Essay

非核三原則を見直し核シェアリング協定締結を急げVol.302[2017年11月号]

藤 誠志

体制維持の最優先事項が
核開発であると金正日は考えた

 私が提唱する「理論近現代史学」は、現実に起こった出来事を矛盾なく説明できる近現代史である。それを確立するためには、以前からの「定説」にとらわれることなく、新しい事実が判明すればそれを基にして歴史の解釈を修正していくべきだと、私は考えている。このような姿勢を「歴史修正主義」と批判する人もいるが、いかなる学問分野でも新しい知見を基に、それまでの説を否定することで進化を続けている。歴史学も同様であるべきなのだ。
 今、世界を揺るがしている北朝鮮の核とミサイルによる挑発だが、その対策を考えるためにも、北朝鮮の核開発の歴史を時系列に沿って振り返っておくことが必要だ。第一次朝鮮半島核危機と呼ばれるのは一九九四年、アメリカのクリントン政権が北朝鮮の核施設に対して精密打撃という軍事力行使を検討したことを指す。その前年の一九九三年三月、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明、五月に日本海に向けてノドンミサイルの発射実験を強行した。また一九九四年三月に板門店で行われた南北会談実務者レベル会議の席で、北朝鮮代表の朴英洙は「戦争が勃発すればソウルは火の海となる」と発言。更に同年六月に、北朝鮮は国際原子力機関(IAEA)からの即時脱退、その後の査察の拒否を表明した。この緊張する事態を踏まえてクリントン大統領は核施設精密爆撃を計画したが、ソウルへの反撃を恐れた韓国の金泳三大統領の懸命の反対で、最終的には断念した。
 その代わりにクリントン大統領は、一九九四年六月十六日、カーター元大統領を北朝鮮に派遣して、この危機を収めようとした。カーターは金日成と会談、この席で金日成は「我々は核を作る能力がない。核を造る必要もない」と主張した。北朝鮮は大飢饉に襲われており、金日成は農業を立て直し、食料供給を安定化させることを体制維持のための最優先事項だと考えたのだが、息子の金正日は核開発こそが体制維持の唯一の道だと確信していた。この親子の間では、極めて激しい政策対立があったという。そしてカーター会談から半月しかたたない七月八日、ジュネーブで第三回米朝協議が始まるという日に、金日成は心臓発作で死去する。ジャーナリストの萩原遼氏は、金正日が父である金日成を暗殺したと主張する。「金日成は別荘で心臓発作を起こして亡くなりましたが、ソウルの脱北者団体が入手した資料によれば、金日成が発作を起こした時、待機していたのは新米の耳鼻科医師だけで、心臓病の医師はいなかった。そんな状態にさせることができるのは金正日しかいません。しかも、金正日は真夜中に別荘の金日成に電話をかけ、耐えがたいほどの暴言を吐き、金日成に強いショックを与えて心臓発作を起こさせたと見られています」(SAPIO二〇一二年一月一一・一八日号)というのが萩原遼氏の説だ。

米朝枠組み合意には
合意直後から暗雲

 金日成の死によって中断した米朝協議は一九九四年八月五日に再開、協議の結果、十月二十一日に米朝枠組み合意がなされ、合意文書が交わされた。主項目は次の四点だ。
「(一)北朝鮮の黒鉛減速炉の軽水炉への転換(約二、〇〇〇メガワット規模の軽水炉プロジェクトの提供とそのための国際共同事業体の組織、代替エネルギーの提供、黒鉛炉及び関連施設の凍結・解体等)
 (二)両国の政治的・経済的関係の完全な正常化(貿易・投資の障壁緩和、連絡事務所の開設等)
 (三)核なき朝鮮半島の平和と安全保障への努力(米国による核兵器の不使用、南北非核化共同宣言の実施のための措置等)
 (四)国際的な核不拡散体制の強化への努力(NPTに留まる、IAEA保障措置協定の履行等)」
 「米朝合意を受けて、一九九四年一一月一八日、北朝鮮は黒鉛炉と関連施設を全面凍結する措置を講じたと表明し、同年一一月二八日にIAEAがこれを確認した。しかし、早くも同年一一月三〇日、北京での米朝専門家協議で、北朝鮮は韓国型軽水炉の受入れに強く反対した。」

