Big Talk

日本社会の素晴らしさを日本人が認識していないVol.317[2017年12月号]

駐日ジャマイカ大使館 特命全権大使 C.P.リカルド・アリコック
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APAグループ代表 元谷外志雄

スペインとイギリスによる四百五十年間の植民地時代を経て独立、’Out of Many, One People’ (たくさんの人種からなる一つの国民)をモットーとする国となったジャマイカ。駐日ジャマイカ大使館特命全権大使のC.P.リカルド・アリコック氏に、ジャマイカ人が何を信奉しているか、外の目から見た日本社会の特徴などをお聞きしました。
C.P.リカルド・アリコック氏

1983年マーシーカレッジ(アメリカ・ニューヨーク)で英文学学士号を、1990年フォーダム大学(アメリカ・ニューヨーク)で国際政治経済学修士号を修得。民間企業での勤務を経て、2001年のジャマイカ外務・外国貿易大臣スペシャルアドバイザー就任から、外務・外国貿易省の役職を歴任。在米マイアミ ジャマイカ総領事などを経て、2013年より現職。

「全ての人間は平等」が
ジャマイカのモットー

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。

アリコック よろしくお願いします。

元谷 アリコックさんには四月に初めてお会いしたのですが、その後このApple Townの日本を語るワインの会に参加していただいたり、勝兵塾でお話をしていただいたりしています。日本ではジャマイカのことがまだまだ知られていなくて、場所すらわからない人もいます。今日はアリコックさんから読者にどんな国なのかを伝えていただきたいと思っています。知れば親しみが湧いて、観光で訪れたいという人も増えると思うのです。

アリコック このような機会を与えていただいて、感謝しています。

元谷 実は私は二十数年前にジャマイカに行って、トローリングをしたことがあるのです。何という名前だったかは覚えていないのですが、非常に大きな魚を釣り上げました。カリブ海の他の島にも行ったのですが、ジャマイカの印象が一番良かったですね。

アリコック ありがとうございます。本当に美しい島です。トローリングはジャマイカでは今でも盛んで、毎年カジキマグロを釣る大きなトーナメントが行われています。観光ということでは、バブルが崩壊する直前の一九九〇年代には、毎年二万人を越える日本人観光客がジャマイカを訪れていたのです。

元谷 私が行ったのもその頃ですね。

アリコック ハネムーン先として人気だったのです。その後、やはり飛行機に搭乗している時間が長いことから、ハネムーナーが減少していきました。

元谷 日本からの直行便はあるのですか?

アリコック ありません。アメリカかカナダで一回乗り継ぎをする必要があります。マイアミ、ロサンゼルス、ダラス、ニューヨーク、トロントなどを経由して、ジャマイカの首都のキングストンや、第二の都市で観光の玄関口になっているモンテゴ・ベイの空港に行くことができます。マイアミからは一時間二十分、ニューヨークからは三時間半、ロサンゼルスからは六時間のフライトになります。

元谷 ジャマイカという国の概要を教えてください。

アリコック はい。ジャマイカはカリブ海にあり、キューバの南に浮かぶ島です。面積は約一万一千平方キロメートルで、秋田県とほぼ同じ大きさです。人口は約二百九十万人、九割がアフリカ系ですがインド系、中国系、イギリス系、混血の人々が混在した多民族国家です。元々この島にはタイノインディアンが住んでいたのですが、一四九四年にスペイン人に征服された後、全滅してしまいました。その後百五十年間はスペインの植民地となり、西アフリカの人々が奴隷として連れてこられ、働かされるようになりました。一六五五年にジャマイカをスペインからイギリスが奪い、その後はイギリスの植民地となりました。

元谷 四百五十年も植民地だったということですね。その間に反乱もあり、首謀者が厳しく処罰されたことも聞いています。なかなか独立できなかった。しかし一九〇五年に終わった日露戦争で日本がロシアに勝利したことは、世界中の有色人種の国に勇気を与えました。また日本は第一次世界大戦後のパリ講和会議において、人種差別撤廃を国際連盟の規約に盛り込むことを提案し、多数の支持を得て、アメリカの大統領ウィルソン氏も賛成であったが、イギリスの自治国オーストラリア、カナダの反対で「このような大事なことは全会一致で決めなければならない」と否決されました。結局先の大戦では日本は敗れるのですが、世界の不平等、人種差別や植民地を無くすことに大きな貢献を行ったと私は考えています。今や、世界には植民地も人種差別も公式には無くなっています、日本は実質的には植民地状態のままです。私は安倍政権が憲法改正を行って、日本を真っ当な独立国家とすることに期待しています。今回の総選挙はその絶好のチャンスです。なぜなら改憲を指向する希望の党が登場したために、自民党が勝とうが負けようが、改憲勢力の議席数が増加する公算が高いからです。ジャマイカ人のアリコックさんの目には、今の日本の政治状況はどのように映りますか?

