Essay

核兵器は自国を護る為の究極の防衛兵器であるVol.303[2017年12月号]

藤 誠志

核廃絶活動に
「ノーベル平和賞受賞」を喜ぶ
朝日新聞

 十月七日付朝日新聞の一面トップの見出しは「核廃絶『ICAN』平和賞」「ノーベル賞核禁止条約に貢献」だった。以下の記事が続く。「ノルウェーのノーベル委員会は六日、二〇一七年のノーベル平和賞を、核兵器の非合法化と廃絶を目指す国際NGOで、今年の核兵器禁止条約成立に貢献した『核兵器廃絶国際キャンペーン』(ICAN(アイキャン))に与えると発表した。授賞式は一二月一〇日にオスロである」「ライスアンデシェン委員長は授賞理由について、『核兵器の使用がもたらす破滅的な人道面での結末を人々に気づかせ、条約に基づく核兵器禁止の実現へ画期的な努力を重ねてきた』と説明。『今年の授賞は核軍縮に取り組む全ての人々に捧げるものだ』と語った。授賞には、足踏みが続いている世界の核廃絶に向けた取り組みを促す狙いがありそうだ」。この話題で一面トップと二面の全てと三面の四分の一が占められており、朝日新聞の力の入れようがわかる。また三面の記事の見出しは、「日本政府には戸惑い」「正式なコメント出さず」と、このICANの受賞に対する政府の対応を批判的に報じるものだった。
 核廃絶活動に対するノーベル平和賞受賞者で有名な人物は、プラハでの演説で「核なき世界」を訴えて、二〇〇九年に同賞を受賞したオバマ大統領だろう。しかし私はアメリカが実際には核を廃絶することはあり得ないため、結果的にオバマ大統領ができることは、現職アメリカ大統領として初めて広島を訪問してお茶を濁すことだと予測した。広島は日本の都市の中でも、元々欧米人訪問客比率が高い街だ。オバマ大統領が訪れれば、増々国際的に人気のある観光地になると考え、広島駅前に大型ホテルの用地を取得、二〇一六年十月に全七二七室のアパホテル〈広島駅前大橋〉をオープンした。このホテルの起工式の記者会見で記者から「こんな所に中四国最大級のホテルを造って大丈夫か。」と聞かれたのだが、私が「任期中に必ずオバマ大統領が広島を訪れ、その影響で広島への海外からの観光客が激増するから大丈夫。」と答えたら、会場には失笑が起こった。しかし実際に二〇一六年五月にオバマ大統領は伊勢志摩サミットに合わせて広島を訪問、アパホテル〈広島駅前大橋〉は開業以来大盛況で、満室状態が続いている。
 オバマ大統領の「核なき世界」同様、ICANのノーベル平和賞も現実的ではない、あまりにも理想的な理念に対して賞が贈られているように私には思える。同じ日の他の新聞は全て一面に掲載していたのに、産経新聞だけは私と同じ考えなのか、このノーベル平和賞のニュースは一面にではなく、二面の三分の一程度の掲載だ。そして、三面には「東京・ソウル死者二一〇万人」という見出しで次のような記事が出ている。「米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト『三八ノース』は四日、米国と北朝鮮の間で軍事衝突が起き、北朝鮮が東京とソウルを核攻撃した場合、両都市で合わせて約二一〇万人が死亡し、約七七〇万人が負傷するとの推計を発表した。」しかし私は北朝鮮が日本や韓国に先制核攻撃をすることはあり得ないと思う。北朝鮮の核武装は中国からの侵攻を防ぐ防衛の為であり、北朝鮮が先に核を使用することは絶対にない。

