Essay

北朝鮮危機は米中新冷戦構造のはじまりVol.311[2018年8月号]

藤 誠志

ホテル予約で怪しい動き
中国が失った南京虐殺歴史カード

 昨年一月十五日、アメリカ人女性と中国人男性がアパホテルに宿泊、客室に置いてある『本当の日本の歴史 理論近現代史学Ⅱ』に関して、南京大虐殺や従軍慰安婦強制連行を否定する本が客室に置かれていると報告する動画を撮影、それを中国版ツイッターである微博にアップロードした。すると瞬く間にこの動画に一億回を超える閲覧があり、後に「書籍問題」と呼ばれる大騒動となった。ネットの騒ぎを受け、中国外務省の外交部報道局副局長がアパホテルを名指しで批判したり、中国国家観光局が国内の旅行代理店にアパホテルとの取引停止を要請したりする事態へと発展した。ホテルや本社にも六回に亘って爆破予告の電話があった。またアパホテルに抗議する在日中国人の千人規模のデモの届け出があったと警察から連絡を受けたが、結局デモ当日、新宿中央公園からアパホテル〈新宿御苑前〉まで行進したのはたったの八十名程度だった。しかも在日中国人はあまり集まらず、主催者は日給八千円を出して、マスクをして声も出さなくても良いとの条件で反日日本人を集めたと思われる。この騒動にあたって、数百人もの多くの保守の人たちが「アパを守れ!」と集まり、メールなどで二万通もの激励のメッセージをいただき、応援宿泊も増加して、売上高も稼働率も過去最高を記録した。
 そんな炎上騒ぎの記憶も大分薄れていたのだが、先日OTA(オンライン・トラベル・エージェント)経由で、あるアパホテルに対して、大口の予約があった。その後、予約を入れたというお客様が下見の為にホテルを訪問、スタッフが部屋などをインターネットの画面を使って案内したが、その時は特段ご要望等はなかった。しかしその下見から四日後、本社に「予約をしているものだが…」と電話があった。「宿泊者は全て韓国人だが、部屋に韓国人の気分を害するような書籍が置いてあると聞いた。気持ち良く過ごすためにも、不適切な書籍は部屋から無くして欲しい」といってきた。アパホテル本社の社員は、上司と相談の上、「当社としては不適切な書籍を置いているという認識はなく、撤去するつもりもない。不都合を感じられるのであれば、予約を取り消していただいても結構です」という旨を電話で伝えた。すると先方からは、「書籍を精査して判断したい」との回答があった。
 昨年一月以降、中国からは直接の予約はできなくなって、中国人顧客は激減したが、その代わりに応援宿泊やヨーロッパやアメリカ・カナダからの宿泊客が増えた。中国国外からの予約は可能なので、アパホテルに個人で宿泊する中国人観光客の数はその後増加傾向にある。そんな中でのこの予約と電話だ。この団体が宿泊の目的としているイベントを探してみたが、発見することができなかった。アパホテルは、個人顧客のキャンセルは基本的には宿泊前日までキャンセル料を取らない。書籍を撤去しなければ、直前に大口の予約をキャンセルしてホテルにダメージを与え、書籍を撤去した場合には、アパホテルが屈服したと吹聴する…そんな意図を持った宿泊予約のように考えられる。…とはいえアパホテル側から宿泊を拒否すれば宿泊約款違反になってしまう。慎重に対応しなければと考え、通常団体予約の場合は、予約の確認をして事前決済を求めているのでその旨を伝えた。今日現在、まだ事前決済はなされていない。

