Essay

拡大する中国の脅威に日本は備えるべきだVol.331[2020年4月号]

藤 誠志

日本の国会も
中国の人権弾圧を非難せよ

 雑誌「正論」三月号に、私が主宰する勝兵塾の関西支部長である長尾敬衆議院議員が、「習近平『国賓』で加害者になってはいけない」という一文を寄稿している。「私は現状での習氏の国賓来日には反対である」「各国は中国にだまされ続けてきた。最高実力者だった鄧小平の改革・開放路線、つまり市場原理に基づく社会主義経済の確立を世界に発信し、中国は二〇〇一年に世界貿易機関(WTO)に加盟し資本の自由化や外資規制の撤廃を約束した。だが、約束はほごにされた。前国家主席の胡錦濤は常にアメリカとは協調路線で友好という仮面を被りながらソフト外交を行い、日本も米国も中国に技術のみならず、大切なマーケットも提供した。そして中国は香港を窓口に物質主導で貿易黒字を稼ぎ世界を驚かせた。日米の方針の背景には『いずれ中国は民主化する』という考えがあったのだろうが、中国共産党が独裁体制を捨て民主主義国家になるなど幻想に過ぎない」「中国外交は『謀略外交』とわきまえる必要がある。中国の唯一無二の思想といえば、いわずもがな『大中華思想』であり、中国には『二人で井戸をのぞくな』という諺があるほどだ。自分がのぞいている隙に相棒に突き落とされるという極度の人間不信を表したものである。違いがある中でもお互いの存在を好意的に認め、対等な立場で前向きな関係を築いて『共に繁栄しようではないか』という考えは中国には通用しない。中国こそが繁栄しなければならない、これが絶対真理なのだ」「私は昨年六月以来、繰り返される尖閣諸島への領海侵入、邦人拘束事案などが解決され、チベット、ウイグル、南モンゴルへの深刻な人権弾圧が改善されぬ限り、習氏の国賓としての来日には断固反対してきた。自由や人権は人類の普遍的な価値であり、それを踏みにじることは、いかなる政府にも許されないはずだ。世界は中国による基本的人権の制限、宗教的自由の否定や、民族アイデンティティーや言語への弾圧など状況悪化に深刻な懸念を抱いている」「昨年は、一九一九年に日本が初めて国際会議(パリ講和会議)で人種差別撤廃を提案してから百年の年だった。決議案は否決はされたが、世界が人権意識にまだまだ疎かった時代に日本はどの国よりも人権について重く受け止めていたのだ。あれから一世紀。米議会では『ウイグル人権法案』が可決された。『ならば日本の国会においても、中国の人権弾圧に対する非難決議を採択しよう!』…とならないことにへどが出る思いだ」「血塗られた習氏の手で天皇陛下と握手などさせてはならない」という主張に、私も大賛成だ。

