Essay

平和のための日本の役割は大きいVol.329[2020年2月号]

藤 誠志

NATO首脳会談で
初めて中国対策が議題に

 十二月五日付の日本経済新聞の総合面に「NATO、米欧溝深く 首脳会議閉幕 『中国の台頭に対応』」という見出しの記事が掲載されていた。「創設七〇年を記念する北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が四日、閉幕した。宇宙空間での防衛強化とともに、中国の脅威に対応する必要があるとの認識で一致した。ただ米国が欧州勢に軍事費の増額を求めるなど米欧間には対立が残る。NATOの安全保障の枠組みが揺らげば、中ロを利することになりかねない」「首脳会議は四日に『ロンドン宣言』を発表した。会議で中国を本格的に取り上げるのは初めて。宣言では中国が欧州のインフラに投資している状況などを踏まえ、『同盟として共同で取り組む必要がある』と明記した。宇宙空間を陸海空やサイバー空間に続く『作戦領域』と位置づけて、人工衛星に対するサイバー攻撃などに共同で対処する方針も打ち出した」「閉幕後に会見したNATOのストルテンベルグ事務総長は『中国に武器管理の枠組みへの参加を促す方法を見つけなければならない』と語った」「表向きは結束を演出するNATOだが、米欧には対立点が残る。『とても興味深い質問だ』。トランプ米大統領は三日、軍事費が国内総生産(GDP)の二%に満たない加盟国に対する防衛義務を米国が負うかを問われてこう語った」「NATOは軍事費を二〇二四年までにGDP比二%超にする目標を掲げる。トランプ氏はドイツなど未達の国を『不公平だ』と批判し、義務履行を明言しなかった」とその記事は報じている。
 この首脳会議では自国第一主義を唱えるトランプ大統領と他の首脳との対立点がいくつも明確になった。軍事費の負担については「米国が軍事費をGDPの二%に引き上げるべきだと強硬に主張」、共同防衛は「トランプ氏が絶対視しない姿勢を示唆」、ロシア政策は「INF廃棄条約失効後の対応が欧州安保の最重要課題に」、シリア政策は「トルコによるシリア軍事攻撃を主に欧州勢が批判」となった。特に前の二項は、自分の国は自分で守るべきだというトランプ大統領のスタンスを明確に示すものだ。また中国を俎上に載せたのは、アメリカがこの先一番の紛争の危機はアジアにあり、それは膨張する中国をどう押し留めるかにかかっていると考えていることの表れだ。

防衛費の増額と
核抑止力の保有が必要だ

 中国は一九四九年の建国以来、陸で国境を接する国とは全て一戦を交え、その国境を確定させてきた。さらに今、太平洋での海洋覇権を求めて、南シナ海の岩礁を埋め立てて軍事基地化を行い、領海を可能な限り拡大する戦略を取っている。台湾併合の意欲も依然として強い。今は香港の民主化デモへの対処に苦慮している中国だが、香港の安定に成功すれば、次は本格的に台湾へ触手を伸ばすだろう。さらにその動きは尖閣諸島、沖縄へと続くはずだ。これを考えれば、現在GDPの一%とされている日本の防衛予算を二%にまでアップすべきだという声が高まるのは、当然のことだろう。
 しかし日米安保があるから、いざとなればアメリカが守ってくれる、または平和憲法があるから、日本が他国から攻められることはないと、日本の多くの人々やメディアは楽観視している。国会でも、延々と「桜を見る会」疑惑を追求する愚かな議論が続いていた。そんなことをしている場合ではない。ひたひたと日本にその勢力を広げようとする中国に対して日本がどう対応するかが、今問われているのだ。今回のNATOの首脳会談でのトランプ大統領のスタンスが対ヨーロッパ諸国に対してだけだと考えるのは誤りであり、むしろこれよりも強い圧力を日本に向けてくるだろう。アメリカ軍の日本駐留経費の増額を求める声は既に出ており、現状の四倍をアメリカ政府高官が要求したという報道もなされている。日本自体の防衛費の増額も、トランプ大統領は必ず求めてくるはずだ。
 またロシアに中国、そして北朝鮮と、日本は核保有国にすっかり包囲されている。アメリカが二〇一九年八月にINF(中距離核戦力)廃棄条約から離脱したのは、この条約に囚われない中国が中距離弾道ミサイルの配備を急ピッチで進めている以上、ロシアとの条約に拘泥し中国への対抗手段を持たないのは危険だと判断したからだ。アメリカの中国への警戒が厳しくなっていることは、今回のNATO首脳会談でもさらに明確になった。このような情勢の中、日本が核抑止力を一切持たないというのは、非常に危険なことだ。まず、アメリカ軍に頼らず安全保障を確保するために、憲法を改正して国軍を保有できるようにしなければならない。さらに、非核三原則を撤廃し、NATO四カ国がヨーロッパでの核バランス維持のためにアメリカと結んでいるニュークリア・シェアリング協定を日本もアメリカと結んで、東アジアの核バランスを安定化させる。日本の国民と領土を守るため、改憲とニュークリア・シェアリング協定締結の実行は、もう待ったなしの状況だ。ここで憲法改正をしなければならないタイミングなのにも拘らず、国会議員の反応が鈍い。自民党の国会議員でも時期尚早だとまともに取り上げようとしていない人がいる。しかし本当に「時期尚早」なのか。今の東アジアの状況は日本にとって大いなる脅威であり、一日も早く力の均衡に基づく平和を実現しなければならない。