南京大虐殺の真相

 私はこれまで自著に南京大虐殺がなかったと、しっかり根拠を持って書いている。五月二十日の勝兵塾金沢支部月例会でも、私はこのような話をした。「私がかねてより『南京で日本軍は一人も殺していない』と述べてきたのは、『民間人をはじめ、非戦闘員は一人も殺していない』ということである。中国が主張することは『日本軍が南京を攻略して市民三〇万人を虐殺した』ということである。戦争は悲惨なものであるが、戦闘で巻き込まれて死んでしまったりすることと、虐殺することは全く違う。そもそも南京での死者の多くは、日本軍が攻撃をしてくることに親日派と目される南京市民が呼応することを恐れた蒋介石が、あらかじめ漢奸狩りと称して、南京市内に多数の漢奸狩りのポスターを貼り、密告させて拘束し、多くは過去に日本に留学したことのある人たちで、連日八〇人、一九三七年十一月までに約二千人処刑したとの説がある(ネット検索)。日本軍が殺害したのは戦闘での兵士や、民家に押し入って衣服や金品を奪い、武器を所有したまま便衣兵として南京市内に潜んでいた兵士を捜索し、拘束したものや、日本軍が進撃してくる中、逃げる国民党軍兵士を「逃げずに戦え!」と警告し殺害するために蒋介石が配置した国府軍の督戦隊によって、銃撃され逃げ場を失って日本軍の捕虜となった兵士である。(その多くは便衣兵である。便衣兵=ゲリラは捕虜になる資格がなく、殺害されてもやむを得ない。)国府軍の兵士には南京市民はほとんどいなく、蒋介石が地方から強制的に徴兵してきて、十分な訓練も受けていない兵士達だった。彼らを置き去りにして飛行機で蒋介石が逃げたことで、大量に捕虜となった便衣兵に日本軍は十分な食料を与えることが出来ず、釈放すればお腹を空かせた彼らは逃げるために民家に押し入って略奪を行う…と南京市民からは非常に怖がられていた。その様な事情の中で、便衣兵を殺害したことはあったようである。

核保有した北朝鮮の
韓国併合を許すな

 六月十二日にいよいよ史上初の米朝首脳会談が行われる。六月八日付の産経新聞「正論」では、評論家の西尾幹二氏が「『トランプ外交』は危機の叫びだ」というタイトルの一文を寄せている。「世界の現実は今、大きな構造上の変化に直面している。かつてない危機を感じ取り、類例のない手法で泥沼の大掃除をすべく冒険に踏み出そうとしている人がいる。米国のトランプ大統領である」「彼はロシアと中国による世界秩序の破壊が危険水域を越えたことを警鐘乱打するのに、他国から最もいやがられる非外交政策をあえて取ってみせた。中国を蚊帳の外にはずして、急遽、北朝鮮と直接対話するという方針を選んだ四月以降、彼は通例の外交回路をすべてすっとばして独断専行した」「同時に中国には鉄鋼とアルミに高関税を課す決定を下した。それは当然だが、カナダや欧州やメキシコなど一度は高関税を免除していた同盟国に対し、改めてアメリカの国防上の理由から高関税を課す、と政策をより戻したのは、いかな政治と経済の一元化政策とはいえ物議を醸すのは当然だった」「彼はなぜこんな非理性的な政策提言をしたのだろうか。世界の秩序は今、確かに構造上の変化の交差路に立たされている。アメリカ文明はロシアと中国、とりわけ中国から露骨な挑戦を受け、軍事と経済の両面において新しい『冷戦』ともいうべき危機の瀬戸際に立たされている。トランプ政権は、北朝鮮情勢の急迫によってやっと遅ればせながら中国の真意を悟り、この数カ月で国内体制を組み替え、反中路線を決断した」「トランプ氏は人権や民主主義の危機などという理念のイデオロギーには関心がない。しかし軍事と経済の危うさには敏感である。アメリカ一国では支えきれない現実にも気がつきだした。そのリアリズムに立つトランプ氏がアメリカの『国防上の理由』から高関税を遠隔地の同盟国にも要求する、という身勝手な言い分を堂々と、あえて粉飾なしに、非外交的に言ってのけた根拠は何であろうか」「トランプ氏はただならぬ深刻さを世界中の人に突きつけ、非常事態であることを示したかったのだ。北朝鮮との会談に世界中の耳目が集まっているのを勿怪の幸いに、アメリカは不当に損をしている、と言い立てたかった。自国の利益が世界秩序を左右するという、これまで言わずもがなの自明の前提を、これほど露骨な論理で、けれんみもなく胸を張って、危機の正体として露出してみせた政治家が過去にいただろうか」と西尾幹二氏は看破した。
 今の北朝鮮危機は、撤退するアメリカ、膨張する中国という新冷戦の構造の狭間に生まれた危機だ。「北朝鮮情勢の急迫によってやっと遅ればせながら中国の真意を悟り、この数カ月で国内体制を組み替え、反中路線を決断した」トランプ大統領は正しい。なぜならば、そもそも北朝鮮の核開発は、中国に対抗するために行われているからだ。核を保有させて北朝鮮を中国の独裁政権へと向かわせるのではなく、核を廃棄させた上で、金正恩政権の「体制保証」をすることが日本やアメリカの国益に叶う。先月号の本稿にも書いたのだが、日本にとっての最悪のシナリオは、北朝鮮が完成済みの核を隠し持ち、潜在核保有国となり、核をちらつかせて韓国を併合、朝鮮連邦となることだ。そうなれば、八千万人の人口を有する反日国が、中国の手先となって、今度は核を使って日本を恫喝、その結果、日本は中国の一自治区になってしまうだろう。そのシナリオが現実とならないよう、日本は一日も早く憲法を改正して軍事力を保持し、人質誘拐事件を身代金を払って解決するのではなく、不当に拉致された日本人を力で取り返せる国家となるべきである。

