日本を語るワインの会202

ワイン202代表邸で恒例「日本を語るワインの会」が行われました。シルクロードの時代から日本との関わりがあるウズベキスタン共和国の特命全権大使、ガイラト・ファジロフ氏、参議院で外交防衛委員長を務める参議院議員の北村経夫氏、日本歯科大学附属病院総合診療科教授の秋山仁志氏、産経新聞社で北村議員とかつて同僚だったフリージャーナリストの宮田修氏をお招きし、今世界を席巻する新型コロナウイルス禍や世界情勢について、議論を交わしました。
最大の経済対策は
人の流れを元に戻すこと
 代表はかねてより、本誌エッセイでホテル業界にとって最大のリスクはパンデミックと近隣で起こる戦争だと主張してきた。二〇〇二年のSARS、二〇一二年のMERS等、大体十年に一回大きな感染症の流行があり、それに伴って人の移動が大きく制限されてきた。地震等自然災害の場合は被害地域が特定されているが、感染症の場合は人の移動に伴ってどんどん拡大していく。そのために広範な地域で被害をもたらす大きなリスクとなる可能性が高い。今回の新型コロナウイルス騒動でまさにその通りであることが証明された。
 新型コロナウイルスのヨーロッパでの感染が激しくなってきた。イタリアでは二万人近い人が感染し、千人を超える人々が死亡している。近年イタリアは医療向けの予算を削減していたという話もあり、インフラが相当傷んでいるところに、ウイルス騒ぎで医療崩壊を起こしたのではないだろうか。またイタリアはヨーロッパでいち早く中国の一帯一路構想に賛同した国であり、中国との行き来が多いことも原因かもしれない。ロシアや北朝鮮に感染者が少なく、死者がいないというのも異様だ。中国もそうだが一党独裁政権は政府に都合の良い発表しかしていない。新型コロナウイルスは感染者の八割以上が軽症で風邪のようで、体を休めていれば一、二週間で回復するものであり、中には自覚症状が全くない人もいる。PCR検査で陽性となって入院したが、治って社会復帰している人も多い。全ての国民にPCR検査をするべきだと主張していた人も多くいたが、これをすれば感染者が激増して軽症の人も入院して重症となった人も入院できない医療崩壊が起こる。基本はインフルエンザや風邪と同じはずなのに、メディアから世間までが大騒ぎをして人の移動を止めたことと、人の集まりを控えたことで経済がすっかりおかしくなってしまっている。日本でも消費も生産も、完全に冷え込んでいて、瀕死状態の中小企業が続出してきている。政府にも迅速で大規模な経済対策が求められる。消費増税分に見合う程度の減税を、中小企業やサラリーマンに認めても良いのではないだろうか。経済対策として融資条件の緩和が提示されているが、経営の見通しが悪い時に借金を増やそうとする経営者はあまりいないだろう。最も効果のある経済対策は、早く収束して、人やモノの流れを以前と同じ形に戻すことだ。今は全てが停滞しているから、瀕死状態になってしまっている。三月中のどこかの段階で、人の動きを元に戻す宣言が求められるだろう。
東京オリンピックは
延期にするべきだ
 中国は一党独裁の社会主義国家らしく、自宅からの外出も禁じる強権的な移動制限を武漢市民に課し、新型コロナウイルスの封じ込めに成功したという。人口十四億人だから、さらに感染が拡大していたら大変なことになっていた。しかし民主主義国ではあそこまでの人権制限は難しいのではないだろうか。中国政府の対応も遅かった。武漢中心医院の眼科医、李文亮氏は二〇一九年十二月三十日にいち早くSNSにSARSに似た肺炎が発生したと投稿したが、公安当局に処罰された。中国政府は一月上旬まで新型コロナウイルスの発生を認めず、ゲノム情報も公開しなかった。もう一週間早ければ、今の世界の様相は変わっていただろう。
 最初はアメリカの新型コロナウイルス対策は万全と高を括っていたトランプ大統領だが、三月十三日に国家非常事態宣言を行い、最大で五兆円もの財政出動が可能な状態にした。その前日の十二日にトランプ大統領はヨーロッパからのアメリカへの外国人の入国を、三十日間停止すると発表した。一時期は日本もアメリカへの入国が制限されるという話もあったが、駐米の日本大使が頑張って、それは免れたという。トランプ大統領が最重要視しているのは、とにかく自身の再選のことであり、今後もその観点から新型コロナウイルス対策を行っていくだろう。十三日には安倍首相はトランプ大統領と電話会談をしており、アメリカとも緊密にコミュニケーションを取りながら、日本での対策を検討していると思われる。
 東京オリンピックがどうなるかは極めて不透明な状態だ。IOCのバッハ会長は開催かどうかの判断は、WHO(世界保健機関)の助言に従うと発言した。しかしWHOの判断にも不安がある。WHOのテドロス・アダノム事務局長は、莫大な投資によって強く中国の影響を受けているエチオピアで外務大臣を務めていた人物で、中国での新型コロナウイルスの感染拡大が明らかになった一月下旬に北京を訪問、習近平国家主席と会談してその対応を称賛している。三月上旬に中国政府はWHOに二十一億円を寄付することを表明する等、中国とWHOは異様に緊密な関係を維持している。東京オリンピックがどうなるかの選択肢は、実施か延期か中止の三つだ。一年延期の場合、問題となるのは放映権だろう。来年の夏には放映すべき様々なイベントがすでに控えており、延期は凄まじい混乱を引き起こすはず。そう考えると、戦争が理由だったが前例のある「中止」という選択肢の可能性が高くなる。二年後の北京冬季オリンピックとの兼ね合いもある。中止の場合の日本や世界の関係者・経済に与えるインパクトは大きい。なんとか三カ月程度の延期という方向にならないか、十月下旬になればさすがのコロナウイルスも対処する薬品やワクチンができて終息するであろう。ただオリンピックを中心にイベントのスケジュールが決まっている場合が多く、リスケにはかなりの困難が伴うと予想される。