アリコック 独立を目指してきたジャマイカは、「人間の開放」ということに非常に主体的に関わってきました。一九六二年にジャマイカは独立を果すのですが、その結果、自分達の運命は自分達で決めるという考えが国民全体に染み渡っています。その前提にあるのは、性別や皮膚の色に関係なく、全ての人間は平等に創造されたのだという固い信念です。国の紋章に標語として書かれている国のモットーは、’Out of Many, One People’(たくさんの人種からなる一つの国民)にこれが表現されています。またジャマイカは民主的に制定された法律による統治を信奉しています。民主主義とは、どんな人の主張も全て大事にしていくこと。そのためには、国民がそれぞれの思いを自由に表現できなければなりません。これはジャマイカにおいても、日本においても同じです。

元谷 メディアではアベノミクスが失敗したという報道が非常に多くなっています。しかし安倍政権発足時から株価は二倍になり、税収もGDPも増え、雇用環境が劇的に改善しています。これを成果として積極的に報じるメディアがありません。世界の中ではアメリカと日本の景気が今突出して良いのですが、メディアは悪いことばかりを報道。トランプ大統領が既存メディアの報道をフェイクニュースと呼ぶのも、わかる気がします。日本は本当に良い国で今の状況もよく、皆自信を持つべきなのです。ジャマイカ人も自らの国に誇りを持っているでしょう。私は日本人が誇りを取り戻すべく、日本再興の運動を行っています。

アリコック 人々が自らの国に誇りを持つのは良いことですね。

エコツアーやリゾートも
バリエーション豊富な観光

元谷 ジャマイカはイギリス連邦の一員として、イギリスのエリザベス女王を国家元首としています。そして総督がいて、首相がいてという政治体制です。日本で言えば、エリザベス女王が天皇に当たるのだと思いますが、総督というのはどういう位置付けなのでしょうか。

アリコック 総督は女王陛下によって任命された、ジャマイカにおける代理人です。総督はジャマイカにおける最高執行者となり、総理大臣、野党党首、大臣、上院議員、司法長官、他の司法官を任命するほか、重要な業務を担います。

元谷 総督は議会に対して拒否権などを持っているのでしょうか?

アリコック 天皇と同じで、そのような政治的な権力は一切ありません。

元谷 イギリス連邦についていろいろとお聞きしたいのですが。その組織や分担金などはどうなっているのでしょうか?

アリコック 当初は、イギリスのかつての植民地的なつながりという意味合いで設立されたのですが、現在ではカナダ、ルワンダ、オーストラリア、バヌアツ、ジャマイカなど、先進国と発展途上国を含む52の独立国家と主権国家によるグループに拡大しています。あらゆる多国間組織と同様に、「会費」は存在しますが、実務レベルでは連邦は費用対効果の高い国際的枠組みです。連邦の議会、会合、調査そしてその擁護者によって、大国と小国の双方に明白な利益のあることが証明されています。

元谷 連邦内で様々な案件に関して意思統一が行われるのでしょうか?

アリコック それは案件によります。イギリス連邦という名称ですが、イギリスが何らかの統制を行うということもありません。それに1949年以来、もはやイギリス連邦というわけでもありません。一般には、相互の利益のために、親密な対話をする場という意味合いが大きいですね。また加盟国が必ずジャマイカのようにエリザベス女王を元首にしているということもありません。例えばインドは連邦の一員ですが、大統領を元首とする共和国です。南アフリカもそうですし、ルワンダはイギリスと政治的なかかわりを持ったことは一度もありません。

元谷 インドの大統領は象徴的で、首相が権限を持っていますが、いろいろ国によって、同じ連邦内でも政治体制は異なるということですね。イギリス連邦加盟国同士の関税はどうなっているのでしょうか。

アリコック 経済的な連携ではないので、何ら優遇措置はありませんが、多くの分野でお互いの共通利益を追求している連合体です。

元谷 産業のこともお聞きしたいのですが。ジャマイカと言えばコーヒー、特にブルーマウンテンが有名です。実際にそういう名前の山があるのでしょうか?

