しているからだ。しかし制空権に関しては、第五世代ジェット戦闘機・殲‐20の実戦配備を進めている中国の方が優位になってきている。このような情勢の下、日米安保条約上、「アメリカ軍が鉾で自衛隊が盾」だと楽観視していてよいのか。アメリカ軍が動くためには最終的には議会の同意が必要であり、そこには世論が大きく影響する。これらを無視して、自衛隊より前でアメリカ軍が中国と戦うことはあり得ない、中国からの侵略にまず自衛隊が防衛戦をして初めて、日米安全保障条約に基づきアメリカ軍が同盟国として参戦してくれると考えるべきだ。
通常の国と同様の武力行使を可能にするために、一日も早く憲法を改正しなければならないし、独立自衛の国家に相応しい軍事力を持たなければならない。安倍政権が戦後最大の改憲のチャンスだったが、安倍氏は病に冒され、今般首相が変わる。次期首相になる菅義偉氏には、是非改憲の気概を持って就任して欲しい。安倍総理には、まずは持病の潰瘍性大腸炎の治療に取り組み、健康を取り戻し、かつての十一代、十三代、十五代と三回総理大臣となった桂太郎のように、三回目の登板にも期待したい。菅氏は叩き上げの苦労人で魅力ある人物だ。内政は問題なさそうだが、外交は未知数であり、日米、日中関係を壊した旧民主党政権のようなことは避けなければならない。そのためにも安倍総理を一定の権限を持つ「外交特別顧問」のような役に就けるべきではないだろうか。
武力を持つから戦争が起こるのではなく、力のバランスが崩れた時に生まれる力の空白域によって戦争が起こることを、多くの日本人が理解していない。
私は真実を伝えるべくこの月刊『Apple Town』を三十年間にわたって発行し続けて、「真の近現代史観」懸賞論文やアパ日本再興大賞を主催し、東京・大阪・金沢で勝兵塾を約三百回、延べ三万人程の参加を得て開催してきた。それらの活動により世論は少しずつ変わってきてはいるが、未だ学校の教科書やメディアの報道にも偏りが大きい。本当のことを知れば、皆保守になり、独立国家は自国の防衛は自国が行うべきだと考えるはずだ。今、日本の覚醒推進の主力は勝兵塾だ。より多くの人の勝兵塾への参加を望んでいる。
2020年9月15日(火) 11時00分校了