ホンジュラス共和国大使館 臨時代理大使 カルロス・オナン・メンドーザ・トバル
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APAグループ代表 元谷外志雄
ドクター・カルロス・オナン・メンドーザ・トバルは1984年にホンジュラスの首都テグシガルパで生まれました。ラテンアメリカで最も高名な農業大学の1つであるサモラノ・パンアメリカン農業大学を卒業後は政府機関や民間企業でコンサルタントとして働きました。国立台湾海洋大学で海洋科学と資源管理の修士号(理学)を、そして東京農業大学で農業工学の博士号を取得後、その農業知識を活かして現在は在日ホンジュラス共和国大使館で臨時代理大使として勤務しています。出身のサモラノ校のモットー(実践的学習)に従い、経験から学ぶという教訓の持ち主です。
三つの港を鉄道で
結ぶことを期待
元谷 本日はビッグトークへご登場いただき、ありがとうございます。六月には出版記念&バースデーイブの会のパーティーにもご出席いただきまして、感謝しております。前任のホンジュラス大使ともお付き合いをさせていただいておりましたが、トバルさんとも繋がりが深まってきました。日本語もお上手なので、接しやすいですし(笑)。
トバル こちらこそいろいろとお招きいただき、感謝しております。本日はよろしくお願いいたします。
元谷 多くの読者がホンジュラスのことをあまり知らないと思いますので、まずお国の基本的なことを教えていただけますでしょうか。
トバル はい。ホンジュラスは北アメリカと南アメリカを結ぶ地峡部の丁度真ん中にある国です。グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアと国境を接しています。北が広くカリブ海に面している一方、太平洋側でもフォンセカ湾に面しています。面積は日本の約三分の一程度、人口は約八百万人です。宗教としては伝統的にカトリックを信じる人が多いですが、信教の自由は憲法で保障されています。元首は任期四年の大統領で、二〇一四年からはエルナンデス大統領がその職にあります。今年の十一月に大統領選が行われる予定ですが、二〇一五年に最高裁が大統領の再選が可能という判断を示しているので、エルナンデス大統領が再選を狙って現在の与党・国民党の候補として出馬するでしょう。
元谷 基本的に皆さんはスペイン語を話すのですね。
トバル はい、その通りです。ただテグシガルパのような都市やロアタン島のようなビーチリゾートでは、ほとんどの人が英語も話します。地方ではやはりスペイン語しか通じないでしょうね。
元谷 よくわかりました。以前私は中南米を旅したことがあるのですが、その際にパナマ運河を訪れました。構造がとても面白かったですね。「水の階段」とも呼ばれる閘門が作られていて、前後を仕切った空間(閘室)の水位を変えることで、海抜の異なる運河を行き来できるようになっています。運河中央のガトゥン湖が海抜二十六メートルで最も高く、カリブ海側からも太平洋側からも、三段階の閘室によって水位を上げ下げして、通過できるようになっているのですね。二〇一六年に完成した拡張工事によって、さらに大きな船でも通航が可能になったと聞いています。ホンジュラスはパナマよりも西に位置していますが、カリブ海と太平洋に挟まれているのは同じことです。それぞれの側に大きな港を作り、その間を陸路で繋ぐという計画をお聞きしたことがあるのですが、工事は終わったのでしょうか。
トバル さすがによくご存知ですね。ホンジュラスには大きな港が三つあり、一つは太平洋側、二つはカリブ海側にあります。この三つは現在、通常の道で繋がっているのですが、今これらを鉄道で接続するプロジェクトを計画しているところです。日本からは日立の鉄道技術の提供を受け(同社は二〇一五年に大統領にプレゼンを行いました)、またヨーロッパからの支援も受ける共同プロジェクトになる予定ですが、まだ実行はされていません。
重要度を増す中米の交通網
元谷 アメリカのシェールガスを日本などが輸入するようになることによって、アメリカの東海岸からカリブ海を経由、パナマ運河を抜けて太平洋を進む航路が、より重要さを増しています。今回のパナマ運河の拡張工事はそのニーズに対応したものです。同じ意味で、ホンジュラスのプロジェクトも世界の注目を集めているのではないでしょうか。そういえば、中国の企業が進めていたニカラグア運河計画はどうなったのでしょうか。
トバル 私も詳しくは知りませんが、中断していると聞いたことがあります。
元谷 一時期、原爆を使って掘削するという話もありましたね。明らかに国際法違反だと思うのですが(笑)。ホンジュラスのプロジェクトの方が実現性が高く、期待できます。
