日本を語るワインの会189

ワイン189二〇一九年二月十三日、代表邸で恒例「日本を語るワインの会」が行われました。日本に赴任してまだ五カ月の駐日ギリシャ大使館特命全権大使のコンスタンティン・カキュシス氏、日本とは古くから関係を結んでいるレバノン共和国大使館特命全権大使のニダル・ヤヒヤー氏と令夫人のナンシー・ナメ氏、徳島市議を降り出しに県議を六期務めた上で国政に進出した衆議院議員の福山守氏をお迎えし、外国人の眼から見た日本などの話題で盛り上がりました。
シリア難民で混乱する
レバノンの経済
 レバノンは地中海に面し、イスラエルとシリアに国境を接する岐阜県程度の国土に約六百万人が住むアラブ人の国だが、イスラム教徒だけではなくキリスト教徒も多い。首都はベイルート。一九七五〜一九九〇年、十五年間に亘っての内戦が終結して久しく、ベイルートの街も美しさを取り戻している。古くはフェニキア人発祥の地であり、アルファベットはここから生まれた。世界文化遺産となっているティールの遺跡は、紀元前一〇〇〇年頃にフェニキア人の首都として栄え、その後アレキサンダーやローマ帝国の支配下に置かれた都市の跡だ。今でもローマ時代の凱旋門や大浴場などが残っている。レバノンはディアスポラと呼ばれる国外に住むレバノン人が多いことでも知られ、ディアスポラの数は本土の人口よりも多い八百万人とも言われている。ブラジル、アフリカ、オーストラリアなど様々な場所にレバノン人がいて活躍している。例えば日産の元会長のカルロス・ゴーンはブラジル生まれだが、両親がレバノン人だ。海外で生まれたレバノン人も、レバノンに起源を持っていれば、申請してレバノン国籍を得る権利を持っている。第二次世界大戦後にビジネス・金融センターとリゾートとして栄えたレバノンは、内戦までは「中東のパリ」とも呼ばれていた。日本との関係も古く、一九五四年に在レバノン日本公使館が開設され、在日レバノン公使館も一九五七年に開設されている。JETRO(日本貿易振興機構)もいち早くオフィスをベイルートに構え、日本航空も半世紀近く前に支店を開設していた。現在の日本との貿易関係では、レバノンは自動車や電気製品など日本から七百十六億円の輸入をしているのに対して、日本への輸出は二十四・五億円に留まっている。
 歴史的理由から隣国のシリアとは緊密な関係にある。そのためシリア内戦に伴って、現在約百五十万人のシリア難民がレバノンに流入、ベイルートをはじめとするレバノンの経済を混乱させている。多くのシリア難民がレバノンを中継して、ヨーロッパやアメリカへ行くことを希望しているが、受け入れ側の方が難色を示している。シリアのアサド政権はイランやロシアの軍事援助を得て支配地域を回復、今は国土の三分の二が政府のコントロール下にあり、状況はかなり安定してきている。これを見たレバノンの人々は、シリア難民に対して、そろそろ自国に戻っても生活できるのではないかと考え始めている。
人口の三倍の外国人観光客
ギリシャ最大の産業は観光
 
半島として海に突き出した形のギリシャの国土は日本の三分の一。その中にアテネのアクロポリスなど、世界文化遺産が十六もある。多くの人がギリシャと言えば、遺跡やオリンピック、オリーブオイル等を思い浮かべるが、今はエレクトロニクスや航空機、人工衛星製造など、最先端の産業も育ってきている。それでもやはり最大の産業は、豊富な遺跡や風光明媚なエーゲ海の島々を活用した観光業だ。ギリシャの人口は約一千万人だが、その約三倍の約三千三百万人の外国人観光客が一年間に訪れると言う。観光客世界一のフランスの場合は人口約六千七百万人に対して年間外国人観光客が約八千三百万人、第二位のスペインは人口約四千七百万人に年間外国人観光客は八千二百万人となっている。日本は昨年外国人観光客が三千万人を突破したが、目標は東京オリンピックのある二〇二〇年で四千万人、二〇三〇年で六千万人だ。オリンピックの開催によって東京の名前が世界中に響き渡るので、オリンピック後もしばらくは観光客が増え続ける。日本周辺のアジア諸国の所得上昇もあって、六千万人の目標もクリアできるのではないか。ただ観光は非常に繊細な産業で、様々な要因の影響を受けやすい。ギリシャの場合でも二〇〇四年のアテネオリンピックの後、二〇〇八年のリーマンショックで観光客が激減した。二〇〇二年に中国広東省から始まったSARSの流行では、日本を含む多くの国が観光客を大きく減らした。やはり顧客を観光客だけに頼るのは危険だ。アパホテルは、平日はビジネスマン、土曜日は国内観光客、日曜日は外国人観光客というように、様々な層のお客様を迎えるようにしていて、これが効果を上げて東京のアパホテルは全て月間稼働率一〇〇%だ。またこの高稼働率の原因は、アーバンリゾートホテルを標榜する東京のアパホテルが、必ず駅から徒歩三分圏以内にあることにもある。この事実はホテルが立地産業であることを明確に示している。
外国人からみれば意外に
テクノロジー後進国の日本