龍川駅列車大爆発は
金正日爆殺未遂事件の可能性大

 しかしその後、枠組み合意を行いながらも金正日はやはり体制維持には核兵器が必要だと考え、ひそかに開発を続けた。核保有の念頭にあったのは、対アメリカではなく中国からの侵略抑止力だ。中国から再三再四核開発を断念するよう圧力を掛けられていた金正日だが、二〇〇四年四月に自ら北京に説明に赴き開発の継続を明言、その帰り道に遭遇したのが、中朝国境から北朝鮮側に少し入ったところにある龍川駅での大爆発だ。TNT火薬八〇〇トンにも及ぶ威力の爆発について、北朝鮮側は硝酸アンモニウムの肥料と石油を積んだ貨物列車が衝突、倒れた電柱から電気が漏れ、大爆発に至ったと説明しているが、辻褄が合わない。爆発直後には爆破口の写真がネットに掲載されていて、それを見ると地下十五メートルにも及ぶ深さのV字型になっていた。これは明らかに地下に爆発物があった場合の穴であり、地上での爆発の場合は爆破口がU字型になるはずだ。地下に大量に爆発物を仕込んで列車を爆破した目的は、北京から龍川駅を通過して平壌に戻る金正日の暗殺以外には考えられない。これらの爆破口の写真は、爆発直後には多数インターネットで検索できたのだが、すぐに次々と消されていき、今ではほとんど見ることができない。
 二〇一一年九月八日のDaily NKの記事「金正日の龍川駅爆発言及は意味深い」にも、以下のような記述がある。「龍川出身の脱北者らによると、北朝鮮住民も龍川郡の安全部長と保衛部長が突如姿を消した事から、金正日を狙った暗殺未遂だったとの噂が密かに広がった。しかし、全ての情報が徹底的に統制されている北朝鮮で、これを立証する方法はなかった。」「しかし、先日に金正日が同爆破事件は自身を狙った暗殺未遂であると言及した。現代グループの玄貞恩会長に会った際の発言であり、事実の可能性が高い。」「金正日の発言が事実であるなら、果たして誰が金正日を殺そうとしたのだろうか? この爆破事件は一般住民が行えるレベルではない。最高機密の金正日の動線を把握し、一号警備のセキュリティをくぐって駅周辺に大量な爆発物を設置しており、爆発規模からみて相当期間に亘って緻密な準備を行ったと思われる。」動機と機会から考えれば、核を断念しない金正日を排除したい中国共産党中央軍事委員会主席の江沢民が、北朝鮮の軍の一部を唆して爆薬を設置した可能性が最も高いと考えられる。
 この暗殺未遂に恐怖を感じた金正日は、金体制維持のためには核兵器保有しかないという思いをますます強め、核開発に拍車をかけた。そして二〇〇六年十月に、小規模で不完全ながら初めての核実験に成功したのだ。二〇一一年に亡くなった金正日は後継者である金正恩に遺言として、中国の動向には十分に警戒するように伝えたはずだ。それを受けて金正恩は二〇一三年、叔父であり中国とのパイプ役を務めていた張成沢を逮捕、処刑した。また自分亡き後、中国が後継に据える可能性がある腹違いの兄である金正男を、マレーシアで殺害した。金正恩はミサイル発射と核実験を繰り返し、今年九月の六回目の核実験では、広島の十数倍の威力であるTNT火薬二四〇キロトンの威力を持つ水爆を爆発させたと主張している。一段と強力な核弾頭は、弾道ミサイルの先端部分に入るまでの小型化に成功していると見られる。第二次朝鮮半島核危機と呼ばれる今の状況は、刻一刻と深刻さを増している。

