日本を語るワインの会171

ワイン173二〇一七年十月十一日、代表邸で恒例「日本を語るワインの会」が行われました。ニューヨークに三十七年住んでビジネスを行っている駐日モンテネグロ名誉領事の大坪賢次氏、アナン事務総長時代に国連事務次長を務めた元駐トルコ大使の田中信明氏、旧ソ連でICBMの開発に従事、来日後は東京大学で教鞭をとったアレクサンドル・カイリス氏、婚姻経験のある女性を対象にしたミセスクイーンコンテスト二〇一五でグランプリを獲得した杉岡玲子氏、ルーマニアの日本語表記をローマニアに変える活動を続けている在日ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥氏をお迎えし、激動の世界情勢について語り合いました。
感染症流行防止のためにも
獣医師の数を確保すべき
 民進党の衆議院議員候補は、希望の党、立憲民主党、無所属に分かれて戦うことになったが、無所属で当選した議員の中には、選挙後に自民党に合流する人もいるのではないか。敢えて無所属を選択したのには、意味があるだろう。公明党抜きで改憲勢力が三分の二を占めれば、希望の党と日本維新の会が公明党に代わって自民党と連立政権を打ち立てる可能性もある。そのような流れになれば公明党もこれまでの考えを改め、自民党に抱きつこうとして、加憲だけではなく積極的な改憲も認めるようになるのではないか。自民、希望、維新、公明の四党が改憲へと動けば、国民投票での過半数超えにも現実味が増してくる。そういう意味では非常にいいタイミングでの総選挙になったのではないか。
 希望の党の小池百合子代表の遊説第一声もそうだったが、野党は森加計問題ばかりを追求する。歪んでいた行政を特区によって正したことが、何が問題なのか。また獣医不足の問題を多くの人が甘く見すぎている。戦争などと並んで国民の生命を脅かすのは、感染症のパンデミック(大流行)だ。鳥インフルエンザのような動物間で感染していたウィルスが変異し、ヒトからヒトに感染が広がることが大きなリスクだ。これを動物間の感染に封じ込めるために獣医が果す役割は非常に大きく、この分野での人材が不足している。元愛媛県知事の加戸守行氏は国会でこのことを強調したのだが、メディアは報道しなかった。国益に沿って獣医問題も考えるべきだ。
 世界の首脳の中で、最もアメリカのトランプ大統領と親しいのは安倍首相だ。そのトランプ大統領から北朝鮮で軍事作戦をとる可能性が高いとの情報を得て、その前に国内体制を整えるべく安倍首相は衆議院の解散を選択した。中国での共産党大会が終わった後、十一月以降一月の間に空爆が行われる事が予想される。一九九〇年、中山外務大臣は湾岸戦争の開戦時期を探るべく、アメリカのベーカー国務長官と会談した。しかしベーカーは開口一番、イラクとは無関係のアラスカの日本漁船操業についてのクレームを言い始めた。改めて開戦時期を問うたが、ベーカーは「近い」としか答えなかった。かつてはこうだったのだが、今は違う。

再選戦略の一環として
トランプは北を空爆する
 トランプ大統領が現在行っていることは、全て大統領選挙で再選されるための運動だ。かつて再選のために戦争を始めて、世界大恐慌からの浮揚を図ったのはルーズベルト大統領だった。アメリカでは戦争は公共事業の一つだ。大恐慌対策に失敗した前任のフーヴァー大統領の二の舞にならないように、戦争特需を起こして不況を克服すべく、ルーズベルト大統領は第二次世界大戦への参戦を切望した。第二次世界大戦は一九三九年九月、ドイツ軍がポーランドに侵攻、アメリカの支持によりポーランドの独立を保証する条約を結んでいたイギリスとフランスがドイツに半ば自動的に宣戦布告したことによって始まったとされるが、翌年までイギリス・フランスとドイツの間の陸上戦闘は起こらなかった。しかし一九四〇年五月、ドイツ軍はフランスに侵攻してパリを占領、イギリス軍はダンケルクからかろうじて撤退した。連合国が苦境に陥る中、ルーズベルト大統領は一九四〇年九月に結ばれた日独伊三国同盟を利用することを思いつき、日本を脅して暴発させて日米戦が開始されれば、自動的にアメリカがヨーロッパに参戦できると考え実行したのが、先の大戦の発端だ。
 ブッシュ・シニア大統領も支持率が低下したために、再選を賭けて一九九一年湾岸戦争を開始した。プーチン大統領は首相時代の一九九九年に、自作自演のアパート連続爆破事件をチェチェンのテロと断定してチェチェン侵攻を敢行、国民の支持を集めて大統領にのし上がった。トランプ大統領も再選を目指し、北朝鮮危機をロシアゲート疑惑隠しに使い、自らの再選に有利な状況を作ろうとしている。アメリカの武力行使による北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの除去は、日本にとっては歓迎すべきものだ。アメリカでも北朝鮮の核保有を容認する議論が出ている。しかし容認することは、日本にとっては未来永劫、核兵器に脅かされ続けるということであり、到底受け入れるわけにはいかない。一九九四年の北朝鮮核危機の際には、軍事攻撃の意志を固めつつあったクリントン大統領に対して、韓国の金泳三大統領は「ソウルが火の海になる」と必死に軍事行動への反対を訴えた。しかしそれから十数年後、代表と会食をした金泳三氏は、今考えればまだ核兵器が完成していなかった一九九四年に攻撃しておけば良かったと、自らの行動への反省を口にしたという。今やソウルには人口に対して三二三%分もの核シェルターが整備されていて、三八度線沿いに並ぶ北朝鮮の長距離砲の攻撃では、ソウルの建築物は破壊されるだろうが、人的損失は少くて済む。むしろシェルター普及率が人口比〇・〇二%の日本の方が心配だ。
 北朝鮮では水爆と大陸間弾道ミサイルの開発は進んでいるが、核兵器の小型化と多弾頭化はまだこれからだ。本来であればもっと実験を行いたいところだが、後ろ盾になっているロシアのプーチン大統領の顔色を窺って、十月は控えている。「金正恩はやり過ぎ」と感じたプーチン大統領は態度を硬化させて、九月の国連安保理の北朝鮮制裁決議にも賛成した。後ろ盾を失った金正恩は今、頭を抱えているのではないか。北朝鮮のミサイルのベースはソ連が開発したスカッドミサイルだ。冷戦終結後にソ連の核兵器やミサイルの技術は、研究者ごと拡散している。北朝鮮の核兵器開発はそもそも中国向けのものだった。中国と北朝鮮は水面下で激しく対立しており、二〇〇四年北朝鮮の龍川駅で起きた列車爆発も、中国軍事委主席の江沢民による金正日の暗殺未遂事件だった。これを金正日は遺言として息子の金正恩に伝えたことが、二〇一三年の金正恩による中国とのパイプ役だった叔父の張成沢粛清に繋がっている。さらに今年腹違いの兄の金正男を暗殺したのは、正男がアメリカと繋がって、多額の現金と引換えに金正恩の隠れ家の情報を流したからとの説もある。