 海外から赴任する人々の日本の印象は様々であり、来日する前といろいろと印象が異なることが多いという。日本社会が安全で、人々が親切で心地よいというのは、多くの外国人の共通認識だ。日本人が礼儀正しいのはわかっていたが、思っていた以上にホスピタリティに溢れている、まるで花に包まれるようなおもてなしを受けたという声もある。しかしこれだけの先進国だから、もっと多国籍な社会かと思っていたら、日本人的なスタイルがしっかりと確立していて、また他国の人と付き合う機会が極端に少ないと感じた人もいる。また外国人に対してだけではなく日本人同士でも同じだが、打ち解けるのに時間が掛かるという。国によっては一度の出会いですっかり意気投合するのが当たり前のところもあるが、日本の場合は三回会わないと本当には仲良くなれないのだ。さらに不文律的な細かいルールが多く、外国人が暮らすには最初は戸惑いが多いという。日本は島国として単一の文化を育んできた歴史があるので、以心伝心的なルールも多く、逆に他国の人々との付き合いに慣れていないのだろう。
 もう一つよく言われるのは、技術大国なので、もっと社会にテクノロジーが溢れていると思ったら、予想よりも全然使われていないのに驚いたという話だ。銀行のATMの機能が複雑すぎるという声もある。確かに日本はキャッシュレス化が遅れているなど、テクノロジーの導入に対して保守的なところがある。今後の日本社会の課題だろう。例えば、テレビ会議のシステムの性能も以前に比べて格段に向上している。また、簡易な会議であれば、汎用のインターネットのサービスを活用することで十分対応できるようになっている。現在消費者庁の徳島県移転の検討も行われているが、今の技術であれば十分に可能だ。また一般の企業であってもテレビ電話システムなどのテクノロジーの活用によって、出張の回数などを減らすことができるだろう。
環境保護に配慮した
アパの新都市型ホテル
 地球環境問題で大きなテーマの一つがマイクロプラスチックなどの海洋ゴミだ。もともと小さなプラスチックもあれば、大きなものが自然環境の中で破砕されて小さくなったものもある。小さいため生態系の影響が懸念され、東京湾で行われた調査では、十匹のイワシの内八匹がマイクロプラスチックを食べていたという。二〇一〇年推計の陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの発生量は中国が圧倒的に多く、年間三五三万トン。日本は年間六万トンだ。国際的な協調でこの海洋汚染を食い止めなければならない。APAはAlways Pleasant Amenity(いつも気持ちの良い環境を)の略だ。アパグループは昔から環境を強く意識した企業。一九九七年のCI実施時、社名の中に環境という言葉を入れたいという代表の強い意向があって、APAとなった。アパホテルは「新都市型ホテル」という新しいホテルのスタンダードを作った。部屋がコンパクトなのは、このホテルはスペースではなく満足を売っているからだ。宿泊客の満足度向上のために、大きなテレビとベッドを導入。部屋を立体的に使うために、ベッドは高くなっていて、その下が収納スペースになっている。部屋の明るさは最大で事務所並になり、ベッドの上に書類を広げて仕事をすることも可能だ。さらに二〇%節水となるたまご型ユニットバスや空気を混ぜ込むことで勢いはそのままに節水を行う環境配慮型シャワーも導入、通常のシティホテルに比べ、CO2の排出量は三分の一だ。
 ホテルビジネスは所有、ブランド、運営の三つが分かれていることがほとんど。有名ホテルは基本的にはブランド貸し業だ。しかしアパは自社所有、自社ブランド、自社運営が基本。だから利益率が三〇%と、世界のホテルでも最高レベルだ。またもしかしたら中国の国営ホテルが世界一かもしれないが、それを除けばアパホテルが自社所有部屋数で世界一の可能性もある。アパホテルの社員は約五千人と保有するホテル数の割には少ない。それは清掃などを外注サービスに委託しているからだ。アパホテルの人気の理由の一つに大浴場がある。三百室以上の大きさのアパホテルの多くに大浴場が設置されているが、これはこの規模だと大浴場を作った方が光熱・水道費の負担が減るからだ。またアパホテルでは大浴場の利用を宿泊客に限定している。宿泊客以外の日帰り入浴の営業を行うには、新たに公衆浴場法の定めに従う必要があるからだ。部屋をデイユースした場合の入浴は宿泊客と同様の扱いになるので、この形のサービスの提供は行っている。
 アパホテルの海外進出は北米からスタート、現在カナダとアメリカで三十八のホテルを運営している。今後進出するとすれば、日本のアパホテルに多くの観光客が宿泊しているアジアの親日国からだろう。日本で多くの人が泊まっているということは、その国での知名度が高まっているということだからだ。まず有望なのは台湾、次に韓国ということになる。まずは十万室を達成して日本一となり、さらに世界一を目指しているのがアパホテルだ。