Essay

米中衝突は「エンドレス」に続くVol.323[2019年8月号]

藤 誠志

「性暴行」の濡れ衣告発によって
リベラル派が自滅
共和党の結束が強まった

 二〇一六年のアメリカ大統領選挙の時には、日米のほとんどのメディアや財界人、アメリカの東部エスタブリッシュメントと言われるエリート達も、皆ヒラリー・クリントンが当選すると言っていた。私は、オバマ大統領の八年間がアメリカも日本も弱体化させ、中国をのさばらし、北朝鮮を完全な核保有国としてしまったと考えている。
 一方、トランプ大統領は、日本が強くなることが東アジアの平和と繁栄に繋がると考える「ストロングジャパン」派だ。大統領選挙期間中に日本と韓国の核武装を認める発言をする等、日本に強い親近感を抱いている。そんな彼にどうしても大統領になって欲しいという思いから、当時私は、多くのメディアのトランプ叩きのフェイクニュースに惑わされることなく、トランプは必ず大統領選挙に勝つと言い続けていたが、実際その通りになった。
 就任から丸二年を経過、この五月の調査ではトランプ大統領の支持率は過去最高の四六%となった。最近の共和党内のトランプ支持の高まりについて、六月六日付け産経新聞朝刊に掲載された福井県立大学教授の島田洋一氏の「正論」が詳しい。「『肉を切らせて骨を断つ』姿勢を相当期間維持できなければ、中国の不正は正せない。トランプ氏は、その域に踏み込んだ初の米大統領である。まさに画期的であり、中国台頭の規模とペースを考えれば、おそらく今が最後の巻き返しのチャンスだろう。」「注目すべきは、米保守派の動きである。トランプ政権発足当初は、大統領と距離を置く与党議員も多かった。しかし今や、経済活性化や対中強硬姿勢への評価、あるいは保守派のカバノー最高裁判事を『性暴行の濡れ衣』という禁じ手中の禁じ手で阻止しようとしたリベラル派への強い憤りなどから、共和党は大統領中心に結束する傾向を強めている。」「二〇一六年の大統領予備選の際トランプ氏と最も激しくやり合ったクルーズ、ルビオ、グラハム、ポール上院議員が、いずれも現在はトランプ氏と盟友関係にある事実が事情を端的に物語っている。」「保守派の結束は『カバノー事件』抜きには理解できない。」「リベラル派が『連続集団レイプ魔』というイメージまで動員して人格毀損の挙に出たことは、保守派の怒りのエネルギーを高め、二〇一八年中間選挙で共和党が上院を制する重要要因となった。」という。

アメリカは米中対立を
自由主義対全体主義と認識

 島田氏も触れている米中問題については、雑誌「選択」六月号に掲載された特別リポート「米中衝突は『エンドレス』‐中国共産党が倒れるまで続く」が詳細に伝えている。「『中華民族二〇四九年再興の夢』という目的のもとに南シナ海、東シナ海、インド洋などへ軍事的進出があり、一帯一路政策は『債務の罠』があちこちで問題になっているにもかかわらず、とどまるところを知らぬかのように進行している。その上、先端技術をかすめ取り、企業などにサイバー攻撃を行う。トランプ政権は中国通信機器大手の華為技術の製品禁輸に踏み切った。」
「こうした喧噪の中で、米国事情に最も通じた専門家の一人である元駐米大使の藤崎一郎・中曽根世界平和研究所理事長は、最新の同研究所会報で、警世の一文を書いた。いまの米中関係は、中国が外部からの圧力に柔軟性を持っている。また、トランプ大統領が来年に大統領選を控えているという特殊な事情があるために発生しているから、政権が変われば和解もあり得ると説いたのだ。状況は全く異なると断りながらも、『半世紀前のニクソン、キッシンジャー・ショックも頭の片隅に常に置いておく必要がある』との指摘は、とかくムードに乗りたがる日本の世論の中では尊重すべきだろう。」「しかし、米世論、与野党を問わず米議会に、中国との間で和解を求めようという意見はほとんど姿を消してしまった。米国務省高官の口からはついに、文明の相違だと割り切るような『禁句』までが登場したし、断片的なトランプ大統領の対中観を理論的に裏書きするような意見もこの間に相次いで公にされている。冷戦下で、イデオロギーや軍事面での『ソ連の脅威感』を共有していた当時の米中両国と異なり、互いに相手を脅威と見なしている現状では、確執が際限なく続くと見ていた方があらゆる面で安全だろう。」