減速する中国経済に怯まず
公共投資の拡大を

 日米安保条約があるからといって、安心しているようなことは許されない。条約は破棄するために締結するものであり、歴史を振り返っても、自国の利益にならない条約が簡単に破られてきた例は、枚挙に暇がない。またアメリカは民主主義国家だ。条約で定められていたとしても、他国の防衛のために自国の兵士の血を流すことは、世論が認めない限り実行できない。それが日米安保条約のような片務条約であればなおさらだろう。正論を語るのであれば、日本は自分の国は自分で守る体制を築かなければならない。そして、「アメリカが攻撃されても日本はソニーのテレビで観ているだけだ」とトランプ大統領に言われないように、日米安保をかつての日英同盟のような双務条約にして、今よりも互いに緊密な連携がとれるようにして、中国の覇権主義に歯止めをかけなければならない。そうしなければいずれ日本は中国の「日本自治区」になってしまうだろう。そういう危機感を全く感じない国会やメディアが歯がゆくてならない。
 今や世界はアメリカのトランプ大統領が自国第一主義を掲げ、フランスのマクロン大統領はメルケル独首相と共に米国と一線を画し、独仏連携で「ロシアを孤立させれば中国との接近に追いやる」だけだとロシアの中国接近に警戒し、ロシアのプーチン大統領とウクライナ問題に対処している。
 十二月五日付の日本経済新聞には「中国、地方で『取りつけ』」という記事も掲載されている。「中国で地域金融機関の預金取りつけ騒動が起きている。一〇月末に河南伊川農村商業銀行、一一月上旬には遼寧省の営口沿海銀行で大量の預金が引き出された。包商銀行が実質国有化されたことを契機に、インターネットを中心に広がる経営不安の噂やデマに高齢者らが過剰に反応している。景気が減速していることもあり、地域金融へ不安が広がりやすくなってきた」という。中央政府が地方債を発行して莫大な借金を背負い、この金を地方のインフラ整備に注ぎ込むことによって拡大してきた中国経済だが、限界が見え始めている。この破綻の兆しを人々が敏感に感じ取って、取りつけ騒動となっているのだろう。さらに今、アメリカとの経済戦争に直面している中国経済の先行きは厳しく、その余波は日本にまで及んでいる。ただ日本はこれに怯んで公共事業への投資の手を緩めてはならない。日本には国家予算で行わなければならない事業が山積しているのだ。
 まずは防衛費の増額だろう。NATO並にGDPの二%になれば、現在の約五兆円が十兆円となり、プラス五兆円分の需要が創出される、これを攻撃用の国産兵器の開発と、配備に充てる。更に必要なのは災害対策としてのインフラ投資だろう。ここ数年、日本では地震や台風、大雨による自然災害が頻発しているが、従来とは全く異なる規模で襲ってくる災害に対してインフラ整備が全く間に合っていないからだ。政府は当面プライマリーバランスの黒字化を棚上げにし、今の超異常低金利を利用して大量に建設国債を発行して多くの公共事業を実施し、それによって需要を創造して景気を刺激、好景気に導くことで国債の償還を行う方向を目指すべきだ。

憲法を改正して国軍を持ち
日米安保を双務条約に

 トランプ大統領はNATO加盟国に対して「国防費支出のGDP比を二%に引き上げる」ことを要求しているが、これを達成しているのは現在NATO加盟国二十九カ国の内九カ国だけだ。ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツは二%にはまだかなり遠く、今回の首脳会談でもトランプ大統領の批判の的となっていた。それでもドイツの防衛費は日本円で五兆三千億円を超えており、さらに増額する計画も立てられている。ドイツの防衛費とほぼ同額の日本に対しても、対NATO同様にトランプ大統領は批判を強めるようになるだろう。これに応え、日米の関係を対等なものにするためにも、日本は憲法改正を急がなければならない。今自民党が進めている、自衛隊を憲法に明記する改正が成立したとしても、自衛隊は警察権の範疇でしか活動できず、真っ当な軍隊とは呼べない。二回目の改憲を行って国軍を創設して独立自衛の体制がとれるよう、憲法第九条第二項の削除を行わなければならない。そうなると、今の二〇二一年までの安倍首相の任期では時間が足りない。自民党の党則を再度改正して総裁の四選を可能にし、安倍首相が二〇二四年まで在任できるようにするべきだろう。トランプ大統領はかなりの確率で再選される。そうなれば、日米両首脳の任期はともに二〇二四年と後五年の時間ができる。五年の間に二回の憲法改正を行って、日本を真っ当な国にするのだ。先の大戦から七十五年、サンフランシスコ講和条約によって日本が独立を取り戻してから六十八年、一刻も早くGHQに押し付けられた憲法を独立国家に相応しいものに変えるべきだったのに、改憲することができなかった。トランプ大統領が不公平感をあらわにし、日本が攻撃を受けてもアメリカは何もしないぞと威嚇してくることは、日本にとってのチャンスだ。この機会に、日米安保条約を双務条約に変えるべく、まずは憲法改正を急がなければならない。

2019年12月12日(木) 18時00分校了