衆議院解散は
絶好のタイミングだった

 このような状況の中、日本の平和と安全をどう維持していくかが日本政府の最も重要な責務となっている。AppleTown十一月号の本稿「非核三原則を見直し核シェアリング協定締結を急げ」の扉に使った写真は、今年の七月の日米首脳会談時のものだ。堂々と微笑む安倍首相と少しうつむき加減のトランプ首相が写っているのだが、これまでの日本の首相には、アメリカ大統領とのこんなツーショット写真はなく、安倍首相の自信が窺える一枚だ。今トランプ大統領が世界の首脳の中で最も信頼しているのは安倍首相であり、二人は電話での対話を頻繁に繰り返している。安倍首相はかなりの情報をトランプ大統領から得て、様々な判断に活用していると見るべきだろう。
 北朝鮮への軍事攻撃の可能性をメディアに聞かれたトランプ大統領は「その内わかる」と答えていた。その通りに、いずれアメリカ軍は軍事行動に出る。私は、それは「公開限定空爆」だと考えている。北朝鮮は不都合な政権ではあるが緩衝国としてその存在は必要であり、日本にとって最悪なことは核保有の南北統一朝鮮の出現である。公開限定空爆は、金正恩の命を狙うものでも、金政権を崩壊させるものでもなく、事前に北朝鮮に対して日時と場所を宣言し関係者に避難警告をした上、ソウルにいる外国人にも避難を促し、ソウルに三二三・二%もある核シェルターへの避難訓練を実施した上、核兵器とミサイル関連施設に対して、巡航ミサイルやB1爆撃機による空爆を敢行する。それらを行うタイミングは、その準備に二ヶ月ほどかかるとのことなので、中国共産党の党大会が終了した後の、十一月から来年初頭に掛けてだろう。このトランプ大統領の決意を緊密なコミュニケーションから掴んだ安倍首相は、その前に政権基盤を固める必要を感じて「国難救国解散」と総選挙に打って出た。思えば今年五月の憲法記念日に満を持して、二〇二〇年という期限を切っての憲法九条一項二項を残して加憲によって自衛隊を合憲とする憲法改正をビデオメッセージで提案した安倍首相だが、これをきっかけに一段と森友・加計問題などで反日メディアの謂れなき攻撃が続いた。参院予算委員会で前川前文部科学次官が「行政が歪められた」と主張したことに対して加戸前愛媛県知事が、「歪められた行政が正されたのだ。」と発言したのに、このことはほとんどのメディアは報じないなどの情報操作で、政権支持率が一気に低下した。その後もメディアと野党は、国会で半年かけて森友・加計問題を審議しても、そもそもない疑惑は解明されないことを、説明責任を果たしていない、疑念は晴れない、納得できないと批判を繰り返している。
一方、北朝鮮の脅威が増加し、戦争の危機が迫る中、どうでも良いような民間の学校の些少なことを「疑惑・疑惑」と繰り返し報じるマスメディアに国民の多くは疑問を持ち始め、支持率が回復し始めた。前原誠司氏が代表になったばかりの民進党は、幹事長に内定した山尾志桜里氏の不倫疑惑で大きく揺らぎ、沈みかけた船からネズミが逃げるように民進党から離党者が続出し支持率が更に低下した。小池百合子都知事は、都議会自民党を「頭の黒いネズミ」と名付けて攻撃することで、都民ファーストの会を都議選圧勝へと導いたのだが、さらに国政への進出への動きを具体的に開始した。北朝鮮危機が迫り、民進党の党勢が衰え、小池新党の希望の党の体制が整う前の今しかタイミングがないと、解散に踏み切った安倍首相の決断力は、凄いものだ。