過剰な成功体験が
戦前の日本人を驕らせた
 バブル期には多くの日本人がニューヨークの五番街を闊歩していたが、今歩いているのは中国人ばかり。しかしニューヨークを本拠地とする中国語メディア「大紀元」は、中国における法輪功信者への残虐な扱いを報じている。
 日本の政治家がニューヨークで講演した時に、中国人と思われる人が日本はいずれ中国の一部になるのだから、尖閣諸島を今の内に中国にあげたらどうだと意見した。しかし台湾海峡も渡れない中国軍が、日本海を渡って日本を占領するというのは、あり得ない。日本周辺の制海権と制空権は依然として日本の自衛隊が保持している。原潜こそ保有していないが、日本の通常動力潜水艦建艦技術は世界一だ。原子力潜水艦は常時音が出るが、通常動力潜水艦の場合はバッテリー航行を行えば音がほとんど出ない。また一週間連続の潜水も可能だ。日本海にはセンサー網が張り巡らされ、全ての艦船の「音紋」が記録されている。どの船がどこにいるかが、常に把握されているのだ。中国海軍と日米連合海軍が戦うことになれば、一日経過する前に中国海軍は全滅するだろう。
 日露戦争の時の日本人の情報収集への意欲はものすごかった。ヨーロッパで各種の工作を行った明石大佐が有名だが、海外にいた僧侶はもちろんのこと、東南アジア一円に渡っていた「からゆきさん」も情報収集を行っていた。バルチック艦隊が約三カ月滞在したマダガスカルのからゆきさんは、水兵を通じて情報を収集しただけではなく、偽情報を流して撹乱まで行ったと言われている。これは当時の日本が弱くて必死だったからだろう。しかし日清戦争、日露戦争、そして第一次世界大戦での勝利で日本は驕ってしまい、謙虚さや情報の貴重さを忘れてしまった。日本海海戦の勝利がいつまでも忘れられずに大艦巨砲主義を続けて、大和や武藏を建造したのは、その表れだろう。成功は失敗のもとなのだ。

世界に通用する主張が
日本人に求められている
 アメリカ・ニュージャージー州のフォートリーは韓国系住民が約一七%を占める街。今年九月、ここでの慰安婦碑設置が日本人団体の反対もあって見送られた。設置を巡る公聴会の中で、市長の「日本に非がないのなら、なぜ謝ったのか」という質問に対して、団体の女性は日本の文化の問題と回答していたが、それではアメリカでは通用しない。日本人はもっと上手く主張すべきだ。和歌山県太地町などを舞台としたイルカ・クジラ問題の論争でも、シー・シェパードの主張のみが世界中に広まっているが、これにも反論すべきだ。
 ハーバード大学やスタンフォード大学など、アメリカの一流大学への日本人留学生が少なくなっている。その理由の一つが、卒業して日本に帰ってきても就職先がないことだ。アメリカの大学を卒業するには莫大な学費と猛烈な勉強量が必要だが、日本の企業はそんなに勉強をした学生を求めていない。大学時代勉強をしていない、いわば空っぽの学生を会社なりに育てていくのが日本企業の流儀。その結果、アメリカの大学を卒業した日本人は外資系企業に流れていく。日本の大学でも、優秀な学生は官僚にはならずに外資系企業に就職している。