抗議運動は収まらない
久九月五日の朝刊各紙の一面は、どこも香港政府が「逃亡犯条例」の改正案を撤回したニュースだった。中でも産経新聞は、一面トップに「逃亡犯条例 香港 改正案を撤回」という見出しを立てている。香港政府が二〇一九年四月に議会に提出した「逃亡犯条例」改正案とは、「香港が犯罪人引き渡し協定を締結していない中国本土や台湾などの要請に基づき、容疑者の引き渡しを可能とする内容。香港政府は『政治犯』を対象に含まないとしているが、香港市民が実質的に中国の法律による取り締まりを受けることになる恐れが指摘される。一九九七年の中国返還後も香港の高度な自治を五〇年間認めた『一国二制度』が崩壊するとの懸念が強まり、香港市民による反対運動が激化している。」と産経新聞は解説する。反対運動はどんどん拡大して、参加者百万〜二百万人のデモにまで発展。人口が約七百四十万人の香港でのこの参加者数は、香港人の痛切な危機感の表れだ。改正案の審議の延期を表明しても一向に収束しない抗議活動にとうとう堪りかね、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は九月四日、テレビ演説でこの条例の正式な撤回を表明した。しかしデモ参加者は納得していない。彼らは五大要求として、今回認められた「逃亡犯条例」改正案の完全撤回の他、
・ デモ「騒動」認定の取り消し
・ 警察の暴力に関する独立調査委員会の設置
・ デモ参加者の釈放
・ 普通選挙の実現
を掲げているからだ。これらについて林鄭氏は、「独立調査委員会の設置については改めて拒否。既存の監察組織に海外の専門家を招くなどして対応すると主張した。逮捕されたデモ参加者の釈放要求も、法治に反するとして退けた。」それに対し「二〇一四年の大規模デモ『雨傘運動』をリードした学生団体の幹部だった周庭氏は四日、林鄭氏が条例改正案の完全撤回を表明したことについて『遅すぎた』とツイッターに投稿。その上で『これからも戦い続ける』との考えを表明した。」という。
ニューズウイークの二〇一九年九月十日号には、「民主派リーダー逮捕でもデモは終わらない」というタイトルの記事が掲載されている。「八月三十日、香港当局はデモ隊への攻勢を一段と強めた。翌三一日に大規模なデモが予告されるなか、警察が著名な民主活動家を相次いで逮捕したのだ。」「逮捕された中には一四年に起きた大規模な民主化運動『雨傘革命』を主導した黄之鋒と周庭も含まれていた。二人には『当局が許可していない集会』を煽動した容疑などが掛けられている。」「民主活動家たちによれば、この日に逮捕が行われたのは偶然ではない。翌三一日は、中国の全国人民代表大会常務委員会が、一七年に行われた香港行政長官選挙の方針を決めてから五周年に当たる日だ。」「この時中国指導部は、行政長官(香港政府のトップ)を直接選挙で選ぶものとしつつ、親中派以外の立候補を事実上認めない措置を決定した。それに対する反発がこの年の雨傘革命につながった。」「今回、警察は雨傘革命のリーダーたちを標的にしているが、この夏の抗議活動はリーダーなき運動という性格が強い。そうした自然発生的な運動という性格を考えると、警察が著名な活動家を逮捕しても抗議活動は終わらないだろう。」としている。
太平洋の二分割支配
中国の習近平主席は江沢民や胡錦濤ら、歴代の主席が守ってきた二期十年の任期を撤廃し、中国の習近平帝国化を図っている。同時に日本の海上輸送にとって重要なシーレーン上で、岩礁を埋め立てて軍事基地を建設する等、膨張政策を展開している。これらの結果、台湾が香港のように一国二制度の条件の下で中国に併合されることになれば、日本にも大きな影響がある。日本のメディアはある程度はこの香港の抗議活動を報道しているが、日本の世論は香港の問題だとして、他人事の感覚だ。しかしそれは間違っている。