アメリカの態度の変化は
北朝鮮への譲歩ではない

 米朝首脳会談直前にアメリカは、北朝鮮が段階的に非核化することを容認する姿勢へと転換した。一見、アメリカが北朝鮮に譲歩しているかのように見えるが、これは現在の経済制裁が非常に効いていて、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が実現するまで現在の経済制裁を解除しなければ、自然と熟柿が落ちるように金正恩が妥協してくるものと考えていることに加え、トランプ大統領には彼なりの計算がある。トランプ大統領が一番関心があるのは自身の再選であり、そのためには、今年十一月の中間選挙に勝利する必要がある。解決を急げば金正恩政権がクーデターや内乱によって内部から崩壊する恐れがある。米朝共同声明で彼を評価して、取り敢えず総括的な論のみとして、細部を迫って政権が崩壊することを防いだものと思われる。そこからじっくりと交渉を重ね、十月辺りに華々しく成果を喧伝できれば、中間選挙には一番効果があるだろうし、CVIDと、本当は北朝鮮が望んでいる在韓米軍の継続駐留を条件に、朝鮮戦争終結宣言を二〇二〇年十一月の大統領選挙の少し前に実現させ、高らかにその成果を誇って大統領選挙に勝利する狙いなのである。
 金正恩政権のこれまでの最も大きな功績は、叔父の張成沢を自らの政権を危うくする親中派として国家転覆罪で処刑したことと、中国側の傀儡政権の主席となる恐れのある中国庇護下にいる金正男を排除したことである。金正恩が本当に望んでいるのは、北朝鮮の現体制の「安全保障」と、日本からの莫大な経済援助を引き出し、日本の様にアメリカと安全保障条約を結んで、経済発展を遂げることだ。