アメリカの選択肢に残る
北朝鮮への軍事オプション

 私は米中の貿易戦争は、世界覇権を巡るものだと考えている。この争いの鍵となるのは、北朝鮮の存在だ。北朝鮮が五月に発射した短距離弾道ミサイルはアメリカの脅威にはならないが、中国や日本には脅威だ。その北朝鮮が韓国を併合し、核を保有する人口八千万人の朝鮮連邦となることで、脅威は飛躍的に増加する。これをどう取り除くか。私が毎年年越しパーティーに参加する、ラスベガスのホテルで会うアメリカ空軍の元将軍は、米軍が金正恩の斬首作戦を計画、訓練を繰り返していると言っていた。
 雑誌「THEMIS」六月号に古森義久氏の「非核化拒む金正恩へ米国で『北朝鮮を軍事攻撃せよ』高まる」というレポートが掲載されている。「二〇一九年五月上旬に北朝鮮が連続して断行したミサイル発射は再び世界を揺るがせた。」「北朝鮮のこのミサイル発射は当初は米側でも『飛翔体』の発射などと評していたが、北朝鮮当局が『戦術誘導兵器』と公表したようにミサイルであることは明白だった。」「金正恩委員長がこの時期に小規模ながらこうした軍事行動をとることは彼の焦りの表れだといえよう。アメリカに交渉再開を求め、経済制裁の解除を請い、中国には冷淡にされ、ロシアに救いを求める。国内でも困難が高まり、追い詰められ、という構図がどうしても浮かんでくる。」「金正恩委員長がここまで追い詰められ、ありとあらゆる手段をとろうとして、窮地に立ったように見えるのは、やはりトランプ大統領の強硬な姿勢のためだろう。その確固たる姿勢には最後の手段としての軍事攻撃というシナリオが一貫して組み込まれている。日本ではあまり提起されないトランプ政権の対北朝鮮軍事オプション(選択肢)である。」「そもそもこの軍事オプションはワシントンではトランプ政権が北朝鮮に核兵器の廃棄を本格的に迫り始めた二〇一七年はじめの時期から頻繁に議論されてきた。だからこそ金正恩氏も恐怖に駆られて、非核化の交渉をトランプ政権に懇願するようになったのだといえる。」「『軍事』という要素はこの米朝核問題を理解するうえで欠かせない現実の要因なのである。北朝鮮に核兵器と長距離弾道ミサイルを全面放棄させるために、軍事手段を行使する。しかも朝鮮半島での全面戦争にはならない方法で攻撃を実施する。そうした作戦計画はこれまでもトランプ政権の内外で繰り返し提起されてきたのだ。最近のきわめて具体的な実例を紹介しよう。」「アメリカ連邦議会の諮問機関『議会電磁波委員会』顧問のピーター・プライ氏はワシントン地区の日刊新聞『ワシントン・タイムズ』三月二六日付に『北朝鮮非核化のための軍事オプション』というタイトルの長文の論文を発表した。」「同論文は、北朝鮮がなお規制逃れの多様な方法で核兵器保存を図っており、トランプ政権のいまの経済制裁継続という方法ではなかなか非核化の意図を立証する基本的な措置はとらないだろう、と考察していた。」