二〇〇七年五月に訪中したキーティング米太平洋軍司令官に対して中国軍幹部が、「中国海軍が空母を開発した暁には、太平洋のハワイから東をアメリカが、西を中国がとることで合意できないか?」と冗談めかして提案してきたというのだ。二〇〇八年三月の上院軍事委員会でこの提案について証言したキーティング氏は、「冗談とはいえ、中国軍の戦略的考え方を示唆している。」と述べたという。二〇一六年のアメリカ大統領選挙で、もし親中派である民主党のヒラリー・クリントン氏が大統領になっていたら、この中国のプランに一歩近づくことになっただろう。しかし、私が選挙戦中に予想した通り、トランプ氏が大統領に当選、これは日本にとっては吉報だった。
国民を監視する中国
そもそも九十九年間の租借を経て一九九七年にイギリスから中国に返還された香港は、特別行政区として一国二制度が適用され、二〇四七年まで五十年間は社会主義政策が行われず、高度な自治が保障される条件で返還されたもので、イギリスや香港の人々は、五十年もあれば中国が民主的な国に変わると考えて、この条件を了承したのである。しかし、香港が中国に引き渡されて二十二年、中国の共産党一党独裁体制は崩壊するどころか、十数億人もの超低賃金労働者を原動力にした巨大な経済力を後ろ盾にどんどん強化されている。さらに中国政府は、最新のIT(情報技術)の進歩によって、キャッシュレス決済のデータから得られる国民の生活や行動などの個人情報を詳細に掴み、全国に一億七千六百万台あると言われる防犯カメラと顔認証システムとの組み合わせで、国民を監視している。新疆ウイグル自治区でもこのシステムを使って、人々がどこへ行って、誰と会っているかを監視、理由や期限を伝えずにいきなり人々を拘束、収容所送りにしている。
人工衛星からの映像によると、収容施設はどんどん増えており、拘束されている人々は百万人から二百万人に及ぶと言われている。これを見ても中国が法治国家ではないことは明らかである。五十年間の一国二制度の約束を破って、中国が香港を強制的に支配下に置くことも、十分あり得るシナリオである。
五十九年のチベット動乱や六十年から七十年代の文化大革命、八十九年の天安門事件、九十九年の法輪功弾圧、二〇〇九年のウルムチ騒乱から今日に至るウイグル人に対する弾圧・拘留等、自国民を武力で押さえつけてきたことを見れば、香港の次は台湾、その次は日本の番と続く恐れがある。
デモに屈した香港政府が普通選挙の実施を認めた場合、その波が中国本土に広がるのを食い止めるために、中国政府はそれを認めないだろう。また香港では九月十一日に、関係各国の政府関係者や企業経営者が集まる「一帯一路」香港サミット二〇一九が開催されたが、十月には北京で建国七十周年記念軍事パレードが行われる。習近平主席は九月には間に合わなかったにせよ、十月の軍事パレードまでには香港のデモを収束させたいと考え、本土の武装警察を使った大規模な市民弾圧を行う可能性が高い。自国民を一万人も虐殺して鎮圧した天安門事件のようにならないよう、中国政府による弾圧を防ぐことができるのは、国際世論しかないだろう。トランプ大統領も警告しているが、日本も、人民解放軍が武装警察を使って香港の抗議活動に対して、暴力による弾圧をしないよう、あらゆる手段を使って警告すべきだ。
今の中国の体制は、十四億人の国民を、八千万人の共産党員の中のさらに三千万人程度の特権階級が支配するというものだ。ごく少数の特権階級の人々が贅沢三昧で日本など海外へも自由に旅行している一方、残りの十三億数千万人の人々は貧困に苦しみ、海外に行く自由もない。今でもまだ新疆ウイグル自治区のイスラム教徒だけではなく、法輪功やキリスト教を信じる人々が厳しい弾圧を受けている。そして日本のメディアも日中記者交換協定に束縛され、中国の真実を自由に報道することができない。中国にとって不利な報道を行うと、中国に特派員を駐在させることができなくなるからだ。良いことばかりのバラ色の報道を信じた多くの日本企業が中国に進出、その大半が事業に失敗し、投資した施設は没収、多額の退職金などを追徴される等、散々な目に遭っている。一党独裁政権の弊害を日本に正しく伝える必要があるが、民間の報道機関が結んだ協定とはいえ、日中記者交換協定を彼らの力だけで解決するのは無理である。国がこの協定に積極的に関与して、中国に関する自由な報道ができるようにしていく必要がある。