トランプ大統領は
「公開限定空爆宣言」を行う

 私は、一九九四年のクリントン大統領の北朝鮮への精密打撃に対して大反対をした金泳三前大統領の自邸に二〇〇二年八月に招待され、二〇〇九年六月にも同じく自邸に招かれ、その後も交流を深めていた。その金泳三は、アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、ソウルに反撃が及び、百万人規模の死傷者が出ると反対したのだが、あれは失敗だったと語った。北朝鮮の核開発を一九九四年段階で止めていれば、今日まで核兵器や弾道ミサイルが進化することもなかった。また今の北朝鮮の強硬な姿勢の背景には、ロシアの存在がある。では今どうすべきなのか。トランプ大統領は、記者から北朝鮮への軍事攻撃の可能性を問われ、 You ll see. ”(そのうちわかる)と答えた。トランプ大統領は、北朝鮮はすでにレッドラインを越えていると判断しているのではないだろうか。私は早晩トランプ大統領が、「公開限定空爆宣言」を行うのではないかと考えている。
 アメリカはもちろん、中国やロシアにとっても北朝鮮がこれまでの体制のままでいることは、緩衝地帯として良かったのだ。もし北朝鮮が親中政権となったら、アメリカ軍は三八度線で直接中国人民解放軍と対峙することになるからだ。逆に韓国とアメリカが主導して南北合併が実現すれば、中朝国境で中国はアメリカ勢力と接することになる。ロシアと北朝鮮の国境についても、同じことが言えるだろう。しかし、先の水爆実験とグアムまで達する大陸間弾道ミサイルで、金正恩が「これで原爆も弾道ミサイルの弾頭の小型化技術も完成したので、実戦配備に入り、これ以上は原爆も弾道ミサイルの発射実験も必要がないからしない。」と言えば良かったのに、この後もどんどん多弾頭化等の実験をするとの発言をしたため、トランプ大統領の思っているレッドラインを超えることになったのだ。この発言でこれまで北朝鮮を庇護してきたロシアのプーチン大統領もスタンスを変えてきたと感じたトランプ大統領は空爆を決意した。
 トランプ大統領の「公開限定空爆宣言」は、まず金正恩の生命を狙うものではなく、政権も現状で維持して良いという前提で、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射と原爆実験の凍結宣言をしなければ、ICBM関連施設と原爆関連施設の重要な場所約百カ所の攻撃期間を公表し、その場所からの退避通告を行うとともに、その間にアメリカ人を始めとした外国人観光客、駐在アメリカ人などをソウルから避難させた上で、巡航ミサイルやB‐1爆撃機による爆撃やバンカーバスター(地中貫通爆弾)による空爆を行い地下施設を破壊する。更に北朝鮮が三八度線沿いに配備した三~五百機の三〇〇ミリ多連装自走ロケットや一万機を越える長距離砲で報復することがないように、それらが一発でもソウルに向かって撃たれるようなことがあれば、三八度線沿いに展開する全ての北朝鮮の砲撃施設を核爆弾に次ぐ破壊力のあるMOAB(GBU‐43/B)デイジーカッターで地上の施設の全てをなぎ倒し破壊すると通告しておく。北朝鮮の核使用を心配する人もいるかもしれないが、核戦争には絶対にならない。なぜならば核兵器保有の目的は自国の防衛と非核保有国に対する威嚇でしかないからだ。アメリカの核戦力は、今の北朝鮮の一万倍以上であり、実際に北朝鮮が核を使用すれば、確実に壊滅的な核反撃を受ける。自らの延命を第一に考える金正恩が、核を使用することはあり得ない。また北朝鮮の陸上兵力が地下トンネルなどを使って南に侵攻する可能性も、地下施設破壊爆弾の威力を考えれば非常に低いだろう。考えられるのは朝鮮半島西方黄海上の北方限界線(NLL)付近で、二〇一〇年三月二十六日に韓国の哨戒艦が、北朝鮮からとみられる潜水艦からの魚雷攻撃で、沈没させられた天安沈没事件のようなことが起こる可能性はある。