アリコック はい、そうです。ブルーマウンテンと呼べるのは、ジャマイカの東部にあるブルーマウンテン山脈の標高八〇〇〜一二〇〇メートルの「ブルーマウンテン区域」で栽培されたコーヒー豆だけです。

元谷 ジャマイカは知らないけれど、ブルーマウンテンは知っているという日本人が多いですね。

アリコック それは商品にブルーマウンテンとだけ記載されていて、ジャマイカとは大きく書かれていないからでしょう。ジャマイカ産以外のブルーマウンテンは本物ではありません。商標法では、ジャマイカ産のブルーマウンテンとラベル付けされたコーヒー豆であれば、真正のブルーマウンテンの豆とされています。現在ジャマイカから輸出されるブルーマウンテンの七割が日本向けなのですが、最近では日本市場で価格が下がる傾向になっています。

元谷 世界市場ではスターバックスなどの大手コーヒー会社が、安い豆を求めて血眼になっています。かつてはブルーマウンテンなど、どこ産のどんなコーヒー豆かが消費者の関心の的でしたが、今はスターバックスなど、どのコーヒーチェーンが販売しているかが注目されるように変化してきました。その影響もあっての価格低下ではないでしょうか。

アリコック そうかもしれません。世界的なコーヒー市場は拡大していて、ジャマイカでの生産量も増えてきました。価格の低下は供給量が多くなり過ぎているからかもしれません。

元谷 コーヒー以外の輸出物には何があるのでしょうか? 鉱物資源はどうなのでしょう。

アリコック アルミニウムの原料となるボーキサイト・アルミナが、主要な輸出物になります。他にはバナナやサトウキビもありますね。

元谷 観光でジャマイカを訪れる場合、お薦めのスポットはどこになりますか?

アリコック わずか約一万一千平方キロメートルの国ですが、観光のバリエーションは豊富です。自然が非常に豊かですから、エコツーリズムも盛んです。ブルーマウンテン山脈のヴィラに滞在して、コーヒー農園を訪れたりトレッキングを楽しんだりすることもできます。観光分野での「首都」となるモンテゴ・ベイ周辺には様々なトロピカルリゾートエリアがあり、ビーチで寛いだり、ゴルフに興じたり、ゴージャスにゆったりとリゾートライフを満喫することも可能です。あと中央部にあるミスティックマウンテンもお薦めです。リフトで山頂まで登ることができ、森林の中をケーブルにぶら下がって滑空するジップラインや、レールの上を滑走するボブスレーなど爽快なアトラクションを体験することができます。

元谷 次にジャマイカに行く時には、ぜひ行ってみたいですね。

アリコック またジャマイカでは、レゲエミュージックのフェスティバル、ダンスシアター、ご当地グルメフェスティバルや美術展などを通じて、ワクワクするような文化的体験ができます。

日本人の几帳面さは
他の国の人は真似できない

元谷 大使は日本に来て何年になりますか。

アリコック 四年です。

元谷 日本各地を訪問されたかと思うのですが、日本の印象はいかがでしょうか。

アリコック 北は北海道から、南は沖縄の石垣島まで巡りました。石垣島はなんとなくジャマイカに似ています。

元谷 石垣島にもアパホテルがありますよ。

アリコック その時はアパホテルではなく、海岸沿いの貸別荘に宿泊しました(笑)。海沿いに何キロも誰も住んでいない場所で、ボートで沖に出て、サンゴ礁でのシュノーケリングで、美しい海中の散歩を楽しみました。素晴らしい場所が多く、そこではいつも何かを学ぶことができるというのが、私の日本の印象です。世界の多くの人々は、日本と言えば大都市・東京の都会の喧騒のイメージか、古都・京都のイメージしかありません。しかしそれはステレオタイプな日本観です。先程お話した石垣島だけではなく、札幌、熊本、鳥取、仙台など訪れた場所全てに素晴らしさがあります。日本人についても、物事を深く感じ考えているという印象を持っています。それでいて、ジャマイカ人ともすぐに打ち解けてくれる。私は自由とか独立とか、自分達の主体性へのふつふつとした渇望を、ジャマイカ人も日本人も心の底に持っているのではないかと思っています。