人権侵害を止めたなら
習近平主席を国賓に
 皆制度の日本ではあり得ないことだが、貧富の差の激しい中国やアメリカでは所得が低い人は医療サービスを受けることができない。中国では人口十四億人の内八千万人がそこそこお金のある共産党員、本当の富裕層が一千万人ぐらいであり、それ以外の人々は貧乏だ。病院に行ってもまずお金の有無を問われるという。お金のない患者を治療した場合、医師がその料金を払う羽目になるからだ。皆保険制度のないアメリカでは病院に行かない人が多い。富裕層はアメリカ全体では四千万人ぐらいおり、公権力も彼らの味方だ。アメリカは好景気に伴って都市部の家賃が高騰、仕事はあるのに家賃が払えない人々は家を追い払われ、多くの人々がホームレスとなり車上生活者となっているという。
 二〇一七年、アパホテルの客室に置かれている代表の著作が南京大虐殺を否定しているという動画が中国で炎上、中国政府がアパホテルを名指しで批判し、以降中国本土からのアパホテルの予約はできなくなった。この時、代表は日本には言論の自由があること、この本の南京事件に関する記述に異論があるのなら、論拠を示して提示せよと反論したところ、何の回答もなかった。その後、中国側から何度か「手打ち」の打診があったが、代表は妥協せず、その全てを拒絶して筋を通した。毎年十二月に南京大虐殺記念館では大規模な追悼式典が行われているが、この二〇一七年は、習近平主席は出席したが演説を行わず、翌年からは出席すらしていない。代表が貫いたスタンスが中国にボディブローのように効いていて、すでに中国は日本批判に南京大虐殺歴史カードが使えなくなっている。
 中国がウルムチ等の新疆ウイグル自治区で多くの人をいきなり拉致、家族が生死もわからない状態で、百万人とも二百万人とも言われる人々を収容所に収監している。以前から宗教団体「法輪功」の信者を収容所送りにして、彼らから摘出した臓器が売買されているという報道が多数行われていたが、この新疆ウイグル自治区の収容所でも同様の臓器ビジネスが行われているという告発がある。中国はやはり相当問題の多い国であり、この四月に予定されていた国賓としての習近平主席来日が延期になったのは良かった。もし来賓として訪日したいのであれば、中国は新疆ウイグル自治区や「法輪功」の信者などに対する不法な拉致監禁を即刻止めるべきだ。
千年以上に及ぶ日本と
ウズベキスタンとの繋がり
 ウズベキスタンと日本との繋がりは古い。奈良時代の八世紀に作られた正倉院には、シルクロードを通ってウズベキスタンから持ち込まれた宝物が多数所蔵されている。仏教も同じルートでウズベキスタンから日本にもたらされたものだ。人類学者の加藤九祚氏は約三十年間、ウズベキスタンの発掘調査を続け、日本とウズベキスタンとの関係を立証している。もう一つ有名な関係は、先の大戦後シベリアに抑留された日本人の一部がウズベキスタンに移され、首都のタシュケントにナヴォイ劇場を建設、この劇場が一九六六年の大地震にも耐え、今でも残っていることだ。日本の抑留者でシベリアに残った人の六〇%が、カザフスタンに移った人の三〇%が亡くなっているが、ウズベキスタンでは三%の人しか亡くなっていない。気候条件もあるが、メンタリティや価値観等、日本人とウズベキスタン人に共通点が多いこともその理由だろう。亡くなられた約八百人はタシュケントの墓地に埋葬されている。
 ファジロフ大使は中目黒大使公邸に住んでいる。これは東京ガスが大家となっている四階建ての集合住宅で、十カ国の大使が住んでおり、一階にはパーティーができるスペースも設けられている。日本は外交官にとって非常に働きやすい。外交官に対して人々がきちんと尊敬の念を持っており、丁寧な対応を行うからだ。大使の仕事として、母国と日本の間の様々な問題の解決を求められるが、日本では糸口が見つからないことはなく、必ずなんらかの解決策がある。この辺りの感覚は、ヨーロッパの国とはかなり異なる。
 十三世紀にチンギス・ハーンによって築かれたモンゴル帝国だが、なぜアジアの小国があの大きな領域を統治することが可能だったのか。狼煙という通信手段を持つことで、情報をいち早く手に入れることができたこと、東西を大帝国として繋いだことで、交易を盛んにすることができたこと、占領した国の法律を一切変えず統治体制を維持したことが挙げられる。各地に配置した駐屯兵の数も少なかった。これを侮り、モンゴルの駐屯兵を排除すると、狼煙により一気に本国に連絡がいき、大軍によってその国が全滅するまで報復を行った。このことが大版図を維持できた最大の理由だとされている。