母国への投資で中国に
忖度をするWHO事務局長

 今、世界的に最も大きな話題は、中国・武漢から広がった新型コロナウイルスによる感染症だ。新種のコロナウイルスによる感染の拡大は、二〇〇二〜二〇〇三年に広がったSARS(サーズ)によるものが最初だ。このSARSは中国南部の広東州を中心に広がったが、動物起源の人獣共通感染症で、呼吸器感染症であることは今回の新型コロナウイルスと変わらなかった。二月五日付の読売新聞朝刊の一面トップには、「WHO中国へ調査班」「パンデミックは否定」という見出しが躍っていた。「世界保健機関(WHO)は四日、新型コロナウイルスによる肺炎への対策を検討するため、専門家らによる調査チームを中国に派遣すると明らかにした。一月三〇日に『国際的な公衆衛生上の緊急事態』を宣言したWHOは、感染力が強まっているとされるウイルスの実態解明などにあたる方針だ」「WHOで世界的な感染症への対策を統括するシルビー・ブリアン氏は四日、ジュネーブで記者会見し、新型コロナウイルスについて『パンデミック(感染症の世界的な大流行)ではない』と否定した。また、ウイルスについて、『現時点で変異の証拠は把握していない。比較的安定したウイルスだ』と語った」「中国外務省の華春瑩報道局長は四日、SNSを使った記者会見で、WHOの三日付の報告を引用し、中国外での感染状況は『中国の一%にも達しない』と強調した。その上で、中国からの入国禁止措置を取る米国などを『WHOの主張に背く』と改めて批判した」「しかし、四日にはベルギーで初めて感染者が確認されるなど、中国本土以外の感染者は二七か国・地域に広がる。香港では一人の死亡が確認され、本土以外で二例目の死者となった」「中国共産党機関紙・人民日報(電子版)の四日午後十一時(日本時間五日午前〇時)時点の集計によると、中国本土の感染者は二万四九〇人、死者は四二五人となっている。中国の国家衛生健康委員会は四日の記者会見で、三日時点の中国本土での致死率は二・一%で、感染の中心となっている湖北省武漢市に限れば四・九%に達すると明らかにした」という。今のWHOの事務局長のテドロス・アダノム氏は、二〇一二〜二〇一六年に母国エチオピアの外務大臣を務めた人物であり、そのエチオピアは巨額のインフラ投資を受ける等で、アフリカ諸国の中で最も中国に近いと言われる国だ。一月末に習近平主席と会談したテドロス氏は、中国の新型コロナウイルスの対応を称賛したが、結局中国はウイルスの武漢封じ込めに失敗した。WHOの緊急事態宣言も一月三十日とかなり遅れ、これが世界的な感染拡大の原因となったという見方もある。今回のWHOの対応はあまりにも中国に忖度しすぎているとの批判が上がるのも当然だろう。

中国の監視システムから
貧困層が抜け落ちている

 二月四日付のニューズウイークにも「新型肺炎の最大の犠牲者は貧困層だ」という記事が掲載されている。「武漢で発生したとみられる新型コロナウイルスの感染者が急増しているのを受け、同市は二三日から交通機関の運行を停止。主要道路も封鎖され、帰省や旅行を予定していた千百万人の住民の多くは足止めを食らうことになった」「中国の貧困層は適切な医療を受けにくい状況にある。だが新型コロナウイルスに接触した可能性が最も高く、それが最も急速に拡散する可能性が高いのは貧困層であり、政府が突然打ち出した過激な対策の最大の影響を被るのも、中国の貧困層だ」「問題のウイルスは、武漢の海鮮市場で、動物からヒトに感染したとみられている。海鮮市場とは言うものの、この市場はオオカミの子からヘビ、コウモリ(今回の感染源とみられている)など珍しい野生動物を幅広く扱っていた」「中国の生鮮市場はどこもそうであるように、動物を扱う不潔で危険な仕事を担っていたのは、主に出稼ぎの単純労働者だ」「武昌と漢陽、そして漢口という歴史ある三つの地区が合わさった武漢は、二〇世紀末に不動産開発を軸に急成長を遂げた。だが、武漢の医療システムは街の急速な成長に追い付いておらず、今回の危機で既に極限状態にある」「二三日に武漢の交通機関がストップしたとき、出稼ぎ労働者や地方出身の大学生の多くは、既に故郷に向けて出発した後だった。こうした人たちによるコロナウイルスの『持ち帰り』が危惧されるなか、各地の公衆衛生当局にとって、最新情報の収集は最重要課題となっている」「ところが現実には、武漢の近隣都市で感染者が確認されたニュースよりも、韓国やタイで感染者が見つかったニュースのほうがずっと早く報じられているのが現実だ」「国外で感染が確認された中国人旅行者は、平均的な中国人よりはるかに金持ちだ。それは外国旅行に行くだけの経済力がある時点で明白だ。中国のパスポート保有者は人口の一〇%にも満たない」「バンコク行きの飛行機のエコノミークラスで咳をしている中国人客は、相乗りトラックに揺られて町外れの実家を目指す労働者や、長距離バスで遠い地方の故郷に帰省する労働者よりも、はるかに新型肺炎に感染している可能性を認識しやすい」「それに多くの出稼ぎ労働者は、少しばかり体調が悪くても、誰もが仕事を休むこの時期に帰省するチャンスを逃したくないと思うだろう」「中国は監視社会だが、その網は穴だらけだ。テクノロジーによるプロファイリングシステムで中流階級はかなり可視化されているが、貧困層は抜け落ちている」という。これらの貧困層の正確なデータが取れるようになれば、感染者数は数百万人と飛躍的に増大するのではないだろうか。