「ではなにをどうすればよいのか。プライ氏は北朝鮮の非核化の完全実現のためには軍事手段が最も効果的だと提案していた。その具体的な手段としては、これまでの軍事の常識を超えて電磁波による北朝鮮の人工衛星の攻撃を勧める点が異色だった。」「プライ提案は三段階からなり、その第一が人工衛星破壊案だった。北朝鮮はいま地球観測目的用と称して人工衛星二基を打ち上げ、宇宙軌道を飛行させている。二〇一二年一二月に打ち上げた光明星三号二号機と、二〇一六年二月打ち上げの光明星四号という衛星がいずれもすでに軌道に乗ったことは米側も確認している。」「プライ氏の論文によると、この二基の衛星は核兵器と組み合わせるとアメリカ全土の電力送信を止める能力を発揮しうる。だから米側としてはその破壊はアメリカの安全確保とともに、米側の非核化への断固たる意志を誇示する効果がある。北とすれば衛星破壊だけなら自国領を攻撃されないため、報復として韓国への全面攻撃に出る見通しが低いという。」「プライ氏は第二の軍事手段として米軍が北朝鮮の大陸間弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、核爆弾搭載可能の爆撃機、潜水艦、西海ミサイル発射場、寧辺核施設、ウラン濃縮秘密施設を通常弾頭ミサイルで破壊する案を提示していた。」「この攻撃計画での標的は合計約一五〇。米軍は空母三隻を投入し、艦載機の出撃やミサイル、ロケットの発射など、すべて非核の通常兵器での数時間の攻撃で目標を達することが可能だという。この結果、アメリカ本土やグアム島など米領への北朝鮮の核とミサイルの脅威はほぼ完全に除去できるという。」「第三の軍事手段はプライ氏も『戦闘拡大の危険度が高い』と認める大規模な攻撃計画だった。北朝鮮の準中距離弾道ミサイルと短距離弾道ミサイルの合計一千基ほどを破壊するという案である。」
「この作戦が予定どおりに実行されれば、韓国と日本への北朝鮮のミサイルや核の脅威は完全に除去される。しかし、その破壊作戦はかなりの日数を要し、北朝鮮の韓国への全面攻撃というリスクも高いという。」「戦闘エスカレーションについてプライ氏は『攻撃が敏速で標的が少数であればあるほど北朝鮮の政権自体の破壊ではないことがわかり、全面反撃の可能性は低くなる』と強調していた。」「こうした大胆で危険な提案は一見、異様なほど過激にも映る。だがトランプ政権を支持する専門家たちの間から、こうした提案が出てくるという事実にこそ、注目すべきだろう。」「トランプ政権周辺では第二回の米朝首脳会談後、ほかにも軍事手段の勧めは表明されていた。トランプ政権を堅固に支持する共和党保守派のリンゼイ・グラハム上院議員は『アメリカ政府はもう北朝鮮に対する軍事力行使による非核化実現を真剣に考えるときがきた』と明言していた。」「歴代共和党政権で東アジアの安保問題を担当してきた専門家のパトリック・クローニン氏(現在はハドソン研究所上級研究員)も『非外交的な強制的手段を考える時期がきた』として、軍事手段行使の効用を検討することを改めて提唱した。」「こうした動きをみると、トランプ政権内外では軍事オプションの選択も決して否定されてはいないという現実が浮かんでくるのである。」