自民党圧勝によっては
連立の枠組みが変わる

 十月七日の夕刊フジには、今回の総選挙についての私の考えが取材によってまとめられた記事が掲載されている。一番大きな見出しは「政権交代あり得ない」だ。メディアは、都議選での勢いのまま民進党を飲み込んだ希望の党が、衆院定数の過半数を獲得して政権交代かと騒いでいたが、政権交代選挙と言いつつ小池代表自身は出馬しなかった。その理由は都知事を辞めての衆院選出馬は、六割以上の人が支持しないと世論調査に表れていたからだろう。となれば、希望の党は首班指名に誰の名前を書くのか。石破茂氏や細野豪志氏の名前も出るが、明確には示されていない。当初、前原代表は、民進党の出馬予定者全員が希望の党に移れるとしていたが、実際には希望の党は「リベラル派の排除」を行うと明言。民進党出身者が希望の党の公認をもらうためには、安保法制や憲法改正を支持するだけではなく、党に資金提供する旨までが明記された屈辱的な政策合意書にサインをしなければならなかった。この結果、枝野幸男氏を代表とする立憲民主党が立ち上がり、民進党は分裂することになった。これらを見ていると政権交代選挙などと報ずるのはメディアのから騒ぎでしかないとわかる。
 この夕刊フジの取材に私は、「安倍政権になってから、株価は二倍となり、企業の経常利益は十二兆円から二十兆円に、一般会計税収が四十三兆円から五十五兆円に、訪日外国人旅行者も八百三十六万人が約三倍の二、四〇四万人となり、有効求人倍率が〇・八二倍から約二倍の一・五一倍といずれも上昇し、生活保護受給者数は減少しており、景気拡大は『いざなぎ景気』を超えた。経済指標が『アベノミクスは成功だ』と証明している。経営者として、いま政権交代など考えられない。それこそ株価は急落する。朝鮮半島危機を前に、安倍首相を交代させる選択肢はあり得ない。投開票まで時間がある。与党陣営は気を引き締めるべきだ。」と述べた。あらゆる指標がアベノミクスの成功を示しているのに、メディアは失敗と報じる。トランプ大統領ではないが、そのような報道はフェイクニュースと断じざるを得ないだろう。
 希望の党は立ち上げ直後をピークに、人気が失速する一方だ。都民ファーストの会に立ち上げから参加していた都議会議員が離脱するなど、日に日に化けの皮が剥がれている。今回の総選挙でも当選者数は二桁止まりだろう。逆に自民党には有利な状況になってきており、大きな勝利を得ることができるのではないか。万が一大勝できなくても、希望の党や日本維新の会を合わせた改憲勢力の議員数は、改選前より間違いなく増える。これによって連立の組み換えも可能になるかもしれない。改革保守を標榜する希望の党の登場で、これまで選挙当選互助会と言っても良い保革がごちゃまぜの民進党を、保守と革新に分解させただけでも小池・前原の功績は大きい。これまでは公明党に配慮して、「改憲」ではなく「加憲」の案を考えていたが、公明党を外して自民・希望・維新が連立政権を作り、議員の三分の二を占めることができれば、もっと自由に独立自衛を謳う改憲案を考えることができるだろう。公明党は常に政権与党に寄り添うことで、国会の証人喚問などを逃れてきた。連立から外れそうになったなら、公明党は抱きつき作戦としてこれまでの主張を捨てて、自民党に近いスタンスに変わるかもしれない。そうなれば、積極的な改憲勢力が圧倒的に増えることになる。安倍首相はここまで読んで、解散を決断したのではないだろうか。