強固な日米同盟を築く
香港の危機は台湾そして日本の危機であり、それに対抗するのは堅固な日米同盟しかない。安倍首相の任期は、三期九年に亘る総裁任期が切れる二〇二一年九月までだ。これは従来の二期までしか認めなかった自民党の党則を改正して実現させたことだ。一方、トランプ大統領に関しては、大統領選挙中にロシアと共謀したという疑惑で、就任直後からモラー特別検察官による捜査が行われていたが、結局共謀の直接的な証拠は挙がらず、司法妨害についても「証拠が立証に十分ではない」とバー司法長官がトランプ大統領を弾劾訴追しないことを、今年の二〇一九年三月に決定した。これを受けてトランプ大統領は潔白が証明されたと宣言、最大の課題がクリアされたことで、再選が確実となった。再選となれば、任期は二〇二四年までだ。私は、今のトランプ安倍体制で日米関係が良好な期間は日本にとって大きなチャンスであり、この間に数々の施策を行って日本を独立自衛の国家にするとともに、日米が連携して、膨張する中国に歯止めをかけていくべきだと考えている。そのためには後継者を育てながらも、再度自民党の党則を変えて、安倍首相の四選を認め、任期をトランプ大統領と同じ二〇二四年まで延長するべきだ。そしてあと五年で、憲法を二回改正して、最終的には自衛隊を国軍と位置付け、非核三原則を廃止して、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を締結、核バランスを確保する。その上で日米が強く連携して、中国に対抗していく必要があるだろう。
アメリカは、韓国がすでに中国のコントロール下に入ったと判断している。その一つの証拠は、韓国が日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄し、その直後に中国の強い影響下にあるタイとGSOMIAを締結したことだ。中国は「一帯一路」の経済政策と南シナ海、東シナ海での軍事活動によって、アジアでの勢力を徐々に拡大している。このことを多くの日本人やメディアが理解し、香港の今後の動向を他人事としないことを願っている。
日本が戦争に負けただけであって犯罪を犯した訳ではない
先月号に金完燮氏の書籍『親日派のための弁明』を紹介したところ、多くの人から日韓関係について正しい歴史認識を得たとの感想をいただいたので、もう少しこの書籍の中で金完燮氏の書いた主たる言葉を列記したい。
「日本人たちが戦争に敗れただけであって、犯罪を犯したのではない。」「日本は憲法を修正して自衛隊を正規軍に変え、本格的な武装をはじめなければならない。」「広島と長崎を、新型大量殺傷兵器である原子爆弾の性能試験場として使い、数十万の民間人を虐殺したアメリカが謝罪してしかるべきなのかもしれない。」「日本の大東亜戦争は当時の国際情勢からして十分に名分のある正しい戦争であった。」「過去の戦争において日本には正当性があったがドイツにはそれがなかった。日本は生きる道を探してやむをえない戦争をしたが、ドイツは他の民族を抹殺して支配者になるために戦争をした。」「人の命が虫けらのように軽くあつかわれる戦時であった。そのような時代に戦地までひっぱっていかれて生き残れたのであれば、それだけでも幸いだ。春の端境期のたびに人びとが餓死したり、伝染病でいちどに多くの人々が死ぬという時代に、戦争にひっぱられたり数カ月のあいだ望まぬ慰安婦生活を送ったからといって、現在の基準で判断して日本を非難するのは不自然だ。」「中国は『帝国主義の脅威からチベットを解放する』と、犬も笑うような名分を掲げて平和なチベットを侵略し、六〇〇万の人口のうち一二〇万人以上を虐殺した。」「毛沢東がおこなった権力闘争、いわゆる文化大革命のときには、熱狂的な紅衛兵が手に手に『毛沢東語録』をにぎりしめ、全国をまわって数百万の無辜の人びとを虐殺した。」「『日本がおこした戦争』というのも同様だ。」
