日本を語るワインの会203

ワイン203二〇二○年四月八日、代表邸で恒例「日本を語るワインの会」が行われました。生命保険会社社員から政界に転身した衆議院議員の長尾敬氏、国連職員になるために松下政経塾に一期生として入塾した在日本ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥氏、シカゴを中心にアメリカ在住十五年の経験があるインディペンデント・アドバイザリー・サービス株式会社 代表取締役の樽田周亮氏をお迎えし、新型コロナウイルスというかつてない危機に立ち向かっている今の世界について、語り合いました。
日本の医療制度は
貧富の差に関係なく平等
 スペインかぜでは、世界中で五億人が感染し、推計で一千七百万〜五千万人の死者が出たと言われている。新型コロナウイルスの場合、今の医学で死者数を抑えているが、昔であればスペインかぜに近い人数が亡くなっただろう。新型コロナウイルスの影響によって、七都府県には緊急事態宣言が出され、人々の移動に大きな制限が掛かることで、経済的に莫大な損害が出ている。緊急事態宣言は現状では五月六日までだが、それ以上に長引くと経済的にかなりまずいことになるだろう。社会的なストレスも大きい。日本の都道府県で人口当りの感染者率が一番高いのは、福井県だ。一説によると、東京の銀座辺りで遊んだ人が繁華街・福井片町に繰り出して、そこから感染が広がったという。国会議員も皆議員会館に籠もっている。ウイルスを持ち帰る危険から地元にも戻れず、行くところがない状況だ。これは日本にとっても世界にとっても初めてのことだが、特にヨーロッパからアメリカの状況は酷く、それに比べれば日本の状況はまだ大したことはないだろう。中国は一党独裁の威力を見せつけ、人民解放軍を総動員して武漢市のある湖北省全体を封鎖することで、感染拡大を止めた。日本では自衛隊が総出動しても東京すらブロックできず、そもそも民主主義国としてそのような命令を政府が出すこともできない。
 本当であれば、今年は東京オリンピックが開催され、日本が盛り上がる最高の年になるはずだった。日本も台湾のように、一月二十五日の春節の前か直後の二月上旬に中国からの日本への入国を禁止していれば、今のような状況ではなかったかもしれない。しかし二月上旬に中国からの入国を禁止したアメリカがあの状況だ。CDC(疾病予防管理センター)の機能を持つ組織が日本にはなく、アメリカのCDCが感染症に関しては世界的なエキスパートだとされていたが、結局自国の感染拡大を食い止めることができなかった。それぞれの国の思惑もあり、感染者や死者の数の情報も正確には公表されていない。中国では約八万人が感染して三千人が亡くなったと発表されているが、実際は百万人感染して十万人が亡くなったという説もある。イランの死者は約四千人と公表されているが、実際には二万人と言われている。アメリカは国民皆保険ではないので、四千万人以上の人々が健康保険を持たず、高額の医療費を恐れて病院に行くことができない。行ったら行ったで、最初にクレジットカードの提示を求められる。中国も同様で、病院に行くとまずお金があるかどうかを問われるという。イギリスはNHS(国民保険サービス)によって無料で医療を受けることができるが、申し込んで診察まで一週間掛かることもある。これらの国では普段病院に行かない人が行くと、あっさり医療崩壊を起こす可能性がある。日本の健康保険は国民皆保険であり、貧富の差に関係なく少ない負担で望む時に医療を受けることができる。非常に平等な制度だと言えるのではないだろうか。
休業要請を出した業種には
国が休業補償を行うべき
 日本は、感染者数の増加するペースは上がっているが、死者数はそれに連れて増えてはいない。理由は不明だが、BCGの接種によって感染者数、死者数が抑えられているという説もある。緊急事態宣言による行動変容で一旦は感染者が減っても、また感染者が増加する可能性は常にある。結局のところ、この新型コロナウイルスの騒動は、ワクチンと感染によって一定の割合の人々が抗体を持つようになり、集団免疫を持つようにならないと収束には向かわない。感染によって一定割合の方は亡くなるだろうし、ワクチンの副作用に悩まされる人も出てくるだろう。治療薬の研究も進み、新型インフルエンザ用に日本政府が大量に備蓄しているアビガンの効果が期待されているが、特に妊婦には副作用があるとされているので使用できない。薬の効果もそれぞれ異なり、また臨床試験が終わっていない薬も多い。それでも治療薬として認可されるものが出てくれば、多くの人の不安を払拭することができるだろう。