新型肺炎 武漢の国立病源体研究
機関から流出したウイルスが
発生源説 米メディアが発表

 ウェブメディア「JBpress」二〇二〇年一月二九日付の記事「新型肺炎、米メディアが報じた『研究所が発生源』説 武漢の病源体研究機関からウイルスが流出?」と題した記事では、以下の通り報じられている。「中国から全世界へと感染が広がる新型コロナウイルスの発生源は、中国湖北省武漢市にある国立の病源体研究機関かもしれない──米国メディアがそんな可能性を報じた。報道では、その研究所が中国人民解放軍の細菌兵器開発に関わっているとの疑惑も呈している」「この可能性を報じたのは、米国の戦略動向や米中の軍事動向に詳しいベテランジャーナリストのビル・ガーツ記者である。記事は、米紙ワシントン・タイムズ(一月二四日付)に大きく掲載された」「ガーツ氏はこの記事で、『ウイルスに襲われた武漢には中国の生物戦争計画に関わる二つの実験所がある』と指摘し、武漢市で発生した新型ウイルスの肺炎が同市内に存在する『武漢国家生物安全実験室』から漏れたウイルスが原因である可能性がある、と記していた。」「武漢国家生物安全実験室は二〇一五年に建設が開始され、二〇一七年に完成した毒性の強いウイルスの研究機関である。これまでエボラ出血熱やニパウイルス感染症などのウイルス研究にあたってきたという」「ガーツ氏の記事によると、同実験室は中国当局が今回の新型コロナウイルスを最初に発見したとする海鮮市場から三〇キロほどの距離にある」
 また、ウェブ版「大紀元時報日本」の二〇二〇年二月六日付の記事「〈新型肺炎〉実験済の動物をペットに 武漢P四ラボのずさんな管理を指摘する声」には以下の通り記載がある。「中国オンラインゲーム開発会社、多益網絡股份有限公司の徐波・会長はこのほど、SNS上で武漢市のP四実験室が新型肺炎の『源』だと批判した」「米科学誌『サイエンス』一月二六日の論文によると、最初の感染者は武漢市内の海鮮市場に立ち寄ったことがないという。中国当局は同市場が発生源だと発表している」「徐会長は二月四日、中国版ツイッターの微博に投稿し、自身が実名で『証拠を提供した上で、中国科学院武漢ウイルス研究所(以下は武漢ウイルス研究所)を告発する』とのコメントを書き込んだ。同研究所は、P四実験室である中国科学院武漢国家生物安全実験室を管轄している」
 「徐波氏は投稿で、武漢ウイルス研究所は実験用動物の管理がずさんで、ウイルスを持つ動物が市場に出回ったことが新型肺炎の感染拡大につながったと推測した」「同氏は、中国の生物学者・李寧が実験用動物を不正に販売した事件の報道を付け加えた」「中国メディアの報道によると、今年一月二日、吉林省松原市中級法院(地裁)は李に対して、『横領罪』の有罪判決を下し、一二年の有期懲役を言い渡した。同裁判は五年かかったという」「判決文では、二〇〇八年七月~二〇一二年二月まで、李寧は研究プロジェクトを通して、勤務先の中国農業大学から研究費補助金を得て、実験に使う牛や豚を購入した。その後、李は実験を終えた豚や牛、その牛から搾取した牛乳を養豚場などの業者に売却し、収益一〇〇〇万元(約一億五七六四万円)余りを着服した。中国農業大学の経費管理規定では、資金を大学側に返金する必要があった。また、李は嘘の領収書などを提出して、大学側から二七〇〇万元(約四億二五六四万円)の研究費を騙し取ったという」「しかし、判決文は業者に売られた実験用動物がどのような実験に使われたのか、実験終了後になぜ殺処分を行わなかったのか、また、業者に渡った後の用途については言及しなかった」
 「ネットユーザーの『武小華博士』もこのほど、SNS微信(ウィーチャット)に投稿し、『実験室の管理が非常に粗雑だ』と指摘した。『実験用動物、例えば犬をペットとして転売している。医療廃棄物の火葬処分は経費が高くなるから、動物の死体をいい加減に処分する。さらに、野生動物として売ったりすることもある。SPF鶏の卵をゆでて食べる研究員も、実験用の豚を殺して食べる研究員もいる』という」
 新型コロナウイルスは、中国によるABC兵器(Atomic, Biological, Chemical Weapon: 大量破壊兵器)の一つ(生物兵器)が流出したものであると考えられる。
 これらは、江沢民、胡錦涛の五年二期十年の党則を外して習近平帝国を築こうとしている習近平による一党独裁体制に対する警告ではないだろうか。武漢から始まった原因不明の肺炎を、二〇十九年十二月に新型肺炎であると注意喚起を最初に行った地元の眼科医李文亮医師が、当局に「デマを飛ばした」として処罰され、その後に肺炎で亡くなったことは、何かを暗示している可能性が高い。党のもとに軍があり、国があり、法律がある共産党一党独裁体制に対する警告だと言えよう。
 新型コロナウイルスの流行によって、日本をはじめとする近隣諸国でも多くの人の命が危険にさらされ、世界経済も大きく影響を受けている。日本に敵対的で膨張し続ける中国に対峙できる真っ当な独立国家となるためにも、日本は憲法改正により自衛隊を正式な軍隊とし、東アジアのバランスオブパワーを保つことで、平和を守らなければいけない。