核廃絶は理想だが
現実的には不可能

 もちろん核廃絶は理想ではあるが、それは不可能だ。十月一日にラスベガスで銃の乱射事件があり、五十八人が亡くなり、五百人以上が負傷した。しかしこの事件の後も、アメリカでは銃規制を厳しくするという議論がほとんど出てこない。銃が社会に溢れている今の状況から強制的に銃を規制すれば、不法勢力から身を護る人から銃を取り上げることになり、一方で犯罪者やその予備軍は一旦手にした銃を手放さないだろう。それと同様に、広まった核兵器を手放す国は、北朝鮮をはじめとして存在しない。対話が重要だと主張する人もいるが、これまで何度も対話が行われ、核放棄の対価としての支援も行われてきたが、結局北朝鮮は核兵器開発を止めることはなかった。私は公開限定空爆などの軍事力によって、物理的に北朝鮮の核兵器開発施設を破壊するより方法はないと思う。私は元韓国大統領の金泳三氏の自宅に二〇〇九年に二回目に招かれて会食をした時に「アメリカのクリントン大統領は九十四年の第一次北朝鮮核危機に核施設精密打撃計画で核施設に軍事攻撃を行う寸前だったが、北朝鮮から『アメリカが攻撃すれば、ソウルを火の海にする』と脅されて、必死に反対して止めさせた。」と彼は言った、「しかし振り返ってみると、その段階で攻撃に反対したのは失敗だった。」と彼は語った。この二の舞いを踏むわけにはいかない。
 ノドンやテポドンなど、中国や日本に届くミサイルをすでに北朝鮮は配備しており、さらにアメリカまで到達する大陸間弾道ミサイルも完成間近だ。今後、核弾頭の多弾頭化も行うだろう。アメリカ国内では北朝鮮の核兵器を容認する一方で、これ以上の開発は認めないという妥協案も議論され始めている。しかしこれをトランプ大統領が採用した場合、日本は将来に亘って北朝鮮の核の脅威に晒されることになってしまう。それに対抗するアメリカの核の傘が存在するという主張もあるが、アメリカは自らの本土が核攻撃されるリスクを犯してまで、日本に対する核攻撃に対する反撃を行うだろうか。それはあり得ない。現実的な解決策としては、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を結び、日本に配備したアメリカの核兵器を共同で管理、有事には日本に核兵器使用の権限を委譲してもらうことで、北朝鮮に対する核抑止力とするしかないだろう。これに伴って非核三原則も新たな国会決議によって改めなければならないし、さらに自衛隊を国防軍とするために、憲法第九条の一項はともかく、二項を廃止するなどの改憲を行う必要もある。

北朝鮮の核保有容認は
東アジアを不安定化させる

 日本は北朝鮮だけではなく、中国やロシアという核保有国に囲まれている。核兵器は自国を護るための究極の防衛兵器であると同時に、核兵器を持たない国に対する威嚇兵器である。これを考えれば、中国と国境を接する、地政学的に不安定な場所にある北朝鮮が核武装を行う理由も理解できなくはないが、日本の安全保障の観点からは全く容認できない。これを認めることは、将来に亘る脅威もさることながら、戦前戦後の補償として不当な賠償金を請求されることを意味する。すでに日本はこれまで中国からは南京での三十万人虐殺、韓国からは二十万人の慰安婦強制連行と、捏造された歴史によって不当な攻撃がなされている。それに北朝鮮が加われば、東アジア情勢は一段と不安定さを増すのは確実だ。
この事態を防ぐためにも、日本は憲法を改正することで独立自衛の国となり、日米安保条約をかつての日英同盟と同様に、日米相互が義務を負う対等・互恵の条約に変えるべきだ。また防衛費も憲法に由来するGDP一%枠を改め、トランプ大統領が主張するような増額を行ってGDPの二%レベルに近づける。増えた予算で購入するのは、戦争抑止力としての攻撃用兵器だ。ミサイル防衛システムなどの防御兵器だけで国を守ることは難しい。巡航ミサイルや弾道ミサイル、潜水艦発射型ミサイル、長距離爆撃機などの攻撃用兵器保有によって、抑止力を持つことが戦争を防ぐのだ。「平和を望むなら戦争の準備をせよ。」という有名な言葉が、ローマ帝国時代の格言として残されている。今の日本は正にこの格言通りに戦争抑止力を高め、中国や北朝鮮の威嚇にしっかりと対抗することで、東アジアの平和を維持しなければならない。その意味でも、絶好のタイミングで行われる今回の総選挙に、自民党は勝利しなければならない。その上で、安倍首相には来年の総裁選で三選を勝ち取り、残りの任期でオリンピックの開会式を迎え、憲法を改正し、日米安保の改定に臨んで欲しい。そのようにして、日本が直面している現実の脅威への備えを固めていくべきなのだ。

2017年10月16日(月)13時00分校了