 集団免疫までにはまだまだ時間が必要なため、新型コロナウイルスに関する経済対策は非常に難しい。一回では無理で、段階に合わせて第五弾ぐらいまで考える必要があるのではないか。収束してからのことを重視する人は、経済的なダメージが大きい今回の緊急事態宣言は評価しないだろう。ヘリコプターマネーは一気に全員に行うのが最も効果的だ。条件付きの申告制だと、自分が該当するかどうかもわからない。今回も最初は無条件に一律十万円という方針が強かったが、どこかの段階でどんでん返しがあった。また緊急事態宣言で休業要請を出した業種には、ワンセットで休業補償を国が行うべきだ。中小企業に対しては、新型コロナウイルスによる業績悪化を条件に最大で二百万円を給付する制度がスタートしたが、コロナが原因ではない業績悪化企業も取りに来るだろう。モラルハザードが発生するのではないか。一方加工食品業界は今非常に活況を呈していて、アパ社長カレーも非常によく売れている。今は外出自粛でお金が使えないために全般的には内需が冷え込んでいる。収束ムードが漂っても、すぐには多くの人は消費を再開しないだろう。
国際的なM&Aを行うには
十分な調査が必要
 古いものに憧れを持つアメリカ人は建物も古いものが好きだ。一時期ニューヨークで流行したのは、一九〇〇年代初頭に建てられたホテルに、チェーンホテルのブランドを付けて、リニューアルオープンするケースだ。往時の姿を残しつつも、コンテンポラリーな造作を加えているのがポイント。例えば一九二九年に完成したニューヨーカーホテルは、ウィンダムホテルグループの傘下に入って、「ザ ニューヨーカー ア ウィンダム ホテル」になった。エンパイアステートビルやマジソン・スクエア・ガーデンにも近く、ケネディやモハメド・アリも使ったというホテルだ。しかしこのブランドホテルによるリニューアルブームも終焉を迎え、コンドミニアムとして売却されるホテルも出てきている。シカゴではアル・カポネが抗争で撃ち合いをした倉庫がレストランに改装されていて、映画で見る殺人現場のように死体があった場所にチョークで形が描かれていたりする。日本では耐震基準の関係もあって古い建物を取り壊してしまうことが多いが、アメリカでは外観はそのままに、内部を新しくしていく。ただ古いものを古いままリノベーションするので、隙間風が多い。これは例えば冬場は零下二〇度になるシカゴの場合には命に関わる。シカゴでは寒さや雪対策が必至だ。自動車で通勤する人が多いため、それに間に合うように夜中に除雪が行われる。一度除雪費用を削減した市長がいたが、それによって通勤できなかった市民から大クレームが発生、結局リコールされたという。生活を支えている予算を切ると日常が非日常に変わるという例だろう。
 一九九〇年代、日本企業はアメリカの会社を買いまくった。しかしその内実は杜撰そのものだった。アメリカの会計基準での資産価値が二十億円の会社を百二十億円とするなど、日系の銀行が企業価値の四〜五倍で顧客である日本企業に紹介、購入資金はその銀行が融資を行うという図式だ。まず社長同士を握手させることから始まる交渉は、最初から「買うことありき」。結局購入した企業は過大に計上したのれん代のため、いつまでも利益が出ないオペレーションを余儀なくされ、最終的には買値より大幅に安い価格で手放さなくてはならなくなる。慣れていない日本企業は、M&Aには当然必要なデューディリジェンス(調査活動)を十分に行わず、正しい価格への交渉もしていなかった。しかしこれはビジネスであり、相手の言い値の半値まで値切っても、たぶん企業価値の二倍はあるはず。これで手を打てば、売り手も買い手もハッピーな取引ができるはずだった。
松下幸之助氏が説いた
政治家への道は「辻説法」
 今では政治家予備校のように思われている松下政経塾だが、一九八〇年の開塾時に入塾した第一期生には当初政治家志望は少なかった。創立者の松下幸之助氏のモットーは、運命とは命を運ぶことであり、これが人間の最後を決める。風が吹いてちゃんと命を運んで貰えるよう、普段から船のマストを整え、デッキを清掃しなければならないと言っていた。また塾には松下氏が自らしたためた「大忍」「素直」「衆知」の額が飾られていた。松下氏が「本当は自民党の学校が作りたかった」と漏らしたことから、第二期生から松原仁氏等政治家志望者が増加。選挙資金を出してもらえないかと聞いた松原氏に対して松下氏は、漁師の息子から辻説法で宗派を開いた日蓮上人を例に上げ、自らの言葉で人を動かすことの重要性を説いた。これに深く頷いたのが第一期生の野田佳彦氏で、辻説法を実践、最後には首相の座まで上り詰めた。
 アパホテルでは昨年九月にオープンしたばかりのアパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉(二三一一室)を、新型コロナウイルス感染者の軽症者・無症状者の宿泊療養施設として一棟借り上げ方式により、四月二十日〜八月末日まで神奈川県に貸与する。アパホテルが軽症者・無症状者を受け入れる報道直後は風評被害での予約キャンセルも出たが、一方では多くの称賛の声も聞かれた。周辺にも配慮して、付近に民家の少ないこの〈横浜ベイタワー〉を貸し出すことにした。国は借りたホテルは借りる前より清潔にして返すと明言しており、そういう補償があって初めてできる決断だ。宿泊療養施設に向けてスタッフのトレーニングも行い、万全の体制で受け入れを行う。