信憑性の低い中国の数字
独自の情報網で対応を

 ネット記事によれば、新型コロナウイルスは、感染力は強いが、日本で昨年、インフルエンザで亡くなった人数三千人余りと比べれば、これまで死亡者が一人と、致死率は高くはない。ほとんどの感染者は、イギリス船籍でアメリカが運航しているダイヤモンドプリンセス号での感染者で、横浜に寄港を認めてあげていただけで、日本での感染者数に含めて報道しているが、クルーズ客を日本での感染者数に含めるべきではない。新型肺炎での感染者数が多くないにも拘わらず、これによる各国での風評被害は半端ではない。
 コロナウイルスは暑さや湿気に弱く、寒くて乾燥しているときには猛威を振るっているが、五月ごろになれば暖かくなり、湿度も上がり、自然に鎮静化すると見られている。
 気を付けなければならないのは、中国が発表する感染者数や死者数の数字だ。武漢からチャーター便で帰国した日本人は第四便までで七百六十三人に及び、その内感染が確認されたのは九人で、感染率は約一・一八%だ。この感染率で考えると、人口約一千百万人の武漢には約十三万人の感染者がいることになるのだが、武漢のある湖北省の衛生当局が二月九日に出した数字では、武漢の感染者は約一万五千人とかなり少なくなっている。これを見ても、中国が公式に発表している数字の信憑性はかなり低く、発表している五倍から十倍の人が感染していると見なければいけない。日本は中国の実態がどうなっているのかを自らの情報網を駆使して調べ、対応を決めて行かなければならない。
 長尾敬氏が指摘するように、中国外交は謀略外交であり、その経済力を使って多くのアフリカ諸国に巨額の投資を行い、それらの国々の政治を左右している。WHO事務局長のテドロス・アダノム氏のケースのように母国への経済支援から、中国の影響を強く受ける国際機関も出てきている。
 中国は今や、経済力や軍事力だけではなく、ウイルスの大流行や国際政治への影響力という脅威を持つ隣国となってきている。国の引っ越しなどできない以上、日本はこの中国の脅威に様々な方面から備えていかなければならない。

2020年2月19日(水) 10時00分校了