負けたということだ
「一八九四年の日清戦争からはじまり日露戦争、日中戦争にいたるまで、つまり太平洋戦争以前に日本がかかわった戦争は、世界のどこかででもおきていたありふれた領土争いにすぎなかった。帝国主義時代の論理とは、力ある国は多くの地域をわがものとし、力がなければ領土を奪われるというものだ。そうやって戦争に負ければ、日本のように戦犯国になってひっそりと堪えしのび、勝てば戦勝国になって大きな利益を得て大声を張りあげて生きるのである。日本の罪といえば負けたという、ただそれだけのことなのだ。」
「日本としては、遅れた朝鮮半島を譲りうけ、四〇年間にわたって大規模な投資をし教育をほどこし、近代的な制度を導入して膨大な産業基盤施設を建設したあげく、金を受けとるどころか賠償金まで支払わなければならなかったのは、さぞかし無念なことだったろう。」
「戦勝国でもない韓国が日本に賠償金を要求するのは、国際的にみれば話にならない主張だ。戦後日本は、台湾とサハリンはあきらめるが朝鮮はもはや完全に日本と一体になったから、植民地としてではなく日本としてとりあつかってほしいとアメリカに頼んだのに、戦勝国はこの要請を拒み、日本から韓国と北朝鮮、台湾、サハリンを引き離すことで日本を五つの地域に分割して占領した。」「ロシアやイギリス、フランスのかわりに隣国日本が朝鮮の支配者になったのは、私たちの立場からするとじつに幸運なことだった。」「朝鮮を植民地でなく新しく拡大された日本の一部と考え、莫大な投資を惜しまなかったのである。」「私たちは国を奪われたのではなく、日本という、よりましな統治者を受け入れたのである。これは明らかに進歩であり、朝鮮民衆の自然な選択だった。」「日本の統治はきわめて紳士的であり人間的だった。」「手強い白人国家を相手に戦った戦争で有色人種が勝利したという点で、その意味は大きい。」「日本政府が朝鮮に投入した補助金は多いときには二〇〇〇万円をこえたともいうが、これは日本の予算全体の二〇パーセントに相当する額だ。」「日本の敗戦はアジア人の幸福にとってじつに残念な出来事だった。」
最も理想的な形の宗教だ
「日本のことを考えるたびにうらやましく思うことの第一が、日本の宗教とそこから生まれる民族の強いアイデンティティーだ。」「未成熟な社会ほど宗教が強い。」「アメリカや東ヨーロッパでは宗教の影響力が相対的に強いが、それはこの地域の住民たちが白人社会のなかでも相対的に未成熟なためではないかと考えられる。」「日本の神道は人類がつくりだした、もっとも理想的なかたちの宗教だ。」「靖国神社には朝鮮出身の日本兵二万人と台湾出身の日本兵二万人が祀られているという。朝鮮人の戦死者が日本人の戦死者の一パーセントにもみたないのをみれば、人口比を勘案しても当時の日本がどれくらい良心的に戦争をおこなっていたかがわかる。」
金完燮の書籍「親日派のための弁明」をほとんどの日本人は知らない。知っていれば、ありもしないことを言われては謝罪させられ、金銭を支払って当面の解決をするようなことはなかっただろう。つけ上がって今もなお不当に謝罪を要求し、金銭を要求し続ける、韓国の言いなりになる事はあり得なかっただろう。今後日本は本当のことを主張して、韓国を甘やかさないことだ。
2019年9月19日(木) 18時00分校了