トランプ&安倍時代に
改憲と核抑止力の確保を

 日本は、もうそろそろ平和の維持を現実的に考え、バランス・オブ・パワーの確立を真剣に求めていかなければならない時期に来ている。そのためには憲法改正は必須だ。先月号の本稿でも示したように、トランプ大統領にはG20参加の為の来日(六月二十八日、二十九日)を機に是非、靖國神社に参拝して欲しい。そうすればこれまで靖國参拝を非難してきた中国、韓国は沈黙するだろう。そして、改憲議員が両院とも三分の二以上を占める、次の参院選の前に憲法改正の発議を衆参両院で行い、改憲に賛成しない自民党議員は党を除名して、選挙に刺客を送ると明言すべきである。このタイミングを逸すれば、参院選の結果、改憲賛成議員は三分の二を割り、これを再び戻すためには相当な年月が掛かる。その間に北朝鮮が韓国を併合して核を保有する朝鮮連邦が誕生し、中国の命を受けて日本を脅かすようになれば、早晩日本はチベット自治区やウイグル自治区のように中国の一自治区に成り下がってしまうだろう。
 今朝中国事情に詳しい私の古くからの友人からメールが来た。その内容は次のようであった。「天安門事件は私が中国に関心を持った出発点でした。百万人デモ。今回の六月九日の香港も一〇三万人デモ。香港人、本当に可哀想です。香港人はチベット族、ウイグル族のような仕打ちを受け、蹂躙され、抹殺はされない。漢民族として更に逞しく強かに生き抜くに違いない。しかし、理不尽な束縛、威圧、高圧、強権、強迫、脅迫等々、独裁者の為の法律の不条理渦の中で翻弄される。何時も私は十五億人の人々の『マナー』に体が硬直する。彼らの行動習慣は正に山賊・海賊・土卑・ごろつきなどと呼ばれる次元である。例えれば野犬の類である。香港百万ドルの夜景はその色彩が変わり、終わりを迎えたのだ。実に悲しい。民主主義の日本の民主党は誰も声を上げない。建前民主主義でしかない。」
 三十年前の天安門事件では百万人ものデモが起こり、これを鎮圧する為に、中国人民解放軍を導入した。中国当局は、これまで死者数を「319人」としていたが、最近英国で新たに公開された外交文書によれば、デモに参加していた一万人もの学生らが犠牲となった、とある。今回の香港の「逃亡犯条例」の改正案に反対するデモは、一九九七年のイギリスから中国へと返還後も「一国二制度」で高度の自治が五十年間認められているのに、条例改正により、同制度が事実上崩壊すると反対派は懸念して反対しているのである。

今、改正しようとする
自民党改憲案は憲法に自衛隊を明記する改憲案に過ぎない

 また今の憲法に自衛隊を明記するという「加憲」案では、自衛隊は「軍隊」にならない。明確に軍を保有することを宣言する二回目の改憲を行わないと、日本は独立自衛の国家にはなれない。安倍首相の任期は後二年余りだが、自民党綱領を改正して総裁再任を四期まで可能とすれば、二〇二四年まで任期を伸ばすことができる。そうすれば再選された場合の、トランプ大統領の任期と同じになる。安倍首相とトランプ大統領が在任中に、日本は憲法を改正して非核三原則を廃止する。そしてアメリカとニュークリア・シェアリング協定を結び、核抑止力を得ることで、バランス・オブ・パワーを確保、東アジアの平和に貢献すべきなのだ。もう残された時間は少ない。
 今の米中対立の原因を作った人物はオバマ前大統領だが、中国を脅威と考えてこなかった日本の歴代首相にも問題がある。第二次世界大戦の時には、アメリカから莫大な軍事援助を得たソ連が軍事的なモンスターとなり、ナチス・ドイツを破った勢いでユーラシア大陸全域を支配下に入れようとしていた。アメリカは日本に原爆を投下することでソ連を牽制、熱戦となる第三次世界大戦を「冷戦」に留めることに成功した。
 今、軍事的にモンスター化したのは中国だ。アメリカが中国の世界覇権を阻止するといった強い対応で臨み、非常事態となれば核を使用することもあるといったような強い「手」を打たないと、世界は太平洋を二分するアメリカと中国とに支配され、日本は中国に飲み込まれるだろう。この脅威を感じていない国会議員があまりにも多すぎる。多くの国民が声を上げ、警鐘を鳴らすべき段階に来ているのだ。

2019年6月14日(金) 10時00分校了