トバル 中米でもパナマ地峡は、幅わずか六十四キロメートルと非常に狭くなっていて、だから運河を作ることができました。ホンジュラスではカリブ海と太平洋を隔てる幅はもっと広いので、この二つの海を結ぶ交通には昔から苦労してきました。インフラを強化する方針を打ち出しているエルナンデス大統領は、もう一つ、二〇二〇年の完成を目指して「ドライキャナル(物流回廊)」の建設を進めています。これはカリブ海側のコルテス港と、太平洋側のエルサルバドルのラ・ウニオン港の間を高速道路で結ぶ計画です。完成すれば、この二つの港の間を片道三時間で移動することが可能になります。
元谷 無人運転で数台のトラックが数珠つなぎの「コンボイ」を作って、高速道路を進んでいく実験が行われているのをニュースで見ました。将来そのような輸送手段が確立すれば、莫大な資金を投じて運河を掘るよりも、効率のよい輸送ルートが実現するのではないでしょうか。パナマ運河の欠点の一つは、六カ所の閘門を経なければならないことで、通過するのに二十四時間と、非常に時間がかかってしまうことです。輸送量では勝てませんが、道路や鉄道の方が速さでは絶対に有利です。
トバル 時間のアドバンテージについては仰る通りだと思います。私達はパナマ運河とドライキャナルは、競合するものではなく、互いの長所を活かして補完し合うものだと考えています。そもそも輸送コストを考えれば、パナマ運河とドライキャナルではかなり差が出ます。パナマ運河を通過する場合には税関はありません。しかし陸路であるドライキャナルの場合には、陸揚げや国境を跨ぐごとに通関が必要になり、時間とお金が掛かってしまうのです。今ホンジュラスでは税関に関する法律を統一する新しい法律を作り、通関作業を簡単にしようとしています。またニカラグアとエルサルバドルと協定を結び、これらの国の中での税関業務の統合も考えています。グアテマラとはすでに協定を結びました。
元谷 自由貿易の推進ということですね。しかしアメリカファーストを主張するトランプ大統領の登場によって、風向きが変わっていませんか?
トバル トランプ大統領になっても、貿易量には一切影響は出ていません。アメリカへの輸出がむしろ増加しているほどです。私達は常に貿易促進を追求していますし、自由貿易は全く揺らいでいません。
元谷 どんなものを主にホンジュラスは輸出しているのでしょうか。
トバル 伝統的なコーヒーに加え、白身魚であるティラピア、メロン、カカオ、タバコなどです。
元谷 ホンジュラスの鉱物資源はどうなっているのでしょうか。
トバル ホンジュラスの首都テグシガルパは、原住民の言葉で「銀の丘」という意味です。古くから金や銀も多く産出しましたが、植民地時代はスペイン人がそれらをヨーロッパに持っていってしまいました。現在でも銀は重要な鉱物資源ですが、サンタ・バルバラ県で貴金属が採掘される他、鉛、鉄、銅なども産出しています。
二つの世界遺産
元谷 これは世界的な傾向なのですが、インターネット社会が進むことで、シェアリングエコノミーが拡大しています。Airbnbで自宅を宿として提供したりUberで自家用車をタクシーにしたりすることが代表例ですが、カーシェアリングで自動車を多くの人が共同利用して個人で車を持つ人が少なくなったり、メルカリのようなフリーマーケットアプリの普及で中古品の売買が活発となって、新しいものが売れなくなってきたり。このシェアリングエコノミーの興隆は確実に経済を縮小させていると考えられます。そして金利も低くなっている。そのためにマネーが株や金融商品に流れずに、土地などの資産に流れています。そのため、都心の地価はこの五〜六年で三倍になっています。ホンジュラスの地価の動向はどうなのでしょうか。
トバル 日本では都心の地価が三倍ということですが、ホンジュラスでは四倍や五倍になっています。日本も山が多いですが、ホンジュラスも国土の四分の三以上が山地となっていて、平地が非常に限られているためです。またホンジュラスは国土の四六%が森林という森の国です。森林の八割は保護林として、その姿を守るようにしています。
元谷 非常に緑豊かな国なのですね。それらの資源を生かした観光なども盛んなのでしょうか。
トバル 色とりどりの美しい鳥を眺めに行く、森林の中のバードウォッチングツアーが日本人にも好評のようです。ホンジュラスにある二つの世界遺産の内の一つが、自然遺産に登録されているリオ・プラタノ生物圏保護区です。全長百キロメートルのプラタノ川の流域にはホンジュラス最大の熱帯雨林エリアが残っていて、ベアードバクやジャガー、アメリカマナティなどの哺乳類からアメリカワニやコンゴウインコまで、多くの生き物が生息しています。またホンジュラスはビーチリゾートでも世界的に有名です。カリブ海に浮かぶロアタン島の周辺には世界で二番目の大きいサンゴ礁があり、世界中からダイバーが集まってきています。雄大な水中の景色を楽しみながら資格が取得できるダイビングスクールもあります。その他のウォータースポーツの施設やリゾートホテルも充実していて、ホンジュラス一の人気観光スポットになっています。