元谷 長い歴史を持つ日本は、外国からいいものは導入しましたが、悪いものは拒絶しました。ほぼ一つの民族からなり、多くの人が無宗教。さらに場所に恵まれたおかげで、四季のはっきりとした気候を持っています。社会としては清潔で治安が良いことが特徴です。公共交通機関が時間通りに運行されることは日本人にとっては当たり前ですが、海外から見れば驚異的なことなのです。日本人は日本人の事を意外と知りません。私は世界八十一カ国を巡って外からの視点を得ましたから、日本の良さがわかります。残念なのは、こんな素晴らしい国に生まれたのに、自虐的な思想を持つ人が数多く存在することです。その理由は、世界のスタンダードである誇れる気持ちを持たせる教育が、日本にはないからです。ジャマイカでもジャマイカが素晴らしい国だと教えるでしょう。しかし日本は逆で、南京大虐殺や従軍慰安婦など歴史上なかったことをあったことのように教え、人々が日本が悪い国だと思い込むように仕向けています。南京大虐殺で中国は三十万人が殺されたと主張していますが、元々南京の人口は二十万人であり、日本軍の占領一カ月後の人口は二十五万人に増えています。これを見ても、三十万人が虐殺されたなどということはあり得ません。こんな教育が蔓延っている原因は、日本人の中に反日日本人がいるからでしょう。

アリコック 私は、日本は他の国とは異なる二つの大きな特徴があると思っています。まず一つは地形も植生も動物も、全てが目を見張るほど美しいことです。二つ目は日本という社会が非常に効率的で巧みに動いていることです。このようなことを混乱なく行うのは日本人にとっては当たり前でしょうが、他の国では普通あり得ないことなのです。この背後には、日本人の几帳面さや正確性への強いこだわりがあるのでしょう。同様に東京の地下鉄もすべて色分けされ、駅がナンバリングされています。これにより、たとえ日本語や英語が読めなくても地下鉄を使い、目的地まで行けるようになるのです。これらは日本社会の巧みさとおもてなしを象徴する例だと思います。例えば私は新幹線に乗った時、利用者が日本語を読めないとしても、何分に新幹線が出発するかを知っていれば、乗るべき電車を見つけられるのだと気づきました。なぜなら、二本の列車が東京駅を同時に出発することがないからです。

元谷 そのアリコックさんの視点は非常に面白いと思います。この他にも、他の国の人から見れば素晴らしく思えることを、日本人が認識していない例は多いでしょう。日本人でも海外に留学した人は、日本の良さがよく理解できると言います。しかし近年日本人の若い世代が、あまり留学したがらないという話があります。かつての日本では、好奇心にまかせて世界中を見てやろうという若者が数多くいたのです。まずは日本の若者に自信を取り戻す教育を行わないと、留学したがらない傾向は変わらないのかもしれません。

定年後を心配するよりも
何を成し遂げるかを考えよ

アリコック 若い世代に責任と機会を与えることは、どの国においても重要なことです。私が日本の若い人達に言いたいのは、自分達の国が達成してきたことをしっかりと認識して、自信を持って世界に羽ばたいて欲しいということです。歴史を学ぶことが退屈だったり、過去は今の自分とは関係ないと言う人もいますが、それは誤りです。江戸時代から一気に近代国家を築いたことも、戦争が終わってから復興して経済大国となったことも、世界から見れば奇跡なのです。これらを誇りに感じながら、これからの日本をどうやってもっと良い国にするかを考えていって欲しい。日本には優れた社会も資本も学校も、そして代表らの世代が築いてきた成功モデルもしっかりと存在し、非常に恵まれているのです。

元谷 アリコックさんは本当によく日本のことを知り、今の若い世代を観察されています。そのような方が駐日大使を務めていることは、ジャマイカにとっても日本にとっても幸せです。

アリコック ありがとうございます。ただ日本の若い人で気になるのは、「定年後が心配」と言う人がかなりの数いることです。そんなことを考えないでほしい。それよりもまず定年までに何を成し遂げるかを考えるべきです。

元谷 その通りです。前向きな指向に変えていくためにも、日本人に誇りを持たせる運動を進めていかないと。今日は本当にいいお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

アリコック ありがとうございました。

対談日2017年10月6日