中国とアメリカによる
北朝鮮の取り合い

 北朝鮮の非核化を実現するためにも、核なき後の北朝鮮の対中国からの安全保障のために、アメリカの積極的な軍事バックアップが必要となる。そもそも北朝鮮危機とは、中国とアメリカによる北朝鮮の取り合いである。
 このような北朝鮮を巡る状況を、遠藤誉氏がうまく分析してまとめていた(夕刊フジ二〇一八年六月八日「鈴木棟一の風雲永田町」)。まずトランプ大統領の意思表示は以下の通りだ。「一、米朝首脳会談は当初の予定通り、六月十二日にシンガポールで行われる 二、これは『プロセス』の始まりだ。今後、複数回の会談があるだろう 三、非核化は急がなくていい(実際、北朝鮮が主張してきた「段階的非核化」を容認するかたちとなった) 四、ただし、非核化が実現しなければ、経済制裁は解除しない。現状は維持する。しかし、『最大限の圧力』という言葉は今後、使いたくない(つまり、これ以上の制裁を科することはない) 五、制裁を解除する日が来ることを楽しみにしている 六、北朝鮮が非核化を受け入れた後の経済支援は、日本や韓国、中国など周辺国が行えばよく、遠く離れた米国が多く支出することはない 七、『六・一二首脳会談』で、朝鮮戦争の終戦協議は、あり得る」という。
 これに対する遠藤氏の分析は次のようになる。「トランプ氏は、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を見届けなければ、首脳会談にさえ入らない、と主張してきた。それが『急ぐことはない。ゆっくりやればいい』と前言を翻したのだから、『譲歩した』との解釈も無理からぬことだ。しかし、ホワイトハウスは『経済制裁は、北朝鮮の非核化の最終段階まで解除せず、初期や中間段階ではペーパーベースの政治的見返りにとどめる』との方針を崩していない。そうなると、『段階的』とはいえ、その間に北朝鮮は何も得られない。金正恩氏は、さらに追い込まれることになる」「米国のシンクタンクなどから、非核化には年月がかかるという情報が出た。さらに、CVIDを強行すると、北朝鮮軍部がクーデターを起こしかねない。体制の保証ができないと配慮したのではないか」「それより、『最大限の圧力という言葉は今後、使いたくない』というトランプ氏の発言は大きい。これは現在の経済制裁が十分に効いているということだ。これから注目すべきは、正恩氏が米国と中露のどちらの方を向くか、だ」と分析していた。

朝鮮半島に
戦時賠償の必要はない

 現状の制裁が効果を発揮していて、これ以上の制裁は考えていないという見方は正しいだろう。原油も枯渇し、地方では餓死者も続出しているとも伝えられていて、このままだと北朝鮮は兵糧攻めに自滅する。早く決着をつけて経済援助を勝ち取りたいのは金正恩の方であり、その足元を見たトランプ大統領の「時間を掛けてもいい」発言なのだろう。金正恩は巧妙なトランプの術中に嵌っている。トランプ大統領は会談が決裂すれば、軍事攻撃もあり得ると匂わせている。会談が破談となれば、力を示す意味からも、以前から私が提言している公開限定空爆を行うのではないだろうか。核とミサイルの関連施設を、期日と場所を指定して、人々を避難させてから空爆を行うのだ。その上でCVIDをやれ、そうでなければ全面戦争だと迫るのだ。私が昨年末、ラスベガスのホテル・ベラージオの年越しパーティーで話をしたアメリカ空軍の元将軍は、米軍は限定攻撃でも全面戦争の準備をするが、それには半年かかると言っていたので、もう作戦の準備は整っているだろう。トランプ大統領は譲歩したのではないと分析する遠藤誉氏に私は同意する。
 日本のマスメディアの報道だけを見ていると、核問題と拉致問題が解決された後、日本は過去の精算のため、北朝鮮に巨額の賠償を行うべきだという声が大きい。しかしそれは誤りだ。日韓併合は大韓帝国内にも賛成派が多数いて、両国が正式な手続きを踏んで条約を結ぶことで成立している。国際社会からの反発もなかった。さらに日本は朝鮮半島を北海道のような内地化を目指し、多額のインフラ投資を行った。水豊ダムや鉄道・道路網、学校など、日本が朝鮮半島に残してきた資産の価値は一兆円や二兆円どころではなく、戦時賠償の金額を遥かに超えるのだ。歴史を考えれば、賠償の必要など全くない。金正恩がCVIDを受け入れて、中国に対する緩衝エリアとなるための査察資金の応分の負担は日本も行うべきだが、それは考え方も額も全く異なるものになるだろう。トランプ大統領も日本が朝鮮半島を「植民地支配をした」と誤った歴史認識を持っていて、それを基に日本の経済負担を当然視している節がある。安倍首相もここはきちんとトランプ大統領に日韓併合の経緯を説明、欧米諸国の植民地支配とは全く異なるものだと理解させるべきだ。

2018年6月8日(金) 18時00分校了