元谷 私もキューバに行った時にダイビングを体験しました。アメリカと国交を回復したので、日本人にとってキューバも旅行先の候補に入るようになったのですが、トランプ大統領の登場でやはり行くのを控えている人が多いようです。ロアタン島も非常に良さそうで、同じカリブ海の島として、キューバに代わる日本人の旅行先候補になるかもしれません。
トバル そうなるといいですね。そして歴史好きな方に是非お薦めしたいのは、もう一つの世界遺産であるコパン遺跡です。グアテマラとの国境に近いコパンルイナスという町から歩いて行くことができます。五世紀から十六代の王が即位したマヤ文明のコパン王朝の遺跡で、古代の貴族が住んだと思われる建物群や球技場、コパン王朝の歴史を刻んだ神聖文字の階段、そして神殿などが往時の繁栄した姿をしっかりと伝えてくれます。
元谷 メキシコのマヤ文明の遺跡には行ったことがあるのですが…。
トバル マヤ文明は主にユカタン半島を中心に栄えた文明ですが、今の国で言えば、メキシコ、グアテマラ、ペリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルを跨いでいます。
元谷 いつかは行ってみたいと思うのですが、日本から訪れる場合には、アメリカ経由になるのでしょうか。
トバル そうなると思います。マイアミやダラスからテグシガルパ行きの飛行機が飛んでいます。日本からだと最低二回は飛行機を乗り継いで行くことになると思います。
教育の充実が大切
元谷 ホンジュラスと隣国との関係はどうなのでしょうか。
トバル 良好です。一九七〇年代からグアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアでは内戦が勃発し、中央アメリカ全体が紛争地域になるかと思われましたが、その中でも内戦のなかったホンジュラスは常に地域を平和に導こうとしてきました。
元谷 では現在のホンジュラスの抱える問題とは何なのでしょうか。失業率でしょうか。
トバル 失業率は二〇〇九年からずっと減っていますが、現在でも七%台と減り方がまだまだです。私は一番の問題は教育体制がまだ十分に整っていないことだと考えています。
元谷 失業率を下げて豊かな国にするには、教育が最も大事です。
トバル 今も国立ホンジュラス大学に新しく日本に関する修士課程を作るために、大学から日本に学びに来ている教員がいます。まず教育を改善して労働者のレベルを上げて、さらに雇用環境を整備していくことになると思います。
元谷 トバルさんご自身はどのような教育を受けてこられたのですか?
トバル 私は農業工学を学んできて、博士号を持っています。農業生産が専門分野なのですが、政治的な事柄も学び続けてきました。昨年五月からホンジュラスは日本にメロンを輸出しています。私の前任者の任期末期にこの案件が持ち上がり、私が引き継ぎました。この際にも私の専門知識がかなり役に立ちましたね。
元谷 ということは、元々トバルさんは外交官ではなかったのですね。
トバル はい、そうです。駐日ホンジュラス大使館に勤務するようになって今三年目ですが、その前四年間は日本で博士号の勉強をしていました。
元谷 だから日本語がお上手なのですね。日本国内はもうかなりいろいろな場所へ行かれましたか?
トバル 広島、長崎、名古屋と東京から西の方ばかりです。本当は北海道に行きたいのですが、寒いのが苦手なのです。夏に行けばいいのかもしれませんが、夏はバケーション期間なので、国に帰っていることが多くて。
元谷 札幌に九つのアパホテルがあります。是非一度北海道にいらして、アパホテルに宿泊してください。
トバル わかりました、ぜひそうします。
元谷 最後にいつも「若い人に一言」お聞きしています。
トバル 次世代に対するメッセージとしては、心をオープンにして、あらゆることを学ぶべきということでしょうか。特に年配の人々から学ぶことは、経験の少ない若い人が他の人の経験を学べるということで、非常に重要だと思います。そして年配の人々が間違ったことを言ったりやったりしてもそれを許し、そしてその誤りから学ぶのです。人間は完璧ではないですから(笑)。
元谷 私も大家族制度の復活を提唱していて、祖父祖母から孫へと、家族内での知恵や知識の伝承を大切にするべきだと常々主張しています。今日本はすっかり分断社会となって、核家族化・個家族化が進んでいます。これではいくら収入があっても、豊かな暮らしはできません。私は今平等が基本となっている相続制度も変え、家督制度を復活するべきだとも考えています。
トバル ホンジュラスも基本は大家族制度ですから、代表がおっしゃることは良くわかります。
元谷 今日はいろいろ貴重なお話をありがとうございました。
トバル 楽しかったです。ありがとうございました。
対談日2017年7月7日