朝鮮半島危機をチャンスに
安倍総理は解散を決意した

 遅きに失している感は否めないが、今、公開限定空爆によってこの朝鮮半島核危機の強制除去を行わなければ、事態は更に悪化する。アメリカ本土に到着可能な弾道ミサイルが完成し、核弾頭も防衛が難しい多弾頭化する。潜水艦発射型の核ミサイルの配備も進むだろう。日本はそんな北朝鮮の威嚇を将来に亘って受け続けることになる。そうなれば、アメリカの核の傘への依存は意味を失い、日本は自ら核武装をすることを考えなければならない。それは大統領選挙中とはいえ、日本や韓国の核武装を容認する発言を行ったトランプ大統領がその立場にある内に行うべきだろう。日本が核抑止力を持つために最も現実的な手段は、アメリカと核シェアリング協定を結ぶことだ。日本同様、国連憲章では「旧敵国条項対象国」となっているドイツやイタリアもアメリカと結んでいるこの協定は、例えば核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を日米が共同で運航、有事には核ミサイル発射の権限を日本に移譲するというものだ。この協定を結ぶためには、まず日本は非核三原則を廃棄する必要がある。
 核シェアリング協定締結は個別的自衛権の範疇なので、憲法改正の必要はないという意見もある。しかし効果的な日本の安全保障のためには、五月に安倍首相が提言したように、憲法を改正して自衛隊を憲法に明記し、憲法上戦力として認めるようにするべきだ。そしてこの改憲は、衆参両院の改憲勢力が三分の二を越えている今がチャンスだ。まず第九条の一項二項には触れずに三項を追加する「加憲」を二〇二〇年という期限を区切って行い、国民の改憲に対するアレルギーを払拭する。その上で、憲法全体をじっくりと議論して変えていけばいいのだ。五月の安倍首相の提言以降、護憲勢力と結託したメディアの安倍首相叩きで政権の支持率は急落したが、最近の北朝鮮による水爆実験や、大陸間弾道ミサイルを日本上空に飛ばしたこと等の威嚇から、現実の危機に気が付き始めた人も増え、政権支持率も改善してきた。この後も支持率を高めながら、来年夏までに憲法改正の発議をし、その後に衆議院解散を行い、国民投票と総選挙を同時に行って、憲法改正と安定政権を手に入れようというのがこれまでの戦略だったが、北朝鮮の挑発でいよいよアメリカによる公開限定空爆の可能性が高まってきたことと、民進党の代表に前原氏が選ばれ、離党が相次ぎ、小池新党もまだ党名も具体的な公約も決まっていない政治情勢を俯瞰して、今こそ解散のチャンスと安倍総理は早期解散を決意した。この解散で改憲勢力議席三分の二を大きく上回る議席が確保できると安倍総理は確信したのだ。安倍政権下で改憲ができなければ、今後三十から五十年間は憲法改正も核シェアリング協定の締結もできず、その間に日本は中国の勢力圏に取り込まれ、中国日本自治区になってしまうだろう。
 核シェルターの家庭での普及率のデータがある。日本ではわずか〇・〇二%だが、アメリカでは八二%、韓国のソウルではなんと三二三・二%となっている。核シェルターは防空壕にもなる。数十分でも猶予があれば、ソウルなら観光客を含め全ての人々が避難を完了することができるだろう。東アジアの平和を守るために困難が予想される今、日本も核シェルターの普及を図り、核だけではなく、他の国からの攻撃や、地震や津波に備えて自分たちを守れるようにするべきなのだ。そして非核三原則を見直し、憲法を改正して、核シェアリング協定をアメリカと結び、自らの手で自らを護れる形に、日本の有り様を変えるべきなのだ。北の脅威が高まっている今がそのチャンスだ。

2017年9月16日(土)16時00分校了